「がああぁっ!」
一歩前へと踏み出したアイシャであるが、それより速くシェフィルが吼えながら突撃を行う。
猛然と駆けたシェフィルはプリキュの腹に蹴りを入れ、蹴られたプリキュは身体をくの字に曲げて蹴り飛ばされる。蹴られなかった方のプリキュは、不安定な体勢のシェフィルを引っ掻こうと腕を振るった。
瞬間、アイシャは残り六本ある矢のうちの一つを放つ。
攻撃対象は、シェフィルに襲い掛かるプリキュの目。確実に命中させるには不十分な四メートルの距離で撃ったが、ここまで接近すればそれなりの精度は確保出来る。比較的真っ直ぐなものを選んだ甲斐もあり、矢は狙い通りプリキュの目へと進む。
人間相手であれば、上手く当たれば致命傷を与えられる攻撃だ。人間の柔らかな目の奥には、最重要器官とも言える脳があるのだから。しかしプリキュ相手にそこまでの効果は見込めない。何故ならプリキュの目は、頑強なレンズ質の複眼。ちょっとやそっとの攻撃では、貫通どころか傷すら与えられない。たとえ傷付けても、惑星シェフィルの生物特有の優れた再生力によって治ってしまう。
それぐらいの事はアイシャも分かっている。複眼をぶち抜いてやろうとは夢にも思わない。
だから敢えて今回の矢には、脆くて柔らかそうなトゲトゲボーを選んだ。手触りからの判断なので本当に脆いかは断言出来なかったが、命中した瞬間矢が粉々に砕けたのを目の当たりにしてようやく確信に至る。
「コキュウゥ……ッ!」
そして砕けた拍子に飛び散った破片と汁が目眩ましになり、プリキュの動きを止めた。シェフィルへの追撃を防いだだけでなく、着地したシェフィルが立ち止まるプリキュを力いっぱい殴るための隙も作る。
二体のプリキュは離れるように吹っ飛んでいく。素晴らしい連携、と言いたいところだが、今の攻撃で『目眩まし』は学習されただろう。同じ事をしても、恐らく殆ど怯まない。
ならばと、アイシャは次の矢を放つ。
今度の狙いは、もう一体のプリキュの頭。そして部位はまたしても目。
立て続けの攻撃、更にシェフィルの一撃で体勢を崩している。正確に狙いさえすれば、当てるのは難しくない。それにプリキュはシェフィルの攻撃に集中していて、こちらに意識が向いていない。これなら正面からの射撃でも、不意打ちのように当てられる筈――――
というアイシャの考えは、甘い見込みだった。痛みさえも数値で認識するプリキュ達にとって、殴られた直後だろうとなんだろうと判断力は鈍らず、周囲の警戒も怠らない。変動するのはあくまでも優先順位。真正面から矢が来れば認識するのは造作もなく、僅かに首を僅かに傾けるだけで躱してしまう。
それでも頭から伸びている触角には当たったが、どうやら触角の方が硬かったらしい。獣の耳のように動かされた触角により、矢の方が弾かれてしまう。
「う、嘘!?」
これにはアイシャも少しばかり驚く。まさか感覚器である触角すら、直撃してもダメージにならないとは。
その驚きが隙を生み、体勢を立て直したもう一体のプリキュの尾がアイシャ目掛けて振るわれる。気付いた時にはもう遅く、回避は不可能。
せめて弓だけは傷付けさせないと両腕を上げ、結果尻尾がアイシャの鳩尾を打つ。無数の体節で形作られる尻尾は縁が鋭利であり、アイシャの着ている服を切り裂き腹部に深い切り傷を刻む。
そのまま受け続けていたら、内臓が飛び出すぐらい大きな傷跡となったかも知れない。しかし幸い、ビビったアイシャは無意識に後ろへと飛んでいた。お陰で傷跡が深くなる前に退避する事が出来た。
なんとか致命傷は避けた。今のアイシャの再生力なら、内臓に達していないような傷であれば数分もすれば治っているだろう。
「い、っ……」
しかしそれでも痛い事に変わりはない。シェフィル達なら数学的に処理して痛みなど無視出来るだろうが、アイシャはそこまでの域には達していない。苦痛が顔に現れてしまう。
「こ、のおおおおおお! よくもアイシャを!」
それがシェフィルの怒りに火を付けた。アイシャを尻尾で痛め付けたプリキュの腕を掴むや、シェフィルは大口を開けて獣の如く噛み付く!
