透き通る世界で心を見透かす   作:ネタバレOK派

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対策委員会編1・2章
砂漠はヘイロー持ちでも危ない


 あの後、いくつかの取り決めを行った。

 

 ・さとりは先生の補助を行う

 ・さとりが心を読めることは他言無用

 ・さとりの判断で相手によって開示する

 ・空を飛べる能力は全面的に活用すること

 ・可能な限り外出しない

 

 大分譲歩してもらったと言っていい。飛行に関してはヘイローがない以上自衛の手段としてはやむを得ないということで特に隠さなくてよいとのこと。心が読めることについても最悪広まっても構わないという姿勢に感じる。下手に縛り付けて寝首を掻かれるのが嫌なのだろう。外出しない件に関してはさとりからしても大歓迎だ。 

 

 机の上に置かれている資料を読み進める。

 

 キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市。全体の行政を担っているのが各学園から選出された生徒たちで構成されている連邦生徒会。連邦生徒会は11の部署で主な業務を扱う「行政委員会」と、それらを取りまとめる「統括室」とで構成。その長を務めている連邦生徒会長が設立したのが連邦捜査部「シャーレ」。あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。どの学園の自治区にも出入り可能。どの苦情に対応するもしないも自由。何度読んでも職権濫用になりかねないほどの権力な気がするが連邦生徒会長とやらは何を考えているのやら。そもそも行政制御権に不可欠なサンクトゥムタワーをなぜ自分にしか管理できないようにしたのか。管理者の端くれとして突っ込みどころが満載だ。是非直接会って聞いてみたいものだ。

 

”……さとり、仕事してる?”

 

 ”先生”から声を掛けられる。そんなに長く手を止めていたつもりはないのだが。

 

「失礼ですね。資料に目を通していただけですよ。先生は通したんですか?通してないんですね。ここに来て日が浅いのですから情報はしっかりと取り入れておくことをお勧めします。書類の処理もしっかりとやってほしいですけどね。リンさんからやり直しを食らうのはそろそろ勘弁してもらえませんか」

 

 とはいえ、文句を言いたくなる気持ちもわかる。机の上に置かれている書類は文字通り山積みだ。さとりがいなければ恐らく”先生”は徹夜祭りだっただろう。

 初めこそパソコンやスマホの操作に戸惑っていたもののさとりでもアルファベットの知識くらいはある。タッチタイピングはまだまだだが基本的な操作は拙いながらもできる。書類処理に関しては逐一墨汁やインクをつけなければならない環境に慣れているさとりにとってはシャーペンやボールペンは魔法の道具のようで、迅速に作業を進めていた。

 

「ちょっと、私の前でアロナとやらと会話するのは控えてくださいと言ったじゃないですか。…先生?聞いていますか?」

 

 なんでもシッテムの箱の内部にいて”先生”しか認識できないらしいが誰に話しているのかわからなくなるので正直やめてほしかった。

 

”ちょっと出張に行ってくる”

「急ですね。書類仕事に耐えられなくなりましたか」

”違うよ⁉”

「アビドス高校からの救援要請が来たそうですが違わないというわけではないようですね」

”…はい”

「まあ、いいんじゃないですか」

”え?”

「なんですかその反応は。そもそもシャーレの活動内容自体自由で、主任はあなたです。私に止める権限はありません」

”…ごめん、任せる”

 

 リュックの中にシッテムの箱と財布を入れる。弾薬等はコンビニでも買えるので道中で買っていくつもりらしい。

 

”それじゃ、よろしくね”

 

 その言葉とともにドアが閉められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”先生”が出発してから五日後の早朝。誰もいないシャーレの部室でタブレット端末をタップする音だけが響いていた。

 

「───最高ね」 

 

 ゆとりのある部屋に一人。静かでいい。あの場では言わなかったが人間と長い間ずっといるというのは慣れない。このシャーレのビルの中には部屋がたくさんあるそうなので部員が新しく入れば荷物を整理させて自室を作るのもいいかもしれない。

