VRゲームやってみたいですか?やってみたいですよね?そう、やってみたくなるんですよ 作:かるー7
「りゅう! ゔぇろしてぃ! ぐらびてあ! すたー!」
「こりゃ、大分イカれとるのう。精神に害がなければいいんじゃが……」
俺は絶賛呪いの影響で珍妙な格好になっている最中だ。具体的には目から光を点滅させて光で何か模様を描いているし、喉と舌は協力してよくわからん呪文を唱えて体全体は鉛のように重い。なのに勝手に体はビッタンビッタンと暴れ続けている。
というか引きづられている間も今もずっとこんな事になっていたのに冷静に思考できてるのが微妙に怖い。
……本当に大丈夫なんだよな? 俺このまま現実に戻ったら病院に運ばれたりしないよな? ……まぁ、大丈夫と信じるしか出来ること無いけど。
そう考えていると師匠がこう言った。
「まぁ叩けば直るじゃろ」
俺は機械じゃない! しかも直し方アナログ過ぎるだろ! それで直るのは機構が単純なやつとかだけだから! 普通の機械にやったらそれはぶっ壊れるだけだから!
そんな思いを体を乗っ取られている俺が伝える事も出来ず、師匠は容赦なく、しかも握り拳で殴ってきた。
思いっきり俺は吹っ飛びゴロゴロと冷たい床を転がる。そして師匠に文句を言った。
「俺は機械じゃないんだからこんな方法で直るわけ! ……あれ? 治ってる? しかも全然痛くないし」
「体の調子はどうじゃ? ちゃんと調節して叩いたからの。痛く無いじゃろ? それに呪いも一旦は解決したようじゃしの」
呪いが治った……。案外呪いってたいしたことないかもしれん。まぁ、俺じゃあ治せなかったから治してくれたのは有り難いし滅茶苦茶感謝しているがそれでも言いたいことがある!
「……師匠、拳で思いっきり叩くのは殴ると言うんだ! というかこれ以外には方法はなかったんですか!?」
「無いのう。あったとしてもそれだけの呪いなら完璧に解決とはいかんじゃろうし、掛かる金額も時間も今のお前さんには到底無理な代物じゃろうな。それに儂の方法も完璧とはいかん」
「それならまぁ、いいですけど。この方法が完璧ではないってどういうことですか? 見たところ、完全に呪いは無くなってるじゃないですか。……篭手は外れないですけど」
篭手が外れないだけなら、武器塚に行った目的を果たせたからそれでいいと思うんだけど。それでも不気味は不気味だが、呪いがないのなら全然使えるし。
「理由としてはその状態をずっと保てないというものじゃな。あともう一つとして、儂が抑えられるのは肉体を操るする呪いだけだからというのがあるのう」
「この状態がずっと続かないのは分かったけどどうするんですか?」
肉体を操る呪いとやらがどんなものなのかが分からないが、こんだけ沢山の呪いにかかってるのにまだ種類があるのか。……まぁ、あんだけ武器があったらそりゃそうか。
「まぁ、そろそろ肉体を操る呪いに比べて、発動が遅く既に発動していた呪いに邪魔されていて現れて来なかった直接害を成す呪いたちが現れる頃じゃのう」
「え!? もう、ですか?」
そう言った途端、俺の右腕に亀裂が入る。そう、まるで石をハンマーで殴りつけたようにひび割れ破片が飛び散る。
血など液体は飛び散らずただ宝石のような筋の入った赤い石が散らばると同時に体に激痛が走る。それを先駆けとして様々な症状、いや呪いが体中に現れる。
左腕は石のようになり砕けてしまった右腕と対を成すかのように、液状となりまるで真夏のアイスかのようにポタポタと篭手の隙間から染み出した汁を滴らせているのにもかかわらず地面についたそれから地面の冷たさ、硬さ、そしてそこから見える景色が伝わってくる。
急に増えた痛みと視界、感覚に戸惑っていると腹に痛みを感じる。すると服が赤く染まり始め、それがどんどんと白い部分を食らい尽くすかのような勢いで広がり始めそれと同時に鋭い痛みが走る。
足は、痛みを訴え続けていて僅かに見えた靴とズボンの間から黒色に変色した肌が見え隠れし、なぜこんな事にという恐怖が呪いの所為だという納得に変わるまでの一瞬であたりの臭いを死臭へと書き換えていく。
足元に溜まった血はボコボコと泡立ち、血の匂いを撒き散らしながら成長し明らかに尋常ではないモノになろうとしているが形をある程度作ると途端に弾けてしまうがそれでもなおナニカを形作ろうと四苦八苦している。
呪いとか案外大した事ないとか思っていたがあれは撤回する! 全然大したことあったわ! それにしてもクソいてぇ! マジで何時までも傷が増えていくせいで新鮮な痛みが毎秒来やがるのが本当に痛ぇ!
