黒夜、後に白日~裏ボス転生者、周りを曇らせながら能天気に戦います~ 作:せみふぁいなる
早いもので…。
グレイス達が自己紹介を終えてから、更に二月ほど経った。
俺がこの世界に来てからもう1年ほど経つのかと、驚きを隠せない。楽しいと時間を忘れるあの感じがずっと続いているが故か。
あれからは、武器形態のグレイスを使った修行……まぁ要するに近接戦闘の練習をしていた。
レイゼさんに無理を承知で訓練の手伝いを頼んだ所、「近接戦も教えられる」と言われた時は凄く驚いた。メイドさんって出来ないことは無いんだなぁと、すっかり思考が染まってしまった。
そして本格的に戦闘訓練をするにあたって、近接のみと何でもありの実戦形式の二つをこなして行く事にした。
どうせ体のスペックの関係上で結構無理は出来るし、更に原作開始まであと一年しかないという状況なのだから、突き詰められるところは突き詰めていこうというわけだ。
今の生活は楽しいのだが…しかしだ。調子に乗ってしまう癖が俺にはあると自覚しているので、調子に乗る暇もない程限界ギリギリまでレイゼさんにしごいてもらっている。この体だと、大体ぶっ続けで練習して13時間とかかな?…いや、もうちょっとあるか。
正直今のペースだと間に合わないかもしれないし、ストイックにいこうと思う。
黒魔力はどうやら、本当に扱い方次第で割とどんなことも出来るらしく、俺の体の治療も黒魔力で行っている。
普通に回復魔法もあるのだが、それは黄と緑と青の魔色が使える魔法なので、大人しく自分の魔力を使っているのだ。どうせ自分の魔力の上限値なんて青天井だし、いくら使っても困ることは無い。
「さて、そろそろ今日の戦闘訓練の時間だな。今日も一日頑張っていこー!」
「……」
「レイゼさん?どうかした?」
「…いえ、なんでもございません。」
「そう?ならいいんだけど…。今日もよろしく、レイゼさん!」
「…はい。よろしくお願いいたします」
うーん?レイゼさん、なにか悩みがあるのか…?心ここに在らずといった感じだ。
心配だし、それとなく聞いてみるか?それとも、レイゼさんが自分から言ってくれるのを待つか?
うーん、悩むな…。
……その時の場の空気で決めるか。それで行こう。
後ろから着いてきてくれているレイゼさんの足取りは、少し重いようだった。
棒立ちのレイゼさんを前に、油断せずいつでも対応できるように集中する。
ジッと見合い、一瞬だけ瞬きをしたその時。
瞼を開けた瞬間には、レイゼさんが目の前に迫ってきていた。
「ッ!あっぶな…」
切りつけてきたナイフを受け流し、グレイスで切り払いながら下がる。
当然のように避けて追撃してくるので、切り払いの勢いを使ってそのまま回転蹴り。
そんな隙だらけな行動を見逃してくれるほど、レイゼさんは甘くない。
(そう来るよなっ!)
蹴りをいなしながら高速で追撃してくる。何回見ても速い、が!伊達に2か月練習してる訳じゃなぁい!
ナイフをグレイスの柄で弾き、接近して二本目のナイフを刺そうとしていたレイゼさんの腕をなんとか掴む。
グレイス、乱暴な使い方でごめん!
「(…後でいっぱい撫でてくれたら許す。)」
もちろん!いっぱい撫でさせていただきます!
「(…ん。あと、ご主人もちゃんと休んでくれたら。)」
俺は普段から十分に休んでるから、安心しなさい。
「(…んー。納得できない。)」
グレイスの機嫌を取りつつ、俺はこのチャンスを活かすため、レイゼさんの勢いを利用して、そのまま空中へ投げ飛ばした。
(…空中に投げ飛ばしたからと言って、身動きが出来ない訳ではない。ここは魔法の世界だからな、油断するなよ俺!)
投げ飛ばしたレイゼさんを追うように俺はジャンプする。
最初は跳びすぎるし、速度が凄いしでビビっていたが、今はもう慣れた。
王手をかけるために、俺はグレイスを構えて攻撃が飛んできても防御できるようにしつつも、持ち替えて刃の部分をレイゼさんに向ける。
それがいけなかった。
(消え…ッ?!どこだ?!上?下か?横か?!)
刃の部分で一瞬、ほんの一瞬だけレイゼさんが隠れた事により、その一瞬の隙を突かれてレイゼさんが目の前から消えたのである。
あの一瞬で何をどうやって見られないように移動したんだ?!
