さとりの年齢を500→1000歳以上に修正しました。情報提供してくれた方々、ありがとうございました。
一日空けて軽い習慣になりつつあるアビドス高校への外出。さすがにもう最短ルートを迷いなく飛行できる。
いつもの会議室に入るとやたら機嫌がいいセリカがいた。さとりが入った瞬間やや表情に陰りが出たが。なんでもヘルメット団を返り討ちにしたらしい。
一昨日の夜から昨日の流れをまとめるとこうらしい。
ホシノがセリカを尾行している者がいることに気が付く
↓
セリカの案でセリカが囮となり出てきたところを仕留める。
↓
待機していた仲間のトラックを奪い砂漠地帯へ
↓
そのまま全員倒した
特にホシノの活躍は凄まじく、少なくとも半分以上はホシノ一人で倒したとのこと。
「それで、あの後の話し合いでどういう方針になったんですか?」
「例の一件で多少余裕も出てきたので、借金問題を気にしつつまずは襲撃問題の解決に集中する、という結論に落ち着きました」
妥当なところだ。土地等の問題にはまだ気が付いていないようだが、気が付いたところで取り戻せるものでもない。
「それで、襲撃を依頼しているのが何者なのか、というのがわかれば話は早かったのですが…ヘルメット団は雇われただけで誰も知らない可能性が高いということなので、ひとまずは可能な限り一人で行動しない方針です」
正直に言うとさとりの中では十中八九カイザーコーポレーションによるものと予測はついている。通常、金を貸した側が貸した分プラス利息を回収できなくなるのは避けたいはず。にもかかわらずこの襲撃問題を放置している時点でカイザーが関わっていると考えるのが自然だ。
ホシノの戦闘力の高さはいい意味で想定外だが、何故かさらに精神的に余裕がなくなっている。黒服とやらから取引が持ちかけられているらしいが下手につつくと逆効果になりかねない。少なくともまだ、アビドス高校を出る決意をさせてはならない。
「借金の返済の方にも具体的な方法を議論したいと思います」
「議論になるかどうか微妙ですけどね」
「え?」
「マルチ商法に、バスジャック、銀行強盗……ヘルメット団もびっくりな犯罪ばかりですよ」
セリカ、ホシノ、シロコの順である。
「ちょっと待って、ゲルマニウムブレスレットって運気アップしないの⁉私、2個も買っちゃったんだけど⁉」
逆に何故すると思ったのだろうか。いや、幻想郷にはその手の特殊なアイテムは一定数存在するが、ゲルマニウムはありふれたものとキヴォトスの文献で見た記憶がある。
「いやそれよりも、バスジャックってどういうことですか⁉銀行強盗はシロコ先輩だとして……まさかホシノ先輩?」
「…うへー」
「うへーじゃないですよ!」
「いやさ、生徒数増やすには一番手っ取り早い方法じゃない?生徒が増えれば連邦生徒会での発言権も得られるし」
「だからってバスジャックって……。他学園の風紀委員会が黙ってないですよ⁉」
「だよねー」
「…もう少し真面目に会議に臨んでください」
声色が若干低くなったところでホシノが大人しくなった。正しい判断だ。かなり真面目にキレている。
「ノノミ先輩は…?」
「スクールアイドルとやららしいですよ」
「そうです!アニメでも学校を復興する定番の方法になっています!私たちがアイドルとしてデビューすれば……」
「アイドルとやらに私は無知ですが、曲や踊りの振り付けが必要らしいですね。当てはあるのですか?」
「……」
当然却下。
「そういうあんたは何か案はないわけ?」
「投資や賭け事で増やすという手もありますが、経験もスキルもない人間がやったところでいい鴨にされるだけですからね。精々募金を集めるくらいではないでしょうか」
正直今新しいことを始めるのは得策とは思えない。口止め料と示談金での余裕は借金の総額を考えれば一時的なものだ。いっぱいいっぱいもいいところなのである。
「それじゃ先生、やるならどれがいい?」
「ちょっと待ってください、もう少しまともな意見が出てからの方が……」
「先生が選んだものなら大丈夫大丈夫」
ただふざけているというわけではないらしい。むしろギリギリの精神状態で、こういう冗談を言わないとやってられないレベルのところまで追いつめられている。
”銀行を襲おう!”
「ん、覆面は全員分作ってある」
「本気ですか⁉」
「あはは!よし、それじゃあ出発だー!」
果たして”先生”は気づいているのだろうか。
「楽しそうです☆」
「ほ、ホントにこれでいいの?」
「いいわけないじゃないですか!」
アヤネが机をひっくり返す前にパソコンを持って隣の部屋に移動した。避難したともいう。
”先生”も”先生”で倫理観が緩すぎやしないだろうか。早くこの案件が片付いてほしいと思ってしまう。
仕事を進めていくうちに、声が聞こえなくなったところで会議室に戻ると、へとへとになった五人がいた。
「終わりましたか。そろそろお昼時ですし、息抜きにラーメンでも食べに行ったらどうですか?先生が奢るそうですよ」
”え?”
