VRゲームやってみたいですか?やってみたいですよね?そう、やってみたくなるんですよ   作:かるー7

10 / 14
10

 

 

 キッチンのような場所で一人の少女が動いていた。だがそこはキッチンというには余りにも異質だった。薬研やすり鉢、蒸留装置のようなものまであり、薬の調合には使うとは到底考えられない拷問器具のような何かまでそこにはあった。

 

 それらを自在に使いこなした少女によって食材とは思えない何かが刻まれ、潰されて釜にどんどんと入れられていく。

 

 それの下では火が焚かれ、釜の中身は紫色に輝きグツグツと煮立っている。そこから出てくるのはペンキで塗られたような向こう側が見えない不透明な赤と黒の煙だった。それは何かを形作っているように見え、蠢き続けている。

 

 その直ぐ側の作業机には質の良い紙が置かれそこには『ティバーターの製法』と書かれていた。だがそのすぐ横には契約書のような到底製法とは関係がないように見える書類が山と積まれている。

 

 少女が時々製法が書かれている紙を見ながら作業を進めていると突然その契約書の束を乱雑につかみ釜の中に入れる。これも手順通りだったのか微塵も焦らず手順を只管に進めていく。

 

 その時突然ピチャピチャという音が部屋の外、少女が先ほどまで顔を出していた部屋から聞こえてくる。その音に気付いて音が鳴る方へ顔を向けるとそこで初めて少女は驚きの表情を浮かべた。

 

「え?」

 

 そこには小さな赤黒い竜の姿があった。それは体を構成する何かを垂らし、ピチャピチャという音を立てながら羽ばたき飛んでいた。それはそのまま少女に向かって飛んでいく。

 

 少女は思わず目をつぶり身構えたが衝撃は来なかった。その代わり少女の耳には、ぽちゃんという先ほどまで聞こえていた水音よりも一際大きな音が入ってきた。その音の方を見るとそこには釜の中から赤黒い水飛沫が上がっていた。それと同時に赤黒く染まった煙は部屋を埋めつくかのごとく釜から噴出し、暴れ出した。そのまま周囲の物を一通り掻っ攫い釜の中へ収めると、灰色と紫そして微かに赤黒い液体を残して跡形もなく消えていった。

 

 その光景の中に居た為眼前でそれを見た少女は顔を青ざめていく。そして少女の師匠が居る何故か騒がしい部屋へ逃げるように足をもつれさせながら歩いて入った。

 

 少女が目の前で起きたことを沈痛な面持ちで話そうとすると

 

「お師様……。私失敗しちゃ」

 

「絶対あれ逃しちゃダメな奴だったよね!? 師匠は何で面白そうだったからって逃しちゃったんですか!?」

 

「未来は誰にも分からないものなんじゃぞ? もしかしたらあれでいい方向に転がるかもしれん」

 

「待て、今のはナインでは無いのか?」

 

「あれが俺に見えたんですか!?」

 

「あぁ。見えた。ナインも私と同じように自分で人体実験して何かをしてるのかと思ったのだが。その密度の呪いに耐えられる体の構造。最初から気になっていた。是非教えてくれ。設備は大体整ってるから大抵のかいぞ……人体実験なら出来るぞ」

 

「えっと……」

 

 少女が勇気を出し声をかけても誰も気づかない。そして直ぐ様青年は少女の師からの言葉を咎めた。

 

「あの冷たい視線は自分に新しい人体実験をするためだったのかよ! しかも改造って言いかけてるじゃねえか! 探求のためっていう建前はどうした建前は!」

 

「何を言っているナイン。これも探求だ。その密度の呪いに耐えられるようになれば重度に呪いに冒された患者でも救えるかもしれん。それに『天国』にも耐えられるようになるかもしれない。この程度の言い間違えをわざわざ咎めてくれるな。ちゃんと行う内容に則した言葉に言い直したではないか。器が小さいぞ」

 

「うぐっ。……まぁ、確かに」

 

「ナイン諦めたらどうじゃ? お前さんが言い争いで勝てる相手じゃないぞ?」

 

「あの……」

 

 少女は目の前で騒いでいる三人の視界には入っている筈である。それなのに誰一人として少女に気付いた様子はない。それに気付いた瞬間、少女の体を得体のしれない恐怖が襲った。

 

