VRゲームやってみたいですか?やってみたいですよね?そう、やってみたくなるんですよ 作:かるー7
「のう、お前さん
「うわぁ!」
声がしたほうを見てみると白髪の老人がいた。
「えっと、ここにはおばあさんに強くなりたいならここにいる土くれのジジイという人に教えを請えと言われまして」
「誰に言われたのか、わかるかの?」
しまった、あのおばあさんに行けと言われていただけで、おばあさんの名前とか聞いてねえ。
どうしようかな……。
あっ! そういえば地図に描かれたあの文字的なやつを見せれば何かわかるんじゃないか? ワンチャンサイン的なものかもしれん。
「あの、名前は聞いてなくてこれをもらったんですけど……。これで誰から言われたのかって分かりますか?」
老人はその地図受け取ると暗闇の中でも問題なく見れるのかその紙を見始めた。
「誰から言われたのかは分かった。いいだろう。儂が鍛えてやる」
よかった〜! これで駄目だったら今までの努力パァになるところだった。
「はい! よろしくお願いします!」
とは言ってもここはゲームの世界だよな。一体何をやるんだろう?
「よし、じゃあ早速始めるかの」
「始めるって何をですか?」
「何をって不思議なことを聞くやつじゃな。まずはお前さんの実力を知らなければ何もできんからの。手合わせと行こうか」
あっけからんと行ってのけた老人を見て、俺はさっそく後悔をし始めていた。だがこんな珍しいイベント次はいつ来るのか分かったもんじゃない。
……やるか。
「お願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいわい。お前さんから来ていいぞ」
何の構えもしていない自然体の老人相手に拳を振るうのは心が痛むのだが多分大丈夫だろう。
俺は老人に向かって走っていく、拳が届く距離まで来たら走りの勢いを乗せた右拳を老人に向かって放つ。
確実に拳が届いたと思ったのにいつの間にか老人は目の前におらず、代わりに目の前には地面があった。慌てて手をついたが痛いものは痛い。
「うっ!」
「ほらほら、早く立ち上がらんか。まだお前さん実力が分かっとらんからな」
俺は立ち上がって老人に近づく。今度は走らずにゆっくりとだ。
全く何をされたのか分からなかったからな。慎重にいかないと。再び拳の届く距離まで来た。
とりあえず右拳を相手の腹に向かって打つ。すると外套から腕がぬっとでてきて腕をそらされてそれは届かずに終わる。
すかさず左拳を顔に向かって打ってみるがそれをパシッと音を立てて受け止められ、腕をそのまま引っ張られて重心を崩されて足を引っ掛けられ転ばされる。
受け身を取ろうとするが何の武術も習っていない俺にはそれもできずに転んだ。
いや無理だろ。勝てないって俺まじで一般人なのに。
そうすると老人は口を開けた。
「まぁ、こんなところかの。うぅむ、何と言い表したものか」
いやそんなに言葉濁さなくたっていいって。弱いというのはとっくのとうに分かっていたことなんだから。
「それでも1つだけ言えることがあるとすれば、お前さんの戦い方は儂好みじゃないのう」
好みじゃない……? どういうことだ? 疑問を解消するため俺は這いつくばりながら問いかける。
「それはどういうことですか?」
「戦闘の形じゃよ。今のお前さんのように身体能力にものを言わせたものも突出した身体能力であれば問題はないだろう。がお前さんはそんなものは持ち合わせておらん。今のうちに戦い方は変えておくべきじゃろうな」
まぁ、そりゃそうか。素人がやるってなったらそんな形に放ってしまうよな。しかもここはゲームでステータスによって現実よりも強くなっているんだ。
そりゃ身体能力に頼った戦い方になるだろうさ。
「なにはともあれ、実力は分かった。それにお前さんの体が少し特殊だということも。確かにその体ならば身体能力任せでも何とかなるじゃろう。だが先も言ったように儂好みでないからのう」
「その力ここにいる間は封印させてもらおうかの」
そういった老人は俺に近づいて、俺の頭にボンと軽く手を乗せる。そうして老人は言った。
「もう、封印は終わったからの。次は鍛錬の内容じゃが……」
えぇっ! 今の一瞬でステータスなくしたの? 早すぎない? というかこちらをプレイヤーと見抜いてきてステータスをいじれるとかこの老人もしかしてかなりやばいのでは?