「それにセリカさんは今日もバイトでしょう?誰かついていかないと不味いですし」
「っ、アンタまた勝手に心を読んだわね」
「常に読み続けている、が正解です。ご安心を。私は行きませんよ。先生には渡すものがあるのでこっちの部屋に来てください」
手を引っ張りながら部屋を移動し、電子書類の一部を送信する。
”さとり、なんで急に……?”
「今のところあなたはめぼしい活躍無しですからね。親睦を深めてきてください」
”ある程度は仲良くなれてると思うんだけど…”
「約一名、心を開いていない人がいます」
”…誰?”
「それは知らない方がいいでしょう」
”先生”のことだからしつこく声をかけるなどして急に距離を縮めようとするのが目に見えている。というか、やはり気が付いていなかったようだ。気が付いていない状態でメンタルケアができるかどうかは不安が残るところではある。
だが精神衛生的には、少なくともさとりよりはマシだろう。
”さとりはなんで来ないの?”
「嫌われている私が行っても息抜きにならないでしょう?」
”自覚はあったんだね……”
適材適所、と言ってほしいものだ。
*
しばらくして、六人が帰ってきた。再度『
せめて今日だけでも、このまま何も起きずに終わってほしいものだ。
『校舎から南15km圏内に大規模な兵力を確認!』
ほどなくして、アヤネから通信が入る。そうは問屋が卸さないか。現実はなかなか厳しい。
急いで会議室へと戻る。
「ヘルメット団?」
「いえ、傭兵のようです!先生、出動命令を!」
”出動だー!”
アヤネを除くアビドス生と”先生”が外に出る。
『あ、あんたたち!誰かと思えば…!』
「知り合いですか?」
『さっきお金に困ってそうだったから特大ラーメンをご馳走したのに……!』
おそらくご馳走したのはセリカではなく大将の方だと思うが、言わないでおこう。
「さとりさん、空から情報を詳しく教えてくれませんか」
「今回はやりたくはありませんね」
「え?」
リーダーと思わしき少女の手には狙撃銃が握られている。下手に飛びたくはない。室内からでも姿は見えるので『第三の目』で敵全員を捉える。
「良い知らせと悪い知らせがあります」
『”…なにかな?”』
「一つはあのヘルメット団は依頼主に見限られたということです。もう襲ってくることはないでしょう」
『ざまあないわね、あいつら』
『…ん、悪い知らせは?』
「ヘルメット団を潰したのは彼女たち4人によるものだということです。つまりあのヘルメット団を余裕で潰せる程度の実力はあります。それに加えて傭兵がいます。まあこちらは完全に日雇いでそこまでやる気はないそうですが」
『いいよ、全員倒せば済む話だから』
『ホシノ先輩…?』
ノノミも何やら良くない雰囲気を感じ取ったようだ。通信機越しでは心を読めないため具体的にはわからないが、明らかに声色が穏やかではない。
その兆候は戦闘にも現れ始めた。
『”ホシノ、ちょっと出過ぎ……!”』
「うわっ、なんだこのチビ!」
「固まるな!一気にやられるぞ!」
「うわっ、ちょっとやばくない?」
(き、きき聞いてないわよこんなのー⁉)
序盤こそ大人しかったものの、時間が経つにつれ、”先生”が局所的な数的有利を作ろうとしても一人で大人数のところへ突撃していく。狙撃を受けてもお構いなしだ。しかしそれでも目に見えるレベルで向こうの戦力を削っていく。
普段被っている
ホシノの動きは後輩たちからしても違和感を感じるらしく、連携が素人目から見てもぎこちない。
思わずため息をついてしまう。何をそんなに焦っているのか。
外を見る。狙撃手は撃てる状態ではない。インカムのマイクを切って裏側から外へ飛んだ。
*
脚に銃弾が掠る。問題ない。浮いた駒が目の前にいる。逃げ場のない方へと誘導し、追いつめる。
「逃がさないよ」
「……っ!」
ヘルメット団に比べればいい動きだが、脅威になるレベルではない。校舎の角を曲がったところで冷たい汗が流れる。
「ハハッ、掛かったな!」
「……っ!」
待ち伏せしていた二人とともに銃を向けられる。咄嗟に盾を前において防御するが今までの経験からして間に合わない。痛みを覚悟して急所をかばうように背中を向け丸めた。
その瞬間、無数の光弾が傭兵三人を吹き飛ばした。後ろから足音が聞こえる。そういえば、初めて会った時も光弾で拘束を解かれたのを思い出した。
「お礼は言わないよ」
「いらないので結構です」
振り向くとさとりが立っていた。相変わらず癇に障る平坦な声と態度だ。
「どいて。早く戻らないと」
「もう少しで終わりますよ。それすらもわからないくらいに今のあなたは冷静さを欠いている」
