母の一族と人類率いる大艦隊。無限に広がる大宇宙の中で、両者の戦いが始まったのは互いの距離が百万キロまで迫った時だった。
先手を打ったのは母の一族。
母ではない誰かが、どす黒い閃光を放った。シェフィルもその攻撃がなんであるのか知っている。電磁波ビームと母達が呼んでいる超高出力射撃だ。原種返りさえ討ち滅ぼす惑星シェフィル最強クラスの一撃が、恐らく一切の手加減なく放たれた。
光速で飛んでいく電磁波ビームは、瞬く間に艦隊を構成する一隻に命中。
しかし人類の戦闘艦は、この一撃に耐えた。
電磁波ビームは戦闘艦に着弾したものの、四方八方に飛び散るような形で弾かれたのである。ビームを受けた装甲は赤く色付き、全く平然としている訳ではない。それでも電磁波ビームが貫通する事はおろか、装甲が溶けて崩れる様子もない。
そして攻撃を受けた戦闘艦は、母達が八十万キロほどまで迫ったところで反撃を行った。
円錐形をした船体から伸びている三本の『角』から、光の束が放たれたのだ。とはいえそれを理解したのは、シェフィルと母の真横を光が通り過ぎてから。『目視』するというのは、情報である光が目に入って初めて出来る。故に光速で動くエネルギーを『目視』出来るのは、どれだけ最速でも着弾した時だ。
「(これは、電磁波?)」
横目に観察したシェフィルが気付いたのは、その攻撃が電磁波で出来ている事。
つまり母達が使う攻撃である、電磁波ビームと同一のものだ。先程母の一族が放ったものとは違う『色合い』に見えるのは、恐らく周波数帯が異なるのだろう。
ひしひしと感じる出力は凄まじい。母達の使う電磁波ビームより、ほんの少しだが威力は高いだろう。その気になれば小さな星ぐらいは破壊出来るかも知れない。
しかしシェフィルは安堵する。惑星シェフィルの生物はエネルギー吸収能力を持ち、中性子ビームなどを無効化してしまう。つまりどれだけ大出力でも、母達相手には殆ど無効化される筈だ。それにいざとなれば量子シールドもある。
母はこの戦いが不利なものだと言っていたが、これなら勝てるのではないか。
【ふむ。予想通り、人間側も対策を施しているようですね】
その淡い希望を打ち破ったのは、母の言葉だった。
「対策、ですか?」
【今の電磁波ビーム、我々が吸収し難い周波数に調整されています。そのため直撃を受けた場合、吸収出来ず蒸発させられるでしょう】
「えっ!? で、でも、量子シールドもありますし……」
【量子シールドの展開には多量の量子が必要です。物質が殆ど存在しない宇宙空間では、展開するための量子がありません。自分の身体から取り出す事も出来ますが、それは負担が大きく、今後の戦闘での消費も考慮すると使う事は出来ないのです。それに比べてあの戦闘艦の装甲は、光エネルギーを弾く事に特化しているようです。我々の電磁波ビームの効率は、半分ほどに落ちているでしょう】
相手はこちらに有効打を与えられる。対してこちらの攻撃は半減。
勝負にならないとは言わない。だがあまりにも不利な戦いと言わざるを得ない。
【とはいえこれは想定通りです。人間達の通信から、対策をしているのは分かっていました。ここからが、戦闘用に調整された我々の腕の見せ所でしょう】
されど母の、そして一族の士気は衰えない。合理的な母達の神経系に、絶望などという非効率的な思考は存在しないのだ。
何より母が想定内と言った以上、ここまでは全て母の思い描いていた通りの展開である。
戦闘艦の射程に入った母達が取った行動は散開。ある程度集合していた陣形を崩し、人類の艦隊を包囲するような動きを見せる。
電磁波ビームの直撃を受ければ母の一族でも耐えきれず、量子シールドも展開出来ない。群れていては一網打尽にされてしまう。そこで分散し、攻撃一発で受ける被害の量を減らすように立ち回るのだ。これなら簡単には全滅しない。
加えて、母の一族の方が戦闘艦よりも数は多い。
人間が用意した艦隊数は五百。母達はその七倍近い三千六百体もいるのだ。包囲するのは容易であり、あらゆる方向から攻撃を行える。母の一族はその利点を活かすように、分散した状態で攻撃を始めた。無数の電磁波ビームが宇宙空間を切り裂き、艦隊を貫く。
戦闘艦は一発二発の電磁波ビームでは平然としているが、十も受けると装甲が赤を通り越して白く色付く。それでも母達が攻撃を続けると眩く光り……
ついに一隻の戦闘艦の装甲を撃ち抜いた!
