古明地さとりがキヴォトスにログインしました
幻想郷の地下に存在する嫌われ者の妖怪の住処である旧地獄。通称地底。その一部である旧都の中心────灼熱地獄跡に建てられている西洋風の屋敷、地霊殿。嫌われ者である地底の妖怪たちにも嫌われている嫌われ者中の嫌われ者、古明地さとりの自宅である。
その執務室に空間が裂けてできた目玉が大量にあるスキマが現れ、外の世界で言う中華風の服を着た見た目少女な大妖怪にして幻想郷の賢者、八雲紫が現れる。
火焔猫燐を始めとしたさとりに飼われているペット達は困惑していた。彼(女)らは自分たちの主人を非常に慕っているが、同時に主人の嫌われ具合をよく理解しているため来客が来るという経験に乏しいためだ。その肝心の主人はというと、執務室の椅子に座って本を読む姿勢を崩そうとしない。
「久しぶりね、さとり」
声をかけられてしまってはさすがに返すしかない。自分にわざわざ直接会いに来たということはよほどのことが起きたということになる。
「…紫さんですか。ご用件は?」
「せっかちねぇ」
「あなたも私と長い間会話したくはないのでしょう?お燐、お茶はいらないそうよ」
紫が若干顔を顰める。しかし事実なので手短にするために用件を切り出す。
「こいしが別世界に行ってしまったみたい」
古明地こいし。さとりの妹である。毎日のようにふらふらと放浪しており、さとりでさえも見つけることが難しい無意識を操る妖怪。遠くまで行ってしまうのはいつものことだが、聞き慣れない単語に珍しく困惑してしまう。
「別世界?地上の外の世界ではなくて?」
「そうね。というかあなたたちは外の世界には行けないでしょう」
「あなたがうっかり境界を弄ってしまったのかと思いました。...そうでないということは心を読めばわかるはず?その通りではありますけど無意識ということもありますから」
紫が再度顔を顰める。
「…話を戻しましょう。お急ぎなのですね。その別世界というのは?」
「文字通りよ。幻想郷が外の世界のおかげで存在できているのは知っているわね?」
「ええ。人間が大半を占めている世界でしょう?」
聞けば人間が何十億といる世界だとか。思念があまりにも多すぎて想像もしたくない。
スキマから紙と筆を取り出し、円を三つ描き二つを隣り合わせに、残り一つを離れた場所に描く。
「言ってしまえばそれとは全く関係がない。その世界がなくなったところで幻想郷が影響が受けることがない完全に異なる世界。名をキヴォトス。地底とは比べ物にならないほど発展している都よ。あなたの妹がその世界に行ったみたいだから探して連れ戻してきてちょうだい」
「それでどうして私が行かなくちゃいけないんですか。...ああ、その世界に幻想郷の住民が流れ出るのを防ぐためですか」
「そう。念のため境界を張りなおさなければならないし。霊夢のところにもこの後行く予定なのよ」
「…そのキヴォトスという世界はどういったところなのですか」
「私も軽くしか見ていないから詳しくは言えないけど、銃撃戦や爆撃戦が当たり前の世界のようね。外の世界から流れてきたことはあるでしょう?後は人間は20年も生きてないような子供しかいないわ」
思わずため息をついてしまう。子供しかいないということは精神が不安定な思春期真っ只中であるということになる。自分の性分を考えると余計な火種を生む可能性が高い。正直荒事は苦手だから行きたくない。
「大丈夫よ。あなたを殺せるような者は存在しないわ。死んでもらっても困るしね」
嫌いだけど。という心の声が聞こえたがスルーしておこう。
それに殺されないとしても痛いのは大嫌いなのだが。とはいえ言っても仕方がないし、普通に妹のことは心配だ。異世界に行った経験をネタに執筆を行ってもいいかもしれない。
「わかりました。こいしが関わっている以上引き受けましょう。お燐」
「はい」
「しばらく地霊殿を空けるけどいつも通り怨霊の管理をお願いね」
「はい。お空のやつには...」
「伝えなくてもいいわ。あの子はすぐに忘れてしまうでしょう。勇儀やパルスィには伝えておいて。それ以外は判断に任せるわ」
主人が離れることが決まり寂しそうな目を向けながら他のペットがさとりに寄ってくる。その気持ちは文字通り視えているが、撫でるなどして宥めながら本を片付ける。