厳密には便利屋の四人はまだ余裕はありそうではあるが、これだけ戦力が削られている状態で無理に攻め落としに来ることはまずない。実際にすでに撤退気味だ。それをわかっているからか、アビドス生も深追いをしないように”先生”が指示を飛ばしている。
「ホシノさんはきっと優しい人間なんでしょうね」
「…急に何さ」
「まあ一口に優しさとは言っても多種多様ではありますが」
「だから何の話」
「───あなたのその優しさには無知さと浅慮さが余分に含まれすぎている。却って周りの人を傷つけることになるでしょう。
…前置きが長くなってしまいましたね。下手に自分で動かない方が吉ですよ。特に単純な暴力が上手く機能してくれない場面では」
無言でさとりのことを見つめている。いや、睨んでいる。
「現実というものはその優しさに優しくありません」
が、覚妖怪にとってたかが一人の人間の怒りなど今更でしかない。
「後輩たちが入学する前にアビドスの問題を何も改善できていないという自責の念、梔子ユメさんを救えなかった後悔と無力感がそうさせているんでしょうけど。あなたの最近の心、ユメ先輩と言ってる頻度が多いですよ」
「もう黙って。余計なお世話」
「──そんなに気になるのならばユメさんの遺言でも聞きに行きますか?」
ヒュ、っと呼吸が止まる音がした。それほどまでに、目の前の得体のしれない存在の言葉は衝撃的なものだった。
「私の心を読む能力は残留思念も読み取ることができます。まあ死後2年近く経っているのであればもう残っていない可能性の方が高いでしょうし、そもそもただの人間が残留思念が残すのは稀ですけどね。こちらの世界に幽霊がいるのかどうかも怪しいですし。それで、どうしますか?もしやってほしいのならば遺体が発見されたあたりに行けば読み取れるかもしれませんよ。……ホシノさん?」
数秒間、さとりに心の声が聞こえない状態が続いた。何も考えていない、否、何も考えられていないのだろう。予想以上の地雷だったらしい。
(嘘?いやできてもおかしくない。先輩の、遺志がわかる?)
どこに向かっていけばいいのか、どういう学校にしていけばいいのか、あの時から何もわからなかった。やってきたことと言えば、学校を辛うじて存続させるための利息返済と後輩たちを守ることだけ。偉そうに説教じみたことを散々言っておきながら、結局は頼りきりだったことを思い知らされた。
────ホシノちゃん。
「──う"っ、お"ぇ」
とっさに口を押さえる。視界が歪み、胃液が逆流しそうだった。
「やはりやめましょうか」
「……ぇ」
「内容がどうあれ、アビドスを立て直すにあたって無意味でしかありません。あなたの精神が多少は安定すれば、と思っていましたが見当違いだったようですね」
やはり人間の価値観はよくわかりません、とさとりは続けるがホシノの頭には入っていなかった。
千載一遇のチャンスを逃してしまったという喪失感と、このまま尊敬する先輩から恨み言を言われずに済むという安心感で占められていた。そんなことを言う人間ではないのはわかってはいる。だがその答えの出ない不安は拭えなかった。
「答えが永遠に出ないのならば都合のいい解釈で良いと思いますが、自罰的に考えるタイプのようですね。とりあえず、怪我の手当をして次のことに頭を移してください。……ああ、敵戦力も今撤退したようですよ」
(そうだ、次、学校を、守らないと……)
光が無い眼でなんとか顔を上げた。相変わらずさとりの言葉は上手く入ってこなかった。
*
カタカタ、カチッ、とさとりがPCを操作する音だけが会議室に響く。誰も、言葉を発しない。それだけ空気が重い。明らかにホシノの様子がおかしかったからだ。
いつも惚けているような雰囲気を醸し出しながら、有事の際には一番頼りになる人間だった故に、今回の件は重かった。
保健室での処置を終えたホシノが会議室に戻ってくる。見るからに不完全な仮面をつけて。心を読めない人間でもわかるレベルだ。
「ホシノ先輩、大丈夫ですか」
「うへ、平気だよ。柄にもなく頑張っておじさんちょっと疲れちゃったみたい」
こういうときに誰か一人にでも少しキツイかも、くらい言えないのだろうか。ノノミもこの中では一番ホシノと付き合いが長いのだから多少は踏み込んでもいい気はするが。やはり人のプライドというものは複雑で厄介だ。
シロコに睨まれている。また自分が何かしたのではないかと疑っているらしい。その通りではあるがどの道決壊寸前なのだから何もしなくても同じだ、と言っても信用はされないだろう。この際ホシノの暴走を止めるのは諦めた方がいいかもしれない。