電磁波ビームで撃ち抜かれた戦闘艦は、内側から火を噴き出す。炎はやがて爆発に変わり、撃ち抜かれた場所以外からも爆発が起きるようになる。戦闘艦は装甲をぐにゃぐにゃと蠢かせて穴を塞ごうとするも、母達の追撃により新たな穴と爆発が生じる。
やがて全体が膨れ上がり、大爆発。
一隻の戦闘艦を撃破した。人間達が母の一族をどの程度の存在と見積もっていたかは不明だが、仮に見下していたならこれだけで相当の混乱を引き起こせただろう。次いで二隻目、三隻目も爆発。大きな損害を与えた。
とはいえ人間も大人しくやられてはいない。
母達が果敢な攻撃を繰り広げている中、どの戦闘艦も電磁波ビームを放ち始めていた。勿論母達は俊敏に動き回っており、尚且つ砲台の射線上には行かないよう気を配っている。故に戦闘艦は母達の動きを追うのだが……この時大きな船体は微動だにせず。角のように飛び出した、三本の砲台だけをぐにゃぐにゃと動かしていた。巨大な船体を右へ左へと動かすより遥かに効率的であろう挙動は、母達の高速移動も追随可能。正確に狙いを付けて電磁波ビームで焼き払う。
人間側の攻撃は一発で母の一族を消し飛ばす。対して母達の攻撃は、一発二発だと戦闘艦を落としきれない。攻撃力に大きな差はないと言うのに、防御力の差が如実に表れている。戦闘は、一目見ただけで母達の方が不利だと分かるものだった。
例外的に活躍しているのが、シェフィルの母だ。
【ふむ】
戦闘艦の砲台が自分の方を向いた瞬間、母は一気に加速。砲台は電磁波ビームを放ったものの、母はそれを掠めるように回避する。
電磁波ビームは一直線に進むが、多少は拡散する。宇宙空間にも僅かながら水素などの原子が浮かんでおり、それと衝突した電磁波が反射されるからだ。その反射した電磁波を『煙幕』代わりにして母は戦闘艦に接近。距離を詰めたところで、電磁波ビームを放つ。
母の放つ電磁波ビームは、他の一族よりも遥かに強大だった。一発で戦闘艦の装甲を撃ち抜く。膨大な熱量により爆発が起き、戦闘艦はその穴を塞ごうとするが、母は続けて電磁波ビームを照射。
戦闘艦は爆発を起こしながら崩壊していく。しかし母はここで攻撃の手を緩めない。一気に加速して戦闘艦に肉薄。崩壊を防ぐ事に手いっぱいの戦闘艦に、迫る母をどうこうする術はない。
母は目の前に迫った戦闘艦を、触手で
全長二百五十メートルもある巨大戦艦。対して母は体長十メートル程度。『体格差』は文字通り桁違いだが、されど母の力は凄まじい。戦闘艦さえも撃ち抜く大出力電磁波ビームを生み出す身体は、巨大な戦闘艦を突き飛ばすだけのパワーを繰り出す。
爆発寸前の戦闘艦に、殴られた衝撃をどうこうする力はない。宇宙空間故に空気抵抗も働かず、殴られた勢いで飛ばされて――――近くにいた他の戦闘艦に迫る。
仲間の船が寄ってきたと気付き、その戦闘艦は混乱に陥ったのだろう。砲撃の手を止めて回避しようとする。素早い判断のお陰か、或いは爆発寸前の船も対応したのか、二隻は掠めるようにして躱し合う。
が、ここで母が電磁波ビームを撃ち込む。
爆発寸前の戦闘艦に、この追撃は耐えられない。止めを刺された戦闘艦は大爆発を起こす。そして広がった爆発は、どうにか接触せずに済んだもう一隻の戦闘艦を巻き込む。
爆発の衝撃を受ける事は、人間達にとって想定外だったのか。至近距離で受けた爆発と連鎖するように、もう一隻の戦闘艦も爆発を引き起こす。それでも致命傷ではなかったが……ここで母が電磁波ビームを照射。弱ったところを叩かれ、もう一隻も吹き飛ぶ。
母は一気に二隻の戦闘艦を撃破してみせた。
「凄いです母さま!」
これにはシェフィルも興奮する。劣勢を覆すだけの力があるのではないかと、無意識に思ってしまう。
