透き通る世界で心を見透かす   作:ネタバレOK派

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ログインした人間との邂逅

 上空を飛行し、D.U.に向かう。D.U.とはDistrict of Utnapishtimの略称で、このキヴォトスの行政を請け負っている連邦生徒会なるものが管理している地区らしい。らしいというのも先ほどアビドス生の心を読んで得た情報なのだが。方角も思い浮かべてくれたおかげで質問する手間が省けた。

 こいしを見かけたか?という質問に対して連邦生徒会であれば何らかの情報をつかんでいるかもしれないとのことなので向かう。とはいえあまり期待はしていないが。来てみてわかったがキヴォトスはとてつもなく広い。それにこいしが持つ能力を発揮されれば認識することはまず不可能。若干気が滅入ってくるが朗報もある。

 このキヴォトスに来てから、いや厳密にはアビドス生との邂逅から調子がかなり良い。おそらくあの五人から大きな畏怖を抱かれたためだろう。妖力が普段よりも多くなってくれた。人があまりにも多いと思念の量が多くて気持ち悪くなるかもと危惧していたが案外恩恵も大きいらしい。とはいえやりすぎるのもよくないのもわかった。あの狼のような耳がある銀髪の少女────シロコといったか。いつ発砲するかわからない状態だった。別に死にはしないが痛いのは大嫌いだ。できればずっと引きこもってられるような住居が手に入れられればいいのだが聞いていた通り銃撃戦が当たり前のこの世界では厳しいかもしれない。

 砂漠をさっさと抜けたいのでスピードアップする。やはり調子がいい。普段であれば出せないスピードだ。

 

 しばらく飛んでいると、いくつもの近代的な建造物が見えてくる。アビドスにあったような廃墟ではなく、新しく、よく手入れされているのがわかる。

 降りて歩く───のはスリッパが汚れるので足がつかないギリギリの高さでゆっくり飛行する。靴くらい持ってくるべきだったかもしれない。

 一つの建物が目に入る。何枚もの大きなガラスに色々な食べ物の写真が貼ってある。しかしそれよりも目を引いたのは棚に並べられている本だ。地霊殿にあるものとは違い表紙に写真やクオリティの高い絵が描いてある。

 扉を探すがドアノブが付いている箇所が見当たらない。と思っていたら突然ガラス2枚が横にスライドする。思わず体をビクッとさせてしまう。よく見るとスライドした2枚のガラスに『自動』と書いてある。

 

「人が近づくと開く仕組みなのね。どういう原理かしら?」

 

 中に入りたいが、見たところ店のようだ。こちらの世界の通貨なんて持ち合わせていないため今回はあの本達は諦めよう。さらに進むと今度は甘い香りを感じる。匂いのもとは道路の向こう側にあるあの車のようだ。馬車や人力車は知っているがあのような形は見たことがないし、旗(?)になっているクレープという食べ物は見た目も華やかで目を惹かれる。地底とは比べ物にならないほどの文明の発展ぶりに感嘆しているところに一つの声が横切る。

 

「そこのちびっ子ちゃん、なにしてんだ?」

 

 振り返るとヘルメットを被り銃を持った集団が立っていた。体型と服装から見ておそらく全員少女だろう。

 

「そこのクレープというものに目を惹かれているところです」

「へぇ~。あたしらもお腹すいててさ~」

「お金持ってたら恵んでくれよ、ですか。残念ながら私も一文無しです。気にしなくていい、ヴァルキューレに身代金を要求すればいいからな?物騒ですね」

「…なんで考えてることが」

「…リーダー、ちょっとこいつやばいんじゃない?」

「ビビるな。銃も持ってない上にヘイローもないんだ。なあ嬢ちゃん、死ぬほど痛い思いしたくないだろ?なら大人しく────」

「平和的解決は無理なようですね」

 

 流石に面倒になってきたので上空に飛ぶ。

 

「は?」

「と、飛んでますよ!リーダー!」

「ひっ、うっ、撃て!」

「…弾幕ごっこは久しぶりね」

 

 とはいえ当たり前だが向こうはそれを知らないだろう。現にスペルカードの宣言もない。故にこちらも律儀に守る必要もない。守ったとしてもまるで脅威にも感じないが。博麗の巫女やあの魔法使いに比べればあまりにも稚拙だ。弾の射出口が各一つだけでしかも場所がはっきりしている。弾数も少ないし狙おうとしている場所と撃つタイミングは視えている。

