黒夜、後に白日~裏ボス転生者、周りを曇らせながら能天気に戦います~ 作:せみふぁいなる
──ディネアンに向けていた手と羽をくたっと下ろし、ため息をつく。
「ッッはぁ〜っ……久々に肉体的に疲れた……」
気配が消えた後も念には念を入れて、暫くの間魔法を照射しっぱなしだった。お陰で久々に疲れた。
そのあまりの魔法の強さに結界は壊れ、外の世界が見えて──は、居なかった。地面が無い為、本当に黒しか存在しない殺風景ではあるが。
しかし結界維持に使用している魔力の流れに違和感を感じ、よ〜く目を凝らしてみると、結界に亀裂が入っている事が確認できた。
……あれだけの戦いでむしろ亀裂だけで済んだのかと、自分で創っておいてなんだが、思わず身震いしてしまう。
確かに創り上げた当初は、アレとかソレが出来たらな〜と割と強めに想っていたが……。
どうやら、俺の予想以上に想いと魔法の結び付きは強いらしい。今回は偶然ソレが良い方向に作用したが……。
……いや、待て。よく考えたら、この強度を誇る結界にディネアンは、俺にバレないように穴を開けたのか?ほわっつ??
────ここでも経験差を感じる。俺の精神衛生上良くないので、深くは考えないようにしよう。
「……で、ディネアンが見当たらない訳だが。最後の方で抵抗が無くなっていた事を考えると、勝った……って事で良いんだよな……?」
「やったか?!」はフラグになるので言いたくない。アレ言ったら大抵は生きちゃってるから。煙晴れたら無傷の敵が高笑いして出てくるから。
しかし、こういう所で油断してはいけないのは事実だろう。「やったか?!」して実は生きてました、からのグサッ!チーン!敗北!だけは避けなければならない。
結界内に俺以外の気配が無いか、念入りに探知を掛ける。俺の結界内であるので、隅から隅まで一瞬で確認する事が出来る。
──────ん〜?……無い、か…………?
「(……私達も一緒に探してみたけど、それっぽいのは無い)」
「(少なくとも、結界内には反応はありませんよ)」
手伝ってくれたのか、凄く嬉しい。
俺一人だけでは心配過ぎたからな。自分を信用し切るのは良くないぞ!
「無いって事はつまり、勝ったと確信を持って言えるという事では?」
「(……ん、結界から出た気配も無かったし、そう言ってもいいと思う)」
「……そっか……そっかぁ……。勝ったかぁ……!」
「(お疲れ様です、黒斗様)」
感無量とはこの事を言うのか。
一時的に魔力の床を創り出し寝っ転がり、空を見上げてみる。……うーん、黒い。感動が台無しだ。
まぁ、今の俺に青色の空なぞ似合わない。これが丁度いいのかも知れない。
「……神殺し……出来ちゃったなぁ……」
正直に言おう。勝利の達成感がやはり一番強いと言えば強いが、ナイーブな気持ちも多い。
神殺しが出来てしまったという事はつまり、ディネアンが言っていた"俺が神の領域に片足突っ込んでる"ってヤツ。あれが本当だと云う証明になったからだ。
普通は喜ぶだろう。なんてったってあの"神"だ。そんな次元が違う存在に近付けたと言うのだから、喜ばない訳が無い。
だが俺は違う。
いや、そりゃ俺だって厨二病の端くれ。嬉しいと言えば嬉しいのだが……。
しかし俺の心は、自分で思うよりもそんなに単純な奴では無いらしい。
「……この神殺しは仕方が無かった。殺らなければ世界が消える。……そう正当化するのは簡単なんだ。でもなぁ……ディネアン、どうにも本気を出して無かったんじゃないかと思っちゃうんだよな……」
所々に手加減と言うか、なんと言うか……"必死さ"?を感じなかったんだよな……。そこがどうにも不完全燃焼だ。
「それにだぞ? 今更な考えではあるが……。俺、ここに来るまでに何人殺した? 一体どれ程の屍の上に俺は今立っているんだ?」
戦いが終わった事により興奮が落ち着き、そんな事ばっかりが頭の中を反芻する。
アレが一番早くこの場所に来る方法だったと俺は思っている。しかしもっと上手い事死人を出さずに解決出来た物事なんじゃないかと、今になって考えてしまう。
覆水盆に返らず、とはよく言った物で、今考えたって仕方が無い事だとは分かっているのだ。やった事は事実として残って、もう戻らない。でも、どうしても……考えてしまう。
"神の領域に片足突っ込んでる"だなんて、あんな事をした後に言われたって……なぁ……?