 自分しかいないので堂々と買いためておいた本を読める。この世界にある本は素晴らしい。小説はもちろん漫画とやらの種類も豊富で心理描写もとても丁寧だ。心も読めないのにどうやってここまでリアルに描くことができるのだろうか。加えて電子書籍の利便性にも感嘆していた。本棚にしまう必要がないからいくら買っても場所を取らない上に、傍から見れば仕事をしているように見える。よってリンが来ても言い訳できる。とは言っても昨日までのうちに進めておいたので今日のノルマはとっくに終わっているが。

 

 1、2時間経っただろうか。ノックの音が鳴る。 

 

「どうぞ」

 

 声をかけると見慣れた顔────リンが入ってきた。

 

「先生、この書類の記載ミスを…。さとりさん一人ですか?」

「ええ。救援の依頼が来たそうで五日前に出ていきましたね」

「せめて連絡くらいはしてほしいですね」

「先生が送っているのかと思いました。どうもまだこういった機械の操作は不慣れでして。ちなみに向かったのはアビドス高校です」

「アビドス…原因不明の砂漠化で過疎化が進んでいる自治区ですか」

「ああ、やっぱり過疎化してるんですね。ん?行ったことがあるのか?…まあ、ありますよ。不本意な形でしたけど。少々あちらの生徒とのトラブルもありましたし」

「なるほど。似たようなことをしたのですね」

 

 若干呆れたような目を向けられた。それに関しては返す言葉もない。ただ、彼女が知る由もないことではあるが、紫がその気になればD.U.でないにせよもっとマシな場所に送ることもできただろうにわざわざ砂漠のど真ん中に落とされ余計なトラブルを招いたのだ。文句の一つも言いたくなってくる。

 

「それにしても妙ですね。車両やテントといったものに対する利用届が出ていないのですが…」

「え?」

「…出る時に何か持って行っていましたか?」

「いえ、ほぼ手ぶらだったかと……」

「……」

「……」

 

 冷や汗がだらだらと流れてくる。

 

「…まあ、単純に出し忘れただけの可能性もありますから」

「さとりさん」

「嫌ですよ。土地勘がありませんしさっきも言いましたがアビドス生とトラブルを起こしましたから」

「いいえ、これは連邦生徒会からの命令です。連邦生徒会長の捜索も同時並行で進めている今現状ではアビドスまで動かせる人員がありません。土地勘がないのは誰であっても同じです。ですが空を飛べる貴方であれば先生を見つけ救出する難易度は格段に下がります。シャーレ発足からわずか一週間余りで先生が遭難死なんて笑い話にもなりません。あえて口に出しましょう。アビドスに向かって先生を直接補助しに行ってください。後はアビドスの人たちに対しても他言無用の件を伝えてきてください。通告書は発行しておきますから」

 

 かくして天国のような日々に終わりが告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 ありったけの水と保存食、銃弾を詰めた巨大防弾リュックを背負いながら上空を飛ぶ。砂だらけの地面が視界に入り始めてわかったのはアビドス自治区は通信環境も悪いらしいということ。考えてみれば当たり前だ。通信を完備できるだけの環境には程遠い。”先生”からの連絡が一切なかったのはそのせいかもしれない。単純に電池切れの可能性もあるが。

  

「…大丈夫なのかしら」

 

 一番最初の依頼でこれである。数日間一緒に過ごして善人なのはわかったがそれだけでは生きていけない。ヘイローもなければ自分のような特殊な力もないただの人間が治安最悪なキヴォトスでやっていけるのだろうか。それもただ過ごすだけではなく生徒たちに積極的に関わるという形で。ユウカ達の心を読んだ限りではあのシッテムの箱とやらは特殊な力が込められているようだがそれもどこまで通用することやら。

 ほとんど人がいない上、幸い砂嵐にもなっていないがゆえに上から人一人見つけるのはそう難しくはなかった。一応ゴーグルも持ってきたのだが杞憂だったようだ。ワイシャツ姿でうつ伏せに倒れている”先生”を発見し、下に降りた。出発するときに持っていたリュックは無く、空のペットボトルがそばに転がっている。わざわざここまで駆り出された鬱憤もかねて頭に水をぶっかける。

 

「見つけましたよ」

”…さとり?どうしてここに…”

「どこかのお馬鹿さんが何も持たずに砂漠まで行ったとの情報を得まして」

”…返す言葉もありません”

「意識ははっきりしているようですね。とりあえず水をむせないように慌てずに少しずつ飲み込んでください」

 

 上半身を支えながらリュックから保存食を出しそれも食べさせる。当たり前だが食事もほとんど取っていなかったようで貪るように口に入れ再度慌てるなと声をかけた。

 

「それでは一旦帰りましょうか」

”え⁉”

「私もアビドス高校がどこにあるのかがわかりません。いくら空を飛べると言っても病人とこの重い荷物を抱えて探すのは骨が折れますし、あなたの今の容態では依頼に応えることは難しいのでは?」

”これくらい平気だし、結構速く飛べるんじゃないの?”