しかし母は喜ばない。淡々と、現実だけを見据える。
【私だけが活躍しても意味がありません。これは群れと群れの戦い……人間の言葉で例えるなら戦争です。そして敵の方が効率的に我々を殲滅しています】
母の語る合理的な見方に、シェフィルは声を詰まらせる。
母の大活躍により見て見ぬふりをしていたが……母の言う通り、戦いは人間が優位に進めていた。
人間達の戦闘艦は砲撃を繰り返す。それらは母の一族を焼き払っており、一見規則性のない攻撃に見える。だがよく観察してみれば、一度たりとも同じ目標を狙っていない事が窺えた。
普通群れが一斉に、尚且つ適当に攻撃すれば、たとえ獲物の方が多くとも狙いが重なる事は珍しくない。何十何百と攻撃回数を重ねれば、重ならない方がおかしいぐらいだ。なのにそうならないという事は、恐らく人間達は群れ全体で情報を共有している。誰がどれを攻撃するのか、全員が把握しているのだ。
防御力で劣る母達は、電磁波ビーム一発で撃破出来る。つまり数発の砲撃が同じ目標を狙っても、それらは『無駄撃ち』となってしまう。情報共有により万遍なく攻撃出来れば、効率的に殲滅が進められるだろう。
対して母達の狙いは、本当に疎らだ。数個体が同じ目標を狙う時もあれば、一体で奮戦している場合もある。母のように一体で二隻倒せるなら、一対一で戦うのも効果的だろう。しかし実際には、大半の個体は単身だと戦闘艦の装甲を中々破れない有り様。
敵が硬いなら集中攻撃で防御を破らなければならない。ところが母達はそれをしていない。つまり、統率が取れていないのだ。
「な、なんでこんな……」
【我々の指示系統はシェフィルにあります。全ての情報はシェフィルを介し、シェフィルから動きを伝えられます。ですがシェフィルは今、繁殖に注力しており、我々の統率を放棄している状態です。シェフィルは自身の被害が軽減出来れば良いので、我々はどれだけ損耗しても構わないというのもあるでしょう】
戸惑うシェフィルに、母が説明する。
起源種シェフィルにとって母達はただの端末。無駄な損害は好まなくても、失ったところでまた作り出せば良い。加えて、起源種シェフィルが動き出せば人間達に必ず勝てるという話だ。
起源種シェフィルからすれば、まずは自身の繁殖が最優先。繁殖が成功すれば、母達の被害がどれだけ出ても許容範囲なのだろう。その判断が『合理的』なのはシェフィルも認める。
だが、理解と納得は別。
このまま母の一族が数を減らし、戦闘艦よりも少なくなれば、狙いが重複するようになるだろう。四方八方からの攻撃が躱し難いのは言うまでもなく、それまで生き延びてきた個体も避けきれなくなる。数が減れば更に狙いが集中し……悪循環に陥れば、加速度的に母達は殲滅されてしまう。
母は起源種シェフィルが動き出す時まで、生き延びられるのか――――
【シェフィル。余計な事を考えている場合ではありませんよ】
不安が頭の中を満たしていた時、母がそう呼び掛けてくる。
その言葉でシェフィルは気持ちを切り替えた。そうだ。母達の苦戦や状況の悪さを、あれこれ心配しても意味はない。どう足掻いたところで、シェフィルの力ではこの戦闘艦を落とす事など出来ないのだから。
それよりも考えるべきは、シェフィル自身の目的。
アイシャを助け出す事だ。そのために宇宙までやってきたのに、目的を忘れて母達の心配をするなど本末転倒である。それどころか此処まで自分を連れてきてくれた、母の気遣いを無下にする行いではないか。
自分の為すべき事に集中する。
……集中したら、一つ重要な問題に気付いた。
「……母さま、あの、今更なのですが……アイシャ、何処にいるんでしょう?」
