日本に行こうと思い立ったは良いものの、客観的に見て、アタシが日本に行く理由が無かった。
ママに
「アタシは実は未来からタイムスリップしていて、未来では日本で巨大ロボットに乗ってたから、日本に行きたい」なんて
そんな戯言を話して本当に日本に移住できたら逆にママの頭を心配する所だわ。
ちゃんと真っ当な理由と経緯を用意しないと。
幸か不幸かママの仕事は、NERVの前身の人工進化研究所・ドイツ支部所属のまま。
優秀な科学者としてなかなかの高給取りらしいので、お金の心配は無さそうだけど、何にしても日本に行く理由がパッと思いつかない。
というか、人工進化研究所があるってことはこの世界、エヴァあるの? 使徒いるの?
と疑問に思ってそれとなくドイツで建造しているはずのエヴァ弐号機について聞いてみたけど、ママはそんなもの無いと強く断言。
ソレは逆に怪しいわよママ。
その反応から感じたのはエヴァに対するママの強い拒絶の意志。
ママはエヴァの開発者のはずだけど、どういうわけかアタシに弐号機を見せたくないみたい。
ま、そもそもママがエヴァの中に居ない以上、動くかどうかも分からないし、まだアタシのモノでもない弐号機を他の奴が使うのは──まぁ、癪だけど仕方ないと割り切ることにする。
ソレは置いておくとして。
嫌ね、子供の頭って、すぐ思考が脱線しちゃう。
とにかく、
日本に行く手段をどうするか? よ。
いっそ天才小学生として日本の大学に進学してしまおうか?
日本の飛び級制度がどの程度自由かは知らないけど。
こちとら前世じゃ中学生で飛び級大卒
多少、鈍っているものの、ちゃんと勉強し直して錆を落とせば冴え渡る灰色の脳みそは健在。
浮気したパパを見返すために人工授精したという
ちょっと後ろ暗い来歴も、
狙い通り優秀に産まれたんだから、
結果オーライ
アタシは日本に行ける
ママはアタシの優秀さを証明出来る
アタシもママもWin-Winよね?
◇
そんな皮算用をしたのも束の間、数日後にママからド直球のパスボールが送られて来た。
お昼時、アタシがママのくれた計算ドリルを適当に時間をかけながら解いていると
「アスカちゃんは、日本に行ってみたい?」
少し遠慮がちにママが聞いてきた。
「え……!? ──うん! 行ってみたい!」
旅行? それとも何かの学会みたいなもの?
自由時間はそんなに無いだろうけど、コレで日本を気に入ったみたいな流れに持っていければ──
「良かったぁ、ママね、日本に転勤することになったの」
少し安堵した様子でママがアタシにそう告げる。
「そうなの!?」
「あら、旅行だと思ってたかしら? もしかして、ママと一緒に日本で暮らすの、嫌?」
「嫌じゃないけど……ビックリした」
「そうね、急な話だものね。でも、日本は良い所よ、ちょっと暑いけど。うふふ、アスカちゃんは帰国子女になるわね」
楽しげに展望を語るママ
──。
「へー、楽しみだなー、!」
「ありがとうアスカちゃん」
アタシに受け入れられて安心したのか気が楽になった様子で家事に戻るママ。
──。
え、そんな都合の良い事ある?
ママの見えない所でお尻をつまむ
痛い
見えざる運命?
それともシンジの手引き?
あまりにもアタシに都合の良い展開に、ロマンよりも作為を感じてしまう。
何者かがアタシを日本に呼び寄せているような感覚。
そういうのに流されるのは好きじゃない。
──けど
どっちにしろ、ママが言うからには行く事はもうほぼ確定事項。
それなら
虎穴に入らずんば虎子を得ず
バカシンジを1発ガツンとぶん殴るまでの道筋がグッと近づくんだから、鬼でも蛇も迎え撃ってやろうじゃない。
◇
引越し当日
凄いわ
驚くほど何のイベントも無かった。
そもそも自我が目覚めてからアタシ、家から出てすらいないし。
ただまぁソコは人生経験豊富なアタシ。
普通の子供なら不満を募らせる所だろうけど、聡明なアタシからすればママの考えもある程度推測できる。
こっそり覗いたママのパソコンの予定表には昨日、人工進化研究所で大事そうな式典があったみたいだけどアタシはソレを知らないし、ママも気にする様子もなく、家にいた。
たぶんママ、職場で何かあったわね。
イジメか、何らかの圧力か
ソレが何かは断定出来ないけど、アタシから見ても逃げるように日本へ引っ越すにはソレ相応の理由があると見た。
悲壮感はない。
それどころか今の状況を楽しんでいる節まであるママの姿は、男女関係で疲弊したママしか見たことの無いアタシからは新鮮に見えた。
◇
昨日の夜に外出用の服を着せられたまま一眠りし、そのまま夜も明けないうちに家を出た。