というかステータスなくなったら俺冒険とかできないんだけど……。一般人なのにステータス前提の敵と生身で戦えるわけないだろ! 。
俺のゲームライフ終わったか?
いや! まだステータスが封印されたとは限らない。それにしては嫌な予感が脳内を埋め尽くしているが……。
ステータスを見るために右手の人差し指と中指を振り下ろす。
筋力:0 (10)
防御力:0 (20)
俊敏:0 (30)
技巧:0 (0)
知力:0 (0)
HP:35
MP:15
SP:15
スキル:【格闘】※使用不可
終わった……。
括弧の中に入っている数値が元のステータスで括弧がついてない方の数値が実際に反映されているステータスだ。
ほぼゼロじゃねえか! っていうかスキルも使えないから実質MPもSPも意味ないじゃねえかよ!
ステータスとして使えるのHPだけなんだけど……。
「お前さん何故そんなに愉快な顔しておるのだ。もう一度言うぞ鍛錬の内容は、舞を踊ることだ」
「舞ってなんなんですか? 踊って敵の注意でも引きつけるんです?」
「何をバカなことを言っておる。儂の言い方が悪かったかのう。分かりやすく言えば"型"じゃな。お前さんは体の動かし方も分からない様な状態だからまずは"型"を覚えて効率的に体動かせるようにしなきゃならん」
そういうことなら納得だ。
「まずは儂が手本を見せるから、真似してやってくれんかの? もちろん助言はさせてもらう」
「はい! お願いします」
老人はそう言って"型"を見せる。
それは圧倒的だった。
荒々しく岩を踏みしめているはずなのに全く音がしない。足を踏みしめて手を突き出すたびに何もでていないはずなのにここまで衝撃が届いているような気さえする。
目を離していないはずなのに、ふっと目の前から消えてしまったかと思えば強烈な存在感で老人の姿がくっきりと見えるようにもなった。
何も武術については知らないというのにどこか引き込まれるような、それとは真逆のここにはいてはいけないという忌避感をも感じさせるようなものだった。
なるほどこれは確かに"舞"と言い表してもいいだろう。
というか俺にこんな武術の極致というか達人技のようなものができるとは思えないのだが。
ピタッと老人の動きが止まった。そして老人は言った。
「安心しろ。いきなりお前さんにここまでの"型"をやらせるつもりはないわい。まぁゆくゆくはここまでになってもらいたいがの」
そう言って老人は壁の方によってあぐらをかいて座った。
「さて、ここまで来てなんだがわしの名前はグノームという。お前さんの名前は?」
「えっと、俺の名前はナインです」
「よし、ではナインこれより鍛錬を始める! できるまで外には出さんからな!」
「はい! ……え?」
というわけで半ば強制的に鍛錬が始まった。
まずは"型"の一番基礎の部分足踏みだ。ここができないと"型"のほとんどができないという。
足を全て地面に付けるようにして強く足を踏み込んで足の衝撃を地面へと流すらしい。
コツとしては足を押し込むのではなく沈めるという感覚らしい。
足を思いっきり振り上げて地面に叩きつける。ペチンという音がなってしまう。
