VRゲームやってみたいですか?やってみたいですよね?そう、やってみたくなるんですよ 作:かるー7
ふと目が覚める。
窓を見るともう太陽が昇っている。
寝すぎたせいか身体中が痛い。ベッドからは降りて伸びをする。
「朝だ〜。有給取ってあるし、今日もゲームやるか」
まずは痛みが酷いので湿布等の処置をする。
だいぶ痛みはマシになったかな。
寝間着から普段着に着替えて、寝間着を洗濯機に入れ、朝食を作り始める。
今日は目玉焼きと種抜き梅干しと白米だ。
朝食を食べ終えたら、歯を磨いて顔をついでに洗う。
そうこうしているうちに目が覚めてきて、今日が燃えるゴミの日だった事を思い出す。急いでゴミ袋を持ってゴミ捨て場へギシギシと音を立てる階段を下りゴミを捨てる。
その他にも必要な事を済ませて、VR機器の準備をしてベッドに寝転がってゲームへログインする。
気がつくと真っ暗なところにいた。地面は冷たくて硬い。ひんやりとした空気がそこら辺を彷徨いている。
そこまで見てバグか? と思ったが、前は洞窟でログアウトしたことを思い出し、それと同時にステータス封印とそれを解除しここを出るための条件を思い出しげんなりする。
師匠も居ないし、土足の練習でもしようかな。
右足を振り上げて降ろす。全身の力を使って押し込むようにしてやると返ってくる感触は何処か柔らかい感触だ。
うん、土足成功。1日経ったけど感覚は忘れてないみたいだし、土足の成功率を上げるためにも練習しなきゃな。
あと全くできる気がしない手での土足も。
壁に近付いて手を握りしめる。そのまま振りかぶって突き出す。硬ってぇ!
やっぱ駄目だ。できる気がしねぇ。師匠が居るのならコツでも聞けたかもしれないが生憎師匠は周りを見渡しても人影は見当たらない。
「どうやったらできるんだろ……」
「そんなに手での土足は難しいかの?」
「うぇっ!」
独り言に反応が返ってきて変な声を出して驚いてしまう。先程周囲に人影が無いのを確認したばかりなのに。暗闇の中だとしても何時間もの間ここに居るからこの暗さには慣れているというのに。
それでも気づけなかった。まぁ聞こえてきた声が師匠のものだったから始めて出会った時のように来たのかもしれない。
それは置いておいて師匠にコツでも聞いてみよう。
「手での土足が全然できなくて。足と同じようにやってもできないんですよね」
「そりゃ手と足じゃ感覚が違うのは当たり前じゃろ。一回見てやるからやってみろ」
俺は土足をやるために壁にもう一度拳を突き出した。うん、痛え。
それを見た師匠は一言。
「お前さん馬鹿か?」
「それは酷くないですか! 俺だってやろうとしてるんですよ!」
「いや、体の使い方が足と全く同じになっておる。足での土足の感覚に引っ張られすぎじゃろ」
何も言えねぇ。どう言ったってあちらのほうが正しい。
「ま、儂が助言をしてやるから、安心せい」
「わかりました……」
というわけで助言をお願いすることにした。
「まずは、先も言った通りに体の動かし方が足との時とまったたく同じになっている。これはお前さんが足の土足をしてから、手の土足をしようとしていた事、足の土足しかやっていなかったことによるものじゃろう。これを解決するために一回お前さんに手での土足をやってもらおう」
今まで手での土足ができなかったから聞いたのに出来なかったから出来ない。なんて言われてもそれじゃ一生できないじゃないか。
「まぁ、そんな顔するでない、ちゃんと儂が手助けしてやるからの。では早速やってみい」
そう言うと師匠は少し歩いたあと大きく足を振り上げ目に見えないようなスピードで振り下ろした。凄まじい音が響きそうなものだが何も音がしない。
師匠の方を見ると早くしろとでも言うような顔をして居る。
何をしたのかは分からないが一応手助けの準備は終わったということだろう。
俺は拳を握って振りか振って前の壁を殴る。
その途中明らかに何かに押されて体勢が変わる。
外部から押されたような感じではなく、内部から押されたような何とも言い難い感覚だった。
その押された勢いのまま壁に拳を叩きつける。返ってくる感触は硬いようで柔らかい不思議な感触。
手での土足成功だ。足の時の土足とは違った体の動かし方。
下半身を使ったようなそれでいて上半身も使った、結局は全身を使った結果としか言いようが無い不思議な使い方だった。
それは足の土足だけを教わって、出来るようになったとは言え完成度はまだまだ低く、原理すらも曖昧なままこうすればこうなるという事しか分かっていない人間が辿り着けるような体の動かし方ではなかった。
土足程度ならお前でも出来るようになるとか言っていたが手での土足と足での土足は全くと言っていいほど体の動かし方が違う。
これが原理を知っていて、確固たる理論の下に行われていることを理解している人間ならばそこに類似性を見いだせるのかもしれないが、俺には無理だ。
この人、結構な無茶振りをする人なのではないか?
