その双子特殊につき 作:昼瀬七
個人的に改善点は大量にあるんですが、こう文字を連ね続けること以外の表現方法を知りません。
同じことをタイトルを変えて繰り返しているだけ、そう思われても仕方がありませんが、何度考えても辿り着く結論は同じなものは同じなのです。
ふゆきが何か隠し事をしている。そう気づいてはいても、それを暴こうとするほどの熱意はなく、そしてまた術も無い。興味はあるがまふゆには何も出来ない。妹の事は理解出来ても、自分のことは未だ分からないまふゆだった。
ふゆきが逃げるように去った部屋で1人、まふゆは考える。もし私の気持ちが見つからなかったら、その時は本当にふゆきも一緒に居るのだろうか。人気者の彼女のことだから、優しい彼女のことだから。流されて選択するのは目に見えた。だがそれと同じくらい、まふゆには確信もあった。
「……絶対に逃げられないよ、ふゆき。逃がさない。離れるなんて許さない」
クラスメイトと共にいたあの教室では、ふゆきは冗談だよと笑ったが。まふゆは冗談を言ったつもりは毛頭ない。それは仲の良い姉妹としても、1人の人間としても。
まふゆは妹であるふゆきのことを愛している。それは家族愛なんて可愛らしいものとは程遠く、許されることなら部屋に閉じ込めてしまいたいくらいに、ふゆきを愛していた。それを知ってか知らずか、妹は無邪気に姉を想う。当のまふゆが、どれだけ黒く濁った感情を向けているかも気づかずに。
さて、それはそうとして作業を進めよう。まふゆはナイトコードにログインした。通知音に気がついたのだろう、先に開いていたAmiaが明るい声を掛けてくる。
『あれ、雪?来たんだ、おつかれー♪』
「Amia?この時間にいるなんて、珍しいね」
誰もいないと思っていたまふゆは、少しばかり反応が遅れる。しかし取り繕うようにセリフはすぐに飛び出した。驚き故の本心からの言葉だったが、Amiaの方は特に気にしていないようだった。
『いつもはバイトなんだけどねー。シフト、明日に変わったから作業してたんだ。そういう雪も、この時間にいるのは珍しいね?』
「うん、今日は学校が早く終わったから。平日できない分やっておこうって思って」
『ん〜……雪ってほんと真面目だよね〜』
「そんなことないよ。みんなが頑張ってるから、私も頑張らなきゃって思ってるだけ。だから……」
まふゆが続けようとしたその瞬間、部屋の扉がいきなり開いた。当然のようにふゆきが戻ってきたと思っていたまふゆは、次いで聞こえてきた声に焦りが芽生える。
「買い物に行ってくるわね。お夕飯はシチューにしようと思うんだけど、いいかしら?」
「あ、ちょっとごめんねAmia」
『ん、りょーかい〜』
通話先のAmiaに一言断りを入れて、まふゆは母に返事をする。ノックも無しに思春期の娘の部屋を開くなんて、デリカシーの欠片も無いと以前ふゆきが吠えていたのを思い出す。まふゆは普段、特に気にしていなかったがこういう時ばかりは違う。
「うん。シチュー嬉しいな。ありがとう、お母さん」
本当は、料理の味なんて分からないからなんだっていいのだけれど。本音を人知れず飲み込んで、母の求める回答を返す。ふゆきなら何を返すのだろう。
「じゃあそうするわね。そういえば……今日はお友達の勉強を見ていたのよね。どうだったの?」
「楽しかったよ。みんな苦手なところ、解けるようになって喜んでくれてたし」
「そう、よかったわね。でも……いくらお友達でも、迷惑だったらちゃんと嫌だって言うのよ?」
「え?」
「教えてもらえないと出来ない子より、競える子と一緒にいた方がいいでしょう?そういう子と一緒にいると、自分も勉強になるもの。自分の時間を大切にしなさいね」
まふゆには、母が何を求めているかが分からなかった。母や先生、みんなが言う"良い子"とやらは何をするのが正しいのか。勉強を教えるのもそのひとつだと思っていた。だから行動した。でも、母は違うと言う。みんなは喜んでくれた。それでいいと思った。でも、母は違うと言う。
困惑するまふゆの耳に、探していた声が聞こえてきた。片割れが戻ってきてくれたのだ。
「じゃあおねーちゃんの時間の邪魔するの、やめてもらってもいーい?」
「……!」
「あのさ、ぼく達もう高校生なの。何をするか、何をしたいか、全部自分たちで決めたいし選びたいの。母さんに言われるの、面白くない」
「……今あなたの話はしていないの。自分の部屋に戻っていなさい」
「おねーちゃん、ぼく邪魔になる?ならないよね」
「まふゆ。はっきり言いなさい」
「……ふゆきがいないと、嫌」
「うん、分かってるよ。母さん、早く行かないとタイムセール終わるんじゃない?」
「……ふゆき。まふゆの邪魔をするのだけは許さないからね」