「……いやでもアルーザさん! 器が小さいっていうのは余計じゃあないですか!? それと師匠! 俺はまだ面白そうって言う理由にまだ納得して無いからな!」

 

「む。確かにそれはそうだ。謝罪させてもらおう。悪かった」

 

「クソ! この人素直だ!」

 

「だから言ったじゃろう? お前さんが言い争いで勝てる相手ではないと」

 

「それは今理解した! けど、師匠はなぜ逃したのかを今すぐ話せ!」

 

「……」

 

 少女は何をすれば良いのかも分からず茫然自失として、顔を青くしたままその場に立っていた。

 

「面白そうだったからのう。あと別件で忙しかったというのもあるのう」

 

「別件って何だ!? ずっとあんたここにいたじゃねぇか!? リモートで仕事でもやってんのかよ!?」

 

「話している途中済まないが血液だけでも良いから取らせてもらっても良いか?」

 

「それは良くない! だぁああ! 口が足りん!」

 

「そうか。口を増やすのか? 少しなら手伝えるが」

 

「……ひっ!」

 

 少女は目の前で起きた光景に驚愕した。突然青年の師である老人が震え始めたのだ。痙攣という感じではなく。ゲームのバグのように震え始めたのだ。それと同時に足元から僅かな振動を感じた。目の前の老人の所為かとも思ったが、もっと深く地の底から震えているように感じた。

 

「違います! というか師匠は何で! 今! この瞬間! 微振動を始めたんですか!?」

 

「だから忙しいと言っておろうが」

 

「忙しいからって人はそんな体全体が震えるみたいなことにはそうそう起きねぇよ!?」

 

「グノームは体内に微振動機構でも搭載しているのか?」

 

「儂はそんな珍妙な物は使っとらん」

 

 少女は訳が分からからなくなって泣いた。

 

 一体何故こんな事になってしまったのか。時はナインが引きずられてから少し経ったあとにまで少し遡る。

 

 あの赤黒い竜はそこで生まれた。 冷たく暗い岩の上で生まれた。

 

 竜自身は何故そこにいるのか分からなかった。だが知識としては知らなくとも本能で知っていたことがあった。

 

 それはこの血の主を視界に収め、敵意を放ち、殺意を滾らせなければならないということだ。

 

 その本能は生物としてではなく人を害す為に作られた呪いとして至極当然なものであった。人を存在しない何者かに警戒させ、疑心暗鬼にさせ、無駄な対策に妄執させ、如何なる優秀な人物であろうと誰一人として信用出来ない愚物に仕立て上げてきたその呪いは本能に従った。

 

 己が生まれた血溜まりから身を起こし常に泡立ちその体積を減らし続ける体を少しでも長く保つため、足元の血を啜った。

 

 それでも尚減り続ける竜の体はこの血の主にたどり着くには些か小さ過ぎた。竜は己の体に刻まれた本能(呪い)がまだある事に気付いた。それは先程から厄介に思っていた常に己の体を減らす本能(呪い)であったり、己の姿を決めた本能(呪い)であったりもした。

 

 その中の一つに血を傷口に集めるという本能(呪い)がある事に気付いた。竜にとっては空気に触れている全てが己の血を外へと流す傷口である。これを使えば竜は態々口で血を啜るなどという事をしなくとも、飛びながら道のように続いている血を己の一部に出来るということを理解した。

 

 竜は翼をはためかせ、空気を掴み宙に浮かび始める。そのまま血の道を辿り始めるとまるで竜を斬りつけ血が噴き出す映像を逆再生したかの様に地面の血が竜の体へと集まり始める。

 

 綺麗さっぱりと平和な街の風景に不釣り合いな血の道を消し去りながら飛んでいく竜は前から血の道を辿るようにして来る人の真横を通り過ぎる。

 

 その人は僅かに漂う臭いと風に違和感を感じ振り返るもそこには竜の姿も血の道も見えず直ぐに気のせいだろうと何も見えない道から視線を逸らし本来の目的地へと足を進めた。

 

 文字通り飛ぶような速さでその家の前にたどり着いた竜はある匂いに気付いた。

 

 それはとても美味しそうな匂い、そう古今東西の美食を全てここに集めて調理したかのような嗅ぐだけで己の使命を果たしてしまったかのような満足を得られてしまう匂いだった。

 

