凍結惑星シェフィル   作:彼岸花ノ丘

112 / 116
星の継承者16

 強化外骨格を纏ったダリウスの拳と、シェフィルの生身の拳がぶつかり合う。皮膚から伝わる重たい衝撃に、シェフィルは思わず顔を顰める。

 初戦で散々殴られたから分かる。この拳の威力は、惑星シェフィルで戦った時よりも遥かに上だ。

 その理由もまた、シェフィルの目には見えていた。強化外骨格の足が触れている、戦闘艦の床。そこ大量の電磁波が発生しているのだ。

 恐らくだが、ダリウスが着ている強化外骨格に対し床……つまり戦闘艦からエネルギーが送られている。

 地上ではそうした供給がなかったので、エネルギー切れを避けるため全力は出せなかった筈だ。持久力を優先し、パワーを抑えていたのだろう。しかしこの船の中なら、その心配はいらない。常に全力を出し、最大出力を維持出来る。故に惑星シェフィルの時よりも、今の強化外骨格の方が強いのだ。

 これがダリウス、いや、人類文明の『本気』といったところか。本気でない地上での戦いすらシェフィルは一方的にやられていたのに、更にパワーアップしたとなればどう足掻いても勝ち目なんてない。今から降伏の意志を示した方が、まだ幾分生存率は高いだろう。

 ただしそれは、普通であれば、という前置きが必要だ。生憎今のシェフィルは、普段とは程遠い。

 

「ぬ、うぅううああああっ!」

 

 拳と拳をぶつけた後に、追加で力を込め直す!

 するとシェフィルの拳は前に進み、ダリウスの鉄拳を押し返した!

 

「――――何?」

 

 殴り合いで負けるとは思わなかったのだろう。ダリウスは呆けたように一声漏らす。強化外骨格の身体は大きく傾き、今にも転倒しそうだ。

 その様を悠長に眺めるつもりはない。

 シェフィルは前進してダリウスとの距離を詰める。そして軽く跳躍し、足先が届くギリギリの位置で、彼の顔面に向けて蹴りを放つ。

 放たれた蹴りに対し、ポカンとしたままのダリウスは反応せず。

 しかし強化外骨格は勝手に動き出した。シェフィルの蹴りを躱すためか、更に身体を仰け反らせる。シェフィルでも維持出来ないような、背中と地面が水平となった姿勢だ。されど強化外骨格の優れたバランス機能は、この不自然な体勢を難なく維持する。

 それどころか不自然な姿勢のまま、シェフィル目掛けて蹴りを放つ余裕まであった。

 

「ぐぶっ!」

 

 これまで戦ってきた数多の生き物達でさえ、見せた事がないような体勢からの反撃。これにはシェフィルも反応出来ず、鳩尾に蹴りを受けてしまう。

 強力な一撃だ。全身を駆け巡る運動エネルギーにより、内臓が跳ねるように動き回る。身体の一部が急激に凹んだ事で、血圧も大きく上昇した。

 しかし内臓は千切れず、血管も破れていない。

 ダメージは小さくないが、致命的でもない。元より、蹴られたぐらいで止まるつもりなんて毛頭ない。シェフィルの腕はほぼ無意識に動き、強化外骨格の足を両手でがっちりと掴む。

 

「ぬぅうううううんっ!」

 

 床を踏み締めるや、猛り声と共にシェフィルは掴んだ足を振るう!

 引っ張られた勢いにより、ダリウスの身体(強化外骨格)が浮かび上がる。これは不味いと判断したのか、強化外骨格はシェフィルを掴もうと腕を伸ばすが……シェフィルは何時までもこの足を掴んでいるつもりなどない。

 半回転もしないうちに、シェフィルはダリウスを投げ飛ばす! 投げられたダリウスは空中でぐるぐると回転していたが、地面が近付く頃には両足を地面に向けていた。そのまま軽やかに着地を決め、大きく股を広げた、安定的な体勢を取る。

 しかし着地直後であれば、まだ大地を踏み締めてなく、見た目ほどは安定していない筈。

 

「がああっ!」

 

 唸り声を上げつつ、シェフィルは跳躍。跳び蹴りを強化外骨格の胸部に喰らわせる。

 惑星シェフィルで戦った時なら、強化外骨格は難なく踏み止まっただろう。そのぐらいの実力差があった。

 しかし今回は違う。シェフィルの一撃は、強化外骨格の片足が浮かび上がるほどの威力を有す。これでも転倒には至らないが、だが確実に足腰の力は弱まった。

 この好機を逃さない。シェフィルは浮かび上がった強化外骨格の『足裏』を、自身もまだ宙に浮いた状態のまま素早く蹴り上げる!