「頑丈な生徒たちならともかく脆いあなたの身体が耐えられるかが疑念が残ります。襲撃があった時は特に。まずは一旦戻って体制を整えましょう」

”でも、生徒から助けを求められてるのに…”

「…!」

”どうしたの?”

「いえ、事情が変わりました」

 

 一応『第三の目(サードアイ)』を回転させておいて正解だった。

 

「シロコさん、出てきてください。あと、構えている銃を下ろしてください」

”え?”

「……」

 

 背後の曲がり角の陰に隠れていたシロコが指を愛銃のトリガーにかけながら出てくる。

 

「お久しぶりです、と言うほど日数は経っていませんか。二週間ぶりといったところでしょうか」

「…ん、何の用?」

「救援の要請があなたたちから来たから来たまでです。あの数時間後に「シャーレ」の職員になりまして。こちらがその先生です。ついでに私はあなたたちに対する届け物とこの人の救助です。そんなに敵意を向けないでください。最近襲撃がさらに増えたのは私が裏にいると疑っていたわけですか。違いますよ。徒労でしたね。ご苦労様です」

”ちょっと、さとり…”

「大丈夫ですよ。彼女たちは私が心を読めることを知っていますから。…そういう問題ではない?口に出さなくてもいいのでできれば具体的に言語化してほしいですね」

 

 シロコが眉を顰める。まるで変わっていないようだ。ホシノの怒りまで買ったというのに。

 

「何はともあれちょうどいいところに来てくれました。アビドス高校の校舎まで案内していただけますか」

「…ついてきて」

「あとついでにこの人を背負ってくれませんか?地味に重いんですよ」

「……」

 

 曲がり角の陰に置いてあった自転車を手で押しながら歩きだす。苛立ちやわだかまりが残っているような態度だがさとり本人はどこ吹く風だ。

 歩くこと数十分。どうにかこうにかで到着した。日差しがきつくて正直疲れた。だから来たくなかったというのに。

 あの時は深夜に見たが朝に見てもやはりボロい。しかしよく見ると確かに廃墟よりは遥かにマシかもしれない。

 自転車を停め、そのままシロコについていく。土足でいいらしい。内履きは持ってきていないので助かった。

 

「シロコ先輩おはよう!うわっ、後ろの人何⁉死んでる?」

「…ん、生きてる。この人がシャーレの先生だって」

「シロコちゃん元気ないですね。具合でも悪いんですか?」

「支援要請が受理されたんですね。良かったです。それで物資の方は……?」

「物資はこちらです」

 

 シロコの後ろにいたさとりが横にずれて顔を出し、三人の顔が歪む。

 

「どうも、セリカさん。その猫耳を撫でさせる気にはなりましたか?」

「あ、アンタ…!」

「なぜここに来たのか?シロコさんには説明済みなのでそちらに聞いてください。私と話したくないのでしょう?」

「ん、届け物の内容については聞いてない」

「ああ、そうでしたね。では私から言いますからホシノさんを呼んできてください」

 

 セリカが無言で出ていった。隣の部屋で寝ていたらしい。夜な夜なパトロールをしているのだから無理もないだろう。数十秒後にホシノが入ってくる。 

 

「っ!」

「ご挨拶ですね」

 

 入って来るや否や銃を構えようとしたのを寸前で思い留まった。”先生”にはそれが伝わらなかったのが幸いだろう。

 

「…何しに来たのさ」

「それを今から説明するところです」

「…ホシノ先輩、落ち着いてください」 

「…うん、ごめんねみんな」

”……さとり、何したの?”