そうやって痛みに悶えてのたうち回っていると師匠は地面で転げ回っている俺を見下ろして言った。
「あ゙あ゙あ゙ぁ゙! いってえ!」
「まぁ、こんな事になるとは思っておったよ。
じゃがお前さん強くなりたいんじゃろう?」
驚くほど冷たい声音でそう言った師匠は普段の何処か普段の何処か抜けている飄々とした老人の姿からは想像も出来ない程恐ろしかった。
はは……弟子入りする人を間違えたかもしれねぇ。……が今はこの状態を何とかしないと文句を言う前に精神がイカれちまう。
「とは言っても、流石にいつまでもその状態てお前さんを置いておいたら精神が潰れてしまうからのう。その状態を治してくれる所に連れて行ってやろう」
「本当かぁ!? 辛いから早く連れて、痛ってぇ!」
「そんなに、叫ばんでも連れて行ってやるわい」
そう言った師匠が俺の襟首をむんずと掴み無造作に引きずり始めた。傷だらけの体で石の上を引きずり回されたら相当な痛みが俺を襲いそうなものなんだが、不思議と痛みが引いていく。
もうずっとこの状態がいいかもしれん。何か体が全くもって動かないけど、あの痛みよりはまだマシだし。
いや、やっぱり嫌だな。流石に何も動けない状態はキツイ。
ズルズルと綺麗な朝日が覗いて鳥も鳴いてる良い朝の街の中を血の跡を残しながら引きずり回されてたどり着いた先は普通の一軒家だった。
本当にここなのか? いやこの爺さんがいた場所も外か見たらただの家だったしな。この組織? はそういう偽装方法をよく使っているのかもしれない。
「お〜い。邪魔するぞ」
そう言って師匠は無造作に扉を開けて、ズカズカと屋内に入り込む。
そこは、まさしく『魔女の家』だった。クモの巣があちこちに張られ、怪しげな薬品や用途の分からない道具がが棚にずらりと並び部屋の中は危険そうな臭いが漂っている。
師匠の声に一拍遅れて奥の方から気だるそうな女の声が聞こえてきた。
「今良いところだからそこら辺で適当に待っててくれないか?」
「……ここに急患がおるが良いのかの?」
「何!? それを早く言え!」
急に声色を変えてそう言うと慌てて奥の部屋から白いのが飛び出してきた。
この人を白いのと言ってしまったが、それは余りにも白が多かったからだ。若い女の外見をしているが白い髪の毛に白衣を纏い肌も磁器のように白くなっている。唯一白くないのは、瞳だけだろうか。
瞳は紫色になっていて、何故かは知らないが淡く光っている。光っている部分に濃淡があるせいか瞳の中に四角と丸で構成された幾何学模様のような何かがあるように見える。
「それで? その急患はどれだ?」
「こいつじゃよこいつ。そこで転がって色んなの撒き散らしとるこいつじゃ」
「んん? これが急患……か? 私の目には呪いにしか見えんが?」
「お前さんの目で呪いにしか見えんほど呪いに冒されているという事だな」
「これほど呪いに冒されているのを見るのはかなり久しぶりだな。下手したらこれ現在の『天国』にも匹敵するんじゃあ無いか? ……いや、それは無いか。この文様で冒食現象が確認できていない。この形式は狸のものか? いやそれにしては別のものも混じっているような……」
そう言って俺を見下ろしながら専門用語のような物をブツブツと呟きながら何処からか取り出したメモ帳に何かを書き留めている。
診断みたいなものが行わられているのだろうか? それにしてはこちらを見る目が妙に冷たいと言うか、実験動物を見るような目で見てくるのが怖いのだが……。
「そろそろこいつを治してやって欲しいんじゃがのう?」
「この程度なら、私である必要は無いだろう。丁度いい、私も弟子を取ったのでな。そいつにやらせるとしよう」