それでもステータスを取り戻すためにはやるしか無いのだが。
ともかく、この感覚を忘れないうちに手での土足に慣れなきゃな。
手を握る。さっきの動きを思い出しながら体を思いっきり動かす。
痛く……無い! 土足成功だ!
よしこの調子で頑張るか! もう1回手での土足をやる。
ゴン! という音が洞窟内に響き渡る。
うん、痛え。土足やっぱ難かし過ぎる
その光景を見ていた師匠は口を開けた。
「今のは体が動いて無いの。もっと体の中から動かんか」
「……はい」
そういえばちゃんとアドバイスくれるって言ってたな。これまでにちゃんと指導してもらった時間よりされていなかった時間の方が多かったから忘れていた。
これからまた延々と土足の練習が始まるのか……。
面倒くせぇ……。何でゲームの中で修行しなきゃいけないんだろ。そろそろ戦いたい。
そんな考えを読んだのか師匠はこう言った。
「それと、その方法だと土足を扱うのは時間が掛かるかも知れないと言われてしまったからの。少しやり方を変えるぞい」
師匠は足で地面をトントンと叩く。すると地響きが起こり、地面から石で出来た人形のようなものが現れた。
なんだそれ、かっけぇ! 俺もそんなのやりてぇんだが!
「今からは、これと戦ってもらう。儂としては体の動かし方を覚えてからやったほうがいいんじゃないかと思ったがのう? やりたければやってもいいがやるかの?」
よっしゃ! やっと戦える! これまでずっと練習だったからな。答えは勿論YESだ!
「はい!」
「じゃあ、鍛錬開始じゃ」
その言葉放たれたと同時にその石人形は動き出した。
関節からボロボロと石の破片を零しながら石で出来ているとは到底思えないような素早さで襲いかかってきた。
驚く暇もなく、相手が右拳を振りかぶって居る頃にようやっと反応出来た。
迫ってくる拳を右手で掴んで止めようとする。
拳が重ぇ!
俺は胴体に拳がめり込む直前で後ろに跳んで回避する。
俺が後ろに着地して居る頃には後ろに跳んで空いた距離を走るようにして詰めてくる石人形が目に入る。
やべぇ、今戦うって言ったのは少し早計だったかもしれない。
そもそも相手は石で出来ている。クソ重いのも納得だ。
そんな事を考えて居るうちに距離を詰めてきた石人形がまた拳を振りかぶって来ている。
今度は受け止めるのではなく、横にずれる様にして回避する。
石で出来た拳なんか受け止められるかっての!
拳が空振ってバランスを崩している相手の背中に向かって拳を振り抜く。
痛ってぇ! そうじゃん! コイツ石で出来てんじゃねえか!
取り敢えず、こちらの攻撃を屁とも思っていなさそうな相手から距離を取る。
ダメージを与える方法は既に見当はついている。
が、それがどれだけ難しいことなのかを1日かけて理解した後なので他に方法がないかと考える。
けれど考えるほどに1つの方法に集約していく。
もう考える時間は無いだろう。
既に石人形は近くまで来ている。
やるしか無い。
まだ1回しか成功してないけどコイツに土足を使った打撃を打ち込めばダメージを与えられる……かどうかは分からないけど自滅は防げる。
俺から近付いて振り被る隙を与えず石人形に向かって先程の感覚で拳を打ち込む。
痛ってぇ! だよな! 知ってた!
ぶっつけ本番でしかも動きながらで成功するなら昨日そんなに苦労してないわ!
ジンジンと痛む拳に悶えていると、矢張り何も効いていなさそうな石人形が俺を殴りつけて来る。
何も反応できなかった俺は腹に硬い拳がめり込んで吹き飛んだ。
そのまま壁に激突すると肺の中の空気が押し出されてしまったせいで息ができず、パクパクと口を開けることしか出来なかった。
威力強すぎだろ! ゲームの中なのにちゃんとクソ痛え!
言う事を聞かない体を動かして息を吸って覚悟を決める。
「師匠、降参です」
降参する事の覚悟だけどな!
「駄目じゃ。お前さんの体は特殊でのう。一度や二度死んでも大丈夫な様に出来ておる。安心せい、きちんとトドメは刺すように作ってあるからの」
俺の覚悟はあっけらかんとした様子の師匠によって無駄になった。
マジか……。死ぬまで戦うのかよ。つかホントにそんな目に遭っても俺大丈夫だよな?
俺は嫌だぜ、一人の尊い犠牲によって完全没入型に規制が新たに掛かりましたみたいなニュースが流れるのは。
「それじゃ、もう1回は始めるかの」
顔を青くさせている俺に師匠は言った。
石人形が機敏に動いて迫ってくる。
勝てる気がしない。逃げられないか?
