TS転生者は負けヒロインたちに温水君を攻略させたい 作:あどべんちゃ
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今回はやや短め。
翌日の放課後。部室に連れ立ってやってきた温水君と八奈見さんは、説明口調で台詞を紡ぐ。
「いやー、それにしても危ないところだったな。馬剃さんのロッカーを開けてる現場を見られてたら、言い訳のしようもなかったからな」
「本当だね。生徒会室に忍び込んだのだって、私が上手くごまかしたからいいようなものの、普通なら大問題だよ」
「……一応聞きますが、なんでそんなに説明口調なんですか?」
「勿論二人を巻き込むためだ」
「小鞠ちゃーん、こっちおいでー」
「聞くからに厄介事じゃないですか……で、何があったんですか」
「昨日、校門で持ち物検査をしてただろ。月之木先輩も没収されちゃってな――ナマモノBL同人誌を」
「うなっ!?」
「うわ……」
過剰反応した小鞠さんは、温水君に目をつけられた。
「そういえば、なんでそんなものを学校に持ってこようと思ったんだろうな」
「さ、さあ……」
「先輩曰く、ああいった類のものは同好の士で楽しむものらしい。つまり――その同好の士は、この学校に潜んでいる。そういうことになるな」
「ど、同好の士、違う!ぬ、温水が攻めは、解釈違い!」
「語るに落ちてませんか」
「やっぱ先輩は小鞠に貸すつもりだったんだな。なら、仕方ないよなあ」
「これは共犯の中でも共同正犯にあたり重罪です。小鞠ちゃん、お勤めしよっか」
「うぇ、つ、つまり……」
「小鞠はすでに巻き込まれている、ということだ。おっと、周堂も逃げるなよ」
「逃げませんよ、ここまで同席して逃げたら小鞠さんが可哀想です」
そろそろ生徒会とも多少の接点は作っておきたいし。
「いい心構えだ――さあ、作戦会議を始めよう」
扉が開き、這い出るように志喜屋さんが入ってくる。なんともまあ、馬鹿な騒ぎが始まったものだ。
翌々日、放課後。僕は綾野君、朝雲さんと共に、温水君に呼ばれて駅前のハンバーガーショップにやってきていた。
前世から真面目な方だし、変に手を抜くのもかえって難しいので、僕は今世では成績上位者に名を連ねている。入学式で新入生代表として挨拶をした程度には。
遅れてやってきた温水君が綾野君の向かいに座る。ちなみに、僕らは綾野君・朝雲さん・僕の順で並んで座っている。
「わざわざごめんな、二人は塾大丈夫か」
「気にするなって、温水の方から頼ってくれて嬉しいよ」
「ええ、温水君が人を頼ることを覚えてくれて僕は感動しています」
「あんま揶揄わないでくれ」
「それで、何があったのですか?お知り合いの相談にのって欲しいという話ですが」
「えっと……長くなるんだけど、聞いてもらっていいか。周堂には二回目になるけど」
温水君は、持ち物検査から始まる一連の出来事について語った。月之木さんのナマモノBL同人誌を生徒会から取り返したいこと、志喜屋さんの助力を得て探りを入れた結果、馬剃さんの素点表を見てしまい、あまり芳しい成績ではなかったこと。それを当人に返そうとしたら、話の流れで僕たちを紹介することになったこと。
「ええと……弱みを握るのではないのですね?」
可愛らしく首を傾げながら、物騒なことを言う朝雲さん。相変わらずだな、この人は。
「そう、今日のところは普通に、馬剃さんの相談に乗ってもらいたいんだ」
「良いんですか?終業式まで、そんなに余裕があるわけではありませんが」
「……脅したりとかじゃなくてさ、俺たちのことを信用してもらって、ちょっとでも文芸部を知ってもらえたら上手くいくんじゃないかなって。まあ、理想論だけど」
相変わらず、急に格好いいことを言うなあ。
綾野君が朝雲さんと僕に目配せをして、温水君にポテトを差し出す。
「分かった、協力させてもらうよ」
「はい、私も異論ありません」
「僕は文芸部なので、当然協力しますとも」
「ありがとう。表向きは、俺が皆に相談するところに、彼女が同席するってテイで頼む。成績のこと、あんまり知られたくないみたいで」
温水君がそう言って程なく、馬剃さんが僕たちのいる二階へと上がって来た。
「初めまして、B組の馬剃です。本日は同席させてもらい、ありがとうございます」
「ご存知かと思いますが、A組で文芸部の周堂です。よろしくお願いします」
「こっちこそよろしく、俺はD組の綾野。で、こっちが――」
「F組の朝雲です。ささ、どうぞ座ってください」
馬剃さんは温水君の隣、朝雲さんの向かいに座った。
ちょっとした世間話のあと、温水君が話を切り出す。
「早速だけど、三人の勉強法について聞かせてもらえるか」
勉強法。そう、勉強法である。僕は本当に特別なことはしていない――だって前世の記憶があるから。基本的には一度学んだものを再び定着させているだけだ。ツワブキは進学校なので時折前世のそれより高レベルなものもあるが、基礎の部分の習熟にさほど時間を割く必要が無いからそういった範囲にもじっくり取り組める。なので、僕の勉強法は『転生』ということになってしまう。さて、力になれるかどうか。
「そうですね、まずは教科書と副読本の中身を全部覚えます」
……それ以前の問題の人が隣にいるのを忘れていた。僕は普通に勉強している分まだマシだろう。
「……それ、全教科全ページやるの?」
「ええ、奥付まで全部。後は普通に、先生の言ったことは一字一句漏らさず覚えておいて、予習復習をするだけです」
