その双子特殊につき 作:昼瀬七
あれからずっと考えていた。
まふゆはぼくがどこかに行こうとすればすぐに止めた。お手洗いですら訝しんで、階段を一緒に降りた。
学校はいつも通り通っているみたいだ。ぼくは気分が悪くて、時折学校を休んでいる。むしろ今は、取り繕っているまふゆを見たくないと言った方が、正しいような気さえした。何も要らない、1人になりたい。消えてしまいたい。そう叫んでいるのに、まふゆは結局、母さんやみんなの言う良い子の仮面を捨てることが出来ていなかった。当然だ。
ぼくらはそれしか、方法を知らなかった。
あの日、ニーゴのみんなに会わせるのは間違いだったのだろうか。ぼくは結局、あの子の心をさらに傷つけることしか出来ていないのではないか。そもそもまふゆは、彼女らの存在を求めてはいなかったのだから。ぼくの行動は裏目に出てしまったのだろうか。ぼくは、どうすれば良かったのだろう。
何度考えても、体調の悪い今のぼくでは答えなんて出なくて。その原因もまた、連日こうして頭を悩ませていることと心労だから、余計に考え込んでしまっていた。グルグル、グルグルと、何回も巡って原点に戻る。
ぼくはやっぱり、ただまふゆの笑顔が見たいだけなんだ。それだけで、他はない。ぼくでなければ見られない、今はぼくのせいで見ることの出来ない笑顔が、まふゆの心に触れたいと願う。そのためにぼくが出来ることは、きっと同じように足掻き続けることだけ。奏達の力を借りて、何度もまふゆに訴えることしかできない。
「どーしよ……」
あの時。奏はまふゆに手を伸ばしていた。まふゆに。彼女は優しいから、きっとまふゆの心を探すのを手伝ってくれる。でも、ぼくは?
ぼくは、救われたいの?
ぼくは、変わりたくないだけなの?
本当に、本当にそれだけ?
あの時確かに、ぼくは寂しかったような気がして。
「ふゆき?体調はどう?」
「あー……何とか」
「お昼は食べられる?持っていくわよ」
「ううん、降りるよ。部屋にいてもつまんないから」
部屋の外から母さんがぼくを呼ぶ。ここ最近続くぼくの不調に、母さんも心配してくれているようだった。今まで双子はずっと同じだった。体調不良も、ぼくが長くなればまふゆも長くなる。未だその影も見せないまふゆを送り出した後は、しきりにぼくを気にしていた。
「もう一度お医者様に診てもらいましょうか」
「いや、いいよ。風邪って診断だったもん」
「でも……」
「最近考え事してたんだ。だから多分、疲れてるだけ。心配かけてごめんね?」
「本当に?」
「……え?」
「まふゆともあんまり話していないみたいじゃない。喧嘩したの?」
「……」
もういっそ、全て話せればどんなに楽になれるだろう。
まふゆの悩みも、ぼくの悩みも。元はと言えば、在り来りな言葉でぼくらを縛る母さん達がいけないのに。まるで自分たちには関係ないかのように、ただ娘を心配する良い母親を心掛ける母さん。母さんに悪意はない。もしかしたら、受け入れられないぼくが本当に悪いのかも__
「あのね……」
口を開いた瞬間、玄関の扉が開く音がした。誰かが帰ってきたのだ。父さんがこんな早い時間に帰ってくるわけがない、消去法でまふゆだと思った。でも、まだお昼を過ぎたくらいの時間だ。まふゆだとしても早過ぎる。固まるぼくを置いて、母さんは玄関へと出迎えに行く。
「おかえりなさい、まふゆ」
「ただいま、お母さん」
「お昼は出来ているわよ。さぁ、手を洗っていらっしゃい」
母さんは不思議に思っていないみたいだ。それじゃあ今日は元々早い予定で、ぼくはそれを失念している。いや、1つだけある。いくら興味が無いとは言え、学校の予定を覚えようとしないぼくではない。ぼくが知らないのなら、まふゆが母さんに嘘をついたのではないか。
まさか。母さんには強く出られないはずのまふゆが、ぼく無しでは何も言えないまふゆが、そんなこと__
「……どうしたの、ふゆき?そんな、驚いた顔をして」
洗面所から戻ってきたまふゆの瞳を見て、確信した。
そこにはぼくしか映らない。
「まふゆ……嘘、ついたんだ」
「どうだろうね。でも、そうだったら何?」
「……ぼく、大丈夫だよ。心配させてごめんね」
先日の1件から、ぼくはまふゆに歩み寄ることが出来なくなっていた。当然だろう。彼女がぼくを愛している気持ちは、姉妹や家族のそれを大きく超えてしまっているのだから。気持ちは嬉しい。けれど、それじゃあぼくらはいつまでもこのままだ。
まふゆにはぼく以外の頼れる人が必要だし、ぼくにだって1人の時間が必要。そうでなかったから、こうなってしまったんだから。
「ふゆき。本当に大丈夫?」
「……っ」
眉を下げて寂しそうに彼女は言った。嘘はついていないはずなのに、罪悪感が刺激される。
「あら?ふゆき、熱が上がったんじゃない?顔赤いわよ」
「へっ」
「……本当だ。ふゆき、部屋に戻れる?」
「うん……でも、ぼく1人は寂しい。おねーちゃん、ご飯が終わったら来てくれる……?」
「うん、もちろん。少しだけ待っててね」
まふゆが優しい手つきでぼくの頭を撫でてくれる。どうやら本当に体調が悪化したようだ。
ぼくは何がしたかったんだろう。
こうして愛してくれるまふゆを拒絶してまで、まふゆの心を必死に探す意味は、果たして本当にあるのだろうか。
冷たいベッド。あの日から、ぼくは自分の部屋で寝るばかりだ。
まふゆを遠ざけたいわけじゃない。それでも、彼女の気持ちを抱えられるほど、ぼくは大人にもなれなかった。
妹は優しい子だ。
こんな私の傍にいるために、あちこちに奔走する優しい子。それを私が望んでいないことを知っていても、世間一般の普通のために、私を探している。
だから、意地悪なお姉ちゃんに好かれてしまうんだ。
知ってるよ、ふゆき。あなたが私を拒めない理由。私たちは双子なんだから。どこにも行けない、行かせない。2人だけのセカイで、ずーっと居たいと思っていること。
もし時間を巻き戻せるのなら、何時に戻りたい?
そう、ふゆきが聞いてきたことがあった。
彼女は、私たち双子が苦しまずに笑っていた頃に戻りたいと、寂しそうな顔をして言った。
私はその時答えなかったけれど、今なら分かるよ。
私は、私を見失った頃に戻りたい。
そうしたら、もっとずっと私のことを見ていてくれるよね。
拗らせ過ぎているかもしれません。