その双子特殊につき   作:昼瀬七

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ほんとうは

突然だが、ナイトコードのメンバーは揃いも揃ってとある悩みを抱えている。

 

その大きさやそれに対する感情も違うけれど、それでも先日まふゆに言われた言葉が忘れられないくらいには、存外人のことを言えないほどには苦しんでいた。

 

 

画家の父親との間にある、埋められない才能の差。

無感情にも思える父の瞳と言葉に、何度も苦しめられてきた絵名。諦めずに筆を取って、数え切れないほど心を折ってきた。越えられない高い壁が目の前にあって、憧れに突き放される気持ちは、誰にも推し量ることは出来ない。

 

 

自分自身を強く持って、可愛らしい格好がしたいだけの瑞希。しかし世間の好機の目は瑞希を射抜き、時に攻撃的に貫いた。受け入れてくれる一部の友人の優しさに安らぐのも束の間、常にその身は関心の真ん中へ置かれている。理解して欲しいとは思わない。ただ、放っておいて欲しかった。

 

 

作曲家の父の作る曲が好きだった奏。父のように誰かの心を救える曲が作れたら、そう思って鍵盤を弾いた。優しく頭を撫でてくれる手に応え、父の笑顔を見たい。それなのに、奏の曲とは裏腹に父の作る曲は評価を落としていく。生みの苦しみに嘆く父が早く目覚めるように、奏は願い今日も曲を作り続けている。

 

 

まふゆの放った言葉は正しかった。

今を変えられない3人は、1歩ずつ遅くても確かに前へ進もうとしている。泥濘に足を取られ、何度立ち止まろうと思ったか。そしてその足は、"消えてしまいたい"と叫んだまふゆによって、ついぞ止まってしまった。

 

 

モニターの光だけが差す部屋で、奏はあのセカイを思う。真っ白で何も無い、静かで冷たい不思議なセカイ。

ふゆきはそこを、まふゆの想いで出来た場所だと言った。誰にも見られることのなく、何も聞こえない。それはまふゆの心の現れなのだろう。消えてしまいたい。ふゆきと2人で居られればそれでいいと言った、何も写さない瞳が怖かった。

 

奏は何も無いセカイで目を閉じた。

硬い地面でも冷たくない。このまま楽になれたなら、心の底からそう思った。

 

 

しばらくそうしていると、ミクの歌声が聞こえてきた。

一般的なそれより低く、抑揚のない声。

それが奏が昔作った曲を歌っていた。

 

 

「奏?」

 

 

呼ばれた声に目を開けば、そこにミクがいる。

姉を想う哀れな妹が生み出したバーチャルシンガー。

歪な姿をした、初音ミク。

 

 

「ミク……」

 

「また、来たんだね。あの子を見つけに来てくれたの?」

 

「それは……」

 

「……そう」

 

 

言い淀む奏に、ミクは何も言わなかった。

まふゆの心を見つけてあげてと、以前に会った時にミクは言っていた。それは、ふゆきという心の拠り所以外にあるべきだった、まふゆの本心。

隠すことが当たり前になって見失ってしまったそれ。まふゆ一人ではもう見つけられないもの。ふゆきさえ、手の届かない不確かなもの。

 

困惑したまま、奏は目の前の疑問を投げかけた。

 

 

「なんでわたしの曲を知ってるの?」

 

「この歌は最初からこのセカイにあって、わたしは知っていた。それを歌っていただけ」

 

「わたしの曲が……?」

 

「あの子の作ったセカイは、何も無くて真っ白。でも、この曲だけはあった」

 

 

ミクは続ける。

 

 

「だから……奏の作った曲は、あの子の想いに届いていたんじゃないかな」

 

 

思い出す。

『Kの曲に、救われたような気がしたんだ』

まふゆは確かにそう言っていた。それを奏は、救えていたような気がしただけだと片付けていたのだが。

 

裏を返せばそれは、奏の曲だけでは足りなかったということではないだろうか。

 

例えば湖。

湖に物を落としてしまったとして、水面に近い場所だけを探しても中々見つからないことだろう。落し物が重ければ、湖底に沈んでしまっているからだ。

 

まふゆが見失ってしまった心も、そうだとしたら。

 

 

「……奏。きみが苦しんでいることも、こんなことを頼むのが間違いだってことも分かってる」

 

 

聞こえてきた声に、奏は弾かれたように顔を上げる。

双子の姉とそっくりな顔は、悲しげに奏を見ていた。ふゆきが、奏の手を取った。ひんやりとしたその感覚に、思わず息を飲む。

 

 

「ぼくの声はもう届かないんだ、同じじゃない。ぼくらは双子だけど、それだけだ」

 

「ふゆき……」

 

「奏。まふゆの気持ち、分かるんでしょ?」

 

「……うん」

 

「お願い。あの子を見つけてあげて」

 

 

奏とまふゆは、同種だった。

消えてしまいと思っても、今度こそはとまた曲を作る。それを繰り返して磨り減って、まふゆの方が先に音を上げたに過ぎない。だって奏も、さっきは消えるつもりでいたのだから。

 

彼女と同じ形の瞳が潤んでいる。涙を溜めるわけでもないのが、ふゆきの痛みを物語っているようだった。

 

 

「それが出来るのは、奏だけだから」

 

 

震える声に、奏は決意する。

救えなかったんじゃない。まだ、救えないだけ。

まふゆが、双子が、手を伸ばしてくれているのなら。

 

 

「わたしの曲で、まふゆは救えるの?」

 

「確証はない、ごめん。でも、ぼくはもうみんなを頼ることしか出来ない」

 

「……もしそうなら、わたしは作るよ。今度こそ、まふゆを救ってみせる」

 

「ありがとう、奏」

 

 

寂しげに笑うふゆき。その表情の理由を、奏は知らない。

 

 

 

 

(__まるで呪いみたいだ。

あの子がぼくに掛けたように、言葉で縛り付けて、逃げられなくして。

 

でも、そうしなければならない。

ぼくだけじゃない、まふゆだけじゃない。

まふゆが1番そう願ってしまっているだけで、みんながそうなんだ。

 

だったら、……だったら。

呪いだったとしても、ぼくはどんな形でもみんなを繋ぎ止めるだけだ。

 

例えこの先苦しんだとしても、簡単に救われないとしても。逃げることは悪いことじゃないんだって、ぼくは知っている。

 

ぼくが、みんなの逃げ道になれたら__)




原作ではこの時点での奏さん達はまふゆさんのお名前を知らないんですよね。

この作品ではふゆきが普通に呼んでるし、やたらと理解力のある3人も釣られて呼んでくれることでしょう。

さぁ、勝手に4人の心を背負う覚悟を決めたふゆき。
ただでさえまふゆの感情に耐えきれず知恵熱を出すくらいなのに、一体どれだけの時間持つのでしょうか。
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