「……そ、それじゃ、綾野はどんな感じで勉強してるんだ」
「俺は―――」
続く綾野君は、塾通いの優等生として至極真っ当な回答だった。安心感がある……エキセントリックなイチャつきを始めたのはともかく。
「どうかな馬剃さん、参考になったかな」
「ええ、こちらは」
「なら良かった。じゃあ最後に、周堂はどんな感じで勉強してるんだ」
「僕も変わったことはしていません。ただ、僕は早めに予習を済ませていまして。授業の前日に復習、授業でも復習、放課後にまた復習、といった具合でとにかく復習して記憶を定着させるようにしています」
「なるほど……周堂さんは、塾に通われてはいないのですよね。勉強時間はどのくらいでしょうか?」
「そんなに長くやってはいませんね。ただ、予習に一番時間を割いたので、あんまり参考にはならないかと」
何せ、単純に考えても前世の高校生活3年分の予習があるわけで。
「そういうものですか……ありがとうございました」
礼儀正しく、頭をぺこりと下げる馬剃さん。やっぱり良い子だよなあ、このあと腐るんだけど。
その後は綾野君と朝雲さんのイチャつきを眺めつつポテトをつまみ、解散する運びとなった。
この後、温水君は馬剃さんとクレープを食べて、馬剃さんが去った後やってきた小鞠さんが温水君のクレープを食べるイベントがあるのだが。さすがに、そこに同席するのは不自然だろう。
翌日、放課後。部室から志喜屋さんが去り、桜井くんがやって来て、温水君が生徒会室に向かったそのあと。
志喜屋さんの膝から解放されて人心地付いた様子の小鞠さんに、そっと話しかける。
「こーまーりーさん」
「な、なんだ」
「二人でお話しましょうよ」
またも、階段の踊り場にて。
「昨日、温水君と間接キスしたらしいじゃないですか」
「なっななななんでそれを」
「僕にも色々あるんですよ」
本来なら僕が知るはずもないのだが、佳樹さんと朝雲さんという二大プライバシーの破壊者が存在するので、この程度は大して目立たないだろう。
「どうですか、ドキドキしました?」
「どっ、どきどきってい、いうか、あ、あのっ時は、ぬ温水が変なこと言うから」
顔を赤くして、しどろもどろに話す小鞠さん。最高に可愛いです。
「でも結局自分から温水君のクレープ食べたんですもんね。可愛いですねぇ」
「え、笑顔がキモイ」
え、それは普通に傷つく。
手で顔の下半分を隠しながら、話を続ける。
「その調子ですよ、小鞠さん。ガンガン意識させるイベントを積み上げていきましょう」
「う、うるさい。余計な、お世話」
「だって、小鞠さんが可愛いから」
「へ、変な言い方するな、キモイ。お、お前、そんなキャラだったか」
「だって、ずっと楽しみ――じゃなかった、憧れてたんですよ、恋バナ」
「……わ、私も」
「?」
「私、も、応援してもらえるのは、う嬉しい、し。こ、恋ば……そういう話、するのも、け、結構、楽しい」
そう言って、小鞠さんはぎこちなく笑うので――思わず、抱きしめてしまった。
「その、笑顔を!温水君に見せましょう!」
「ぐ、離せっ、苦しい!」
もう、温水君とイチャイチャしてほしいとか関係なく。僕は一人の友人として、小鞠さんを応援する心積もりになっていた。……それはそれとして、他の人も応援したいけど。
来る週末、馬剃さんとの勉強会、志喜屋さんとの一件。この出来事に、僕の出番は全くもって存在しない。
ボドゲカフェ側に参加すれば、小鞠さんの負担は多少軽くなるだろうが、逆に言えばその程度。結局何もできずに二人でおろおろすることになるのは目に見えているので、小鞠さんには悪いが心を鬼にしてノータッチを貫くことにした。
幸いにも、夏休みのように焼塩さんから『一緒にカラオケ行こうよ!』と誘われることはなく。とはいえ今回はそうなっても断るだけだ――あの時はまだ心構えがなっていなかったのでほいほい着いていったが。
そして週末は過ぎ、月曜日、放課後。
「焼塩さんから聞きましたよ。日曜日、大変だったそうですね」
部室にやってきた温水君に、素知らぬ顔で声をかける。
「ああ、まあな。とはいっても、大したことしたわけじゃないけどな……」
志喜屋さんの手を握ったのは間違いなく大したことだが、しかしそれを口外するはずもないか。
と、そこへ八奈見さんがやってきて、しおらしく頭を下げた。焼塩さんへの伝達ミスの件を謝りに来たらしい。
「でも、カフェに焼塩がいてもそんなに状況は変わらなかったろ。そもそも、俺が遅れたせいもあるし」
「う、うん……私も、月之木先輩に、あの人と一緒にいること、言っちゃったから」
「確かに。じゃあ小鞠が悪かったってことで」
「し、死ねっ」
何気ないやりとりも、小鞠さんが温水君に懸想しているという前提があるとまた味わい深いものだ。
そう思っていると、温水君がとんでもない発言をかます。
「それより八奈見さん、24日の夜って予定ある?」
志喜屋さんと二人きりになることにヘタレた温水君が、同席する相手を探してのこの発言。原作を読んだときはさすがに驚いたものだ。
「ふつーに、家族と過ごす予定だけど」
「駅前にイルミネーションあるだろ。ちょっと付き合ってほしくてさ」
「へっ!?え、いや、あの、ほ、本気!?ええっ!?」
……この狼狽え方は、どう見るべきか。小鞠さんと温水君を交互に見ているので、この二人が付き合っているとでも思っていたのだろうか?