そう言うと白い女は奥の部屋へと消えていった。俺が気になっていることを察したのか、師匠は手を離す。
それでも体は動かないし、痛みもないが口は動かせるようになった。
「師匠今の人って誰なんですか?」
「そうか、お前さん奴を知らんのか。奴の名前はアルーザ。医者じゃよ。まぁ、医者としては優秀じゃし患者の命を最優先にする姿勢は素晴らしいものなんじゃが……少し悪癖があってだのう」
「あ、悪癖ですか。研究に熱中しすぎてしまうとか?」
「そのぐらい可愛いものだったらどれほど良かったものか……。奴は己の体を隙を見つけては改造しておるのじゃ」
「え゙……。それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけあるわけ無いのう。ある時は心臓を増やしたとか言って、血管から血が噴き出しそうになっておったわい。恐らく死にかけてる回数なら奴が一番多いじゃろうな。多分奴は儂のことをいざという時の生命維持装置の代わりと思ってる節がある」
マジか。そんなやべえ奴だったのか。あの毛の色とか瞳の中の模様とかもそのセルフ人体実験のせいなのかもしれない。
……何だよセルフ人体実験って。しかも師匠って生命維持装置の代わり何かできたのか?
そう思ってると奥から足音がまた聞こえてきた。
「待たせてしまったかな?」
「いや、そんなには待ってないのう。こいつにお前さんの事を教えてやっていたからのう」
「あぁ。確かに自己紹介していなかったね。
私はアルーザ。エルドレアに師事した医者兼研究者だ。よろしく……呪いまみれの人」
「俺の名前はナインって言うから、呪いまみれの人はちょっとやめてくれ」
「分かった。よし、ナインお前に会わせたいやつがいる。お前の治療を担当する私の弟子だ。おい! もう出てきてもいいぞ」
そうアルーザさんがそう言うと奥の部屋からひょっこりと可愛らしい顔が現れた。アルーザさんと同じかそれよりも若いくらいの顔つきである。アルーザさんとは違って全身が真っ白ということはなく普通に髪の毛は茶色で白衣を纏っていた。アルーザさんが温かい目でその人を見ながら言った。
「こいつが私の弟子のセイムだ」
「お師様。その人大丈夫なんですか? 滅茶苦茶血が出てますし、何か色々垂れてるし臭いも何かおかしいですよ……」
「大丈夫じゃあ無いがお前なら出来る。というか私は出来ない様なことをさせる人間ではない」
「なら、お師様がそう言うなら……やります」
「よし。私はお前がそういうのを待っていたぞ。準備ならもうしてある。奥の部屋の釜のとなりに材料とレシピはもう置いてあるから、鎮静剤の調合は任せた。私は少しナインのことを見てやらねばいかん」
そう言って奥の部屋にセイムが消えて行った。そう言ってこちらの方を見つめるアルーザさんの目は自らの弟子を見つめていたときとは違った冷たい目線だった。
そういう目で見られてしまうと俺が本当にが実験動物みたいな感じがしてくるのからやめて欲しい。
「今のが私の弟子だ。異界からの旅人で……今は何といったか……たしかおばあさんだったか。そいつからの紹介で私の弟子になった」
あのセイムって子俺と同じプレイヤーだったのか。着てる服が全然違うせいで分からなかったな。
「まぁ、そんな事は置いておいて。お前はどうしてそんな風になったんだ? この私がお前を見たときに人間ではなく呪いだと勘違いしてしまうほどの密度の呪いだったぞ」
何て説明しようかな。でも俺にも何でこうなったのか分からないんだよな。俺がこうなったのはまず、師匠に武器塚に連れて行かれて師匠に武器を選んでこいと言われて……全部師匠のせいじゃね? いやいや、そんな……でも師匠のせいじゃね?
