その双子特殊につき 作:昼瀬七
あれってどこからをそう呼ぶんですかね。もしかしてこの作品にも追加した方がいい感じ……?
まふゆがクラスメイトに勉強を教えるから来いと言うので、ぼくは帰り支度を整えてから彼女の元へ向かった。まふゆの知り合いはぼくの知り合い、彼女のクラスメイトは笑顔でぼくを歓迎してくれる。その奥で疲れた顔をしている片割れに、呼ばれた理由を静かに悟った。
「ごめんね、ふゆき。帰るのは少しだけ待っててくれないかな?」
「うん、ぼくも手伝うよ。2人の方が効率いいでしょ」
「ふゆきって頭良かったっけ?」
「ぼくまふゆの妹だもん、出来るよ」
「知らないの〜?ふゆきってばテストでまふゆに並ぶくらい勉強出来るんだよ」
「やば、天才じゃーん!」
「こう見えて優等生なんだよぼく」
「ふゆきは偉い子だもんね。私の隣においで」
作り笑顔でぼくを呼ぶまふゆ。声色が少しだけ不機嫌で、今すぐ抱きつきたいのを我慢していることまで伝わってくる。みんなはぼくのことをシスコンだと言うし、それは事実で否定するつもりもないのだけれど、まふゆの方がその気質が強いように思う。彼女の沽券のために言わないけれども。
「……はーい!」
「ほんと、ふゆきはまふゆのこと好きだね」
「仲良し美人姉妹、うらやましいな〜!」
「でしょ?ぼくのまふゆは世界で1番綺麗なんだから!」
「もう、ふゆきってば……そんなこと言うなら、私は1番ふゆきが可愛いと思ってるよ?」
「ぼくじゃないもん、まふゆの方!」
「こらシスコン、そんな内容で喧嘩するな〜?」
おっと。ここは学校だった。まふゆの大人しい言葉につい喧嘩を買ってしまった。当の本人は全く納得していないようで、少しだけ眉をひそめている。
「……絶対にふゆきだから」
「はいはい……」
ぼくにしか聞こえないくらいに小さな声で、まふゆは反論を増やした。ぼくが折れるまで繰り返されるそれは、少し雑でも素振りを見せさえすれば一応終わりを迎える。もちろんぼくの方だって納得はしていないのだけれど。
まふゆと比べて髪の短いぼくは、身長の高さも相まってあんまり可愛いと言われることは少なかった。妹みたいとは言われるけれど。
「でもやっぱ、ふゆきと言ったらカッコイイ方だよね」
「え?」
「分かる、顔が良い」
「それぼくの目の前で話さなくてよくない??」
「この間も誰かフッてたんでしょ?」
「待って待って何で知ってるの」
「そりゃすぐ有名になりますから」
「……へぇ。ふゆき、私は聞いてないんだけどな?」
「言わなかったんだよぉ……」
そういう反応が返ってくることが分かっていたから。ぼくは言わなかったのに、この子ら見事にバラしてくれちゃった。
「ふゆきってモテるけど、まふゆのせいで理想高くなってそうだよね」
「私のせい?」
「否めない、というか」
理想が高くなっているかはともかくとして、今のぼくは他の女の子のことよりもまふゆのことを気にしている。だから、少なくとも今は誰かの気持ちに応えるつもりなんてない。
「今のとこは考えてないよ、そういうの。ぼくにだって夢中になってることくらいあるし」
「……」
「え〜、なんかふゆきのそういう話聞くの新鮮かも!まふゆと同じだね」
「……まふゆは多分、本当に興味無いんだと思うよ」
「ふゆきは違うの?」
「え?うん、ぼくだっていつまでもおねーちゃんの背中に着いてくほど子供じゃないよ?」
「……駄目だよ、ふゆき。他の子の所になんて行っちゃ」
ほら、面倒なスイッチを押した。まふゆはぼくの大好きなおねーちゃんだけど、ぼくよりシスコン。まだ彼女の心が壊れる前にも似たような問答をしたことがある。軽い喧嘩に発展して揃って叱られてから、無くなったと思っていたのだけれど。
