黒夜、後に白日~裏ボス転生者、周りを曇らせながら能天気に戦います~ 作:せみふぁいなる
特訓を開始して、二回程時計の長針が回った頃。
彼女達のやる気が具現化したかのような謎の圧があったオーラはすっかりなりを潜め、その代わりとでも言うように周りの空気は集中力により張り詰め、鋭くなっていた。
「………」
「………」
俺は現在、風花ちゃんと「俺に一発当てられたら合格」と言い、打ち合いをしようとしていた。
風花ちゃんとお互いに使い慣れた武器を構えながら見合い、相手の一挙一投足を見逃さないように集中する。
ちなみに俺はグレイスを持っている。……やり過ぎだと思うが、風花ちゃんグレイスを持てと言ってきた為、仕方なく持っている。
元々彼女は接近戦の筋がいいのか、それともやる気故の努力の賜物なのか、はたまたその両方か。最初の一時間に少し教えただけで、隙の無い構えをする事が出来ていた。
彼女の吸収力は、こと接近戦においては乾いたスポンジのように高いらしい。
「は、はじめっ」
「ッ!!」
明華ちゃんが試合開始の合図をすると同時、先に動いたのは風花ちゃんの方だった。
フェイントをかける為か、ジグザグに軌道をとりながら高速で距離を詰めてくる。
緑魔法のバフを自分に掛けているのか、足には風が纏われている。どうやらこれのおかげで素早さが上がっており、普通じゃ取れないような軌道が出来ているらしい。
構えて合っている最中では無かったはずなので、駆け出すと同時に無詠唱で貼ったようだ。
俺はまだ無詠唱までは教えていないハズだが……。学校か家かで練習して来たのだろうか。
魔法の才能もかなりあるようで。こういうキャラ設定とかは原作と一緒みたいで安心。
「食らいなさいっ!」
上がった素早さの勢いを乗せた重めの一撃が飛んでくる。
よく見たら剣にも風が乗っているようで、至近距離なのについで感覚で風刃も飛ばしてきている。
殺意が高くないか?どれだけやる気なんだ風花ちゃんは。
取り敢えずグレイスで風刃を回転して切りながら吸収し、そのまま回転の勢いで剣を弾く。
「うっそ!?」
どうやら風刃を切られた……もとい"喰われた"ことに驚いているらしい。
どうだ、ウチのグレイスは凄いのだ!
「(……ちょっと恥ずかしいような……嬉しいような……)」
グレイスにしか聞こえてないのでセーフ。
「なら、これは吸収し切れるかしら!?」
風花ちゃんはそう言うと、このまま施設のトレーニングルームが壊れるんじゃないかと思ってしまう程の量の風弾を出してきた。
まぁ俺がこっそり防音結界と普通の結界を貼っているので、壊れはしないが。
風花ちゃんとしては、吸収してくるなら逆にし切れない量を食らわせればいい、という判断か。
いいね、臨機応変に試行錯誤を繰り返して、相手の弱点を突こうとするその戦闘スキル。やはり磨けば目が潰れる程に光りそうだ。
だが、相手が悪かった。
グレイスと俺の魔力容量に、限界は無いッ!!
「(……正確には、私はあるけど)」
無いものと一緒レベルで大きいから嘘は付いていない。
グレイス、この世界に来て初めて喰う量だけど……一気に行けるよね?
「(……私はご主人の武器。……この程度、よゆー)」
よし、なら行くぞ!
俺の魔力、満足いくだけお食べ!
「(……ん、任せて)」
グレイスは、俺の"黒"……魔力によって、無から創造された存在。
そんな彼女だからこその能力がある。
俺の魔力を食わせた分だけ、グレイスの持っている"力"全てにバフが掛かるのだ。
そう、文字通り"力"全て。
グレイスの持っている特異性全てにバフが掛かるという事だ。
当然、吸収能力関連も上がる!
「せぇぇぇやぁぁああぁあ!!!」
俺は羽を二枚出し、二枚の時の"本気"でグレイスを横に一振りする。
瞬間、グレイスは『空間を斬った』。
斬れた場所には裂け目のような物が広がり、中は黒く染まっている。
少しすると、裂け目は飛んできた風弾を吸い込み始める。
……風弾を吸い込み始める、という所で、流れ的に少しは分かっただろう。……そう、この裂け目は空間を斬る事によって出来る、グレイスの"魔力吸収装置"のような物なのである。
何故斬らないといけないのかは分からないが。裂け目が出来るスペースの確保?イマイチわからない。
「(………んー、ご主人の魔力よりは美味しくない)」
こんなヤバそうな物作っておいて、本人はゆったりとしている。
ワンチャン羽をもう少し解放したら次元すらも切りそうで、最近少し戦慄してる。
本当にウチの子、優秀すぎる。
風花ちゃんも目を点にして、風弾が吸い込まれていく様を見ている。
……そりゃそうもなるか。
この光景を見て追撃しようとする奴がもし居たら、ソイツは肝が据わりすぎている。
……ちょっとやり過ぎた気がしないでも無いが、あの量の風弾を一個一個丁寧に切り裂いて吸収、というのは少しばかり骨が折れるのだ、許して欲しい。
あれはレイゼさんとの特訓の時だけで良いよ……。
風弾を全て吸い込み終わると、裂け目が消えて空間が元に戻っていく。
裂け目が消えた事により風花ちゃんも正気を取り戻したようで、慌てて剣を構え直す。
……あれを見てまだ構えられるの、心が強いな……。仮面君の頃より遥かに成長している証だろうか。
「ふ、ふん! 私の魔法が吸収されるってんなら、直接当てればいいだけよ!」
「……声、少し震えてるよ」
「う、うるさいわよ!!」
さて、ここからは斬り合いになるだろう。
少し気合を入れるとしようか。
グレイス、風花ちゃんと剣は切らないようにね。
「(……だいじょぶ、剣と人に当たった時だけ切れないようにするから)」
ならヨシ!
