黒夜、後に白日~裏ボス転生者、周りを曇らせながら能天気に戦います~ 作:せみふぁいなる
違うんです!LoLとシージが俺の両腕をホールドして離してくれなくて…!
とある街中にある魔法訓練施設。
スキルや魔力の扱いを、周りを気にせずに練習出来る公共施設の貸し切られている個室で、俺と主人公二人組はハードな訓練を行っていた。
「はーっ……ッはぁー…」
「ぜぇ…ぜぇ…も、もう無理……」
主人公二人組が、息を切らして床に倒れ込む。
一度額の汗を手で拭うと、そのまま動かなくなってしまった。
「それじゃあ、一旦休憩挟むか。…ここにお水があるじゃろ? 欲しい人は返事を…」
「貰うわ!!!」
「ください!!」
「あらやだ凄く元気」
水を取り出すと、バッ!と上半身を起こして元気よく返事を返してきた。
人間って凄いなぁ…。
「それだけまだ元気があるなら、五分後に再開で」
「鬼!悪魔!人でなし! アンタそれでも人間?!」
「ちょっと言い過ぎじゃない…? 頼まれたし、やるからには当然ガチで鍛えるよ。お覚悟を」
「…私、生きて帰ったらふうちゃんと沢山お菓子食べるんだ…えへへ…」
「戻ってきて、めいちゃん!? 今寝たら死ぬわよ!」
風花ちゃんがペチペチと明華ちゃんの頬を叩いて、目を覚まさせようとする。
ここは雪山か。
俺も内心推しに対してスパルタをするのは心苦しい…が、それでも心を鬼にして頑張っているのだ。
許して欲しい。
本当だったら、もう少し優しめで慎重に教えていく算段だったのだが、この間の例外魔獣案件で少し焦りを覚え始めているのだ。
正直な話、俺の予想より相手の動きが早い。
いや、勿論最悪の場合の想定はしてたのだが。それでも、俺の頭ではもう予測がつかない様な事をしてくる。
本当に、つくづく想定通りに事が運ばない。ふふ…ままならない、ね……。
これでもし甘い教え方をして、万が一にでも大怪我を、最悪の場合命を落としてしまうなんて事になってしまったら……多分俺は俺で居られなくなる気がする。
それに、あの魔獣の件といい、何か嫌な予感もする。俺自身もこの特訓で、ついでに少しでも強くなっておこうという魂胆だ。
「ハッ…私は何を…?」
「めいちゃん、戻って来たのね。 良かった…!」
嫌な予感がどうしても払拭出来ないので、不測の事態が起きても良いように、なんとしてでも主人公二人組をここで強化しておかなければ!
使命感に突き動かされるように、二人に休憩終了を告げる。
「よし、じゃあ再開しよっか。 とりあえず白羽さんは変わらず魔法の構築速度を今の二倍まで上昇を目標に、二時間は頑張ろう。 草壁さんは……うん、接近戦が得意そうだから、そっちを伸ばすメニューにしようか」
「ごめん、ふうちゃん。 やっぱり私はここで死ぬみたい」
「めいちゃん?!」
「魔力が切れそうになったら、ちゃんとこの改良された魔力回復促進薬を飲んでね」
あれからレイゼさん協力の元改良した、この元やべー薬をね!
ちなみに、明華ちゃんだけオーバーしそうになった理由は結局分からなかった。
分からなかっただけにもう一度暴走しそうで怖いが…まぁさっき大丈夫だったし、ヨシ!!(良くない)
「せかいがだんだんしろくろにな〜る……あれぇ? もともとしろくろだったっけ?」
明華ちゃんがへな〜と床に膝を着き、目からハイライトが消えていく。
…あのアホ毛、髪の毛のはずなのになんで本人がヘニャるとアホ毛も萎れていくんだ…?
