VRゲームやってみたいですか?やってみたいですよね?そう、やってみたくなるんですよ   作:かるー7

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 冷たい地面から離れるために起き上がる。昨日は師匠にボコボコされただけで終わってしまったからな。

 

 お陰で土足を動きながらでも使えるようにはなったけど。それでも全然失敗する確率のほうが高い。それに加えて完成度が低いのも問題だ。

 

 中途半端に成功すると足を持ってかれたりする事もあった。そのせいで死んだ事もあったし、これからも練習していかないとな。

 

 そう思って動き出すといつものようにいつの間にか居た師匠が喋りかけてきた。

 

「今日はあれと戦うか、外に出るかを選ばせてやろう」

 

「え! 外に出してくれるんですか!」

 

 これは嬉しすぎる。これまでこの薄暗くて冷たくてジメジメとした空間にしかいなかったからな。

 

 まぁ、全ステータスか封印された状態で何処まで戦えるのかという不安はあるもののそれでも石人形以外のものと戦えるのは嬉しい。

 

「勿論、外に行きますよ!」

 

「そうか。では移動するかの」

 

 そう言って師匠は歩き出した。前、石人形と戦った時に消えていた通路は再び出現していたのでそこを通って外に出る。

 

 明るい太陽が懐かしい。というか眩しすぎるくらいだ。

 

 リアルでは浴びているものの、この体では浴びていないせいか、目がこの明るさに慣れていない。

 

 そんな眩しさに苦しみつつ、師匠の後をついていく。

 

 

 

 

 

 歩き続けて数十分だろうか。俺の目の前には壁があった。実力の壁とかそういった、概念的なものではなく普通の石造りの壁だ。

 

 俺が先程まで居たあの不自然な洞窟に行く前に見たあの巨大な壁の前に俺は居た。

 

 え? これからどうすんの? まさかこれを越えろと? 出来ないが? 

 

「まぁまぁそんな不安そうな顔をするでないわ。この辺りに同胞が作った通路があるのじゃ」

 

「よかったぁ。俺これを越えろと言われるかと思いましたよ」

 

「ふうむ。お前さんの中で儂はどんな印象になっているのじゃ?」

 

 基礎技術もまともにできないのにいきなり石人形と戦わせてくる鬼畜……とは言えないので心の中だけで答えておく。

 

「それにしても、その隠し通路は何処にあるんですか? まさか、この壁に隠し扉とかあるんですか?」

 

「何で分かったんじゃ? その通りここに扉があるんじゃ」

 

 そう言うと師匠は壁を触りながら探るようにして手を動かすとガコンと音を立てて沈むブロックがあった。そうすると静かに壁が変形して街の外への通路が現れた。

 

 何で街を守るための壁に隠し通路があるんだよ。この通路知られた瞬間賊に攻められるぞ。もっと点検しろよ。

 

 まぁ、そんな奴らのおかげで俺は外に出られるから有り難いと思っておこう。

 

「あぁそれと、儂は外にはでないからの。面倒くさい結界が働いているからの。それにしても、よくあんな面倒くさい物を考えるもんじゃわい。自分自身も自由に出れないだろうに」

 

「どういう事ですか? 師匠もついくるんじゃないんですか? というか面倒くさいって何が面倒くさいんです?」

 

「儂はこの街の外に出ようとすると警報がなってしまうんじゃ。まぁ儂個人を識別して警報を鳴らしているわけではなく、一定以上の力を持つものを確認すると警報が鳴るんじゃよ」

 

「はぁ、なるほど」

 

 思っていたよりしっかりとした理由があって思わず生返事をしてしまった。

 

「じゃあ行ってきます!」

 

 やっと街の外に出れる。しかも師匠が付いてこない。俺は解放されたんだ。

 

 じゃあ行くか! 待ってろよ俺の楽しいゲームライフ! 

 

 

 

 

 

 三十分後そこには項垂れている俺の姿があった。

 

 忘れていた。外に出してもらえたからと言ってステータスが元に戻った訳では無いということを……! 