「まふゆってば、そんなムキにならないでよ。そもそも、良くあるように話してるけど、滅多にないことなんだから」
「え?いや結構聞くけど……ぶっ……!!」
「とにかく!ぼくはまふゆ以外に必要ないから!だから、ね?」
「……本当?」
「ぼく嘘つかないもん」
というか、今ここできみの溜飲を下げなければ勉強どころじゃない。不毛な時間を過ごすことはまふゆにとっても本意じゃないはずだ。それに、ぼくは一生なんて口にした覚えはない。妹のことが頭にこびり付いて離れないおねーちゃんは、そのことに気がついていないようだけれども。
「……もしかして、まふゆの方がめんどくさい?」
「そうかも……」
「そうだから勝手に喋らないでね??」
「「はーい……」」
素直に頷いてくれてぼく嬉しい。まふゆの方はぼくの言葉で少し頬を緩ませている。トーンこそ外行きのものだったが、放たれる言葉はひどく冷たかった。本音からの言葉だったんだろうな。私を置いて何処にも行こうとするなっていう、彼女なりに精一杯考えた首枷だ。
「……ぼくはまふゆの方が心配だけどね」
「え?」
「おねーちゃん、甘えん坊に弱いもんね〜」
「そんなこと……」
「あるよ。今日だって断れてないじゃん」
勉強を教えること自体は悪いことじゃない。まふゆの復習にもなるし、世間一般的に良い子の行動の1つであるから。でもそれでまふゆが疲れないかと言われたら、ぼくを隣に置いておくくらいには疲れているのだろうに。
断れない。まふゆの中の優等生は、友達からの頼みを断らない。だから声を掛けてくるのだろうし、ぼくもそれを強く否定出来ない。
「……難儀だねぇ」
「ふゆき?」
「ねえまふゆ、ぼくお腹空いた。早く帰ろ?」
「……もう。子供じゃないんだから」
「でも答えてくれるおねーちゃんが大好きだよ」
「ごめんね、2人とも。今日はもう帰るね」
「いいよいいよ、教えてくれてありがと!」
「また明日ね〜」
貼り付けた笑顔も見慣れてきた。でもやっぱり、申し訳ないけど可愛くないなぁって思ってしまう。まふゆが落ち着ける場所が増えてくれたらいいのに、複雑な気持ち。
ぼくはきっと、彼女が救われることを望んじゃいないんだ。だってそうしたら、まふゆはぼくの傍から離れて行ってしまうから。だからぼくも、救われなくていい。
ぼくは無意識に、自分の首に手をかけていた。絞めようとしていたわけではないけれど、まふゆがハッとした顔で慌ててぼくの腕を掴んだ。力加減も感情も制限出来ていないその苦しそうな顔に背中がゾクゾクする。
「……何してるの」
「別に、何も」
「嘘」
「嘘じゃないよ。チョーカーっていいよねって、本当にそう思っただけなんだ」
ギリギリと、ぼくの腕を掴んで離さないまふゆ。彼女は今、自分が何をしているか分かっていない。それでいい。ぼくに傷をつけてくれれば、それで。
「だって、そうしたらぼくがまふゆのだって分かるでしょ?」
「……」
「でも、今はこれで我慢してあげる。見て、まふゆ」
「……っ、ごめ……っ」
「嬉しいなぁ。まふゆ、初めてぼくに傷つけてくれたね」
「ちがう、私は……、そんなつもりじゃ……!」
ねえ、まふゆ。大切にするってさ、綺麗な状態でしまっておくことだけを言うんじゃないんだよ。
心の奥の奥の方できみがそう思っていること、ぼく知ってたよ。ぼくのことを傷つけてしまえば、しまっておければ、ぼくは何処にも行かないんじゃないかって、思ってたこと。
「これで、きみの願いは叶った?」
「ふゆき……」
「大丈夫。どんなおねーちゃんでも、ぼくは大好き」
何回も、何回も。手首についた跡が消えてしまう度に、ぼくはきっと君に強請るのだろう。
もういっそ、ひとつになれたらいいのに。