 追撃を受けて、またも強化外骨格は身体が水平になるほど仰け反った。そしてこの体勢でも倒れない事は、これまでの戦いで既に明らか。

 ならば更に押し出す。

 足ではなく両手で着地したシェフィルは、腕を大きく曲げ、そして一気に伸ばす。さながら跳躍するように身体を打ち出し、強化外骨格の脚部に追加の蹴りをお見舞いする。

 結局、身体を支えているのは足だ。体幹がどれほど強かろうと、足が地面から離れれば立ち続ける事は出来ない。

 残念ながらこの一撃で脚部をへし折る事は出来なかった。だがシェフィルは打ち付けた足裏から、メキメキと手応えを感じる。間違いなくダメージは蓄積している。もう何発か打撃を食らわせれば破壊出来る筈だ。

 転倒させれば、強化外骨格の胸部に跳び移るだけの隙が生じるだろう。そこからダリウスの頭があるヘルメットを殴るのに、コンマ一秒も必要ない。ヘルメット諸共粉砕してしまえば、ダリウスを殺せる。

 この作戦を実現すべく、着地してすぐにシェフィルは拳を振り上げた

 瞬間、強化外骨格の胸部が変形。まるで拳のような物体が生え、シェフィル目掛けて伸びてきた!

 ダリウスが纏う強化外骨格も、戦闘艦と同じくナノマシンで出来ていたのだ。しかもシェフィルが艦内で暴れ回っていた時のデータを活かし、耐電磁波性能を向上させている。これによりシェフィルの攻撃を受けても誤作動を起こさず、尚且つ自由に変形する機能まで持ち合わせていた。

 さしものシェフィルも、いきなり腕が生えてくるのは想定外。考える事はおろか、反射的に動く事も儘ならない。

 

「ぐが!?」

 

 伸びてきた拳はシェフィルの顔面を打つ。強烈な打撃が身体を駆け巡り、シェフィルは大きく仰け反る。

 しかしただ殴られるだけでは終わらない。痛みは数学的に処理し、仰け反っている最中に両手で強化外骨格の腕を掴んでいた。

 自分が仰け反る勢いも利用して、強化外骨格の腕を引っ張る! この動きは強化外骨格も予測していなかったのか、大きな抵抗もなく、強化外骨格も引き寄せられた。両足が僅かに床から離れ、ほんのちょっとだけ強化外骨格は浮かぶ。

 浮かぶと言ってもほんの数ミリだが、それでも『大地』から離れたのは間違いない。踏ん張る事が出来なくなった巨体をシェフィルが蹴り飛ばせば、呆気なく遠くに吹っ飛んでいく。

 十分安全な距離を確保し、シェフィルは軽やかに体勢を立て直す。強化外骨格は着地の際に背中を打っていたが、大したダメージではないだろう。難なく立ち上がり、元の直立姿勢へと戻った。

 互いの『挨拶』が終わり、シェフィルはダリウスを睨む。鉄格子の中に囚われているアイシャは、今の戦いが如何に苛烈なものか目で見て理解したのか。ごくりと、息を飲んだ。

 対してダリウスは、ご機嫌だった。

 

「ふむ。先程の攻防で数回打撃を受けたか。パワーも前回よりも上がっているようだな。いやはや、驚きだ」

 

「……今の戦いに対する感想がそれですか。他人事と言いますか、見ていないかのようですね」

 

「見えてないからな。しかし問題はない。この強化外骨格は、確実にお前を傷付けている」

 

 不敵に笑うダリウス。能天気な彼を包んでいる強化外骨格は、彼の分まで補うように『警戒心』の気配を強める。

 思い返すと、彼は地上の戦いでも言っていた。危険な攻撃には、強化外骨格が自動的に対応してくれると。故に人間の反応速度を超えた攻撃でも、何も問題なく防ぎ、反撃を行える。

 恐らく本当に今の戦いを、いや、惑星シェフィルで繰り広げた戦いさえも、ダリウスは認識出来ていない。もし少しでも見えているなら、或いは今回初めて見えなくなったのなら、シェフィルの的確な反撃にもっと驚くだろう。

 自分自身の力じゃない癖に、よくそんな自信満々でいられるものだとシェフィルは呆れる。呆れるが……

 

「(実際、問題はないんですよねぇ)」

 

