その双子特殊につき   作:昼瀬七

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OWN

すっかり元気になったぼくら。まだ少し怠いような気はするけれど、睡眠時間に関係するのだろうとぼくはまふゆの不安要素を蹴飛ばした。まふゆが元気ならぼくも元気。きみは自分の感情が無くなったように言うけれど、ぼくに時折見せてくれる笑顔がぼくは大好きだよ。

 

さて、そんな優等生の姉と奔放な妹の朝比奈姉妹だが。

 

少し前から、動画投稿サイトで2人の曲を投稿し始めていた。なんてことは無い、まふゆが本当の自分を見つけたいと言ったから、そのお手伝いをしたいと思ったからだ。それ以外の理由をつけるなら、ぼくが誰より先にまふゆの曲を歌いたかったからに過ぎない。ぼくは世界一のおねーちゃんファンである。

 

 

隠していたわけではないけれど、言わなくてはならない理由もなかった。ナイトコードのみんなには内緒の話となっていて、だからこそ不意の会話にぼくはドキドキすることになる。

 

 

『ねえ、OWNって知ってる?』

 

「……!」

 

 

澄ました顔のまふゆの隣で、ぼくは冷や汗をかく。そのOWNというアカウント名こそ、まふゆが作詞作曲をし、ぼくが歌った曲を投稿するために作ったものだった。

 

 

ナイトコードのサークルは 4人で構成されている。作曲担当のK、イラストのえななん、それからMV制作のAmia。最後にぼくら双子の"雪"。知らないのはKだけで、ぼくが静かに動揺する真横で、まふゆはしれっと初見のふりをする。曲を聞かれてしまえばきっとすぐにバレてしまう。ぼくは口を閉じた。

 

 

 

『ボク達みたいに曲を作って、投稿してるクリエイターだよ!2週間くらい前に、まさに流星のごとく!って感じで現れて、投稿した曲全部、20万再生くらいいってるんだよ〜』

 

「全部20万再生?新しい人でそれはすごいね」

 

 

それは気づいていなかった。そっか、まふゆの曲はもうそれだけの人に聞かれているんだ。彼女が気にしていないから見ていなかったけれど、ついたコメントも確認しておこう。

 

 

『気がつかなかった……いつの間にそんな人が?』

 

『知らないのもしょうがないよー。ボクも結構マニアックな友達に教えてもらって昨日知ったし』

 

『URL貼っておくから聴いてみてよ。2人もびっくりすると思う。すごく圧倒されちゃう曲だから』

 

「……そんなにすごい曲なんだ」

 

『うん。なんていうか、Kの曲を初めて聴いた時と同じような感じがしたの。言葉に出来ないことを全部形にしてくれる、みたいな』

 

 

そう聞こえているんだ。それなら、まふゆの気持ちは少なくとも誰かに届いたことになるのかな。彼女の探す本当の自分も、きっといつか見つかるだろう。

 

__でも、それは一体いつになる?それまでぼくは彼女の隣に並び続けられる?ぼくが居なくなったら、すぐに消えてしまいそうな彼女なのに。

 

もし見つけるのが彼女たちで、ぼくではなかったら?

ぼくでは何も出来なかったら?

何も出来ないから、ぼくもまふゆも__

 

グルグルと考え始めたぼくを他所に、みんなはまだOWNの話をしていた。

 

 

『でも……Kの曲と違って、OWNの曲はすごく冷たくて。どこまでも冷たいし、全部を拒絶してるみたいな感じ』

 

 

すごいな。曲を聴いただけでそれが分かるんだ。まふゆの叫びが誰かに届くのは嬉しいのに、彼女を知っているのがぼくだけじゃなくなってしまうのが嫌だ。

 

ぐるぐる、ぐちゃぐちゃと、醜くて汚い感情がぼくを取り巻いた。なんだこれ、こんなのぼくは知らない。どうしたらいい?まふゆのために、ぼくには何が出来る?

 

気づけばナイトコードは解散していて、取り残されたぼくを置いて、KはOWNの曲を聴いているようだった。まふゆは今、何を思っているのだろう。繋いだ手はとても冷たかった。

 

 

『……この曲、雪が作ったんじゃない?』

 

「え?」

 

『昔、雪が作った曲に似てる』

 

「……」

 

『それに、たまに聞こえる雪とは似た声の人が歌ってるし……雪じゃなくても、雪に近しい人なんじゃないかな……って』

 

「……ふふ、Kにそこまで疑われちゃうと、自信ついちゃうな」

 

 

察しがいいのも考えものだ。Kは言わなかっただけで、ずっとぼくら"2人"に気がついていた。それもそうだろう。ぼくらはただ似ているだけで、全く同じではないのだから。

 

 

「……Kの曲に、救われたような気がしたんだ」

 

 

そっか。この黒い感情の正体に、ぼくは気づいてしまった。これは嫉妬だ。ぼくに出来なかったことをKは成して、そしてまた、ニーゴのみんなはまふゆのことを見つけてしまう。ぼくだけが隣に居れたのに、ぼくだけが彼女を理解していたのに。

 

 

「まふゆ……っ」

 

「……くだらないね。みんな」

 

「……?」

 

「こんな曲を作っても、まだ見つからないのに」

 

「そう、だね……ぼくは、ぼくもまふゆの曲は好きだよ」

 

「……ごめん。ふゆきのことを否定するつもりはなかった」

 

「ううん、いいんだ。あのね、まふゆ。Kだけじゃなくて、多分もうみんな、ぼくのこと気づいてる。隠せないよ」

 

「……」

 

「まふゆ……?」

 

「私は、誰に何を言われても、ふゆきが居ればそれでいい。でも……」

 

「でも?」

 

「……ふゆきのことを見てもらいたい、のに、見て欲しくないとも思う」

 

 

なんだ、最初から同じだったんだ。ぼくが悩んでいたことは、まふゆの心にもあったんだ。それが良いことではないのに、何となく嬉しいと思ってしまう。

 

 

「ぼくのことも、きみの秘密も、ぼくらはお互いしか知らない。大丈夫だよ」

 

「……うん。ふゆきのことを理解出来るのは、私だけだから」

 

 

首輪のようだと、そう思った。まふゆの何も映らない瞳にぼくだけがいる。それなのにどうしてか、今までと比べたらあんまり嬉しくなくて。

 

まふゆがぼくをそう縛り付けてしまうと、もしかしたらそれは、ある種の呪いになってしまわないだろうか。

 

ぼくの動揺も露知らず。まふゆは、それだけを言ってベッドに向かう。どうしたの、そう掛けられた声はいつもより少し冷たく聞こえた。

 

 

「一緒に寝ないの?」

 

「……えっと、ぼくはもう少し、作業しようかなって」

 

「朝。1人で起きられるの?」

 

「うっ……」

 

「それなら一緒の方がいいと思うけど。それに、私のところ以外、どこに行くつもり?」

 

「……ううん、やっぱり一緒に寝る。まふゆとだと、あったかいから」

 

「そう。それならいいの」

 

 

きっとぼくには最初からダメだったんだ。ぼくが彼女の半身だから、ぼくが彼女の心を守れなかったから。だから、だったから。

 

 

「……もう、他に何も要らないもの。ふゆき以外、何も」

 

 

__初めて、その目が怖いと思ったんだ。

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