その双子特殊につき   作:昼瀬七

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すみませんまふゆバナーまだ読んでません。
出来れば初見の感想をそのまま書きたい…


朝比奈まふゆ

それはまるで慟哭のようだった。

一人になりたい、誰も必要としていない。

聞き手にそう思わせるような、冷たくて鋭い曲。

 

 

 

 

父の見舞いを済ませ帰宅したK…もとい、宵崎奏は、遅れてナイトコードに参加する。メンバーが集まるのは基本的に25時、深夜1時のことで、不在にしているのはどうやら雪だけらしい。

 

4人の中で唯一、真面目に学校へ通っている彼女は疲れて眠ってしまったのだろうと仮定して、先に作業を進めていくことを決めたえななんと、夕方は彼女と作業していたと話したAmiaの声を聞きながら奏は思案していた。果たしてそれだけなのだろうか、と。

 

 

 

そして。

ナイトコードに雪がログインしなくなって、音信不通になって、1週間が経った。

 

 

 

 

顔も名前も知らないサークルメンバーではあるが、関係性は良好だったと思う。それこそ今のように、何も言わずに姿を隠してしまうほど険悪ではなかった。通話でしか知らない雪のことではあるが、そんないい加減な性格をしているとも思えない。

 

どうにかして連絡を取ろうと、残された3人は思案する。しかしチャットのログにさえ、雪に関係するようなものは無いに等しい。

 

 

『口うるさそーなお母さんがいるってことしか…』

 

『お母さん?なにそれ?』

 

『ううん、なんでもない。共有フォルダとか、何か残ってないかな。……あれ?』

 

『どうしたの、Amia?』

 

『見たことない音楽ファイルがある。管理者は雪で、……更新日は、雪が来なくなった日…?』

 

『あ、本当だ。ファイル名は…Untitled?』

 

『Untitled?そんな曲、作った記憶ないけど』

 

『……冬?』

 

『冬……、って?』

 

『ほら、たまに雪とは違う声聞こえてたでしょ?その子の名前。この間偶然、知り合う機会があって……その子が作ったのかなって』

 

 

Amiaの言う声の持ち主には覚えがある。自分が雪であるように振舞う、雪より幼い声のことだ。何度かKも会話をしたことがあって、違和感こそあれどきっかけがなければ別人だと気付かなかっただろう。

 

 

『……もしかして、OWNのボーカルって』

 

『うん、冬だと思うよ。彼女は雪の妹って言ってたから、何か知ってるかもしれない』

 

 

もしこの曲を作ったのが雪であれば、共有フォルダに入っている以上一声掛けているだろう。そして今Amiaが発見するまで誰も知らなかったということは、報告することが出来ない、あるいはする必要のないと思っているような性格の人間がやったと考えた。

 

つまり、彼女の妹であり、その存在を隠していたかった、冬が管理者なのではないか。

 

考えても、雪に関する手がかりはこれしかない。悩んだ挙句に、3人はUntitledの再生をする。ファイルを開いたその瞬間、奏は目の前のモニターが光ったように感じて__

 

 

目を開いたその場所は見慣れた自室ではなく、殺風景な灰色の世界。廃墟のような鉄筋こそあれど、何も無いと言えるそのセカイを、奏は何もない冷たい世界だと思った。どこか既視感のあるそのセカイに困惑している奏,その耳に自分以外の声が聞こえた。恐らくえななんとAmiaだ。

 

 

「はぁ。だーれもいないねぇ。てゆーかこれ、異世界転生モノの冒頭みたいじゃない?」

 

「Amia……この状況でよくそんなこと言ってられるよね」

 

 

奏は二人に近づき、それから仮定があっているか確認をした。想像通り、数分前までナイトコードで通話をしていた二人で間違いない。

次に議題に上がったのは、ここがどういった場所なのかだった。二人も何が何だか把握できていないようで、首を傾げるばかりだった。

 