……自分であの状態にしておいてなんだが、ヘニャ華ちゃんが可愛すぎて心臓が壊れそう。
「めいちゃんがフニャフニャになっちゃった!? 大丈夫よめいちゃん、私達ならやり遂げられるから! だから戻ってきて!?」
「俺も通ってきた道だから行ける行ける!! 皆で頑張ろう!」
「アンタは規格外なのよバカ!」
何を言いますか、俺だって同じ状態になっていましたとも。
めちゃめちゃ辛かった。
「さて、それで草壁さんのメニューなんだけど。 ちょっと怖い目に合うから、そのつもりでね」
そう言って俺は、おもむろに非殺傷の当たったら少し痛そうな大鎌を創り出す。
それを見て風花ちゃんも大体察したのか、顔を引きつらせる。
「…まさかとは思うけど、接近戦を伸ばすっていうのは…?」
「そのまさかだね。 ちょ~っと怖いかもしれないけど、大丈夫! 徐々にレベル上げていくから、集中すれば全部見切れるよ! やったね!」
「――めいちゃん、今から私もそっちに行くわね…」
風花ちゃんも目のハイライトを消し、スッと天井を見上げる。
…マジで心苦しい。推し云々とかじゃなくて、他の人相手でも全然良心が痛む感じの諦め方なんですけど!
吐血しそう。誰か助けて!この際〇ャー研でも良いから!
「じゃあ、今からやる『ドキッ!当たると死ぬ程痛い攻撃避け~首はポロリしないよ~』を、白羽さんと同じく二時間は頑張ろう! ついでに俺も武器の振り方とか手加減の仕方の練習になって、一石二鳥だね!」
「…アンタって、なんでそう時々本当に馬鹿っぽくなるのかしら。 折角ルックスは結構良いっていうのに…」
そう言いながら風花ちゃんは、未だにハイライトが消えたままの目で此方をジッと見てくる。
褒められちゃった、照れるね。
褒めては無いか。こりゃ失敬。
──────────
あれから六時間ほど時が経った。
休憩を定期的に挟みつつ、少しハード(当社比)な魔力・近接訓練を主人公二人組に施した。
本当だったらもう少し鍛え上げたかったのだが、そこは前世でいう高校生のお二人。当然門限というのが存在している。
なので、かなりギリギリまで鍛えて本日はここまで、という感じで解散した。
帰り際に「明日も放課後にここ来てね〜」と伝えた所、ただでさえ感情が死んでいた目から、とうとう色すら無くなっていた。
こういう時は飴と鞭、という事で。
「明日やり遂げて無事に合格ラインまで強くなる事が出来たら、何でも言う事を聞く」と付け足すように伝えた所、みるみる内に元気になって帰って行った。
ご丁寧に「何でもですね? 言いましたからね?!」と念を押して。
…あの時の明華ちゃんと風花ちゃんの圧、凄かったな…。もうあのままラスボス倒せそうな勢いだった。
何を言われるのか正直少し怖いが、これもあの二人の…ひいては皆の幸せに繋がるのだ。無茶な事を言われてもやってみせよう。
さて、もう今日はやる事も無いし、ゆっくり帰るかなぁ…。
いや、ゆっくりだとレイゼさんとグレイスに要らない心配かけるか?徐々に治まってはきているけど、それでも未だに過剰な程心配されるし…。
「よし、ちょっと急ぐかな。善は急げって言うし……。」
よーし、急いで帰るぞー。帰りたいなー。…帰らせてくれないかなー。
「……で、帰らせてもらえるかな? ずっと後ろをついて来てる誰かさん?」
帰りたいんだけどなぁ…。
俺がこの施設を出てからずーっと着いてきてる奴が居るんだよなぁ…。
早く帰りたいので、とりあえず抑えに抑えた殺気を後方に飛ばす。これで逃げるならその程度の相手だったということでそのまま帰って良し、逃げないならちょっと警戒。
自分で言うのもなんだが、俺の殺気を受けて平然としてる奴は、大抵この世界での実力が上澄みだったりするからだ。
さて、この相手はどうするのかと様子を見ていると、気配のする方向から紫のレーザーが飛んできた。
あぁ、ハイ。こりゃ直ぐには帰れそうにないっすね…。
直撃すると割と痛そうなので、魔力の方向をずらしてカウンター気味に向こうへお返しする。
通信魔法を使ってレイゼさんに連絡することも考えたが、どうにも阻害が入ってて連絡が出来ないときた。
…帰った後がとても怖いが、こうなりゃヤケである。
人が帰ろうとしてる最中だというのに、全く常識がない相手だ。建物の被害もお構いなしに紫の上級魔法とか、殺す気満々すぎるだろ。
「どうせ生きてるだろ? いい加減姿を現してくれ、面倒になってきた」
「…人の魔法をノータイムで掌握してお返しとか言うトンデモな事をしておいて、面倒とか抜かすなよ…」
あ、出てきた。遠めなのはエモノが銃だからかな?