 余りに美味しそうなものだったから、体が溶けて地面に落ち、ピチャピチャという水音を立ててしまったが既に発動している本能(呪い)はそれすらも回収していく。

 

 部屋の中に入り本来目指していた筈の血の主に本来とは違うこの美に近づくのを邪魔するなという殺意を発し、騒いでいるそいつなど眼中にも置けず余りに完璧で甘美な匂いにクラクラとしながら匂いの発生源へと向かった。

 

 そこには少女がいたがそれには目もくれず、ただひたすらに暴力的なまでの美味しそうな匂いを漂わせるそれに突っ込んだ。

 

 その瞬間、竜は知覚した。口の中にある舌だけでなく体全体でもってその味を。

 

 それは、天にも昇るように甘くて(悪辣で)、体が崩れ落ちるほど苦くて(苦痛で)、感じた瞬間全てが洗い流されるほど刺激的な酸味で(醜悪で)、身体が全て灰になる程辛くて(凶悪で)、全身が干乾びそうになる程の塩味で(邪悪で)、そしてこの世に存在しても良いのかと疑うほどに美味かった(残虐非道だった)

 

 その余りにも美味すぎる味を感じた竜は満足気に眠った。

 

 その時である。竜の体液が煙となり暴れ出しそれを周囲に撒き散らしたのは。

 

 竜は血によって形作られた存在である。もちろん呪いを発動している核も血である。では、その血を生物が浴びたらどうなるのか。

 

 生物の力を血が吸い取り呪いが発動し、呪いにつけられた暴走を防ぐための呪い──竜を苦しめていた血が、呪いの核が少しずつ消えるという安全措置によって呪いの核である血が消えるまで続くであろう。

 

 では何故少女は見えなくなってしまっているのか。

 

 竜が街の中を血を回収しながら飛び回っていてもバレなかった理由。明らかに犯罪性のある引きづられた血痕が見逃されていた理由。それは竜のもう一つの本能(呪い)、透明化である。

 

 敵陣に潜入する為、又は諜報活動の為に開発されたが作るためのコストが高すぎた為武器塚に廃棄された呪いである。

 

 最も、匂いによって発動が不安定になり部屋に入る頃には解除されてしまっていたが。

 

 そうして今に至る。

 

 少女が泣いてしまった直後、微振動しなくなった青年の師が疑問の声を上げる。

 

「ん? そこに居るのはセイムかの?」

 

「今度はどうしたんだよ!?」

 

「セイムがそこにおるではないか。アザール。お前さんは見えるじゃろう?」

 

 そう言われて少女の師は青年から見ると何もいない虚空を見つめ始める。そうしてしばらくすると納得の声を上げた。

 

「む? …………。あぁ、呪いに紛れて気づけなかった。そこにいたのかセイム。薬はもうできたのか?」

 

「す■■せ■……、出■■■ん■■た……」

 

「できなかった? それは何故だ?」

 

「その、竜■■然■■て。そ■で……。釜■中に入っ■しまっ■」

 

「あぁ……。それは私の不手際でもある。あれをナインの分身だと思っていなければお前が失敗するようなこともなかっただろう。失敗も経験の内だ。気にするな」

 

 青年からすると誰もいない空間に話しかける少女の師と何もいないはずの虚空から聞こえてくるノイズ混じりの声。それらによって青年の心は混乱によって満ちていた。その混乱を少しでも晴らそうと青年は自らの師に声をかける。

 

「え? 師匠本当に誰か居るんですか? 俺の目には見えないですけど?」

 

「一度離れたら同じものと判断されなくなるのかの? いや、何処からか力を得ているかによって変わると考えたほうがいいかもしれんのう」

 

「師匠?」

 

「いや、すまん。少し考え事をしておったわい。それで、お前さんの目には見えないという話じゃったかの? まぁ、それは当然というものじゃろうな。儂も見えてないからの」

 

「え!? 見えてないなら何で最初に気づけたんですか?」

 

「生き物には出す振動という物があってじゃの? それを感じ取るんじゃよ。別のことに集中しておったせいで最初は気づけなかったがの」

 

「…………」

 

 その時青年の頭は混乱を晴らすどころか元々あったそれに加えて疑問と驚愕とが追加で同時に襲いかかっていた。そして理屈は分かるが認めたくない無法に対して青年の思考は完全に停止していた。