「あー、無理にとは言わないから。じゃあ、小鞠は」
「な゛っ!?」
「よければイブの夜、付き合ってほしいんだけど」
「ししし死ねっ!十回死ね!」
原作より動揺具合が増している。僕の言葉で、より温水君を意識しているからだろうか。
「えぇ……じゃあ、周堂は空いてるか」
……こうして言われる側になると。温水君にその気はないと知っていても――いや、知っているからこそ。
「最低ですよ温水君」
こういう言葉も、自然に出てくるというものだ。
「仕方ないな……焼塩に聞いてみるか」
「「は?」」
「はぁ……」
威圧的疑問符二つは八奈見さんと小鞠さんの、溜息は僕のものだ。
「温水君、そこに直りなさい。床に、正座」
「いや、ちょっ……なあ二人とも、なんとか言ってくれよ」
「つ、つべこべ、言うな。死ね」
「大人しく言うことを聞くのが身のためですよ」
「え、どうしたんだ、お前らまでそんな……なんか俺悪いこと――あ、ごめんなさい座ります」
三人分のプレッシャーに負けたのだろう、温水君は大人しく床に正座した。
「温水君。自分が何をしたか分かってるのかな」
「え、駅前のイルミに一緒に行こうって……」
「私のあと、すぐに小鞠ちゃん、そのあとは周堂君。それも断られたら次は檸檬ちゃんを誘うとか、どういうつもりなのかな」
「えと……言ってなかったっけ。玉木先輩と相談して、月之木先輩と志喜屋先輩を引き合わせることになったんだ。それがイブの夜で、だから手を……貸して、もらおう……と、思ったんだけど……」
みるみるうちに、八奈見さんと小鞠さんの顔が赤く染まっていく。
「あの、俺、何か変なこと言った?」
「そういうとこだよ温水君!」
「こ、今度こそ死ね!」
二人はそう言い捨てて、温水君に背を向けた。
取り付く島もないと見たのか、温水君は縋るように僕を見てくる。
「な、なあ頼むよ周堂、俺ら友達だろ――」
……あ~、なんか。元々断る予定だったけど、すっごい腹立ってきた。
頼れとは言ったけど、こういう時にそういう頼り方をするのは……なんか、違う。
「年末は父が海外から帰ってくるので。どうぞ、志喜屋さんとお二人で楽しめばいいんじゃないですか」
あれ。なんか、想定と違う台詞を言っちゃった気がする。
「え、いやだから、月之木先輩と志喜屋先輩を会わせるのであって、別に俺が志喜屋先輩とどうこうってわけじゃ……」
……まあいいか、困惑する温水君を見ていると多少は溜飲も下がる。べ、と舌を出して、僕も温水君に背を向けるのだった。
時は流れて終業式。
『君は私と……付き合いたいの……?』
『今日の放課後、お話がありますから空けておいてください!』
人混みの中心で、そんな台詞を向けられる温水君は、もはや言い訳のしようもなくラノベの主人公だった。
数刻前の回想に浸っていると、東さんが声をかけてきた。
「そういえば、周堂君はクラス会来ないんだっけ」
「はい。父が海外から戻って来たので、出来るだけ家族との時間を作りたくて」
「なら無理には誘えないわね。今の周堂君とは色々と話せそうだと思ったんだけど、残念ね」
「色々ってなんですか」
「色々は色々よ。ま、熟成するのも乙かしら」
意味深なことを言う東さんに手を振って下校する。
今頃は温水君が馬剃さんにイケメンムーブをぶつけているのだろうか。毎度思うが、罪作りな男である。
「すっすすす周堂!」
と、物思いに耽っていると、下駄箱前で小鞠さんに声を掛けられた。部室以外で話しかけられるのは珍しいし、それが大声なのはもっと珍しい。はて、何があったのだろうか。
「うっ、う噂聞いたか」
「噂って……温水君が二股してるってやつですか。それとも八奈見さんがフラれたって方?」
「ち、ちち違う―――
―――What?
念のため言っておくと、百合展開にはなりません。タグにも入れてませんし。
感想、高評価頂けると励みになります。気が向いたらよろしくお願いします。