 強化外骨格の動きは正確かつ俊敏だ。シェフィルの動きに追随し、不必要なダメージは受けず、打ち込める隙を見付ければすぐに攻撃する。自分より優秀な戦闘技能を持っているのだから、それに頼るのは極めて合理的な判断と言えよう。

 また、戦いの結果はヘルメット内に文字として表示されているようだ。外から読めないようなんらかの加工がされているが、シェフィルの目は電磁波の流れを追う事で多少なりとその文字を視認する事が出来る。尤も、シェフィルは人間達の文字など知らないので、見えたところで読めないが。こんな事ならアイシャから教わっておくべきだったかと、今更ながら反省する。

 そしてもう一つ疑問がある。

 何故自分の身体能力が、ここまで向上しているのか。

 

「(理由は分かりませんが、出力はまだまだ上がりそうな感覚がありますね)」

 

 正直、シェフィルは宇宙船の中では『弱体化』する可能性すら考えていた。シェフィルの身体は惑星シェフィルの環境に適応し、惑星シェフィルの環境に慣れてきたもの。宇宙船という新たな環境では、色々な不都合が起きてもおかしくない。

 ところが実際には悪くなるどころか、どんどん良くなっている。宇宙船の中は人間が暮らす環境なので、それが人間であるシェフィルにとっても適していたのか。それとも別の理由があるのか。原因不明となると、あまり頼りにはしたくない。だが自身を圧倒的に上回る強化外骨格(ダリウス)と戦うには、この力に頼るしかない。

 なら取るべき選択肢は明白だ。なんらかの不都合が生じる前に、この力を思う存分振るって短期決戦に持ち込めば良い。

 

「ふっ!」

 

 シェフィルは気合いを込めた掛け声と共にダリウスに再度接近。近付く動き自体は辛うじて見えているのか、ダリウスは嘲笑うように鼻息を吐く。

 性懲りもなく挑んできた、と思っているのかも知れない。

 彼は強化外骨格という強力な武器を装備しているのだ。シェフィル自体に大きな変化がない限り、結果は惑星シェフィルでの戦いと然程変わらない。むしろエネルギー供給を受けているのだから、より有利と考える方が自然だ。その観点で言えば、確かにシェフィルの行動は愚かに見えるかも知れない。

 シェフィルがそんな事も分からぬ馬鹿ではない、という『敬意』を僅かでも払っていれば、この誤った判断には至らないだろうが。

 

「はぁっ!」

 

 再び肉薄したシェフィルは両手を伸ばす。すると強化外骨格も腕を伸ばし、シェフィルの両腕を掴もうとしてきた。

 シェフィルはこれを避けず、正面から受けて立つ! 両者は互いの手をがっちりと掴み、簡単には離れない状態となる。

 瞬間、強化外骨格の胸部が僅かに蠢く。

 また変形してシェフィルを殴ろうとしているのだ。確かに、両手が掴まれたこの状態で打撃を回避するのは不可能。今更腕を振り解いたところで恐らく間に合わない。蹴りを放つにしても、両手が固定され上手く身体を動かせない状態では大した威力など出せまい。貧弱な打撃を受けたところで、強化外骨格は構わず攻撃を続ける筈だ。

 ではこの危機的状況はシェフィルの判断ミスが招いたものか? 否である。むしろ想定通りだ。

 

「(やる事が、単純なんですよ!)」

 

 シェフィルが取った行動は、手を掴んだまま腕を引く事。

 そうすれば手を掴んでいる強化外骨格も、前のめりに倒れてくる。とはいえこれで転倒する事はない。強化外骨格の足はやはり床にきっちり張り付き、転ぶのだけは避けようとしている。転倒した状態から追撃されるのが余程嫌なのだろう。

 或いは、今からシェフィルが繰り出す攻撃は全くの想定外なのか。

 前のめりになり、距離が詰まってきた事で有効になった攻撃――――頭突きの存在をまるで想定していないようだ。

 

「ふんぬぁ!」

 

 シェフィルが躊躇いなく頭を鈍器のように繰り出すと、強化外骨格は動きが止まる。反撃どころか回避する素振りすらない。

 強化外骨格の人工知能……メインコンピューターは混乱していた。人工知能はその見た目と有機物反応、そして強化外骨格に匹敵する身体能力から、シェフィルを『未確認生物(生態兵器)』と認識している。そしてどんな生物にしても、頭や心臓など、損傷が直ちに致命傷となる部位は守るように振舞うのが普通だ。どれだけ意識していても、無意識に危険を回避しようとする。そうしなければ重要器官に攻撃を受けて、呆気なく死んでしまうのだから。