 

 しかもそれだけならばそんなに項垂れることもなかっただろう。逆に頑張れば何とかなる程度の差だったら反骨精神が出てきてやる気に満ちあふれていたに違いない。

 

 俺が項垂れている一番の理由はウサギが強いということだ。

 

 え? と思われた人もいるかも知れないが俺はウサギに勝てなかった。何かゲームとかに有りがちなユニークとかでもなく普通のウサギだ。

 

 しかもだ。俺がウサギに勝てないのは特段ウサギという種族自体が強いからという訳でもない。

 

 他のプレイヤーとゲーム内で二番目に出会ったというか目撃したのだがそのプレイヤーは易易とウサギを倒していた。しかも装備が俺と同じ麻で作られたっぽいシャツ等……つまり初期装備だ。

 

 初心者用のモンスターに負ける俺とは一体……。

 

 あの必死に訓練した時間はなんだったんだ。何であんなワイワイ楽しくお喋りしながらパーティープレイしているのを横目に初心者用のモンスター相手に草まみれになりながら必死に戦わなきゃならんのだ。

 

 ここまで長々と言ってきたが要は心が折れた。

 

 俺は街に帰るそして、このステータスの封印を解いてもらう。もう土下座でも何でもしてやる。手段を選んでいる余裕は俺にはない。

 

 プライドは快適なゲームライフの前に砕け散ったのだ。

 

 俺は街に向かって歩き出した。

 

 こうして戦闘しないで周りを見てみるとこの草原にはかなりプレイヤー達がいるのがよく分かる。

 

 それでもフィールド自体がとても大きいため埋め尽くすとまでは行っていない。

 

 それにしてもステータスってすげぇな。どいつもこいつも速いし、硬いし強い。ウサギの突進を見てから回避してすれ違いざまに攻撃を叩き込む奴とかを見てると更に自信を無くす。

 

 そんな風に歩いていると門までたどり着いた。かなり人通りの多い門だ。恐らく街の外に繋がる出口が少ないのだろう。

 

 この門を通って街の中に入れば師匠と会えるはず。というか師匠が居た場所って何処だったっけ。

 

「おい! そこの者止まれ! 身分証を提示しろ!」

 

 俺が門を通ろうとすると門の兵士に呼び止められた。

 

 え? 身分証が要るの? 俺そんなの持ってないよ? 

 

 いや、ここはゴリ押せ。何とかペラを回してこの街に入れてもらうんだ。そうじゃないとこのままステータスを封印されたままになってしまう……! 。

 

「えっと、身分証を街の中に忘れてしまいまして……。後で身分証を出しに来るので見逃してもらえませんか?」

 

 よし……! 我ながらいい案を即興ながら思いつけた。このデカい門は今も尚沢山の人達が通っている。ならば、身分証を忘れたやつくらい一人は居るだろう。

 

「む……? おかしいなこの門を通って外に出たのだよな?」

 

「はい。俺はこの門を通っていましたよ。それが何か?」

 

 ヤバい! 雲行きが怪しくなってきた。もしかして何かやらかしたか? いや、そんなに怪しい動きは見せてないはず。

 

 まだ大丈夫……な筈。大丈夫……だよな? 

 

「この門には結界が張ってあって身分証を持ってないものが通ると私のような門の兵士に連絡がいくのだ。だから、身分証を持たないまま外に出るなどありえないのだがね」

 

 クソッ。こんなに人が通って居るというのに俺だけがピンポイントで身分証を持っていないと分かったのはそう言う理屈かよ。

 

 どうする? 此処からどうやって誤魔化す? ……いや、無理だ俺にはこれは誤魔化せねぇ。

 

 仕方無い。こうなったら……逃げるしかねぇ! 