このセカイに来た、あるいは来れた原因は一致した。

3人とも、あの曲を聞いた直後だったのだ。そう、Untitledを。

 

しかし生憎ながら、全員手元にスマホはあらず。GPSで現在地を探ることも、近しい事象の検索も出来ない。早いところ帰り道を探さなきゃと、歩き出そうとしたその時だった。

 

 

「その必要はないよ」

 

 

良く知った声がまた聞こえた。正確に言うのなら、つい数分前に話題に上がった声の持ち主。あの曲を知っているであろうと仮定した、冬とAmiaが呼んだ存在の声。

 

 

「いらっしゃい、みんな。ぼくとあの子のセカイへ」

 

「冬!」

 

「あなたが……」

 

「改めて。初めまして、朝比奈ふゆきです」

 

 

紫の髪、同色の瞳。柔和そうな顔立ちをした少女が、不意に奏の背後から声を掛けて来た。Amiaの発言が本当なら、前述の人物の正体がこのふゆきと名乗る少女ということになる。

 

 

「ふゆき……あ、ボクは暁山瑞希。名前で呼んで!」

 

「私は東雲絵名」

 

「宵崎奏……ふゆきは、ここがどこだか知ってるの?」

 

「知ってるも何も、ここはボクとまふゆの心を守るための場所だから」

 

「……じゃあ、雪も」

 

「……うん。だから、きみらを呼んだんだ」

 

 

悲しそうな表情を浮かべ、ふゆきはそう零した。その表情の意味も、彼女自身もまだ何も分からない奏だったが、すぐに合点がいった。

雪の妹であるふゆき、消えてしまった雪。わたし達を呼んだ理由。

 

 

「お願い。まふゆの心を見つけてあげて」

 

 

不意に、ふゆきともまた違う無機質な声が響いた。機械のような感情の乏しいその声の主を見やれば、白髪の非対称なツインテールを揺らしたオッドアイの少女が立っていた。ふゆきの隣に並ぶ彼女。

 

 

「この子は初音ミク。きみらの知ってる姿じゃないかもしれないけど……」

 

「……いや。信じるよ、ボクは。君はお姉ちゃんのことを思う子だから」

 

「瑞希……うん、ありがとう」

 

「わたし達を呼んだのは、あなた達ということ?」

 

「半分正解……と、言いたいとこなんだけど。ぼくにはもう、分かんないんだ」

 

「ふゆき………」

 

「ここはね、きみらが探す雪の想いが作ったセカイ。現実とは違う場所にある」

 

 

到底受け入れられる話ではなかったが。ようするに、奏たちがよく知る現実とはまた別に存在する、いわば並行世界の一つという認識で合っていることだろう。

 

 

「……ふゆきは、わたし達にどうして欲しいの?」

 

「言ったでしょ?まふゆの……雪の心を、見つけて欲しい。ぼくじゃ、ダメだったから」

 

「ふゆき……」

 

「ふゆき」

 

 

その時、また違う声が聞こえて来た。短くふゆきの名を呼んだその声に、呼ばれた本人は背筋を伸ばし固まっていた。恐怖に怯えていると言うのが正しいふゆきの表情に、ミクは一歩前に出て声の主との間に立った。

 

 

「まふゆ」

 

「その声……雪?」

 

 

奏には聞き覚えのある声であった。しかし同時に、ここまで抑揚のない声を聞いたことがなかった。本人か確認しようとした奏には目もくれず、雪……否、朝比奈まふゆは妹だけを見ている。病的なまでに。

 

 

「どこに行くの?私から離れないでって、言ったよね」

 

「どこもいかないよ、ぼくは。きみが望んでくれる限り」

 

 

少しばかり震えた声で返したふゆきの瞳に不安が宿る。何も映さない姉だけがそれに気づかないでいた。

 

 

「……ねえ、まふゆ。人は1人じゃ生きてけないんだよ。ぼくらは1つじゃないんだ」

 

「だから?だからふゆきは、私から離れて行こうとするの?私の言葉も聞かずに」

 