そうこうしている内に、レイゼさんの声が聞こえる。場所は…
「後ろ、でございます」
「まっ…?!」
急所は外してくれているが、ほんの僅かな時間で7、8回ほどナイフで切られた後、踵落としで地面に叩きつけられる。
「…っぁあ~、いっっったぁぁぁぁ……。また負けかぁ~……」
「…私の勝ち、でございますね」
魔力なしの近接戦闘訓練、現在120戦120敗。あともう少しな気がしないでもないんだけどなぁ…。
「グレイス、戻っていいよ。約束通り撫でたげよう」
「…ご主人、今後もあの使い方する?」
「うっ…。ちゃ、ちゃんとお手入れするから許して…」
「…それなら。別に痛い訳でもないし。さぁ、はやく撫でて、ご主人。さぁ、さぁ」
グイグイと頭を差し出してくるグレイスを撫でつつ、俺は少し考え事をしていた。
と、いうのも。最後にレイゼさんが目の前から消えた方法だ。この勝負は魔力なしの純粋な近接戦を鍛えるためにしている。なので、魔法で消えたとか、そういう事はないはずなのだ。
しかし、じゃあどうやって…?
「最後の消えた方法は簡単でございますよ」
「ナチュラルに心読むのね。もう慣れたけど。…それで、その方法とは?」
「本当に簡単な話ですよ。私が見えなくなったその瞬間に、空を蹴り捉えられないスピードで近付いた。ただそれだけにございます。」
…え、えぇ…?魔力無しで空を蹴った、とな…。いや、魔法の世界だから油断するなとは思ってたけど、だからってそんな…。
しかも、そろそろ戦闘慣れしてきた俺の動体視力すら上回ってない…?
「…俺も出来るようになる?それ」
「練習すれば出来ますよ。…そんな事よりも、です。はやく怪我を治してください。痛んでしまっているでしょう?」
「あぁ、考え事してたせいで忘れてた」
思い出すと痛い傷ってあるよね。あと、気付いた時とか。紙で切った傷とかいい例だと思う。
癒しの特性を持たせた魔力を傷の部分に流し、その場所で循環させる。たったこれだけで、どんな傷もこの通り、っと。力の使い方、もう割と完璧レベルな気がする。努力した甲斐があったな。
「傷も治ったし、ちょっと休んだらもう一本いい?レイゼさん」
「…ご主人、ちゃんと休まないとダメ」
「うん? 大丈夫だよ、この体頑丈だし。まだまだいけるいける、余裕だよ」
グレイスが物凄いジト目で見てくる。でもなぁ…もっと強くなりたいし、近接戦を優雅に出来るようになるとカッコイイし…。
今の俺の戦い方じゃ、まだ綺麗な戦いとは言えないからなぁ…
そんな考え事をしていると、少し怒りのオーラっぽいものを纏っているレイゼさんが声を掛けてくる。
「…私も、休んだ方が良いかと思います。無理はなさらない方が良いかと」
「うぇ?でも、無理なんてしてないし、俺はまだやれ「休んでください!」──る? レ、レイゼさん?」
……この世界に来て、初めてレイゼさんに感情をぶつけられた瞬間だった。
「この2か月間、ご主人様はマトモに休んでいません。 それに傷はすぐに治るとはいえ、その傷が付いた時の痛みが怖くないなんて事は無いはずです!」
「レイゼ…さん…?」
レイゼさんが少し涙目になりながら、淡々と、されど胸の奥にしまい続けていたであろう感情を溢れさせるように話す。
「ご主人様の体は、確かに頑丈です。それに、体力も疲れ知らずな程に多い。 しかし、痛みはなくなっていないはずです。事実、ご主人様は先程も心の底から痛そうに声を上げていました。 血が出れば、傷が付けば誰しも痛いものなんです。 そしてそれは、心にも傷を残す時がある」
少し、レイゼさんの目からこぼれ落ちる。
「更に言うならば、自分が好ましく思っている人や、身近な人が傷付いたのを見た人にだって、ソレは深く残ってしまうでしょう」
「そして、それは私だって、例外ではございません」
そう言ったレイゼさんは、声を震わせながら。
自分の内に秘めていた想いを、この期間我慢していたであろうモノをとうとう吐き出した。
「私は、ご主人様が傷付いているのを見るのが……とても嫌です」
「普段は私達に優しい貴方が、自分には優しくないのが嫌なんです!」
「この2か月、その見たくない傷を、自分自身で付けてしまっているという事実にもう耐えられません! 主人を自らの手で傷つけて喜ぶメイドがどこにいると言うのでしょうか?!」
「ご主人様の助けになりたいから、と断り切れない自分も嫌です! 今までは、ボロボロになってしまった貴方を支えていることで助けになれているって、そう思えていたのに! 怪我をした貴方を見たくないはずなのに!」