足を踏みしめるたびにかなりの痛みが来る。
……いや、これ無理だろ。ゲームの世界だからってそんな無法ができると思うなよ。
衝撃を流すとは? どうやるのか全く分からないから何度も足を踏み込んでは音を鳴らし、師匠に違うと言われ続ける。
そうやってダメ出しを一時間ぐらいされたあと師匠は立ち上がってこちらに近づいて来た。
「うぅむ、仕方ないのう。できれば最初は自分で感覚をつかんでもらいたかったが。……ほれお前さん足を出してみろ」
もうほとんど心が折れかかった状態だった俺は素直に足を出した。そうすると師匠は俺の前でしゃがみ足を手で整えてから地面にぺたんと着けた。
おお! なんだコレ! 足の裏から感じる感覚は明らかに岩と違う。硬いのに柔らかい土のような泥のような不思議な感触だ。
「すげぇ……」
「ま、この程度基礎の基礎じゃからな。やってもらわねば困るわい」
というわけで、この感覚を忘れないうちに足を踏みしめる。
振り上げて下ろして何も音が鳴らずにスッと足が地面に着く。今度は痛くも痒くもない。
成功率は5回に1回ぐらいだろうか。だがそれでもかなり楽しくなってきた。
コツとしては足の指の使い方だろうか、上半身の体勢とかによっても変わってくるからなんとも言えないが全身を使ってやらないとこの技は成功しない。
練習を続けて行くうちに5回に1回から4回に1回と少しずつ成功率は高くなっていくし、成功したときでも特段上手くいったときなんかは土や泥なんてものじゃなく、まるで水にそのまま足を突っ込んだかのように何も負荷がないのだ。
現実ではあり得ない非現実的な現象だがそれが楽しい。ゲームをやっているという実感が得られる。
足の使い方が上達するのが早いから成長の実感を得られるのも楽しい理由かもしれない。
それに師匠というアドバイザーが居るお陰でどこが駄目だったのかをその都度その都度教えてくれるというのも大きな要因だろう。
洞窟の中なのでどれだけ時間が経ったのか分からないが、足踏みが2回に1回は成功するようになった頃師匠が口を開いた。
「よし、そこまでできれば良い。もう十分次の段階まで進められるだろう。次は手でもそれをできるようにする。踏み込んで壁を殴り手でも今のものを成功させる。勿論最初の踏み込みの時も成功させるように」
そう言ってから師匠はあっという顔をして言った。
「今更だが、今使っている技を土足という。それとこの後儂は少し用事があって、席を外すがもう土足程度ならお前さん一人でも十分できるようになるじゃろう。では励むように」
師匠は外に向かって歩いていった。
俺は正直に言うと土足と呼ばれた技術が本当に一人で使いこなせるようになるのか不安だ。
師匠の助け有りで土足を習得するのに数時間はかかった。
それが手になれば足とも勝手が違うだろうし、師匠の助けも無い。
それに一番俺が心配しているのは、土足を成功させれば確かに手で壁を殴っても痛くないだろう。だけど失敗したら滅茶苦茶痛いんじゃないか?
足なら靴もあるお陰で多少痛みが来るだけで何も問題ないけど、手は無理だろ!
手袋とか何も無いよ! 下手したら指骨折だよ!
