その双子特殊につき   作:昼瀬七

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すみません、長くなりました。
あと途中に絶対必要ない話をねじ込みました。

うーん……後で書き直すかもしれません。
それと、直接的な描写をしたつもりはありませんが、抵触するようでしたらお伝え頂けると助かります。




つめたい手で

「……まふゆ?」

 

「ごめん、どうかした?」

 

「夕飯出来たって。行こ」

 

「うん、分かった」

 

 

ぼくが声を掛けてようやく、まふゆは1階から母が呼びかけていたことに気がついたようだった。ミュートにしていた通話先のAmiaに断りを入れて、2人で階段を降りていく。考え事かな。ぼくには話してくれないのかな。

 

リビングに入れば、薄らと香るシチューの匂い。匂いの強い食べ物ならぼくにも分かるけれど、嗅覚と味覚が鈍いぼくも食事に頓着は無い。

 

 

「シチュー美味しそ〜!」

 

「いつもありがとう、いただきます」

 

「いただきまーす」

 

 

揃って手を合わせて食べ始める。食卓には父もいて、何となく気が重い。ただでさえ楽しみのない食事が憂鬱だ。業務的にスプーンを口に運ぶまふゆの隣で、ぼくも同じように食べ進める。

 

 

「そういえば、双子ももう2年生だな。受験勉強は順調なのか?」

 

 

ほら来た。それしか興味が無い人。ぼくが好きになれないと気づいた、いつからか苦手になった両親の、特に苦手な一面。まふゆと違って取り繕うことを選ばなかったぼくは返答に迷って口を閉ざす。今度は、まふゆがぼくの代弁をする番だ。

 

 

「うん、2人とも順調だよ。予備校も楽しいし」

 

「お医者さんになりたいって夢が叶うといいわね。まふゆならどこの大学にも行けるだろうけど、そろそろ第一志望の大学を決めた方がいいんじゃない?」

 

「……知らないくせに適当ばっか言うし」

 

「ふゆきも、いい加減に進路を決めなさい。まふゆはしっかり考えているのに、あなたは……」

 

「お母さん、ふゆきはやってみたいことがたくさんあるだけだよ。ちゃんと考えているから」

 

「そう?お母さん達がいいなって思った大学の資料を取り寄せておいたから、参考にしてね。ふゆきもよ」

 

「双子がしっかり学べそうなところを選んだからな」

 

「……そうやっていつも勝手に決めるの、止めてくんない?つまんないって言ってるだろ」

 

 

耐えきれなかった。ぼくはぼくの自由が欲しい。せっかくまふゆがぼくを守ろうとしてくれたのに、まふゆのことを知ろうともしないで重ねられる自己満足に、吐き気がするような気分だ。

 

 

「ぼくはぼくだ、母さんや父さんに指図されたくない!まふゆのことも知らないくせに、勝手なことばっかり言うな……!!」

 

「ふゆき!」

 

 

まふゆの声に振り返りもせず、ぼくはリビングを飛び出して階段を駆け上がった。苦しかった。ぼくはただ、自分の好きなように生きていたいだけなのに。母さん達にとってそれは良い子でなくて、良い子でなければぼくは母さん達の自慢の娘にはならなくて。

 

好かれなくてもいいと思っているのに、まふゆと比べられるのが辛い。まふゆが苦しんでいることが辛い。結局、母さんを嫌いになれない自分が大嫌いだ。

 

 

自分の部屋のベッドに飛び込んで、ただ息を殺していた。何がやりたいとか、何をしたいとかなんてあるわけがない。ぼくはただまふゆに笑っていて欲しくて、そのためには今のぼくらを変えなくてはいけなくて。

 

もう、嫌だ。何も考えたくない。せり上がってくる吐き気を抑えて、ぼくは静かに息を殺す。きっとまふゆは追いかけてくる。だから寝たフリをして、部屋に鍵をかけて閉じこもるんだ。

 

きみがぼくに隠し事をするように、ぼくもきみに言えないことの1つや2つあるんだ。

 

 

『……ふゆき』

 

 

あぁやっぱり。まふゆはぼくを追いかけた。無意識か理解してか、そうやってぼくの心の闇ごと囲いこんでしまおうとする。だからいけないんだよ、ぼくらは。

 

 

『ふゆき。起きてるでしょう』

 

「……」

 

『隠したいならそれでもいいけど。私は絶対に、ふゆきのことを逃がさないから』

 

「……!?」

 