「ぼくのセリフだよ。ぼくのまふゆを傷つけるなら、母さんだって容赦しない」
まふゆは通話が繋がっているのも忘れて、震える体でふゆきを求めた。まだ何か言いたそうな母は、妹に追い払われるように部屋を出ていった。
ふゆきはいつも、まふゆの分も代弁して母に噛み付いてくれる。しかし母はそれを、ふゆきの独り善がりだと信じて止まない。母の思うまふゆという"良い子"は、そんなことを考えたりしないからだ。
まふゆ自身、自分がどう思っているのか分からなかった。それでも、ふゆきの望むようにしていたかった。ふゆきが望むお姉ちゃんで在りたかった。それだけが、まふゆの願いである。
『……雪、今のって……』
「Amiaか〜、ならセーフかな?おねーちゃん、変わっていい?」
「……うん」
『雪?』
「初めまして、ぼくは雪の妹。冬って呼んで」
『初めましてって……君、何度か通話に出ていたこと、あるでしょ』
「やっぱりバレてたかぁ……うん、そうだよ。それで、何から聞きたい?」
『話してくれるの?』
「おねーちゃんはちょっと今、話せそうにないからさ。ぼくに答えられる範囲でなら」
ふゆきは戸惑う様子もなく、まふゆからヘッドセットを奪い取った。話せそうもないのは事実だけれど、それはふゆきのせいとも言える。あんなに強い言葉を使ったりして、母の怒りを買ったらどうするつもりだったのだろう。逆上してふゆきに手を上げていたのを見たのは、何も1度や2度ではなかった。
そんな不安が筒抜けたのか、ふゆきはより一層強くまふゆを抱きしめる。普段は甘えん坊で愛らしい妹は、まふゆのことになると頼もしくなる。それが嬉しくて、同時に怖いとも思った。まふゆはふゆきのことを手放すつもりなど毛頭無いが、その優しさが他の誰かに向かないとは言い切れない。いつか、誰かに求められてまふゆの傍を離れてしまわないか。唯一の懸念であり、まふゆの不安だった。
「……おねーちゃん、そんなに必死にならなくても、ぼくもう何処にも行かないよ?」
「ごめん、でも……」
「うん、分かってる。それでAmia、何から話そうか」
『うーん……じゃあ。今のって、2人のお母さんだよね』
「……うん、残念なことにね」
『どう、なの?その……まるで、縛られているみたいだ』
「ぼくはすっごく嫌かなぁ。だから、ぼくがおねーちゃんを守るんだ。Amiaはやっぱり、間違っていると思う?」
『いや……ボクがとやかく言えるわけもないよ。冬は優しいんだね』
「優しい?」
『お姉ちゃんの気持ちも、心も守ろうとしているんだよね。偉いじゃん』
「ぼくは……優しくなんて、ないよ」
まふゆを包み込むふゆきが寂しそうに声を漏らす。慌てて顔を上げれば、すぐに笑いかけてくれる。またそうやって、自分のことは後回しにして我慢して。ふゆきはいつだってまふゆのことを優先して、そうして黙り込んでしまう。そこだけは好きになれなかった。まるで、鏡を見ているみたいだったから。
『ごめん、喋りすぎたね。冬、これからもよろしく』
「……ううん、こちらこそ。雪のことよろしくね」
『何それ。ボク、作業に戻るね』
「うん、ありがとう」
ふゆきが1度、大きく息を吐いた。それを合図にまふゆも体を起こした。妹はもういつものようにニコニコとまふゆの名前を呼んでいる。さっきの声は何だっただろう。聞こうと言葉を選んでいれば、のらりくらりと躱すように避けられてしまう。
「まふゆ、遅くなってごめんね」
「……ううん。私こそ、ごめん。またふゆきを悪者みたいにした」
「ぼくのことは気にしないで。嫌なことを嫌って言えたら、こんなに苦労しないよね」
「……うん」
「だからまふゆの代わりに、これからもぼくが嫌って言うよ。ぼく、誰よりまふゆのことを分かっているから」
「ふゆき……?」
「ほら、母さんが戻ってくるまでに作業進めちゃおうよ」
「……うん、そうだね」
それ以上、ふゆきは何も言わなかった。自分のノートパソコンを広げて、まふゆのベッドで作業を進める妹。その横顔があまりにも普段通り過ぎて、ほんの僅かに感じた違和感をまふゆは切り捨てた。きっと、まふゆが何を言ったところでふゆきには敵わない。1枚も2枚も上手なのは、いつだって妹の方だった。
(……どこにも行かないで、1人にしないで)
それはまふゆの本心だ。しかし、いつしか呪いに変わっていく。
まふゆはふゆきを愛している。それこそ、誰の目にも触れず、誰かに優しさを振るうことのないように、閉じ込めてしまいたいと思うくらい。
歪んでいる。そう思ったことは、無い。
まふゆは自覚した時から、ずっと変わらずふゆきを愛していた。気づけば失感情症として、自分の本心さえ分からなくなっても。この手で彼女に、傷をつけたとしても。
大好きな妹はきっと、まふゆが何をしても拒むことは無いのだから。