「……っ」

 

「他に何もいらないの。ここで、ふゆきと居られれば。なのに聞いてくれないんだ。……悪い子だね」

 

「まふゆ……っ」

 

 

まふゆには、奏達は見えていないかのようだった。

見守るミク含めた4人を意に介さず、まふゆはまっすぐふゆきに歩み寄り、そしてその距離をぐっと縮めた。2人がキスをしていることに気づいた頃、その空気に耐えられず瑞希が叫ぶ。

 

 

「あのさっ!君、いきなり出てきてボク達のこと無視ってなに?ボク達困ってるんですけど」

 

「……ミク。どうしてセカイに人がいるの?」

 

「わたしが呼んだ。まふゆのために、ふゆきと」

 

「ふゆきが……」

 

「……まふゆ、ぼくは」

 

「……そう。ふゆきは良い子でいること、やめたいんだ」

 

「……っ」

 

 

話し掛けた瑞希を一瞥し、まふゆはミクに疑問を呈す。その視線はずっとふゆき1人に向けられていて、それ以外に向くことはない。

 

 

「何もいらない。そう言ったよね」

 

「……うん」

 

「それとも、あの日ふゆきが言ったように、分かりやすくしておけばいいのかな」

 

「それは……っ」

 

 

ミクさえも置いて、まふゆはふゆきの首に手を伸ばす。その細い指が彼女を絞めようとした瞬間、まふゆの腕を誰かが掴んだ。

 

 

「……なぜ、邪魔をするの?」

 

「なぜって……ボクは君が間違ってると思うからだよ。ふゆき、大丈夫?」

 

「うん、ぼくは平気。ありがとう」

 

「ふゆき」

 

「ねえ、君たちの事情を今のボクらは何も知らない。けど、それがお姉ちゃんのことを想う妹にすることとは、到底思えないよ」

 

 

まふゆを止めたのは瑞希だった。以前にふゆきと会話をしたというだけの関わりではあったが、それでも朝比奈姉妹の置かれている背景を覗いてしまった以上、自分たちのことだけを考えている訳にはいかない。その上、瑞希はどちらかと言うとお人好しというか、吹けば飛んでしまうような不安定な2人を見過ごすような性格をしていなかった。

 

 

「あなたに何が分かるの。ただ少し話しただけのあなたに……ふゆきの、何が」

 

「……それは」

 

「お母さんにも分からないのに、他人が分かるわけない」

 

「まふゆこそ分かってない!!」

 

 

静かなセカイに、慟哭が響いた。

姉を想うだけの少女が、初めて姉を強く否定した瞬間。

 

 

「ぼくは変わりたくないわけじゃない。2人でいたいわけじゃない!」

 

「……っ」

 

「ねえまふゆ。ぼくも、まふゆと居れたらって思うよ。でもそれじゃダメなんだ」

 

「……」

 

「きみが1人でいたいならそうすればいい。ぼくは何度でも、惨めに助けを呼んででも!またきみの笑顔が見たいんだよ……っ」

 

 

そう叫んだふゆきの声に、奏は頭を殴られたかのような気分だった。そして同時に、1つの仮説が結びつく。OWNのボーカルには聞き覚えがあった。それは、ふゆきという隠されていた存在。そこまでは、瑞希が教えてくれたから知っている。でも、肝心の作曲者まではまだ分からなかった。

 

しかし今しがた聞いたまふゆの心の叫び。

 

 

「……OWNは、雪だったんだね」

 

「……え?」

 

「ボーカルはふゆき。それなら、作曲者の方は雪。根拠はないけど……でも、そう思う」

 

「OWNが……」

 

「……うん、そうだよ」

 

「じゃあ、この間私たちが話していた時も……」

 

 

数日前。ナイトコードでOWNの話題が上がっていた。絵名と瑞希が教えてくれなければ、きっと奏は今でもその存在を知らなかっただろう。何故ならその当人は、今も興味無さそうにこちらを見ているだけだから。その瞳に映るのは恐らく、妹ただ1人なのだから。