 かつて博麗の巫女に対して放った小手調べの弾幕────黄色い大弾と赤と青の小弾を同時に広範囲に放つ弾幕を使用する。

 

「な、なんだこれ⁉」

「ギャアアアア!」

 

 断末魔をあげながら弾幕の雨を浴び、全員が倒れる。

 弾幕ごっこと名前ではあるものの、当たり所が悪ければ普通に致命傷となるのだが、弾が身体を貫通していない。ヘイローの効力は本物のようだ。小手調べのものとはいえ大した代物だ。それにしても少なからず人が通ってはいるが、騒ぎになる気配がない。つまり日常茶飯事ということだ。

 

「まあたまにはいいわね。人間を襲うのは久しぶりで楽しかったわ」

 

 これでも妖怪の端くれ。人間を襲い恐れられるのが本分なのだ。

 

「う……」

 

 一人辛うじて意識を保っていたようだ。丁度いい。

 

「聞きたいことがあるのですが」

「はっ、はい!何でしょう!」

「連邦生徒会ってどこにあるんですかね、土地勘がないんですよ私」

「あっちの方向にまっすぐ…」

「ありがとうございます。できればこのことは他言無用でお願いしますね」

 

 やっぱり飛んでる…。といううめき声を無視して最速で飛んで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレ部室奪還の報告を直接受け七神リンはヘリコプターの中で安堵の息をついた。これで後は────

 

「あの地下室にあるシッテムの箱を先生に起動してもらえばサンクトゥムタワーの制御が取り戻せるはずだ、ですか」

 

 聞き覚えがない声が背後から聞こえ背筋に冷たいものを走らせながらバッと振り返る。声の主は妙な目玉とつながっている少女だった。

 

「すみません、すぐに声をかけるつもりでいたのですがどうも取り込み中だったようですのでタイミングを失いました」

 

 このヘリに搭乗したのは連邦生徒会のビルの屋上。そこに行くためには建物内部にあるエレベーターか階段を使用するしかない。ドローンやヘリを利用するという手もあるがそんなものは周辺には飛んでいなかったはず。そもそも乗る時に重量も確認した。ヘイローがないことからキヴォトスの外部の者なのは確定だが一体何者なのか。なぜ。どうして。どうやって。ぐるぐると疑問と混乱の渦が頭の中で回り続ける。

 

「…どちら様でしょう」

「ふむ。冷静ですね。動揺を抑えて状況を正確に把握しようとするその精神力は称賛に値しますよ。その質問に答えてもいいのですが、まずはそちらの用事を済ませてもらって構いません。行政に関わることなのでしょう?」

『”リンちゃん?”』

 

 ”先生”からの声でハッとする。いけない。まずはこちらに集中しなくては。

 

「誰がリンちゃんですか。…いえ、少々予定外のことが起こりました。このまま伝えます」

『”…?うん”』

「そこにタブレット端末のようなものがあるはずです。それを起動してください。私たちには起動すらできなかった代物ですが、先生ならば使いこなすことができるはずです」

『”わかった”』

「……」

「……」

 

 沈黙が流れる。”先生”は恐らくシッテムの箱の起動に集中しているのだろう。

 今のうちにこの得体の知れない者に対処しなくては。

 

「失礼します、私は…」

「連邦生徒会首席行政官七神リンさんですね。連邦生徒会長さんが失踪してサンクトゥムタワーというものが停止し様々な対応に追われていたところキヴォトスの外部から呼んだ先生に解決を依頼したと」

「っ!」

「失礼。先んじて話し続けてしまうのは性分故でして。一応言っておくとこちら側に敵意も害意もありません。ですから腰にある銃を抜こうとするのをやめていただけると助かります」

「…それを信用する材料が足りません。せめてこちらの質問に答えていただけませんか」

「少々苛立っていますね。まあ当然ですか。最初の疑問に答えると私の名前は古明地さとりといいます。ああ、連邦生徒会長さんに呼ばれた者ではありませんよ。次の質問はどうやってこのヘリコプターに乗ったかですか。首席行政官という肩書から察するに相当な上役を務めているあなたが屋上に向かったという情報を得まして。頼みたいことがあったので普通に飛行して向かいました。こんな風に」

 