「それなら、先ほど襲撃してきた彼女たちについて伝えておきます。ゲヘナ学園の「便利屋68」という4人組の非公式部活ですね。社長が2年生の陸八魔アルさん、室長が2年生の浅黄ムツキさん。課長が3年生の鬼方カヨコさん、平社員が1年生の井草ハルカさんですね。全て自称ですが。金さえ貰えばなんでもする、がモットーで風紀委員会からも目がつけられているそうです」
「悪い子たちには見えませんでしたが……」
それは同感だ。特にアルは。
「それなりの非行は尽くしたそうですから、相応の修羅場は潜り抜けてきてるでしょう」
「実際、ヘルメット団に比べれば相当強かったですからね……」
ホシノの活躍が無ければ、かなりの苦戦を強いられていただろう。
「便利屋についてはここまででいいでしょう。最悪、ゲヘナに苦情を入れれば風紀委員会も動くかもしれませんしね」
「そうですね。私からは襲撃問題の依頼主を本格的に調査することを提案します」
「昨日のヘルメット団からも黒幕はわからなかったのでは?」
「はい。ただ、黒幕につながるかもしれない材料が一つあって……」
「なんですか?」
「先日の戦闘に使用されていた戦略兵器の破片です。どれも現在は取引されていない型番ということが判明しました」
「今は生産も販売もされていないということですか?」
「そうです。そしてそれらを手に入れられる場所はブラックマーケットのみです」
そのあたりの武器の事情までは把握していないが、破片だけでそこまでわかるものなのかと感心してしまう。
「そこに行って調べると。無法地帯と聞いていますが大丈夫ですか?」
「リスクは否定できませんが、行く価値はあると思います。明日は集金なので、その後に念入りに準備をしていきましょう。さとりさんの力もお借りしたいのですが……」
まあ心を読む能力があれば必死に隠蔽していようとも簡単に看破できる。しかし、黒幕がカイザーコーポレーションとほぼ確定しているさとりにとってはわざわざそんな危険地帯に行くメリットがない。
「申し訳ありませんが私は明日同行できません。他にやることがありまして。私がいなくても武器の一つや二つ見つけるのはそう難しくはないと思いますよ。隠蔽するにもそれ相応のコストがいるでしょうし」
「…そうですか」
「先生も行くつもりなのは良いですけど、周りの目に気を付けて行動してください。シャーレはそれだけ影響力の多い機関なのですから」
”大丈夫、わかってるから”
あてにはならないが嘘はついていないのでとりあえずつつくのはやめてあげよう。さとりもさとりで準備は必要だ。この日の会議はそれで幕を閉じた。
*
アビドス砂漠の上空。砂嵐はないが風が吹くだけで砂が舞う。ゴーグルをつけておいて正解だった。
砂漠には不似合いな巨大な工場、いや駐屯地だろうか。が見えてくる。その数キロほど手前で銃を持った警備が数人立っている。その200メートルほど手前に着地し、歩く。向こうはまだこちらに気が付いていないようだ。近づいて声をかける。
「おはようございます」
「古明地さとりさんでお間違いないですか?お待ちしておりました。一応持ち物を確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
見かけによらず礼節はわきまえている。背負っているリュックの中には水と非常食、テントといったものだ。本当ならばここまで必要はないがカモフラージュのためである。
心を読む限り何か仕掛けようとする気配はない。警戒はされているが。
「こちらへどうぞ」
またしばらく歩いていると、先ほど上空で見かけた建物が目に入る。壁には「KAISER PMC」と書いてある。そのまま屋内へと案内され、応接室のような場所の扉があけられる。
「お邪魔します」
「来たか」
当たり前だが全く歓迎されていない。一昨日からしつこく電話をかけておいてよかった。
「ようこそ、カイザーPMC基地へ」
高級な身なりをした人型ロボット(ロボット型人間?)が待っていた。
ちなみに今の絶好調状態さとり様は東方地霊殿の難易度で言うとLunaticを上回ります。フィジカル面も砂漠を普通に数キロ歩ける程度には強化されています。
保留と言いつつ触れてしまった。まあできるかどうかはまだ明言してないですから(汗)
さとりってどこまでコピー再現ができると思う?
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他者の記憶にあるものだけ
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自分の記憶にあるものも再現できると思う
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わからないから作者の自由にしていい