「勝手に一夜を過ごそうとしたくらいですかね。とりあえずあなたは座ってください。病人であることには変わりないのですから」

 

 絶対にそれだけではないだろう、という声を飲み込んで大人しく従う。飲み込んだ意味はさとりにはないが話が進まないためだろう。

 

「────改めて、あの数時間後に連邦捜査部シャーレの職員になりました。古明地さとりといいます。本日はシャーレの顧問であるこちらの先生の補助としてついてきました。それともう一つ。連邦生徒会長代行からの届け物です」

「「「「「っ!」」」」」

「そう警戒しないでください。別に悪い話というわけではありません」

 

 懐から封筒を取り出しホシノに渡す。封を解いて開ける。入っていたのは二枚の紙。

 

「私が心を読めることについて他言無用という通告書とそれに伴う口止め料ですね。焼け石に水どころではないでしょうけど受け取っておくのが吉かと」

”……?”

 

 小切手に書かれている金額は七桁ほど。まあ足しにはなるだろう。反応を見る限り”先生”はアビドスの内情を詳しくは知らないらしい。

 

「ちょっとこっち来て!」

 

 水を飲んで一服しようと思ったらセリカに脇を抱え上げられ廊下に出される。

 

「なんですか」

「学校の借金のこと、先生には言わないで」

「?なぜですか?」

「いいから!」

「それはあなたたちの総意ですか?違うんですね。なら私ではなくまずはホシノさんを説得してみては?」

 

 うっ、と口を詰まらせる。もっとも、さとりが視る限り心情的にはホシノもセリカ寄りのようだが。

 そのまま無言で向かい合っていると外から銃声が鳴り響く。

 

『セリカちゃん、襲撃!準備して!』

「……!」

 

 その直後にアヤネからの通信が入りセリカは慌てて準備する。この話は後で、ということだ。”先生”が指揮を執るらしい。いい機会だ。

 

「お手並み拝見、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わった。上空から見ていたが見事なものだった。まるでアビドス生側は視点そのものが違うかのような動きを見せていた。ドローンを用いたサポートも的確で爆弾や煙幕弾を落とすタイミングも絶妙だ。昇降口からの死角は多いはずなのだが一体どういう原理なのだろうか。

 これならば確かにシャーレの部員がある程度確保できれば”先生”もやっていけるかもしれない、と評価を上方修正した。

 

 ゆっくりと屋上に降り、対策委員会の会議室に戻る。

 

「お疲れ様です。アヤネさん」

「…ありがとうございます。さとりさん、空を飛べたんですね……」

「ええまあ。ところで、あの五人はどちらに?」

「ヘルメット団の拠点を直接攻撃しに行きました」

「他の勢力が襲ってくる恐れはないのですか?」

「襲撃がずっと数日サイクルですから大丈夫というホシノ先輩の判断です」

「ふむ……?」

 

 なぜわざわざ数日空けるのかわからないがそれをアヤネに聞いてもわからないだろう。

 

「すいません、戦闘のサポートに入るので静かにしていてください」

「ちょっと失礼」

「さ、さとりさん?」

 

 アヤネのインカムに顔を近づけ、声をかける。

 

「聞こえますか、皆さん」

『……何?』

 

 ホシノの声色が低い。こちらに対する敵意を隠そうともしない。こちらの方が素なのだろうから素直にそう振る舞えばいいのにと思ってしまう。

 

「ヘルメット団員を拘束して連れてきてください。出来るだけ沢山連れてきてくれると助かります。リーダー格なら尚良いです」

「さとりさん、何を……?」

『……あっ』

 

 シロコが察したらしい。何もただアビドスに喧嘩を売りに来たというわけではないのだ。さとりにも責任感というものはある。

 

「捕まえて情報を得ましょう。仮に彼女たちに依頼主がいればそこを叩けば済みます」

 

 心を読む程度の能力の本領を見せてやろう、と思う程度には。

 

 

 

 




 
 
 原作の”先生”ってどうやってアビドスまで物資を持って行ったんですかね?アニメでもほぼ手ぶらだったし...。

 さとりが原因で”先生”に対する好感度は現時点で原作よりも低めです。

さとりってどこまでコピー再現ができると思う?

  • 他者の記憶にあるものだけ
  • 自分の記憶にあるものも再現できると思う
  • わからないから作者の自由にしていい
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