無数に浮かぶ戦闘艦。何百隻もあるその全てを同時に把握し、詳細に観察する事は出来ないが、パッと見た限りではこれといって外観に違いがあるようには見えない。仮に違いがあったところで、「アイシャがそこにいる」証拠とはならないだろう。
わざわざ攫ったぐらいなのだから、向こうにとってもアイシャは『大事なもの』の筈。ならば守りが堅いのでは、ともシェフィルは考えた。しかし観察した限り、特別守られている船は見当たらない。統率の取れた艦隊の動きは、ある意味どれも均一で、何かを守っているようには見えなかった。
これではアイシャが何処にいるか分からない。いや、もしも人間達がアイシャを特別扱いしていないのなら、隊列外側の戦闘艦に置いていた可能性もある。最悪、今さっき母が撃破した戦闘艦の中にいたという事も……
【シェフィル。不安に思う必要はありません】
最悪の可能性を考えてしまうシェフィルだったが、母がその考えを戒める。
それはシェフィルにとってこれ以上ないほど頼もしい言葉だった。合理的な母達は『気休め』なんて決して言わない。身体の中を通る神経節が考えるのは、何時だって根拠と論理のある筋道だ。
【シェフィルは生物からエネルギーを吸収する都合、自身の遺伝子を持った生物の位置を全て把握出来ます。我々もその応用で、多少なりとシェフィル由来の遺伝子を感知可能です】
「で、でしたら……!」
【はい。アイシャの居場所は分かっています。今はそちらに向けて進んでいるところですが……おや】
頼もしい母であったが、不意に話が途切れる。
母が見ていた戦闘艦、いや、その周囲にいる何十という戦闘艦の装甲の一部が突然開いたのだ。開いた場所は船によって違うが、いずれも母達ですら通れそうな大きさの『穴』を形作る。
そして開かれた穴から、小さな物体が無数に出てきた。小さいといっても大きさは十メートル近くあり、形は球形。戦闘艦と同じく銀色をしており、装甲に繋ぎ目は見られない。赤い点のような部品が一つ付いていて、そこを『前』にして飛び回る。
物体は一隻辺り百個近く、合計で数千は出てきただろうか。自由自在に動きながら、それらはバラバラに母達の下に飛んでくる。母達の大半は球体の存在に気付き、即座に迎撃を試みていた。戦闘艦ほどの防御力はないようで簡単に落とされていたが……戦闘艦からの攻撃は未だ苛烈。どうしても致死的攻撃の回避が最優先になり、球体の撃破は後回しにならざるを得ない。
全てではないが、幾つかの球体は母達から数万キロの距離まで接近。すると球体の赤い点が強く輝き、一閃の光を放つ。
電磁波ビームだ。戦闘艦が放つものに比べれば極めて弱く、母達の身体を飲み込むほど太くもない。しかしこの攻撃も母達にとって吸収し辛い周波数らしく、攻撃を受けた部分が焼き焦げてしまう。
致命傷というほどではない。だが怪我には違いなく、攻撃を受けた個体は動きが鈍る。時には機械がわらわらと群がり、母達の動きを妨げる。
そうして動けなくなったところで、戦闘艦からの電磁波ビームで薙ぎ払う。
飛んできた球体も巻き込まれていたが、人間達は一切躊躇わずに攻撃。母達諸共消し飛ばす。この戦法にこれまで生き延びてきた個体も苦戦は避けられず、次々とやられてしまう。
母の下にも無数の球体が迫ってきた。
【ふん】
しかし母は動じず、無数にある触手を四方八方に伸ばし……回転。
ぐるぐると身体を横に回転させながら、触手から電磁波ビームを放つ! 電磁波ビームの刃も高速で回転し、迫ってきた球体を次々と切り裂く。何十と迫ってきた球体はあっという間に全滅だ。
シェフィルは目を回しながらも、母の大活躍に興奮を覚える。対して母は喜びも誇りもしない。