「さっきは草壁さんからだったし、次は俺からでいいよね?」
「えっ、アンタからは来ないって……。ま、まぁいいわ。かかって来なさいよ!」
「そう来なくっちゃね!」
直接の斬り合いで羽二枚は重いだろうから、一枚に減らしておこう。
それでも、俺に羽を出させてる時点で割と強いのだ、誇ってもいいと思う。
……え?傲慢?自分でもそう思う。……でもほら、事実だし……ね?
「……私は切れないのよね?」
「さて、どうかな? もしかしたら当たったら死ぬかもよ?」
「もうそれ特訓じゃなくて殺し合いよ! 絶対一発当ててやるから!」
少し怖がりながら聞いてくる風花ちゃんに、とぼけてみせる。
こうしたら少しでも怖さを吹っ切ってくれるかなって思って言ってみたが、意外と効果はあったらしい。
「じゃ、行くよ?」
まずは軽く二割程度の力で近付いてみる。
「ッッ?!?!」
お、ギリギリ反応出来たみたいだ。
風花ちゃん視点だと文字通り一瞬なハズなのに、良く反応出来たと言える。
しかもこれ、昨日の攻撃避けの特訓より二倍くらい速いし。
これは接近戦なので、当然グレイスを振る。
殺意は込めると大変な事になるので込めない……と、言うとでも?当然少しは込めておく。
殺意に慣れさせたいという想いがあるが故だ。普段ならそんな攻撃が丸分かりの事しない。
これにも風花ちゃんは反応したが、ほぼ反射で弾いたのか、姿勢が悪い。
そして、それを見逃す俺でも無い。すかさず二撃三撃と追い打ちをかける。
流石は主人公組と言った所か、風花ちゃんはこれも耐えてみせる。ここまで頑張ったならもう合格点をあげたいが……、まだ本気の風花ちゃんからの仕掛けを見ていない。
それ次第では、俺が居なくても自分達でなんとか出来るだろう。
そもそも俺と斬り合ったら、レイゼさんとグレイス以外は、例え俺が手加減していても三秒と持たない。その点で既に風花ちゃんはかなり強いのだ。
「はぁ……はぁ……あっっぶないわね……」
終わったら防御の仕方をもう少し教えようと思いながら、俺の仕掛けは終わったのでバックステップで距離を取る。
いくら俺が速かったとは言っても、反射頼りの防御は危なっかしい事この上ない。
「最後は草壁さんの"本気の"仕掛けを見せて欲しい。そうだな……二分ほど打ち合おう」
「ふぅ……。……二分もあったら、一発どころ十発は当てちゃうかもしれないわよ?」
「上等、バッチコイ。二発目以降は俺が聞くお願いを当てられた回数分に増やしても良い」
俺がそう言うと、風花ちゃんの顔から表情が消える。……嫌な予感がしたのでチラッと明華ちゃんの方を見ると、明華ちゃんからも表情が消えていた。
まるで「私の番の時もそれくらいしてくださいね?」と言っているかのようだ。フフフ、怖い。
「……今の言葉、嘘は無いわよね?」
「あ、あぁ、無い無い。あるわけが無いじゃないか、ハハハハ」
その言葉を聞いた風花ちゃんは、背中からまたあのオーラを出しながら構える。
……だからそれ何?守護霊か何か?
「本気で行くわよ」
そう言った風花ちゃんの周りに、風刃が斬り乱れるエリアが現れる。
……あぁ、原作でもあったね。ダメージゾーンみたいなの。アレか……。
……いやいや待て待て、あれ結構高レベルじゃないと習得出来なかったと思うんだけど。え、いつ?いつそんな修練を重ねたの?
「気合よ」
気合ってスゲー!
「余所見してないで、行くわよッッ!!」
ちょっ、はや?!