……これ以上考えちゃうのは良くない、か。
何にせよ、俺は今ディネアンに勝った。それもまた変わらない事実なのだ。
それに、教祖を逃がした事が気掛かりだ。
レイゼさんに連絡してくれてたんだったか?
「(……ん。優秀なので)」
頼もしいなぁ、本当に。俺とは大違いである。
……本当は巻き込みたくなかったのになぁ……。完全に教祖を逃がした俺の失態なだけに、心へのダメージが加速する。
「とりあえず出るとしよう。結界の維持の為に魔法陣に流してる魔力ですら、今は鬱陶しく感じる」
これだけやって尚魔力欠乏の様な感覚は無いが、それでもこれだけで鬱陶しく感じるのは、精神的にほんの少しだけ余裕が無いからだと自己分析する。
この精神状態じゃ出来ることも出来なくなる。早めに出た方が自分の為になるだろう。
「(黒斗様、大丈夫ですか?)」
「(……ん、私の強化、休んでからにしよ?)」
「それはダメだ……って言いたいけど。魔法と想いの繋がりを確認出来ちゃった今、そうとも言えないのがなぁ……。確認する事したら、その時に休むか考えよう。ほんの少しだけだし、その時になったら回復してるかもしれない」
ちょっとショックなだけだ。覚悟を決めた決めたと言って、ここで冷静になってまた萎んじゃうとか、ダサすぎるだろ。
「(……ん、そんなに急ぐ事なの? 私は後からでもいいのに)」
「理由はちゃんとあるんだぞ? 純粋にグレイスを強くしてあげたいのと、もしかしたら今日の内にまたイレギュラーが起きるかも知れないから、落ち着いたタイミングでちゃんと備えたい」
「(…………ん、そっか。……何にせよ、ご主人は自分の身を第一にね)」
分かってるさ。
グレイス達に癒してもらうよ。
「(……ん)」
「(……悩んでる……いえ、
……そか。
こうして、武器っ娘達に心配されながらも、俺は次の行動に移る為に結界の外へと身を乗り出した。
──────────
────出た、のは良いんだけど、さ……。
これ、どういう状況?
「ご主人様、お待ちしておりました」
「ムグー! ムググ、ムムムググムグ?!」
「レ、レイゼさんに言われて着いて来たら……なんか凄い姿になってる?! アンタどうしたの?! 最後に見た時と姿が変わりすぎよ! 主に背中部分が!」
「お姉ちゃん、声大きいよ! ──で、でも、黒斗さん……本当に凄いですね……。そ、そそ存在感って言うんでしょうか……わわわわ私、い、生きて帰れる……?」
出てすぐ左手側には、綺麗な礼をしてお迎えをしてくれたレイゼさん。レイゼさんの傍には、口に布を噛ませられ、縛られて雑に扱われているストーカー君。そして、何故かレイゼさんと同様のメイド姿をして俺の羽に指を指す夏希ちゃんと、同じくメイド姿であわあわと涙目になっている夏美ちゃん。
これだけでもソコソコの情報量だが、まだまだこんな物じゃない。
──右手側をご覧下さい。
「ム゛ク゛ーー!!」
「──ふうちゃん。黒斗さんって、メイド趣味があるのかなぁ……?」
「めいちゃん、止めてあげなさい。……男の子には、秘密にしたい事だってあるのよ。──それにしても、あの指差してるメイドの子、なんか親近感湧くわね……」
最早些細な動きも出来ないだろう程に厳重に縛られ吊るされており、声を出す事も許されずに唸ることしか出来ない|教祖
そして、最近定時退社が多くなったハイライトさんをやはり宿していない明華ちゃんと、夏希ちゃんに親近感を覚えている風花ちゃんが居た。
…………レイゼさんはまぁ、分かる。うん。ストーカー君も一応関係者っぽいから、応急処置だけして縛ってあるんだろう。
……………………何故明華ちゃんと風花ちゃんがここに……?