目線を師匠に向けると俺の顔からどんな思いを汲み取ったのかは知らないが話し始めた。
「まぁ、儂が始めたことじゃし儂が説明しよう。まず儂がこいつをこんなにした理由は出来るだけ早く強くするためじゃ」
「私の目からは呪いを取り除いたほうがまだマシに見えるがね」
そうだ! もっと言ってやれアルーザさん ! 師匠のせいで俺は激痛に襲われたんだからな! しかもその痛みを和らげてるのが師匠自身とか言うマッチポンプの典型例みたいな状態にもなっているからな!
「まぁ、儂もそんな気はしておった。まともに戦ったら呪いがない方が強いじゃろう。じゃが死ぬのが前提ならどうじゃ?」
え? 師匠は俺が死ぬ事前提で鍛えてたの? 俺はてっきり死なないために鍛えてると思ってたんだけど。ていうか死ぬのが前提って酷すぎないか? 俺は死ぬのが嫌って言ったよな? 蘇るって言っても嫌なものは嫌って。
というか何で死ぬ事前提なら強くなるんだ?
「死ぬのが前提? おい。まさかこの私の前で死人を出すというわけでは」
「安心せい。ナインは異界からの旅人じゃ」
「……まぁ。それなら良いか」
いや、アルーザさんそこで納得したら駄目だろ! 後で蘇るって言っても一回死んでるのには変わりないからね?
「話を戻すが、儂が参考にしたのは前に連合軍が使っておった物じゃ。お前さんも身に覚えがあるじゃろ? なにせ滅んだ新帝国が後始末出来ずにいたのをお前さんが全て片付けたんじゃからの」
「……あぁ、蠱毒か。あれの後始末は私というよりエルドレアがやったという方が正しいな。まぁ、確かに私も少しは手伝ったが。というか貴様は蠱毒を行ったのか?」
「蠱毒は行っとらん。誰があんな気色の悪いものをやるものか。儂がしたのはあくまで新帝国の産物の再利用じゃよ。ここ迄言えば分かると思うが、儂がしたのは呪い兵の再現じゃな」
「まさか今になってその単語を聞くことになるとは……。だが呪い兵を使ってしまえばお前の望んだ通りにはならないのではないか?」
「なあに、どうせあの王は住民には避難命令を出す。それに従わないのは異界からの旅人だけじゃろうて」
「被害を受けるのは死なない奴らだけ、か」
前に言ってた連合軍の鹵獲品っていうのはここから来ていたのか。あれは嘘じゃなかったんだな。
俺はいつの間に呪い兵とやらにされていたんだ? というか呪い兵って何だよ。これも後で聞かないとな。それに死ぬ事が前提なら強くなる理由も分かってないし。今は話を邪魔しないように静かにしておこう。
「それにもう一つ目的があったんじゃが失敗してしまったわい」
「む? 何だそのもう一つの目的とやらは」
「儂と同じように制限をかけながら修行でもさせようと思っておったのじゃが、この様子ではそれも難しそうじゃしの」
この状態で修行するつもりだったの? 無理だよ? 俺は冗談抜きで泣き叫びながら死ぬよ? それは修行じゃなくて苦行っていうんだからな?
その話を聞いてから少しの時間考えてからアルーザさんが言った。
「お前は馬鹿なのか?」
「自ら人体実験をして何度も死にかけているやつほど馬鹿ではないわい」
「待て。そのようなことを馬鹿などと貶すような事を言ってもらっては困る。あれは探求行為だ。人体にはまだ分からないところが山ほど残っている。医者としてそして研究者として人体実験したくなるのは当然だが、流石に見知らぬ人間でそれをやるほど私も落ちぶれていない。そこで自ら人体実験をするという方法だ。患者なら嘘をつく可能性があるが私は嘘をつかないからな。より精度の高い情報が得られるというわけだ。実際それで救われた命もあるからな」
「直ぐに息切れするから心臓を増やして、血流の巡りを良くして対策するなどと言って死にかけたのは何処の何奴だったかの」
「それも探求だ」
「こりゃ施す処置なしじゃな」
「当然だ。今の私に疾患は存在しない」
そう言われて師匠は困ったように溜息をついた。
Tips:ポーションについて
ポーションは回復するステータスに応じて色が違います。
HPなら赤色、MPなら青色、SPなら黄色になっています。
また、品質というものもあり。品質が良くなるほどにポーションは透き通っていきます。