 その言葉通りにヘリコプターの天井にぶつかるギリギリまで浮き上がる。自分が今乗っているのは助手席。操縦は職員に任せている。搭乗時は後部座席の部分も開いていたためそこから乗ったのだろう。重量が二人分だったのはずっと浮いていたため。口ぶりから考えると別に隠れていたわけでもなかったのだろう。それだけ自分も運転手も焦っていたということだ。

 思わず頭を抱えたくなった。ようやく連邦生徒会長失踪の混乱がひと段落つきそうなところにこんなファンタジーのような存在に対処しなくてはならないとは。

 

『”リン、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移したよ”』

「!ありがとうございます。お疲れさまでした、先生。すぐに合流します」

 

 朗報が入りメンタルに多少の余裕ができる。さとりは自分に頼みたいことがあると言っていた。気づかないうちに自分を襲撃することもできたのにしなかったことからそれは嘘ではないのだろう。ならば内容次第ではあるがそれを受諾してこの場を収める。

 

「古明地さん、私に頼みたいことというのは…」

「さとりでいいですよ。あなたに頼もうかと思っていましたが、この分だと先生とやらに頼んだ方がよさそうですね。ひとまず降りましょう。運転手さん、扉を開けるボタンはどこですか?ああ、それですか」

「────っ⁉」

 

 先ほどとは比べ物にならないほどの冷たい汗と嫌な浮遊感。色々言いたいことはあるが、とりあえず性格が悪すぎることだけはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”先生”は若干困惑していた。通信をつないでいるリンの様子が途中からおかしかったのもそうだが、通信が切れてから上空のヘリコプターがどこにも着陸する気配がない。通信を再度繋ごうとしたところで自分に影がかかる。

 

”え……?”

 

 見上げると”先生”はもちろん、超人的な技能を見慣れている四人、羽川ハスミ、早瀬ユウカ、火宮チナツ、守月スズミも驚きを隠せなかった。何せ文字通り空を飛んでいたのだから。それもリンをお姫様抱っこして。ドローンを使って飛んでいたとかありきたりなものではない。飛行している張本人の見た目は年端もいかない少女。しかしその振る舞いと頭部から繋がっている妙な目玉も相まってどこか老獪な雰囲気を持っている。そして自分と同じようにヘイローがない。着地するや否や、リンを離して自分の方に向け声をかけてきた。

 

「初めまして、ですね。先生?」

 

 声も幼い。どうも自分のことを知っているような口ぶりに感じる。

 

「初対面ですからご心配なく。私があなたのことを知ったのも今日が初めてです。自己紹介がまだでしたね。古明地さとりといいます。貴方と同じくキヴォトスの外から来た大人ですよ。出身地は別でしょうけどね。…私が成人なことに驚きですか?ついでに言うとあなたよりも年上ですよ」

 

 悪寒が走った。そこまで表情に出したつもりもないのにここまで自分の中に浮かんだ疑問を当てられるとどうにも気味が悪い。さとりからすればこれでもアビドスの一件を省みて口数を減らしているのだが。

 

「機内の中での会話でも感じましたが、さとりさん。貴方は心が読めるのですか?」

「さすがにそんな非科学的なことがあるわけ」

「はい、読めますよ。ミレニアムサイエンススクール生徒会、通称セミナー会計を務めている早瀬ユウカさん。他の方も自己紹介は結構ですよ。私の出身地は殆どの者がそういった能力を持っています。空を飛ぶのも常識ですね。…信憑性に欠ける?でしたらユウカさんが先日の深夜にコンビニエンスストアで買い食いをしたものの値段でもこの場で言いましょうか?」

「んなっ…⁉」

 

 ユウカの言葉を羞恥心を与えながらあっさりと否定する。すでにさとりと数十分程度の交流があるリンも同じようなことをされたらしい。しかし読心術か。それを持っているのであれば合点がいく。普段であれば会話を重ねて交流を深めるところではあるが正直、この場でこれ以上会話を続けたくない。

 

”…結局、君は、いやあなたは何者なの?”