「私から離れられない。離さない。2人でずっと、一緒だよ」

 

「なんで……っ」

 

 

まふゆは驚くくらい自然に、鍵をかけたはずの部屋の中へ入ってきた。その瞳にはぼくさえ映らなくて、初めて何を考えているか、欠片も理解出来ないでいる。

 

ぼくのいるベッドに向かって歩み寄るまふゆに、体を起こして逃走を試みる。しかし当然逃げ場なんてどこにもなく。まふゆはベッドの上に乗り上げて、ぼくの上に跨った。もっと言うなら、馬乗りというやつだろうか。

 

 

「……かわいいね。怖いんだ?お姉ちゃんが、……私が」

 

「う……」

 

 

何かがまずい、と思うのに。ぼくは嘘のように動けなくなっていた。ぼくを見下ろすまふゆはとても綺麗で、そして彼女の言う通り、怖かった。

 

そうしているうちに、まふゆはどんどんぼくとの距離を詰めてくる。肘をついて体重を支えているだけのぼくはもう動けない。そんなぼくの手がまふゆのそれと重なって__

 

ぼく、今まふゆとキス、してる。

双子なのに、姉妹なのに。

 

 

「……っ」

 

「……大丈夫だよ。お母さんやお父さんがふゆきのことを嫌いでも、私だけはずっと、傍にいるから」

 

「まふゆ……」

 

「何も怖くない。全部、お姉ちゃんに任せて」

 

「待って……っ、おかしいよ!ぼくら双子なのに……!」

 

 

ぼくの服の中にまふゆの冷たい手が入り込んできて、ようやく声を上げた。彼女がしようとしていることが分かった。この線を越えてしまったらきっと、もう戻れない。

 

同じ体格なのに、鍛えている差なのか、ぼくではまふゆを押しのけることが出来なくて。

 

 

「……っ」

 

「ふゆきは良い子だから。私のこと、拒んだりしないよね?」

 

 

あぁ、血には抗えないんだ。

あれだけ嫌っていた母さんのセリフが、まふゆの口から躊躇いなく出てきた。出てきてしまった。ぼくをまふゆの隣に縛り付けるために。

 

そして、ぼくもまた。

まふゆと同じように、その言葉から逃げられない。逃げたいとも、思わない。

 

 

「良い子だね」

 

「……ぼく、まふゆのだもん」

 

「うん。続き、してもいい?」

 

 

断らなきゃ。そう思っていたはずなのに、口を開いたぼくを見て、寂しそうに眉を下げるまふゆ。その顔を見てぼくは、すっかり抵抗する気は失せて。

 

 

「……うん。いいよ」

 

 

まふゆの言う続きが、どこまでを指しているのかは分からないけれど。ぼくが彼女の傍を離れてしまったら、きっと今度こそ確かに壊れてしまうのだと、そう思い知らされた。

 

ぼくがそうした。母さんが、みんなが、ぼくらが掛けた言葉がまふゆをそうしてしまったんだ。それならぼくは、追い詰めたまふゆのために、彼女の望みを叶えてやらなければいけない。

 

そうしてはいけないと、思っていたはずだった。それなのに気づけばぼくの首には、ぼくをまふゆに繋ぎ止めるための首輪がかかっていた。

 

まふゆがまたキスを強請る。何も知らないようなあどけない顔で、ぼくより関心があるとは思わなかった。あるいは、ぼくが居たからなのだろうか。

 

 

「ふゆき、口開けて」

 

「……?」

 

「かわいい」

 

 

言われるがままに口を開いたぼくに、まふゆがもう一度キスを迫る。その時、階段の下から母さんの声が聞こえてきた。

 

 

『まふゆ、ふゆき。お風呂沸いたから入りなさい』

 

 

その声に眉を顰めるまふゆ。今度はぼくにもよく分かる。邪魔をされたことを怒っている。

 

 

「まふゆ」

 

「……うん、今"2人"で行くね」

 

 

取り繕った声が母さんに返事をした。どうやらぼくのことを逃がしてくれるつもりはないらしく。まふゆには、今のぼくはどう見えているのだろう。

 

 

「ふゆき?」

 

「ぼく1人で……」

 

「駄目」

 

 

やけにはっきりとした拒絶。160cm越えたぼくらが2人浴室なんて、狭くてゆっくり浸かれないというのに。

いや、違うな。まふゆはぼくが逃げていくと思っている。なぁなぁにして、彼女の好意から逃げ出そうとしていると、そう思っているんだ。

 