 

 俺は何かを喋りかけていた門の兵士にクルリと背を向けて走り出す。幸い人の波は俺の味方になってくれている。

 

 人が多いというのもあるだろうが、プレイヤーの初期装備である麻のシャツを来ている人物が多いことも重なったおかげか逃げ切る事ができた。

 

 

 

 一方その頃門の兵士はというと。

 

「ちなみに身分証が無ければ、銅貨5枚かそれに相当する仕事でもいいぞ……」

 

 と門の兵士が言い切った時には、街に入ろうとしていた人物の姿はなくなっていた。

 

 門の兵士は今流れている噂に寄せられて田舎から来たは良いものの王都の珍しい密入国対策に怯えて逃げてしまった若者だろうと当たりをつけ、追いかけるのをやめたのだった。

 

 最近増えてきているそんな若者を怯えさせないためにはどうすればよいのかと頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 そんなこともつゆ知らずナインは草原まで逃げてきていた。

 

 逃げながら思いついちまったけど、身分証を外で落としてしまったんです。でよかったじゃねえか。

 

 まぁ、そんな事を思いついても顔はガッツリ見られているから今からやったところで普通に捕らえられて終わりだ。

 

 どうしよう。街に入るための他の何か案は……。

 

 そうだ! 俺は隠し通路から来たんじゃねえか! あそこなら身分証を持ってなくとも通れる筈だ。

 

 思いついたら即実行だ。早速壁沿いに歩いて俺が街から出て来た辺りまで向かう。

 

 壁の外側は草原のようになっているが、一部壁の近辺に林のように木が生い茂っているところがある。そこが隠し通路のある所だ。

 

 森林の中に入り壁沿いに歩く。林のようだと言ってもそんなに広いわけではない。十分も立たないうちに俺は林を抜けてしまった。

 

 え? 隠し通路何かあったか? 

 

 壁沿いに歩いてきたが俺が通ったはずの通路は最初から無かったかのように発見出来なかった。

 

 俺はもう一度林に入り、今度は壁に手を当て何か無いか探しながら歩くことにした。

 

 壁は石造りの壁であるため当然ながら石を積んで作ってある。その積んである石全てが怪しく見えて仕方無い。そんな石に手を当てて押し込んだり、石と石の間に手を突っ込んでみたりして調べる。

 

 一々そんな何もないはずのところまで調べるものだから最初は十分と掛からなかったというのに森を抜ける頃には1時間が経とうとしていた。

 

 林を抜けた時には唖然としてしまった。触って調べながら歩いてきたというのに見つけられなかったからだ。

 

 マジか……。こんなにも見つけられないとは、わざわざこんな林の中に作るから出入り口が分かりやすいと思っていたのに……。本当に見つけられない。

 

 俺本当にここ通ってきたのか? そう思ってしまうレベルだ。

 

 少し冷静に考えてみれば分かる話か。隠してあるから隠し通路なのだ。

 

 ちゃんと点検しろよ何て馬鹿にして悪かった。これは確かに見つけられなくてもしょうがない。

 

 

 

 いや、しょうがなくねぇわ! 俺まだステータス封印されたまんまなんだけど! 街に入らせてくれよ! 

 

 森の中でウロチョロしてたせいでもう夕方なんだが? ステータスが封印された状態で夜を越せと? 死ぬが? 

 

 いや、まだ大丈夫……な筈。

 

 ここは幸いにも林だ。木に登ってログアウトなり何なりすれば、生きたままウサギやら何やらにボコボコにされるという生き地獄は防げるはずだ。

 

 そうと決まっては、寝床に丁度いい木を探さなくては! 俺は一歩踏み出しそして柔らかい何かを踏んだ。

 

「あ……」

 

 下を見てみると白い長い耳に赤い目ヒクヒクと動く鼻がかわいらしい先程ボコボコにされて俺が逃げた生き物が草を食んでいた。

 

「あ、あぁ……!」

 

 それはウサギの短い尻尾だった。頭をよぎる死の予感。

 

 ここに俺とウサギの死闘が始まる……! 。

 

 

 

 




Tips:『One Thing』の世界について
この『One Thing』ではワールドシミュレーションを使用しています。
現実と同じ様に物理法則が働きますが、ゲームにするために一部法則などを変えているところがあります。

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