「なんでって顔してるわね、アンタ」
「バレたか……」
「そりゃバレるわよ、顔に書いてあるんだもの」
「前から言ってる気がするけど、そんなに分かりやすいのか……?」
「いえ、文字通り
「え? ……あっコラ! グレイスか刀ちゃんのどっちかだな?!」
「(……ん、バレちゃった。てへ)」
武器っ娘達の仕業だと気付くと、すぐに頭の上にあった『なんで?』と書かれた魔力の気配が霧散していく。
恥ずかしい……。
「仕方ないからなんでか説明してあげるわよ。とは言っても、連れてこられた理由はあんまり分かってないけど。……簡単に言うと、私達もレイゼさんに連れてこられたのよ」
「突然だったよね〜……」
えっ?そうなの?
「課題間に合うかなぁ……?」と期限の心配をしている明華ちゃんと風花ちゃんから、件のレイゼさんへと顔の向きを変え、視線で説明を求める。
「はい、嘘偽りなくお答え致しますと……その、大変お恥ずかしながら……お二方に手をお貸しいただいたのは、私の癖と申しますか……心配性を発揮してしまった為でございます……」
おおう?
もっと論理的で整然とした理由なのかと思い込んでいて、驚きで少し目を見開いてしまう。
レイゼさんはそれを"怒り"と勘違いしてしまったようで、目線こそ逸らさないものの、手をギュッと握りしめる。
あぁ違うんですレイゼさん違うんです!!別に怒ってはないんです!
慌てて訂正しようとするが、そんな俺の挙動を見て更に勘違いを加速させたレイゼさんが、目を少し逸らしてさらに言葉を紡ぐ。
なんでこうなっちゃうんだッ!俺の馬鹿!
「ご主人様がお二方を大変気にかけている事は当然承知しております。私達を巻き込みたく無かったという事も。……しかし、グレイス様に連絡を貰ったタイミングで丁度その心配性が私の奥底から顔を覗かせており、命じられた通りにお二方の安全確保をしていた際にそのまま声を掛け……と言った経緯になります。……申し訳ございません……」
(……やっぱり黒斗さん、私達を気にかけてくれてたんだね……)
(めいちゃん、今真剣な雰囲気だから。しー)
な、なるほど。取り敢えず明華ちゃんと風花ちゃんがいる理由は把握した。レイゼさんが心配性になったのは俺のせいなんだし、別に気にしては無いんだけどな……。どう伝えればいい……?
か、考えろ……。
しばらく返答に迷って無言の俺を見てまだ怒っていると思われたのか、レイゼさん以外の周りの人からも声が飛んでくる。
「その、黒斗さん。悪気があってレイゼさんは私達を呼んだ訳じゃなくて、黒斗さんの事が心配だったから私達にも声を掛けてくれたんです。だから、許してあげてくれませんか……?」
「めいちゃんの言う通りよ。ここで許せない程アンタを小さい器に育てたつもりはないわよ」
風花ちゃんに育てられては無いけども。
な、何故か俺がレイゼさんを許そうとしない頑固者みたいになってる……。
「(……ん、言葉足らず。普通に話せばいいと思うけど……)」
いいか、グレイス。
明華ちゃんは俺の推しだぞ?
会話する事で頑張って慣れたけど、今ここには明華ちゃん以外にも人が居て、しかも大変気まずい空気になっているんだ。オマケに俺以外全員女の子。
────こんな状況で俺が喋ったら、間違いなく思ってもいない変な言葉が口から出てくるぞ。
まだテンパり癖も完全完治とまでは行ってないんだから。
「(……変なご主人。……ん、知らない人は居ないし、仕方ないから助けてあげる)」
グレイス様!
「(……んぅ、自分の武器に様をつけないの、ご主人。なんかムズムズするから)」
すみません!!
そう言うとグレイスは俺の手から離れて浮遊し、少し光ったと思うと見慣れた人型になった。
人型になったグレイスを見て、主人公二人組は笑顔で手を振り、姉妹ちゃん達も少し驚きながらも挨拶していた。
「……あ、武器の時の私は夏希と夏美に見せてなかったんだった。……ん、失敬」
姉妹ちゃん達に武器形態の姿は見せてなかったんだ?成程、道理で驚いている訳だ。少し驚くだけでしっかり挨拶出来るのは、姉妹ちゃん達が強い子達だからだろう。
「……ん、まぁ武器な事は言ってたし、それもあるんだと思う。……ん、それは今は置いておくとして。レイゼ、連絡して直ぐに来てくれてありがと」
「あ、い、いえ。元々ご主人様からの命令もございましたし、大丈夫ですよ」
お礼言えて偉い!