 

「2人は狭いよ?」

 

「……あぁ」

 

「ね?だから別で入ろ?ぼく、逃げないから」

 

「駄目。せっかくチャンスが来たのに」

 

「チャンス……?」

 

「ふゆきを、抱くチャンス」

 

 

聞かなきゃ良かった。もしかしてずっと、その機会を伺っていたのだろうか。だとしたらいつからだろう。ぼくらはいつも一緒にいて、姉妹愛が恋愛に変わるタイミングもまたいつでもあって。

 

けれど、ぼくにとっては大好きなおねーちゃんで、それ以外ではなくて。でも、愛してくれているのはそれ以上に嬉しかった。

 

 

「……ぼく、変になっちゃったかも。だめなのに、双子なのに、……きみの気持ちがすごく嬉しいんだ」

 

「変になっていいよ。全部私のものだから。2人で、どこまでも堕ちていこう」

 

「まふゆ、お風呂で変なことしちゃだめだよ。のぼせちゃうから」

 

「善処する」

 

 

勝ったと言わんばかりの晴れやかな表情で、まふゆは自室へ向かった。着替えを取りに行ったのだろう。どうしよう。ぼくこれから、おねーちゃんに全部を知られてしまうんだ。

 

戻ってきたまふゆに手を引かれて階段を降りる。ぼくらに気づいた母さんが怪訝そうにこちらを見ていた。

 

 

「2人で入るの?もう高校生なんだから、別々で入りなさい。狭いでしょう」

 

「ううん、2人がいいの。ねえ、ふゆき?」

 

「うん……今日は、おねーちゃんが一緒にって言ったの」

 

「そう。長湯しないようにね」

 

 

まふゆがそう言ったから、母さんも言葉にはしなかった。表情だけは雄弁に、ぼくに甘えるなと言っていた。母さんはまふゆが、ぼくに毒されるのが怖いのだろう。

 

実際は、ぼくが蝕まれているというのに。

 

 

「ふゆき、変なことってどこまで?」

 

「へ?」

 

「キスは?触れるのは駄目?」

 

「キスは、いいと思うけど。ドキドキする触り方しなければ、別に……」

 

「まぁ、そもそも2人で入ることに承諾した時点で、私は期待していると思っているんだけど」

 

「……まふゆさ。きみ、捨て猫みたいな目でぼくのこと見ておいて、ぼくが断らないと思ったの?」

 

「いや。絶対に来てくれると思った」

 

「確信犯じゃん!」

 

「双子だからとか、姉妹だからとかで揺れているなら無駄だよ。私はもう、ふゆきが何を言っても手放すつもりないから」

 

「……」

 

「好きだよ、ふゆき。1人の人間として、私はふゆきを愛してる」

 

 

洗面所の壁にぼくを押し付けて、まゆふはそう言った。ぼくは何も言えないまま、ただその瞳を見つめ返すことしか出来ない。

 

 

「ふゆきがいれば、私は他に何もいらないから。だからどこにも行かないで」

 

「……うん」

 

「出来るだけふゆきの言うことを聞くつもりだけど……我慢出来なくなったら、ごめんね」

 

「……うん。ぼくは、まふゆが望むなら、それでいいよ」

 

 

きっと、ずっと何かが壊れていたんだろう。

歪んでいた2人の承認欲求は、お互いに干渉することで辛うじて満たされていた。だけだった。

 

ぼくが母さんに反発したせいで、ぼくが父さんから逃げ出したせいで、冷えきった食卓でまふゆが何を言われてしまったかは、簡単に想像出来た。

 

"まふゆはあぁならないでね"

 

きっと2人に他意はない。ぼくのように、悪い子にならないでと念を押しただけだ。

けれどまふゆはそれを、「自分が信じたふゆきでさえ否定された」と捉えた。「唯一1人だけ本音を話せる片割れ」が、「お母さんにとっての悪い子」だと、改めて口に出されたのだ。

 

だから、まふゆはぼくを追いかけた。

ぼくを抱きしめて繋ぎ止めて、母さんにも認めて欲しかった。ぼくがまふゆにとって唯一であるように、母さんにも自慢の娘と思って欲しかった。

 

でも、とことん詰めが甘い。まふゆは結局不器用なままで、自分の気持ちで行動できるだけ褒めてやりたいくらいに。

ぼくは端から、まふゆ以外に認めて欲しいだなんて、思っちゃいないのにね。

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