そこまで言うと段々と落ち着いてきたのか、声が徐々に小さくなっていく。
「……なのに、貴方を自分の手で傷付けているというその事実に。段々とそう思い込めなくなって、貴方の望みを叶えたいという想いと、無理して欲しくないという私の想い、相反した心を持ってしまった私が、嫌です…」
そう言うと、レイゼさんは座り込んで、顔を手で覆ってしまった。
………俺の、せいか…。ちゃんと人の気持ちを考えようとせず、自分ばかりが先走ってしまったから…。
「…ん、レイゼの言うことに同意。私も、ご主人が傷だらけになるのはあまり、見たくない…。 強くなるためには仕方ないかもしれないけど、せめてちゃんと休んでほしいって、そう思う…」
「…ご主人を守る武器として使われている私が、こんな気持ちになっているなら…。 レイゼの気持ちは、きっともっと悲しいことになってる…」
───……気付いてなかっただけで、俺って二人にちゃんと心配されてたんだな…。俺が構わなくても、二人がどう思うかなんて考えてもいなかった。
そんなんじゃ目標以前に、人として失格という物だろう。
「──二人とも、ごめん。今まで、俺がそこまで大事に思われてるって気付けなかった…。 レイゼさんの言う通り、痛みに慣れなんて無いし、恐怖だって感じてた。でも、訓練に付き合ってくれるからって、もっと強くなりたいからって我慢して……。 傷を付けさせてしまっている本人の気持ちも、それを見ている人の気持ちも考えられてなかった。 謝って済まされることではないと思うけど…。本当に、ごめんなさい。すみませんでした」
二人に向かって、頭を下げる。許されなくても仕方ない。それだけの事をしてしまったという事は、よく理解できていた。
少し間を開けて、前の方からレイゼさんの声がする。
「……今後は、あまり無茶はしないと、約束してくれますか?」
「…絶対という保証は出来ないけれど…。それでも、なるべくしないと約束する」
それを聞いたレイゼさんが、何か言いたい事を我慢するように溜息をついた。
「……なら、良いです。…許します。ご主人様の頼みを断れず、今まで本音を言うことが出来なかった私も、きっと多少なりとも悪いですから。 でも、今日からは近接訓練は少しルールを変えて、あまりお互い傷つけないようにしましょう。…じゃないと、私が耐えられません。 」
「…でも、それだとあまり戦闘訓練にはならないんじゃ…?」
「大丈夫です、優雅に戦いたいのでしょう?なら、一発も当たらないようにしませんと。 傷付けないだけで、他はちゃんと厳しく行かせていただきます」
「……よろしく、お願いします…」
これからはより一層厳しくなるらしい。…まぁ、怒られて当然の事をした訳だし…。
これは、心構えをしかっりしておかないと…。
レイゼさんと話していると、グレイスもこちらに話しかけてくる。
「…ん、ご主人には謝られてばっかりな気がする…。でも、私は優しいので。…これからはちゃんと休んでくれるなら、私も許す」
「ああ、これからはちゃんと心配されないように、ゆっくり休む時間も作るよ。…許してくれて、ありがとう」
「…ん、失敗は誰にでもある。しっかり反省してくれるなら、いい」
グレイスは天使な武器なのかもしれない。
「…ん、今までのお詫びで、また撫でて。ひと段落ついたことだし。さぁさぁ」
「グレイスさん、まずは帰って食事にしませんか?」
「…んー、じゃあ帰ってどっちも堪能する。」
……これからは、本当に反省して、自分ばっかり突っ走っていくのはやめよう。この景色を守るため。そして俺の目標を、納得のいく結果で達成するためにも。
「…ん、ご主人、はやく来る。置いていくかもしれない。」
「…あぁ、すぐ行く!」
まだまだ頑張っていこう、一人だけではなく、助け合って。
ありがたい事に、お気に入り登録や、最近だと評価もいただいたので、モチベが上がっております。ここの文変だぞーとか、こうすると良いとか、あったら言ってもらえると助かります。普通の感想も大歓迎です。
…承認欲求モンスターはどの人の中にもいるものです。(目逸らし)
-追記-
5/16、読みやすくなるように調整致しました。心の描写、ムズカシイネ……
ここまで読んでくださりありがとうございます!気が向いたら是非、感想・評価をよろしくお願いします!