「別に大物というわけでも何でもないんですが、種族を挙げるのであれば(サトリ)妖怪ですね」

「…それはあなたの名前では?」

「ですから覚妖怪という種族なのです。私の名前にもなっていますけど。こちらの世界にそういった書物や伝承は残っていないのでしょうか?」

「それは後々確認しましょう」

 

 リンが眼鏡の位置を調整しさとりの方を向く。

 

「連邦生徒会や各学園、特に三大校の首脳部は一般人に知られると混乱を招く情報をいくつも所持しています。失礼ながらその力はある種災害よりも厄介なものになりかねません。その力の使用を止めることはできないでしょうか」

「そうよ。心を勝手に読まれるなんて不愉快でしかないわ。今すぐやめなさいよ!」

「私に死ねと言っているのと同義ですね。妖怪にとってアイデンティティの喪失は死につながります。私にとってのアイデンティティは心を読むことです。残念ながら不可能ですね」

「なっ、何よそれぇ。頭の中を読まれ続けるなんて嫌よ」

「体重が増えたこととかがバレる?さっきの買い食いといい、死ぬほどどうでもいい情報ですね。痩せたいのなら食生活から見直してみてはいかがでしょうか」

「なぁんですってぇ⁉」

 

 思わずハスミも目を逸らしてしまう。

 

「ハスミさんもですか。甘いものを一気食いするのは控えめにすることをお勧めします」

「っ!大きなお世話です……!」

”ユウカもハスミも落ち着いて…”

「と、まあ私が心を読むことを止めるのは期待しないでほしいのですが」

 

 怒らせた当の本人がこの態度。暖簾に腕押しである。いちいち反応すると余計に搔き乱されそうなので他の三人は突っ込まないが。

 

「つい口が止まらない私の癖を出さないようには善処しましょう。私もキヴォトスに特段用があるわけではありません。妹を連れ戻しに来ただけですので」

「…妹、ですか」

「ちょっと待ってよ、妹ってことはその子も心が読んでくるわけ?」

「いえ、読めません。昔は読めたんですがね。不思議なことに嫌になってしまったようです。その代わりに無意識を操る力を持っていて見つけるのが難しいんですよ。古明地こいしという名前で黄緑の髪に黒い帽子をかぶっています」

「無意識?」

「ざっくり言うと透明人間の上位互換でしょうか。姿が見えないだけではなくあの子の能力の使い方次第では触れられたとしても認識ができないのです」

「…それは正直、どうにもならないのではないでしょうか」

 

 トリニティ自警団の部員であるスズミが難しそうな顔を浮かべる。それもそのはず。治安維持に努める身からすれば認識すらできない存在はテロリストよりも質が悪いと言っていい。

 

「ええ。ですが四六時中その能力を使用しているわけではないので不可能ではありません。とはいえ情報収集には困らない程度の環境は欲しいのです。ですから私から先生にお願いがあります」

”…私に?”

「私をシャーレに職員として所属させてもらえませんか」

”…え?”

「こちらとしては衣食住が提供されると助かるんですよ。シャーレの部室に泊まり続けられるだけの設備はそろっているようですし、もう一度言いますが私をシャーレ所属にしてくれませんか、先生」

”それを断るとどうなるの?”

「この5人の心を読んだところ法律の抜け穴を潜り抜け続ける悪徳企業やそもそも法律を無視してテロを平然と起こす不良生徒が多数存在するそうですね。そういった人たちと私が組んだら一体どうなることやら。どうですか、私を手元に置きたくなりませんか?」

”…悪い大人だね”

 

 目を細めた後に観念した様子で息を吐いた。

 

”…わかった。認めるよ”

「先生⁉彼女は飛行もできるんですよ!」

 

 ハスミが制止の声を上げる。それもそのはず。戦闘力は不明だが、人一人抱えて飛ぶ程度のことはできる。”先生”を上空に連れて行って落とす。それだけで殺すことができる。

 

”狡い部分はあるけど彼女もれっきとした大人みたいだからね。そんな安易なことはしないと思うよ。裏で暗躍せずに堂々と表に出てきたのが良い証拠だ。でもここでこの話を蹴ればさっき言ってたことを本当にやりかねない”

「…いいでしょう。古明地さとりさん、あなたを正式にシャーレの職員とします」

「決まりですね」

 

 さとりが右手を差し出してくる。握手をしようということだろう。

 

「これからよろしくお願いしますね、先生?」

 

 その小さくて恐ろしい手を握った。

 

 自分の手に滲んでいた汗は動き回ったが故か、それとも────。

 

さとりってどこまでコピー再現ができると思う?

  • 他者の記憶にあるものだけ
  • 自分の記憶にあるものも再現できると思う
  • わからないから作者の自由にしていい
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