その双子特殊につき   作:昼瀬七

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風邪ね、うん、風邪。
まふゆもふゆきも、何となくお互いがいれば生きていけそう。不安定な綱渡りみたいな人生。こういう仲の良さが1番怖いですね。


あのね、

大丈夫と聞いても、大丈夫しか返ってこない。

心配しないでと作った笑みを浮かべられる度に、胸の奥がズキンと酷く痛んだ。ぼくの前でくらいそんな顔をしないでくれと、何度零してしまいそうになったか。言ったところできっと、まふゆはぼくのおねーちゃんであることを辞めないと思う。

 

まふゆは今日、体調を崩して学校を休んだ。

ぼくも傍にいるよと何度も言ったのに、母さんは無情にもぼくを学校へと送り出した。それがあるべき母親の姿だからなのか、単にぼくをまふゆから引き離したかったのか、気が気でないぼくには分からない。

 

 

授業を受けていても、まふゆの体調が心配でいつも以上に耳に入ってこない。普段はすごく強い子だけれど、弱った時にぼくが居なければきっと寂しがっていることだろう。だって今朝、ぼくの部屋からぬいぐるみを持って行ったのを見ていたもん。

 

 

 

「朝比奈さん、聞いていますか?」

 

「はーい……」

 

「では30ページ目の漢文を読み上げてください」

 

「人にして信無ければ、其の可なるを知らざるなり」

 

「全く……授業に集中してくださいね」

 

「善処しまーす」

 

「絶対する気ないやつじゃん!」

 

「どうしたのふゆき〜?お腹空いたー?」

 

「そうかも」

 

「皆さん授業中ですよ!」

 

 

結局、何回注意をされても集中出来なくて、気づけば時刻はもうお昼を指していた。今頃まふゆは何をしているのだろう。ちゃんとご飯は食べたかな、今朝に比べて熱は下がったのかな、__ぼくのこと、探していないかな。

 

 

「ふゆき、今日のお昼一緒にどう?」

 

「まふゆ休みって聞いたけど大丈夫?」

 

「ふゆきもなんだか元気ないね」

 

「……ぼく、もう帰る。まふゆが寂しがってるから」

 

「えっ?」

 

「いや逆じゃない……?」

 

「ごめんね、また今度お昼食べようね!」

 

「帰ると決めたら元気になるって……どんだけシスコンなの」

 

 

何やら失礼なことを言われたような気がするが。早退を決めたぼくは急いで荷物をまとめた。まふゆほどではないけれど、ぼくも取り繕うことには慣れている。体調が悪いと嘯いて帰宅の許可を取れば、担任の先生は心配をしてくれた。双子だからそういう所も似ているんだろうと。でもごめんなさい、ぼく自体はすごく元気です。

 

校門を出てしばらく歩いていると、案の定まふゆからメッセージが届いた。何を言うでもなくぼくの名前だけが送られてきたのに、ぼくは彼女が何を求めているのかが分かったような気がした。

 

道中のスーパーでスポドリとゼリー、それからりんごを買って家路を急ぐ。玄関を開けて飛び込んでリビングに顔を出せば、母さんが驚いたようにぼくを振り返った。

 

 

「ふゆき?学校はどうしたの?」

 

「まふゆが心配でぼく、集中出来なくて。看病してあげたいの」

 

「勉強は大丈夫なの?まふゆは私に任せていいのよ」

 

「平気だよ、ぼくまふゆの妹だもん。それに、まふゆが風邪引いてる時はぼくも引いちゃうでしょ?」

 

 

嘘は言っていない。ぼくら双子は妙なところまでそっくりで、片方が体調を崩せばもう一方も崩す。片割れを思う気持ちからくるその症状は、これまでに何度もあった事例である。

 

何か言いたそうに顔を顰めた母さんを横目に、ぼくは洗面所で手を洗う。しっかりとバイ菌を落としてからりんごの皮を剥いて、買った物とそれを持って階段を駆け上がった。

 

 

「まふゆ!」

 

「……ふゆき?」

 

「体調は?辛くない?ぼくに出来ることある?」

 

「大丈夫、だと思う……けど、どうして……」

 

 

まふゆの部屋は気持ちばかり冷んやりとしていて、薄暗い部屋でまふゆだけが赤くなっていた。困惑している彼女を他所に、すぐ傍に座り込んでその額に手を当てた。

 

 

「まだ熱あるね」

 

「移るから、ふゆき」

 

「やだ。何か食べれそう?りんご剥いたよ」

 

「……食べる」

 

 

数刻前に測った体温は38度と聞いた。まだ高くて苦しそう。冷えピタだけじゃきっと熱いままだと思ったから、少しずつりんごを食べているまふゆの空いている手を握った。ぼくらの基礎体温は低い方で、今の彼女にとってはとても冷たく感じるだろう。

 

 

「ふゆき……?」

 

「食べてていいよ。ぼく氷嚢になってるから」

 

「……?」

 

「ねえ、まふゆ。何かぼくに出来ることはある?」

 

「……だめ、移る」

 

「ぼくがしたいの。おねーちゃん、ダメ……?」

 

「じゃあ、……一緒に寝て」

 

「うん!」

 

 

弱ったまふゆはなんというか、悪い人に騙されてしまいそうな感じがした。騙すのも騙されるのもぼく1人だけなんだけれど。

ほんのり顔の赤いまふゆに招かれて、ぼくは彼女の布団に入り込む。いつも一緒に寝ているけれど、きっと人肌が恋しいのだろう。

 

 

「まふゆ、狭くない?」

 

「うん、……うん」

 

「早く元気になってね。ぼく、心配だから」

 

「ふゆきこそ……」

 

 

いつもなら、制服から着替えるようにと呆れたように言ってくれるのに。熱い手を繋いでくるまふゆからはそんな覇気を一切感じない。

 

ぼくの前では強がらないで欲しい。きみが隠そうとしたってぼくには分かるから。

 

 

「……ふゆき、ありがとう」

 

「うん。ぼくは傍にいるよ」

 

 

どんなまふゆでも、ぼくの大好きなおねーちゃんであることに変わりはないから。

 

 

 

 

 

 

 

__数時間後。一緒に眠ってしまったぼくは制服を皺だらけにしたことと、病人であるまふゆに添い寝をして風邪を引いたことで、こってりと母さんに叱られるのだった。

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