 強化外骨格はこれまでのシェフィルとの戦いで、シェフィルの弱点部位が人間と同じである事を突き止めていた。つまり頭は最も重要であり、最も守るべき器官。攻撃の度合いにもよるが、胸や腹などより余程守らねばならない。

 ところがシェフィルの繰り出した攻撃は頭突き。

 最も重要な器官を『武器』という、損傷しても構わない形で振るう。機械的なコンピューターには、その攻撃の意味が理解出来ない。解析(理解)するために計算リソース消費し、僅かながら硬直を生み出す。

 シェフィルはそんなコンピューターの性質など露ほども知らず、仮に説明されてもあまり理解出来なかっただろう。そして端から相手を混乱させてやろうなどと思ってもいない。

 シェフィルにとって重要なのは、一瞬でも強化外骨格が動きを止めた事。

 一瞬の硬直をシェフィルは見逃さない。引き寄せた強化外骨格に、そのまま渾身の頭突きをお見舞いする!

 

「ぐお!?」

 

 頭突きの衝撃は相当強く伝わったのか。ダリウスが驚いたような、少し苦しそうな声を漏らす。

 その反応が更なる遅延を生む。

 強化外骨格は『搭乗員』を守るため、防御を優先。その場に留まり、両腕を身体の前で交差させる。しかしその行動は愚策だ。転倒を防ぐために足と床が癒合していて、機動力が活かせない。シェフィルが側面に回り込む事を、簡単に許してしまう。

 

「があっ!」

 

 横に回ったシェフィルが放った、渾身の蹴り。脇腹を打つと、ダリウスを守る強化外骨格が大きく傾く。そしてまた衝撃が中まで伝わったのか、ダリウスの表情に戸惑いが現れた。

 この時、強化外骨格はどう動くべきか?

 シェフィルが強化外骨格の立場なら、まず逃げ出す。明らかに今この瞬間は劣勢であり、逃げて体勢を立て直すべきだ。最優先事項は、普通に考えれば『ダリウスの安全』なのだから。

 しかしこの強化外骨格は逃げず、防御を優先している。

 シェフィルは察した。今の強化外骨格の目的は、アイシャの奪還を防ぐ事なのだ。勿論ダリウスの安全も、優先度はかなり高いだろう。だが恐らく明確に命じられたのはアイシャの方。「アイシャを保護しつつダリウスを守っている」から、後退という選択肢が取れないのではないか。

 ――――シェフィルの直感は正しい。

 強化外骨格の最優先事項は『アイシャの保護』となっていた。ダリウスにとってアイシャは決して奪われたくない、不老不死の野望を叶えるためのサンプル。シェフィルを返り討ちにしたとしても、アイシャを奪われ、逃がされては意味がない。加えて惑星シェフィルでの戦闘結果から、シェフィルに負ける可能性はゼロだと判断。多少自分の安全が脅かされても、特に問題ないと考えていた。

 そして強化外骨格に搭載されたコンピューターは『軍用』であり、明確に指示されれば人命よりも作戦を優先する。途中で変更を行うには、人間の声による指示が必要だ。更にその指示を出せるのは搭乗者であるダリウスだけ。

 

「な、何!? 何が――――」

 

 しかしダリウスは明らかに混乱している。ヘルメット内に表示された情報を見るためか、視線を忙しなく動かしていた。

 シェフィルから言わせればなんと滑稽な姿か。次々に流れていく情報が追い切れず、何も言えなくなっている。

 ダリウスが見ている先には、何かしらの情報は書かれているのだろう。具体的な数値やダメージ量など、とても正確な情報だ。されどそこに書かれているのは過去の記録。今もシェフィルと強化外骨格の戦いは継続しており、状況は目まぐるしく変化している。

 ダリウスの判断は『今』から見れば数手遅れたものだ。最善最適とは程遠い。

 それでも相手がダリウスと同じただの人間なら、その混乱は大した問題ではなかっただろう。判断が数手遅いのは相手も同じで、状況は互角なのだから。だが、シェフィルの思考速度は普通の人間を大きく凌駕している。ダリウスが呆然としている間に、シェフィルは今すべき行動を判断していた。

 

「ふっ! がぁ!」

 

 蹴り飛ばした強化外骨格に対し、シェフィルは追撃。片腕を掴むや自分の方に引き寄せ、合わせて膝蹴りを放つ!