…ん?誰? 知識に無い奴が出てくるとは。紫魔法だったからてっきり本編の敵のうちの誰かかと…。
「…まぁいいや。それで? 俺の事をつけてた理由は? 三文字で」
「三文字で答えられるわけないだろ」
えー、ワガママな不審者だなぁ…
「じゃ三行でいいよ、仕方ないなぁ」
「腹立つなお前」
「そんなことは良いじゃないか。今は理由を迅速に話して欲しいなって」
そう言うと、謎の男は俺を睨みながら答える。
「―――話したくないって言ったら……!?」
俺は『話したくない』辺りで相手の目の前に急接近し、同時に外部からの干渉を阻害する結界を貼る。
俺は羽を四枚…分かりやすく言うと、使用可能の魔力量を五割ほど解放し、即席で作った大鎌の先端を首に突きつける。
「質問には慎重に答えることをお勧めしておこう。あんな攻撃を撃ってきた時点で、敵対勢力であることはほぼ確実なんだ。殺ろうと思えば何時でも殺れるんだよ。 …自分の立場は理解出来たよな?」
既に生殺与奪の権利を握られている事を理解したのか、吐き捨てるように謎の男が呟く。
「クソックソッ、なんでこんな事に…! 報告よりも規格外じゃねぇか、恨むぞクソ共が…!」
「ハイハイ、仲間を恨むのは帰ってからな。…まぁ、帰れれば、の話だけどね? あ〜、早く言わないと俺の手が何かの間違いで滑っちゃうかもしれないナー」
クイクイッと大鎌を動かすと、観念したのか持っていた銃を捨てて両手を上げ、完全に投降体制になった。
「あークソ、言えばいいんだろう、言えば! なんだって答えてやるよ畜生め! スピードまでイカれてるとか、勝てっこねぇよ!」
「おー、潔いね。そういうのは歓迎だ。 じゃあ、つけてた理由と所属組織、その組織の目的まで吐いてもらおうかなぁ。あぁ、周りには俺が結界を貼り直してるから、本部に監視とかされてても見えないよ。安心だね!」
そう懸念事項の対処について話すと、男は『ハァ~ッ…』とため息をつき、諦めて情報を吐き出し始めた。
どうやらもう絶対に逃がして貰えないと察したようだ。
「つけてたワケは、上からお前の戦力分析と周辺人物の調査、そしてあわよくば殺害とかいう任務を押し付けられたからだ。所属組織は……」
そこまで言いかけた所で、男は心配そうに顔を歪ませる。
「なぁ、本当に結界、貼られてるんだよな? 結界越しに見られたりも無いんだな?」
「え? あぁ、うん。なんか視線が鬱陶しかったから、絶対に見えないようにこう、適当にスイスイ〜っと貼ったよ」
男が出てきた辺りからその視線は感じてたからな。俺が勝ったの見られると、さっき考えたこれからの色々に不都合なんだよね。
だから接近と同時に結界を貼る必要があったんですね。
「あぁ、そうかよ。普通はそんな高度な結界、無詠唱で、しかもスイスイ〜のノリでは貼れないんだけどな?」
「俺ってば強いので」
「…本当、ヤベェ奴に手出したよ……」
俺は何もしてないのに喧嘩を売って来たのが悪い。
いや、やっぱ嘘。ワンチャンなんかはしてるかもしれない。恨みを買ってる可能性が高い組織が多すぎる。
でもなぁ…早めに潰しとかないと大変な事になってそうな企みが多すぎてなぁ…。
「この規格外が…。んで、所属な。…俺の所属は、"無界教"ってトコだ。お前も知ってるんじゃないか?」
「無界教……? ちょっと待て、今思い出すから…」
Now loading……
えーと、無界教、無界教とな…。
……あぁ、ハイハイ。思い出した。確か───
「なんか変な事企ててたから、大事そうな儀式してる人達を十秒で粉々にした所か!!」
「そうだよクソが! アレさえ無きゃ、今頃は俺だってもっと楽出来てたんだんだ…!」
ほーん、そうなんだ。なんかドンマイ。
「お前が潰したんだろお前が!」