「準備はいいかしら?」
「ええ。必要に応じてこちらに帰してくれると助かります」
「それはもちろんよ。じゃあいくわよ」
足元にスキマが空きさとりが落下した。落下させなくてもよかっただろうという文句は間に合わなかった。
*
「いや、どこよここ」
行き先は栄えている都市だと聞いていたのだが、辺りを見渡すとどう見ても砂漠である。人っ子一人見当たらない。それに、この砂漠にしてもなかなか不可思議だ。あちらこちらに斜めに傾いた建物があるし、地面もうっすらとコンクリートの道があることがわかる。
一先ず上空に飛び砂が少ない場所へと向かう。不幸中の幸いというべきか、砂嵐が来ていないため視界はそれなりに良好だった。ゆっくりと飛行を続けると比較的まだマシな状態にある建物が目に入る。
数か所窓ガラスがなくなっているところがあるためそこから普通に入る。歩き回ると他に比べればマシとは言っても普通に砂がたまっている。部屋の中を見てみると黒板に教壇、規則正しく並べられた机と椅子。どうやらここは学校のようだ。いや、厳密には学校
上の階へと上がり砂が入ってない場所へと向かう。一つのそれなりにきれいな部屋を空ける。校長室のようなものだろうか。応接用のソファ二つとローテーブル。デスクとチェアが一組。資料が入った棚がある。他にもっとましな場所があるかもしれないが正直もうかなり眠い。普段寝る時間をとっくに過ぎているのだ。仕方なしにソファに横たわって目を閉じた。
物陰に隠れたピンク色の髪をした小さな少女に気が付かないまま。
*
────それじゃあこの子は一体どこから?(子供が一人でって…)
────おじさんにもわかんないねぇ。(カイザーとかではなさそうだけど)
────カタカタヘルメット団から送られたスパイか何かでしょうか?(ネフティスにもこんな子はいなかったはず)
────銃も持っていないようですし、その可能性は低いと思います。(あの目玉と蔓のようなものは...?)
────ん、撃って吐かせればいい。(一番手っ取り早い)
────ダメですよ⁉︎(もし連邦生徒会の人間ならどうなるか)
大量の怨霊どもよりはマシではあるものの、久しく感じるうるささに意識が覚醒する。ぼーっと掠れた視界に5つの人影が映る。普段感じることのない日差しを後頭部側に感じる。最後に妹を地上まで探しに行った時以来だろうか。しかしそれをはるかに上回る日射量で背中に汗が滲んでいる。目を擦ろうとするが両手両足が椅子に縛り付けられているため動かせない。
「ん、起きた?」
(ヘイローがない…?)
銀髪の少女に声を掛けられる。とりあえず言いたいことを言おう。
「ヘイロー?なんですかそれは?」
「っ!」
「おや、キヴォトスの生徒全員の頭上に浮かんでいるものなのですね。銃撃や爆撃を喰らっても死なないと。なかなか便利ですね。私にはありませんから気軽に撃たないでもらいたいですが。ついでに言うとあなたたちよりは年上ですよ。それにしても私の認識では人間はそのような耳は持たないような記憶でしたが。動物愛好家としてその猫耳は撫でたいですね」
「ちょっと、勝手に一人でべらべらしゃべらないでよ!不法侵入しといて!」
「人との対面なんて久しくなかったものでつい。ところで確認ですが私を拘束したのはあなたたちなのでしょうか」
「そりゃそうでしょ!ここは」
「ここはあなたたちの学校だったのですね。ここまで荒れていましたからとっくの昔に廃墟になっていると思っていました。朝早くに来たホシノ先輩?が寝ている私を見つけて拘束したと。ここ最近連邦生徒会長?が失踪したという噂が出回って治安が特に悪いからですか。酷いですね。こんなに小さくてか弱い存在に。賠償を求めたいところですがキヴォトスでは当たり前のようなので相互理解のため自重します。まずは自己紹介から入りましょうか」
「なっ、え」
「私の名前は古明地さとりといいます。あなたたちの名前はなんというのでしょう?」
「砂───」