はぁ……。やるしか無いか。
多分これこのクエスト? イベント? をクリアするまで俺のステータスが封印されたままだし外にも出れないだろうから早くクリアしないと。
というわけで壁に向かって歩いく壁から一歩離れたところで止まる。
拳を握る。足を前に向かって踏み出す。
足元に柔らかい感触……土足成功。
拳を壁に向かって思いっきり突き出す。痛ってぇ! 駄目だ、失敗だな。二連土足が難かし過ぎる。
全神経足に使って上半身も使わないとできないのにその足の土足の為に体勢を崩した状態でやったことがない手をやろうとしても駄目だ。
もう、あれだな。手で出来るまで一旦踏み込み無しでやって手でも出来るようになったら踏み込み有りででやってって感じで徐々に段階を踏んで行かないと厳しいな。
今度は踏み込み無しで拳にあんまりダメージを与えない為にもゆっくりやるか。
拳を握る。体全体を使って拳をさっきと比べてゆっくりと突き出す。
いや硬ぇ。土足失敗っと。その後も練習したかったがログアウトの時間が迫ってきていたので素直にログアウトして、明日の準備をしてベッドに入る。
寝る前に今日やったことを振り返る。
街を彷徨って師匠ができて、2回に一回ぐらい硬い足場でも足が痛くならなくなった。
これ本当ににゲームか? 今の所ファンタジー要素ゼロだぞ。
師匠辺りはファンタジー感あるかもしれないが強くなったところが2回に一回ぐらい足が痛くならないって靴底で解決できるじゃん。
なんか俺はもっとこう……なんというか、ゲームらしくちょろっとやって強くなるみたいのがやりたかった筈なのに今のところ結構な時間費やして出来るようになったことが硬い足場でも足が痛くならないだけなんだが。しかも2回に一回。
まぁ気長にやっていくしか無いか。
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「おばあさんとはなぁ。まぁ多分彼奴じゃろうな」
洞窟から出てきた老人は迷いもせず路地を歩き、ナインがおばあさんと出会った店の前までたどり着く。
扉を無造作に開け、伽藍とした店内を見渡して、カウンターの奥へズカズカと歩いていく。
「おーい、おばあさんとやらいるかの?」
老人が呼びかけるとおばあさんが店の更に奥からでてきた。そうして二人は親しげに話し始める。
「いるよ。なんだ、あんたかい」
「あんた呼びは寂しいのう。これでも五十年近く仲良くやってきたというのに」
「全く寂しがってないくせによく言うね。それでどうしたんだい?」
「見当はもうついとるじゃろ。最近あったこと、何か覚えてないかの?」
「ん〜、それは連合軍の壊滅の事かい?」
「何年前の話してるんじゃ。もう何十年も立っとるぞ」
「悪かったねぇ、あたしももう年かね」
「いや、風のに関してそれはないじゃろ。何しろ風霊なんじゃからな。というか何で"おばあさん"何かやっとるんじゃ?」
「こっちのほうがやりやすいんだよ。それに常に使っておかないと感覚が鈍っちまうからね」
「あいからわず化け物しとるのう。確か光に水に……最近は火じゃろう? よくやれるもんじゃわい」
「あんただけには言われたか無いね。ほぼ力を使ってないだろう? それでよくあんな事ができるものだね」
「あんなのは、土霊の里の奴なら誰でもとは言わんができる奴はおるだろうよ」
「謙虚は美徳とは言うけどあんたが言っても嫌味にしかならないよ。史上最高の才能の持ち主と言われた存在が何年も修行してできるレベルの技が使える奴があんた以外に居たら土霊の里は今頃滅ぼされてないよ」
納得の表情を浮かべて言う。
「まぁ、確かに土霊様以外に使っておる存在をみたことがないのう」
老婆はため息をつき、本題を切り出す。
「はぁ……。色々言いたい事はあるがもういいさね。それで本当はあの坊主の事を聞きに来たんだろ?」
「おぉ、そうじゃった。その事を聞きに来たんじゃった」
「まぁ、ある程度察しはついていると思うが、あの坊主は彼奴が死期に近づくとでてくると言われていた異界からの旅人じゃろう」
「やっぱり、風のもそう思うか。あれも近づいて来ているという事でいいかの?」
「あぁ、その認識で間違いないさね」
しばし沈黙がその場を覆う。
「……まさかとは思うがここまで来て今更降りるなんて言わないじゃろうな?」
「どの口がそんな事言えると思ってんだい。これを考えたのはわたしだよ」
そうして老人は何事もなかったかのように元の場所へ戻って行った。
一人残されだ老婆はぽつりと呟く。
「国王暗殺ねぇ。我ながら物騒な計画だよ」
Tips:王国祭
多大な功績を挙げた『竜殺しの英雄』を称えるための祭り。
竜を引き摺り冒険者ギルドまで歩いて行ったという逸話があるためこの祭りでは街の門から冒険者ギルドまでを練り歩くのが慣習となっている。
住民のほとんどは験担ぎの為、この日に冒険者になりに行く。