 シェフィルの一撃を胸部に受けた強化外骨格の身体は大きく仰け反る。馬鹿の一つ覚えと言うべきか、また床と接着して堪えようとしていたが……動きを止める行為は愚策。動きが鈍ったところを、シェフィルは思いっきり蹴り飛ばす!

 蹴りを受けた強化外骨格の腕は、僅かに装甲が凹む。ナノマシンの働きにより損傷はすぐに直るが、そこにエネルギーと資源を費やす分だけ動きは更に鈍る。

 生物であれば、ここで動きが鈍るのは危険だと判断出来たかも知れない。機械だとしても、人間であるダリウスがこの状況を認識していれば優先順位の変更ぐらいは出来るだろう。

 だがダリウスは動けない。流れてきた文字を目で読み、意味を理解し、構図を頭の中で組み立てる。『現状認識』だけでこれだけの手間が必要だ。たとえシェフィルと同じ演算速度を持っていたとしても、決断は数手遅くならざるを得ない。無論ダリウスの思考はシェフィルも遅く、更に手順は遅くなる。

 ようやく状況を理解した頃にはもう、シェフィルは次の攻撃を繰り出す。

 

「ふ、んぬぅぅぅうううぅぅうう!」

 

 唸り声と共に突進し、強化外骨格に真正面から突進。腰付近目掛けて体当たりを喰らわせた!

 強化外骨格はシェフィルを排除しようと片手を伸ばし、力強く肩に掴み掛る。そのまま突き飛ばそうと押してくる、が、シェフィルの身体は動かない。

 何故ならシェフィルは今、更に力が湧き出していたから。

 この船に来てからの好調ぶりが、より強まっていた。この力が何に由来しているのか? 何処まで高まるのか? シェフィルにも分からない。だが今この瞬間において、そんな疑問は些末なものだ。強化外骨格を、ダリウスをここで捻り潰せるのなら、リスクも対価も支払ってやる。

 アイシャを此処から奪い返せるのなら、自分の命だって惜しくない。

 

「ぬぅううううがあああああああああああああ!」

 

 雄叫びを上げて更に一歩前進。

 我が身を顧みない力を繰り出せば、シェフィルの全身に痛みが走る。足や胴体の筋繊維が次々と破断し、エネルギーを輸送する血液の過剰流入で幾つもの血管が破裂したのだ。

 だが問題はない。湧き出す力を際限なく投入し、細胞分裂を加速。壊れた瞬間に組織を再生させていく。限界を超えた力が途絶える事はなく、むしろ増大していく。

 溢れ出る力と、退かない覚悟。二つを合わせたシェフィルの突撃は、強化外骨格の足下でバキバキと音を鳴らす。強化外骨格にエネルギーを送り込んでいた、床との付着部分が剥がれ始めたのだ。

 

「まさか、こ、これは……!?」

 

 ダリウスも状況の悪さをようやく理解したのか。「せきゅりてぃ」だの「えんごようせー」だのと叫ぶ。強化外骨格に何かを指示しているのだろうが、その強化外骨格の動きは何処かぎこちない。下された指示を上手く消化出来ていないのか。

 それなら好都合。仮に別の理由があるとしても、動きの鈍った今を見逃す手はない。

 

「だぁああああああああああ!」

 

 最後の一押し。シェフィルは腕から血が噴くほどの力を込め――――ついに強化外骨格の片足が床から剥がす!

 強化外骨格はもう片方の足で必死に踏み止まろうとするが、両足でも耐えられなかったシェフィルの力に片足だけで対抗出来る訳もない。続くようにもう片方の足も剥がれ、ダリウスを守る強化外骨格は背中を激しく打ち付けるようにして倒れた。

 再び訪れたチャンス。そして今度は、先と同じ失敗はしない。強化外骨格が腕を生やす前に、素早くダリウスの頭部があるヘルメットの傍へと駆け寄る。

 シェフィルが自分の傍に来たと気付き、ダリウスの顔が引き攣る。生憎泣き言や命乞いを聞くつもりは一切ない。寸分の躊躇いなく、最速最短の動作でシェフィルは片足を振り上げる。強化外骨格が腕を伸ばし、止めようとしてくるが呆れるほどに遅い。

 シェフィルは自らの足でダリウスを踏み潰そうとした

 

「駄目! シェフィル避けて!」

 

 寸前、アイシャが悲鳴染みた声を上げる。

 避ける? 何から? 予期せぬ警告にシェフィルは足を上げた体勢で一瞬固まってしまう。

 それでも兎に角動き出そうとした瞬間、シェフィルの胸を『何か』が貫くのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。