 

 

「……なんであの時、言ってくれなかったわけ?」

 

「別に。言う必要がなかったから」

 

「……まふゆ」

 

「雪じゃない私は、あなたと話したいことなんてないから」

 

「何それ……ふざけないでよ!」

 

 

淡々と、温度を感じさせないまふゆの声色。奏も、瑞希も、ミクも、ふゆきでさえ、絵名とまふゆのやり取りに口を挟めない。挟む気も、起こらない。何を言っても、今のまふゆの心には届かないことを悟っていた。

 

 

「何も知らないですごいすごいって騒いでる私を、どういう気持ちで見てたの?馬鹿だなって思ってたってわけ?」

 

「……ねえ、雪がOWNだとしてもさ。ニーゴでもやってくってのは無理なの?いくらなんでも急すぎるし、ボク達も……」

 

「私はもう、ニーゴにいる必要がない」

 

「……!」

 

「ニーゴにいても、足りなかったから」

 

「足りなかった、って……」

 

「初めてKの曲を聞いた時は、少しだけ救われたような気がした」

 

 

それは、あくる日の彼女が放った言葉だった。小さくても、それでも確かにマイクを通してKの耳に届いた言葉。同じもののはずなのに、どうしてこんなにも冷たいのか。

 

 

「だから、Kの傍で探せば、見つけられるかもしれないって思った」

 

 

__救えていた、気がしていた。

奏は、自分の曲で誰かを救いたいと思っていた。ほんの少しだけでもいい。その心を軽くすることが出来たなら、と。だが目の前にいるまふゆはどうだろう。

 

虚ろな瞳、抑揚のない冷たい声。それなのに、ふゆきの手を掴んで離さない左手。まるでこのセカイみたいに、何も無い空っぽな様子。

 

 

「Kと一緒にいても見つからないなら、もう自分で見つけるしかない」

 

 

息が詰まる。上手く、酸素が取り込めない。

 

 

「これ以上あなた達と話しても意味はない。どころか、私からふゆきを奪おうとしてる」

 

「奪うなんて……っ」

 

「ミク、追い出して」

 

「……まふゆは、本当に見つけられるの?」

 

「私にはそれしか残されてない。もしそれでも駄目なら……ふゆきと2人で、消えるしかない」

 

「……ぼくは」

 

 

何か言おうとして、ふゆきは深呼吸をする。しかし震える喉が絞り出したのは、言葉にならない呼気だけだった。

 

 

「ねえ、1度ちゃんと話そうよ。雪だけじゃなくて、ふゆきの話も聞かせて欲しいしさ」

 

「変?私が変なら、あなた達だってそうでしょ」

 

 

__誰よりも消えたがっているくせに。

 

そう、まふゆは言った。何も言えずに、奏は俯くばかりだ。何が出来るのだろう。まふゆのために、奏は。

 

 

「……ごめん。まふゆに会わせるのはまだ早かったみたいだ。ミク」

 

「……うん」

 

「またね。ぼくに、ぼく達にはまだきみ達が必要なんだ。だから……」

 

 

ごめん。再度呟いたふゆきの声を最後に、ミクが絵名に触れていく。消えるように姿を消してしまった彼女に戸惑っていれば、次は瑞希が消えた。奏の前に立ったミクが、短く別れを告げる。

 

 

「……どうか、……あの子を……」

 

 

それは、誰の声だったのだろう。

姉を想う妹の嘆きか、妹を失いたくない姉の叫びか、それとも。

歪な双子を想う、健気なバーチャルシンガーの祈りか。

 

でも、確かに助けを求めていた。救われたいと、叫んでいた。奏の手の届く場所にいることを、ただ願うばかりだ。




ここが多分1番難しいです。
この作品を書くに当たって、ゲーム内ストーリーを見返していました。まふゆさん、初期の頃は拗らせ具合が本当に酷くて心が痛いです。もう泣きそ。
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