先程のようにジグザグ軌道では無いが、ひたすらに速い。
レイゼさんには及ばないが、この世界単位で見るなら上位に入ってそうなくらいだ。
上下左右前後と、自分の速さを活かした手数の多さで勝負してくる。
ダメージゾーンも厄介だ。この手数をいなしながら、突如現れる風刃も対処するには、脳みそのリソースが足りない。
「さっさとッ! 当たりなさいッ!!」
おまけに気迫が凄い。俺は親の仇かって程に気迫が凄い。
きっと、レイゼさんとの打ち合い特訓をしていなければ、翻弄されて当てられていただろう。宣言通り十発……とまでは行かなくても、三発は当てられていた自信がある。
打ってくる場所への視線や手癖、殺気等を駆使して防いではいるが、これは風花ちゃんにもう少し教えたら、恐らくクリーンヒットさせられてしまうだろう。
……ん?なんか顔に違和感……?
……マジか。今の段階でこれだけ強いと、俺の心配は杞憂だったかなとまで思ってしまいそうだ。
そろそろ二分経つので、俺は風花ちゃんの剣を大きく弾くと、体制を崩した風花ちゃんを振り払うようにグレイスを回す。
……ふぅ、久しぶりにスピードタイプと戦った。俺も鍛え方が足りないかな。……気合を持てばもっと強くなれるのだろうか。
「そ、そこまで!」
明華ちゃんの掛け声が聞こえ、風花ちゃんの周りからダメージゾーンが消える。
もうあの子だけで良いんじゃないかな……。原作だとプレイヤーの上手さ次第では全クリ余裕なくらいレベル高いよ、風花ちゃん。
「っあぁ〜、ダメだったかぁー! 一発も当てれなかったわ! なんで鎌なのに防御上手いのよ、反則じゃない?!」
バタッと大の字になって文句を言う風花ちゃん。貴方もこの段階では立派に反則級の強さですよ。
「防御にもコツとか色々とあるんだよ、攻めだけじゃない。相手の手癖を読んだりとかね。草壁さん、よく死角に消えた時に後ろから縦振りする癖があるね」
「えっ? じ、自分じゃ気付けなかったわ……」
「そう、こういうのは自分じゃ気付きにくい。だから指導役として俺がいる訳だしね」
俺は、「あーあ」と俺にクリーンヒットさせられなかった為か、残念がりながらゴロゴロしている風花ちゃんの元へ歩いていく。
「合格貰ったら、いっぱいケーキ奢ってもらおうと思ってたんだけどなぁ〜」
「ハハッ、分かるよその気持ち。ケーキはいつ食べたって美味しいからね」
ガバッと起き上がる風花ちゃん。
「そうよね! アンタ、前スイカペで会った時も思ったけど、私と同じ甘党?」
どうやら同志を見つけた喜びで、疲れがどこかに行ったらしい。風花ちゃん、頭良いのにこういう所が単純なんだよな……。
そこも好きです。
「その通り、俺は草壁さんと同じ甘党だよ。無いと生きられない位には。そして、そんな草壁さんに朗報がある」
「ふ〜ん? なにかしら?」
俺は自分の頬を指差す。
いやぁ、これには流石に驚いたよね。手加減していたとは言え……。
「ここ、切り傷。クリーンヒットこそして無いけど、一発は当たった事の証明だ」
「………へ? つ、つまり?」
「そう、合格です。おめでとう! ……まぁ、それは別で後で防御の練習はしてもらうけど」
それを聞くと、風花ちゃんは下を向いて震え、精一杯力を溜めたかと思うと……
「───やっっっったぁぁぁぁ!!!」
力を溜めた分だけ、喜びを解放した。
そ、そんなに嬉しいの?
「アンタに一発当てれたって、それだけ嬉しいことなのよ! アンタどんだけ強いと思ってんの?! やったやった、超嬉しいわ! めいちゃん、私やったわよ!」
「やったね、ふうちゃん! 私も自分の事みたいに嬉しいよっ!」
ぴょんぴょんと、二人で手を合わせて跳ねる主人公組。
……浄化されそう。これが白の力……?
「(……ご主人、少し鼻血出てる)」
あっ、ごめんグレイス。教えてくれてありがとう。
「(………むぅ。ふくざつ)」
……?
グレイス、どうかした?
「(……なんでも無い。……けど、帰ったらいっぱい撫でて)」
よく分からんけど、よく分かった。
グレイスも今日はいっぱい頑張ったしね。
……これからお互いに、もっと頑張らないといけないイベントがあるけど。
「(……ん、がんばる)」
ええ子や……。
「フフン、アンタ覚悟しなさいよ。いっぱいケーキ奢ってもらうんだから! あ、めいちゃんも一緒だからね!」
「えっ?! ふうちゃん、良いの?」
「いいのよっ!」
またキャッキャと二人で飛び跳ね始める。
………いつ行ってもいいように、常にお金は持っておこうと心に誓った瞬間だった。
何にせよ、これで風花ちゃんの特訓はある程度終わりを迎えた。次また壁に当たるまでは、しばらくこんな機会は訪れないだろう。
さて、次は明華ちゃんの番だ。
この主人公ちゃんは、どのように成長を遂げているのか。
楽しみである。
グレイス=ダイ〇ン。異論は認める。
戦闘描写書くのが苦手すぎてねぇ……おじいちゃん溶けそうだよ。
ここまで見て下さり、ありがとうございます!よろしければ是非、感想・評価の方お願い致します!作者のモチベーションに繋がります!