「……ん。このオジサン、何か怪しい事してた? ……あと、レイゼは何もされてない?」
「何もされてないですよ、ご安心してください。怪しい事、と言えば……あぁ、そこそこの数の信者の方々と祈りを捧げておりましたね」
「結界から出して貰って、やる事が祈りか。……ん? でも、この場には
「ご主人様のお手を煩わせる訳にはいきませんので、色々と考えた上で私が処理致しました」
……大体察してましたよ。
巻き込みたくないって言いつつもコレとは、自分の不甲斐なさに涙が出てくるね。……いや、マジで。何回でも自虐するぞ俺は。
「……ん。ご主人、悲しそうにしてたら幸せが逃げるよ。本に書いてあった」
「あ、ああ……。そうだな、ごめん」
「……ん」
コクリと頷くと、グレイスは改めてレイゼさんへと向き直る。
「……レイゼも、そんな悲しそうにしないで良い。……ご主人、別に怒ってないよ」
「……え?」
グレイスの言葉に、目を点にして理解出来ていないレイゼさん。
いやホント、元はと言えば全部教祖を逃がしちゃったからなんです……すみません……。
「グレイスの言ってる事は本当だよ。……ここで言うのも恥ずかしいけど、確かに俺は二人の事を気にかけてる。何かあったらきっと取り乱すくらいには」
「う……」
「でも、だよ。レイゼさん」
「……?」
レイゼさんが顔を伏せていて目が合わなかった状態から、ちゃんと顔をお互いに見合い、向き合えるようになる。
「──俺は、そんな事じゃ怒らない。いや、身内相手には"怒れない"よ」
「え……」
「正直俺は命が危ないような敵相手ですら、何か事情があればつい同情しちゃうくらいには甘い。自覚は……まぁ、無きにしも非ずだけど。さっきディネアンに言われて思い直しちゃいそうなくらいだし」
なんたって、精神年齢的にはまだ高校卒業したくらい。そこまでガンギマリにはなれてない。
……そのレベルにならないといけない、とは分かってるんだけどね。人って難しい。
「……そんな甘々な奴がさ、結果的に怪我もしていない大切な人に、どうして怒れる? 巻き込みたくなかったのは
「怒れない……です、か」
何となく気まずくて、ポリポリと頬をかく。
「まぁその、なんて言うんだろう。俺の気持ちをいっぱい汲んでくれた上で、凄く考えた結果、俺の身を案じてやってくれた事が嬉しくもあるんだ。……俺ってそんなだからさ、レイゼさん。俺を想ってくれるなら、今は────笑って欲しい、かな」
勿論、全部本心からだ。考えた事が後先考えずに全部口に出た、とも言っていい。
「私は、まだご主人様に笑ってもいいのでしょうか……? 普通、メイドが勝手にこんな行動をしたら厳罰物で──」
「……レイゼ、私
「グレイス……。──ご主人様、胸をお借りしてもよろしいですか?」
「バッチコイ! グレイスで慣れてる!」
「ありがとうございます。……す、す────」
「す?」
「────すみませんでしたご主人様ぁぁぁぁ!!」
レイゼさんが謝罪しながら胸へ飛び込んでくるのを、勢いを殺しながらキャッチして抱き締める。
顔を埋めているのは……あぁ、服が濡れてる事から察するに、また泣かせちゃった様だ。
周りに人が居る中なので、一応羽を大きく広げ、後ろを向く。これで見えはしないはず。
……泣かせてばっかだなぁ、俺。
もう、金輪際こんな泣かせ方は無いように……終わったらちゃんと全部言葉にして伝えるとしよう。
今は一旦、レイゼさんの内側に溜まっていたであろうモノを、全部出させてあげるとしよう。
神父とストーカー君の動向には気を配りつつ、な。何も出来ないだろうが。
また長くなりました。
多分次回はすぐ上がるけど、短めな予定です。
レイゼさんはもう今後しばらくは曇りません。いや嘘です、反省した黒斗君次第です。
メモ機能で三人称の練習をしてる時、三人称書きやすすぎて少し後悔気味なのは内緒です。
ここまで見て下さり、誠にありがとうございます!よろしければ是非感想・お気に入り・評価をお願いします!
作者の励みになります!
出来れば面白くなかったと思った時は出来ればでいいので理由も教えていただけると……。参考にして面白い作品を描けるよう頑張るので…