「ああ、口に出さなくて結構です。左から順に黒見セリカさん、奥空アヤネさん、小鳥遊ホシノさん、砂狼シロコさん、十六夜ノノミさんですか。面倒なので全員下の名前で呼ばせてもらいますね。ここはアビドスという場所なのですね。生徒があなたたちだけで学校の借金が9億6235万円もあり廃校寸前と。大変な状況にあるようですね。別に同情はしませんが。さっさと転校すればいい話ですし。借金返済にばかり時間がとられているようですしそもそも学校としての機能が残っているのか疑念が残るところです。ところでコーヒーかお茶を一杯頂けません?砂漠をどうにか抜けて質の悪いソファで仕方なく睡眠をとっていたところで目が覚めたら硬い椅子に縛り付けられている状況になっていてお尻と背中が痛いですよ。せめてこの瞼の重さはどうにかしたいのです」
アビドス生は全員目を見開いている。普通では知りえない情報と会話とは呼べない一方通行の会話が原因で困惑が広がっているのだ。特に短気且つ激情家であるセリカは内心焦りと動揺で、次に問うべき言葉が見つからず口をパクパクさせている。
「察しが良くて助かります。そうです、私は心を読むことができます」
「や、やっぱり⁉」
どうする。どうすればいい。動揺が走る。
「まあまあ、皆落ち着いてー」
ホシノがいつものように四人を宥める。曲がりなりにもこの対策委員会の長。冷静になるよう努めなければならない。その意識をさとりの一言がまたも刈り取る。
「そう言っている貴方が一番の警戒心をお持ちのようですね、ホシノさん。すぐにでも銃を抜く準備をしている辺り些か過剰にも思えますが」
「っ!」
「私の経験上そういう人は何らかの大きな後悔や罪悪感などに囚われているケースが多いです。ホシノさん。
───なにか失くしましたか?」
プツンとホシノの中でなにかが切れ愛銃をすぐさま向ける。
「お前……!」
「ああなるほど。梔子ユメさんという人ですか。2年前に亡くなって生徒会があなた一人になってしまったと。ご愁傷様です。黒服の仲間か?黒服とは?とある人間のニックネームのようなものでしたか。知りませんよ、そんな人。そもそも私と知り合いの人間なんてほぼいないでしょうし。取り越し苦労だったようですね。お疲れ様です。ところでいいんですか?あなたの大切な後輩たちが見ていますが」
「…っ!」
完全にペースに乗せられている。冷静になろうとしていたというのに、こうも心を掻き乱されるとは。後輩たちがいなければ本当に撃っていたかもしれない。
しかしその副産物か、アヤネが幾分か落ち着き、対話を試みる。
「…それで、古明地さんは何をしにここに来たんですか?」
「ここで寝ていたのは単純にそれなりにいい状態の廃墟だからというだけですが、大元の話をするなら妹を探しに来ただけですね」
「妹?」
「一言で言うとこのキヴォトスに私の妹が迷い込んでしまったそうなんですよ。あ、はい。言うのを忘れていましたが私はキヴォトスの外から来た者です。来た方法は置いておきましょう。それで見かけてはいませんか?黄緑の髪で帽子をかぶっています。もちろんヘイローはありません。まあ一番わかりやすい特徴として私と同じこの器官を持ってることですかね」
「…教えてもいいけどこっちの要求も呑んでもらおっかなー」
「あ、居場所は知らないんですね。でしたら結構ですもう用はありません」
ぼそりと何かを呟いた瞬間、何もない空中から光弾が無数に射出されさとりを縛り付けていた椅子を破壊する。それを見た五人はすぐさま自分たちの武器を構える。
「さようなら。借金返済頑張ってください」
しかし余計な一言とともにさらに打ち出された弾幕により視界が遮られそれらを凌ぎ切ったころには部屋の窓が開いておりすでにさとりの姿はなかった。
アビドス生五人に真っ先に出た感想はただ一つ。なんだあの嫌な奴は、である。
時系列としては先生が起きる数時間くらい前です。ちなみにキヴォトスに入ってからアビドスの校舎を見つけるまで地味に数時間かかっています。砂漠こわい。紫さまこわい。
さとりってどこまでコピー再現ができると思う?
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他者の記憶にあるものだけ
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自分の記憶にあるものも再現できると思う
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わからないから作者の自由にしていい