【全く。この程度の攻撃も捌けない個体がこれほど多いとは。戦闘経験のなさが問題ですね……この戦いが終わった後、シェフィルに戦闘用個体の訓練を定期的に行うよう進言しなくては】
むしろ仲間達の弱さに呆れている有り様。更に今後の方針について考えを独りごちる。
母は、今も未来を見据えている。
状況は更に悪化した。けれども母は『夢』も『願望』も持たない。未来を語るのは、未来を掴める確信があるから。この戦いで死ぬつもりは微塵もないという事だ。
シェフィルも『未来』を掴むつもりだ。アイシャのいない未来など、考えられないがために。
【シェフィル。目標の戦闘艦に間もなく肉薄します。具体的にアイシャが何処にいるかは分かりませんが、恐らく中心付近です。これまでの戦闘から、一部が爆発してもあの宇宙船は沈みません。あなたが多少破壊活動をしても、なんら問題はないでしょう】
「つまり、好き勝手にやれ、という事ですね?」
【その通りです。むしろ全力を出し、素早く事を成し遂げなければ我々の誰かがあの船を落としてしまうかも知れません。ですから最速最短でやり遂げるのです。さぁ、行きなさい】
「はい! ……て、あれ? ところでどうやって中に入るのですか? 量子変換運動ってどんな――――」
母からの『お墨付き』を得たシェフィルは、頷きながら疑問を言葉にした。すると母はシェフィルを掴んでいる触手を大きく振り上げる。
狙いは一隻の戦闘艦。砲台は母を狙っておらず、他の仲間を攻撃するのに夢中な様子。母が何かをしようとしているなど、気付いてもいないだろう。
その隙をついて、母は勢いよくシェフィルを投げ飛ばした!
ただ放り投げたのではない。量子ゲートワープの応用により、シェフィルの身体を量子化……素粒子レベルでバラバラに解いたのである。素粒子となったシェフィルの自我は消え、その身体は超高エネルギー体となって宇宙を駆け抜けていく。量子化したシェフィルの速さは光速に等しく、気付いたところで回避どころか反応すら間に合わない。
母達の電磁波ビーム対策を重視した結果か。戦闘艦の周りにシールドはなく、量子化したシェフィルは装甲を直撃する。或いは、この程度の『エネルギー』であれば防ぐ必要すらないと思ったのかも知れない。
しかしその判断は誤りだと言わざるを得ない。確かにシェフィルが纏うエネルギー量だけで言えば、戦闘艦の装甲を破るのは不可能だろう。されどそれは『ただのエネルギー』であればの話。母は投げた時に回転を加えていたらしく、量子化したシェフィルはガリガリと装甲を削り飛ばしていく。
船のコンピューターが異常を感じ取った時には、もう僅かな穴をこじ開けられていた。大きさ一センチ未満であっても、量子化した今のシェフィルにとっては大穴。光速で内部に突き進み、穴が塞がった時には全身が入り込んでいた。
それを『手応え』で確認したら、母は触手を動かして量子化したシェフィルを操作。身体を再構成する。これでシェフィルは肉体を獲得し、消えていた自我を取り戻した。
……ちなみに万一操作に失敗した場合、量子化した身体が霧散していたが、そうなったら母はそこらにある量子を掻き集めてまたシェフィルを作るつもりでいた。肉体など素粒子の集まりでしかない。構造と組成を百パーセント再現出来るのであれば、バラバラになろうが別の素粒子を使おうが、シェフィルは蘇る。合理的な母の認識ではそうなっていた。
ともあれ無事潜入に成功。宇宙空間で全ての操作を終えた母は、大きく触手を広げる。
【さて。準備運動も済みましたし、そろそろ真面目にやるとしましょう】
そして今まで『娘』を抱えていたがために出せなかった本気を、調子付いている人間達に示すのだった。