俺は周囲に目を巡らす。……マジか。俺がここまで来たはずの道が無い。逃げ回るとしてもこの狭い空間でしか出来ない。
やるしかねぇ。逃げ回って体力消耗した状態で戦うよりかはここで戦った方がマシだ。
もう石人形が目の前に来ている。走った勢いのままこちらに拳を振り抜いてくる。
俺はしゃがんで拳をかわして、石人形の腹に向かって拳を放つ。
1回は成功したんだ。可能性はゼロじゃない。思い出すんだ、あの感覚を。
思いっきり拳を硬い岩にぶつけたのに、何も痛くない。少し柔らかいようなそんな感覚が拳に返ってくる。
土足成功!
俺はすぐさま、石人形から離れる。すると、石人形の腹が微かに欠けているのが見えた。
ダメージ少なっ! あんだけ頑張ったのに……。
まぁでも拳を痛めるだけの自滅よりかはマシになったか。
石人形は俺から打撃を食らったのに、また機敏に動き俺に迫って来た。
もう何度迫ってきても無駄だぜ!
石人形が拳を振り抜く。俺はしゃがんで拳をかわす。
そしたら目の前に石で出来た足!?
痛ってぇ! マジかよ、パターン変わんのかよ!
俺は吹き飛ばされて地面に打ち付けられる。起き上がろうとすると、石人形が走って来てそのままジャンプした。
えっ! 何? 走って俺に向かってジャンプしてきたんだけど? 何がしたいんだ?
「は? え?」
と俺が這いつくばりながら困惑していると、空中で姿勢を俺に向かって足を向けるように変えたのがスローモーションで見えた。
石で出来た重い体でのドロップキックは俺の頭を見事に捉えて粉砕した。
俺はいつの間にか薄暗い所に横たわって居た。背中から伝わって来る冷たさが頭を冷やしていく。
その事に気付いた時俺はバッ! と身を起こして頭を触った。
俺死んだよな? 頭粉砕されて天に召されちゃった感じだったよな?
「ふうむ。異界からの旅人でもさすがに死んだら困惑するようじゃの」
その声を聞いて思い出した。あぁ、俺あの石人形にドロップキックされて頭を砕かれて死んだのかと。
「師匠、異界からの旅人が何を指しているのかは知りませんが、死んだら困惑するのは当然でしょ!」
「ナインは知らんのか異界からの旅人というのは、お前さんみたいな連中のこと、例えば死んでも復活したり、異常な早さで成長したり、よくわからん言葉を使ったり、一度眠ったら1週間は眠りにつくような連中のことなんじゃがな。何度死んでも生き返るから大丈夫だと思ったのじゃ」
異界からの旅人ってプレイヤーのことなのか。というか1週間眠るどういうことだ? 。
俺はステータスを開く時のように人差し指と薬指を振り、ステータス画面の上の方を見ると設定やお知らせ、ヘルプなどに関する場所がある。
そのヘルプの部分を見てみると、体感時間の加速に関するのとや、痛みについての情報があった。
え! マジか! 痛みの感度とかも変えられるのか! 。
わざわざあんなクソ痛い思いしなくてもよかったのかよ。少し損した気持ちになっちまった。
よし。早速設定変更してみるか。取り敢えずこのパラメータを一番下まで下げてと。
…………いやこれやばいな。結構気持ち悪い。元に戻そう。
痛いのは嫌だがこの気持ち悪さに耐えられる気がしない。
まぁ、設定弄るのはこれくらいにしといて練習の続きやるか。
「よし、じゃあ手での土足練習しますね」
「おぉ、やっとやる気になったか。いきなり虚空をつつきだすから何処か壊れてしまったのかと思ってしまったわい」
このメニューってNPCには見えてないのか。そう思って壁のそばまで行こうとすると師匠は言った。
「じゃあ、もう1回じゃの」
マジか。俺結構心折れてるのに。
師匠が足を振り上げて降ろすとまた石人形が現れそうして同じようにログアウトの時間まで戦うことになってしまった。
ログアウトして見ると部屋は月明かりが差し込んでいた。
どうやら現実はもう夜になってしまっていたようだ。
本当に師匠は手加減がなさすぎる。今日何回死んだんだ? 数えるのも10を超えてからは辞めてしまったし、もう死ぬのにも慣れてしまった。
ベッドから降りてタンスからタバコとライターを取り出してベランダに出る。
こうやって夜にタバコをベランダで吸うのがルーティンになってしまっている。
タバコを咥えて風を読んで風が吹く方に背を向けてライターに火を付ける。
一度吸うと、タバコの先が赤色に光る。
あんまりおいしくないんだけどなあ。そう思いながら煙を吐いてその煙を見る。
徐々に風に流されて行く灰色の煙の先には静かに輝く星があった。
Tips:体感時間加速
この『One Thing』内部では、現実での経過時間と比較して七倍のスピードで時間が経過します。
特別なイベント空間等ではそれよりも遅い又は早く時間が経過することがあります。
※体感時間の加速による健康ヘの害は未だ確認されておらず、又体感時間の加速に関する法律なども現状存在していないためこの機能に関する変更は現在検討しておりません。