「あ、口に出てた? ゴメンゴメン、そう怒るな。これから吐いてもらう事はいっぱいあるんだからさ、体力が持たないぞ?」
「誰のせいだ誰のぉ…!」
わざとじゃ無いから、わざとじゃ。
許せ、〇スケ。
「で? 無界教ってのは結局、何を目的とした宗教なんだ? 教えてくれないと、気になりすぎて夜に九時間しか眠れん」
「健康じゃねぇかよ。目的っつーか、教え?的なやつか? まぁいいや。つっても名前通りさ、文字通り『世界を無くす』事に重きを置いてるから、無界教だな。 信仰してる神は、無の神である『ディネアン』。……こんな所で良いか?」
割ととんでもない宗教だったって事がよーく分かったよ。
「でも、良くは無い。ついでにアレはなんの儀式だったのか教えて貰おうか?」
「チッ…分かったよ、クソ。色々と詳しい事は省くが、アレは要するに『ディネアン復活の儀』的なヤツだ」
…阻止してて良かったぁ〜!
なんて事してんだコイツら、まだ原作は始まってなかった時期だぞ!おかげで他にもそういうのが無いか確かめる必要が出てきたじゃないか!
「あ〜、うん。オッケー、大体察した。もう良いよ、用済みだ。あとは自分で調べる」
「そうかよ。じゃあさっさと逃がしてくれねぇか? 座りすぎて俺のケツが悲鳴上げてんだ」
男は俺を睨みつつも自分の尻を痛そうにさすり、早く解放して欲しいとアピールしてくる。
「あぁ、情報ありがとう。今すぐ解放してあげるよ」
「…の割には、鎌が下がらねぇな?」
「あぁごめん、言ってなかった。解放は勿論するさ。でも、その前に…」
「半分…いや、八割死んでもらう」
男は自分に言われた事を咀嚼出来ていないのか、目を白黒させポカーンとしている。
いや、そりゃ当然でしょ。この結界は外部からの干渉は阻害出来るが、阻害出来るだけで監視はまだされてるんだぞ?
あの早さで結界を作れる奴に閉じ込められて、やっと自分の部下が出てきたと思ったらほぼ無傷とか、何か情報を吐かされたと考えるのが自然だろう?
それでは困るのだ。
……あぁ、安心して欲しい。仮にコイツが女性だった場合は、ちゃんと六割死に減らす予定だったから。
殺る事自体は男女平等だからね。
「じゃ、覚悟してもらって良いか? 大丈夫大丈夫、俺もそこまで鬼じゃないからな、欠損はしない怪我にしてあげよう。 状態はほぼ死んでるレベルにするけど」
ここまで言ってようやく言われた事を飲み込めたのか、男は覚悟を決めた目になる。
おぉ、意外だ。てっきり猛抗議してくるかと思ってたけど。
「…意外だって顔してるな。俺を舐めてもらっちゃ困る、こういう任務の時はいつ死んでもいいように構えてるのさ。八割で許して貰えるだけ上々だ、クソッタレ」
「お〜、凄い男前だ。是非見習いたいレベルだね、尊敬に値する」
いやホントに。
俺はまだ時々、怖いとか死ぬかもしれないとか、ひよっこみたいな事思っちゃうからな。
この男のような心構えを持っていたい。
『推しの為なら、どんな事でもこの命を捧げる!』と無条件で思えてこそ、俺の目標は達成されるという物だからな。
「だが、それはそれとして殺る。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 結界のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「全部ココに来る前に済ませたよ、クソが。 本当世の中ってクソだわ」
堂々と胸を張ってそう言う男に、俺は鎌を振り下ろした。
レイゼさんとグレイスはまたお留守番です。グレイスはメインウェポンなのに常備しないとか、何をしてるんだ黒斗君よ。
ここまで読んでくださりありがとうございます!宜しければ感想・評価の方をよろしくお願いします!
してくださると作者が心の底から喜びます!…それだけです!