 

 そうして青年が完全に沈黙していると会話が終わった少女の師が言った。

 

「それに、レシピ通りにはできなかったとは言えども最低限の構成要素は満たされている。入ったのは結局は呪いなのだろう? ならばさして問題は無い筈だ。……予測でしかないが」

 

 その言葉を聞いて薄っすらと姿が見え始めてきた少女の表情は先程まで浮かべていたものよりはマシなものになっていた。

 

 虚空から徐々に現れる少女を見た青年は疑問がもう一つ脳内に追加され、もう全部の疑問を解消するのはやめてそういうものとして受け入れようかなと思っていた。

 

「よし、早速飲ませるとしよう」

 

 そう言って少女の師は奥の部屋へと行き釜の中身をコップに移し替え残りを包帯に染み込ませ待ってきた。

 

 灰色と紫そして赤黒い液体を見せられた青年は、困惑の声を上げた。

 

「……これ、本当に薬なんですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「毒にしか見えないんですけど」

 

 その言葉を聞いて少女はまた表情を曇らせ始める。その様子を見た少女の師は顔を険しくして青年に言い放つ。

 

「私の弟子が作った薬が飲めないのか?」

 

「飲め……はしますけど……」

 

「なら飲め」

 

「……はい」

 

 コップに口をつけ液体を口の中に含む。その瞬間青年の口の中で何かが暴れまわる。

 

「ゴフッ……!」

 

 青年の舌をエグ味とありえないほどの甘さ、辛さ、塩味、苦さ、酸味を持った何かが蹂躙し、うずくまり吐き出そうとしても喉に向かって自ら向かうせいで吐き出せない。

 

 しかも完全に口内からいなくなったあとも腹の中で何かが暴れている感触があり、口の中には先ほどの味の残滓がまだ残り鼻から抜ける臭いが何も無いせいで余計に味に集中させられてしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 青年は呼吸を荒くしながらコップの中身を見た。まだコップの8割は残っている。目の前の少女の師を見ると絶対零度の視線を向けてきている。心なしか周囲の気温が下がった気さえしてくる。

 

 そんな少女の師を見て逃げられない事を悟り、絶望した青年は死を覚悟しながら未だに腹の中で暴れているそれから意識を逸らしながらコップを一気に呷った。

 

 再び口の中に現れるそれ。先ほどとは違い口内に少しの隙間もないほどの量が入り込んでくる。その量が暴れ、一斉に喉を目指して蠢くものだから液体の癖に喉に詰まってしまっている。

 

 呼吸が出来なくて苦しいと感じるよりも呼吸何て出来なくて良いから早く終わってくれと願ってしまうほどにはそれの味は苦痛であったし、食感も最悪であった。

 

 飲み干しても尚口に残り、蠢いているのが分かる。それらを吐き出してしまったら眼前の少女の師に殺されてしまうのは目に見えているのでそんな事はしないが、かといって改めて呑み込むには勇気が更に必要だった。

 

 が、勇気や心の準備などせずとも良かった。何故ならそんな物を準備しているうちに自らあの最悪な味を口の中に広めつつ喉に入っていってしまったからだ。

 

 腹の中も前とは比べ物にならない程の量が暴れている。

 

「はぁ……はぁ……。……まz」

 

「不味いなどと言うつもりか? そんな訳無いよな? 美味いよな?」

 

「……」

 

 美味いとは口が裂けても言えないような味だった。だが思ったとおりに言ってしまえばここで死ぬ。プレイヤーだから肉体は生き返るとかそういうのではなく、今さっき体験した地獄のような味と食感のあれを飲ませ続けられたら俺は精神がぶっ壊れて死ぬと感じた。

 

「そうか。私の弟子が作ったものが不味い訳無いだろ? さぁ、美味いと言え!」

 

「…………美味しいです」

 

 青年の口は裂けた。

 

 それを言ってしまったからか、それとも先ほど飲んだ薬の効果()のせいなのか青年はバタリと倒れ竜と同じように眠ってしまった。

 

 




Tips:イベントについて
『One Thing』ではイベントなども開催されますのでお楽しみにください。
一番最初のイベントはサービス開始から1週間後行われる予定です。
詳細は『OneThing』公式ホームページからご覧ください。
エレクトロウェーブ社
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。