子供の身体は眠気には耐え難く、夢うつつの中ママに手を引かれて空港へ。
ラウンジで飛行機を待つ間、眠気覚ましのホットのお茶──
ボーッとしたまま、ママに言われるままカップを受け取り、注がれるお茶を眺める。そして飲むために手を持ち上げて
あ
こぼしたわ
アタシの手からカップが転げて、お茶がアタシのコートを濡らす。
朝に魔法瓶にお茶を入れてから随分時間が経ってたからヤケドしなかったけど、いや、見るからに眠そうな子供に飲み物持たせちゃダメよママ。
お茶で服が濡れて、その生暖かい温度が気持ち悪くて、パッチリと目が覚めた。
「ああ! ごめんね、熱くない?」
「うん、大丈夫」
「それならいいけど、ああ、服が濡れちゃってるわね」
「うん、でも大丈夫よ、ママ」
「そう、でも今はぬるくても冷えたら風邪ひいちゃうから。ちょっと待ってね」
ママはカバンからタオルを取り出してアタシの濡れた服を拭く。
「大丈夫ですか?」
アタシたちの様子を見て、ショートヘアーの女性がタオルを持ってやってきた。
「よろしければコチラも使ってください」
「いえ、ソレは申し訳ありませんわ」
「大丈夫です、ウチも子供を連れてきているから、タオル余ってるんです」
「いえ、ですが」
「大丈夫ですから」
女性が有無を言わさず、アタシの服ではなくお茶のこぼれたラウンジのカーペットを拭いていく
「ありがとうございます」
「いえいえ。にしても惣流さん、良い合流の仕方を思いつきましたね」
ママがその言葉にアタシの身体を拭くために俯いていた顔を上げた。
アタシもつられてその女の人の顔を見る。
女の人の柔和な表情は、どことなくシンジに雰囲気が似ている気がした。
「──碇ユイさんですか?」
「お久しぶりです。惣流さん」
「ええ、本当に」
「お元気でしたか?」
「最近はやっぱり色々ありました。でも……アスカちゃんのためですから」
「分かります」
「あ、コレはたまたまですからね。わざわざアスカちゃんを濡らすなんてそんなこと私しませんから」
「それは、ごめんなさい」
「いえ、偶然でも見つけてもらえてありがとうございます」
ある程度、水気を拭き終わってユイさんが顔を上げる。
「碇さんのお子さんは今どちらに?」
「まだ4歳ですから、今回の出張は家族一緒です。今は夫に預かってもらっています」
「そうなんですねぇ」
──っ!
想定外
まさかここまでトントン拍子にシンジに会えるなんてね。
「ユイ」
男の子と手を繋いで歩いてくるカッチリとしたスーツを着た顔の四角いメガネをかけた男性。
「あら貴方、惣流さん、アスカちゃん、紹介するわね。私の夫のゲンドウさん」
「──碇ゲンドウだ。ユイの研究チームに移籍するんだったな」
「これからお世話になります。惣流・キョウコ・ツェッペリンです」
「惣流・アスカ・ラングレーです」
「──ああ、よろしく頼む。シンジ、お前も挨拶しろ」
「碇……シンジです、よろしく」
碇ゲンドウに手を握られたシンジが軽くおじぎをする。
感動とかもなくサラッと顔を合わせてしまった。唐突というか簡単に会えすぎて感慨とかがまるで無い。
アタシがジッと見つめているとシンジはフイっと恥ずかしそうに目をそらした。
うーわ、コイツ、ガキのフリが上手いわねぇ
「よろしくね、シンジくん」
ママの笑顔に、シンジはこれまた恥ずかしそうにコクンと頷いた。
「ユイ、合流出来たならラウンジに入ろう」
「ええ」
ゲンドウが、ユイさんに手を伸ばすより早くシンジが手を上げ、にっこりと微笑んだユイさんがシンジの手を取る。
捕まったリトルグレイ……は露悪的な見方ね
親子ブランコって奴?
ガキを満喫して羨ましい。
「私たちも行きましょ」
伸ばされたママの手を掴む。
「うん」
親子ブランコの間でピョンピョンとカンガルーのように跳ねるシンジ
「アスカちゃんは、パパがいなくて寂しくない?」
その光景をママは少し寂しそうに眺めている。
「べっつにー? ママを幸せにしてくれないパパなら居ない方がマシよ」
「そう、強いのね。アスカちゃん」
「賢いのよ? アタシ」
「そうね、誰に似たのかしら?」
「ママ!」
「ふふ」
アタシはママの不安を少しでも和らげるために繋いだ手に力を込めた。
Q.シンジに会えたのに反応薄くない?
A.頑張る前に会えてしまったので感情を昂らせる暇が無かった+ママの前だったので、突っかかるのは後にした。
裏話
キョウコママ有能すぎた。ユイさんにコンタクト取って即転属は判断が速い。シンエヴァのアスカの近くで碇一家が来ていたネルフの何かのイベントの帰りですね。今作ではそれに合わせて碇一家に合流する形で転属しています。
理由はだいたいお察しの通りです