極限まで闘争心を高めたが故の、原始的攻撃と言うべきか。技量も何もないが、しかし古来より続く極めて効果的な攻撃でもある。甲殻と呼べるほど硬くはないプリキュの表皮はシェフィルの歯を防げず、食い込むのと同時に体液が染み出す。
更に噛み付きは単純な殺傷力だけでなく、拘束力の面でも強力だ。爪よりも遥かに大きく頑強な歯が食い込めば、そう簡単には振り解けない。手足も使えばより効果的に相手を束縛出来るだろう。
しかし欠点もある。
噛み付いた状態から離れるには、単にしがみつくよりも長い時間が必要である点だ。
「コガァ!」
噛まれていない方の腕を振るい、プリキュはシェフィルの肩を爪で引き裂こうとする。噛んでいなければ、避ける事も出来たかも知れない。しかし今のシェフィルにそこまで俊敏な動きは不可能。
爪がシェフィルの肩肉を抉る。開いた肉の間から白いものが見え、血も溢れ出す。
「うぐぅ……! ぎ、ぐ……!」
これほどの大怪我を負いながら、シェフィルは離れず噛み続ける。
動きを止める事に集中しているのだ。少しでも長く、プリキュの自由を奪うために。
「コオッ!」
「コキャアアア!」
しかし二体のプリキュに挟まれた状態では、意地を通り越して自殺行為。噛まれている個体はシェフィルの腹目掛けて膝蹴りを放ち、もう一体は背中を蹴飛ばす。
二体の同時攻撃を受けて、シェフィルも堪らず手と口を離す。だがこれで許してくれるプリキュ達ではない。自由になった拳で顔面を殴り、振るった尻尾で太ももを切り裂く。シェフィルは身を捩って攻撃を受け流そうとしていたが、それで完全にダメージをゼロに出来る訳もない。少しずつ、着実にシェフィルの身体が傷付いていく。
今度は、アイシャが怒りに震えた。
「は、離れなさい! このぉ!」
力任せに七発目の矢を放ち、プリキュに撃ち込む。
高速で飛んでいった一発は、プリキュの顔面に命中する。額に当たったが、矢よりもプリキュ達の皮膚の方が丈夫だ。矢は砕け散り、プリキュ達は多少気に留めたように身体を強張らせただけ。
それでもほんの一瞬、瞬きほどの隙を作り出す事は出来た。
「ぬぅあっ!」
攻撃の手が僅かに緩んだ瞬間、シェフィルは地団駄を踏むように力強く足元を蹴る。無論こんなところでワガママを言っても、誰一人として聞いてくれない。
だがシェフィルの足であれば、地面に堆積する石を舞い上げるのに十分なパワーがあった。
石や砂がもわっと浮かび上がり、シェフィルの周囲を漂う。目眩ましとしては薄い煙幕だが、視界を妨げられれば警戒ぐらいはする。『無理』をしないプリキュ達なら尚更だ。
プリキュ達が追撃を止めた隙に、シェフィルは素早く前進。その行動は撤退ではなく、動きを止めたプリキュの一体に迫るためのもの。
まだシェフィルは肉弾戦を続けるつもりだ。きっと、死ぬまでやる気だろう。
しかしその身体は既にボロボロ。あまり長くは持たないとアイシャは思う。愛する人の死や敗北は想像もしたくないが、自然は人間の願望に従ってくれるほど優しくない。合理的に、冷静に状況を認めなければならない。
無論、それは受け入れるという意味ではない。シェフィルの命が長くないなら、それより早くプリキュを倒せば良い。
「ふっ!」
気持ちを落ち着かせたアイシャは八発目の矢を撃つ。何度も撃った事で大分扱いに慣れてきた。今は五メートル離れていても、かなりの精度で狙い撃てる。
だが慣れたのはプリキュ達も例外ではなかった。矢で撃たれたにも関わらず、プリキュ達はアイシャの攻撃を無視。背中を向け、矢を受け止めてしまう。
防御なんてしなくても、脆弱な矢は命中時の衝撃で砕ける。プリキュの背中は、ノーダメージではないが、精々掠り傷程度。すぐに再生し元通りとなる。最早脅威ではないと判断されたようだ。
だからこそ、アイシャの思惑通り。
プリキュ達はアイシャが大した脅威ではないと認識した。つまり
後は考えた策を実行するのみ。
「(あの場所に矢を撃ち込めば……!)」
勝利のための道筋が見え、アイシャは僅かに微笑む。
しかしここから先も簡単ではない。
まず、アイシャが攻撃を当てたい場所が厄介だ。それはプリキュの背中側。あそこに矢を当てたいが、プリキュ達はそこまでアイシャを見くびってはいない。簡単には背を向けず、ましてや適当に攻撃すれば簡単に防がれてしまう。
おまけに矢の本数にも限りがある。あと二発しかない。しかもこの二本のうち一発は最後の『決め手』で使う。そうなると残りは一本だけ。
苦し紛れに、後退しながらアイシャは近くにあったトゲトゲボーを触る。どれもこれも柔らかく、おまけに大きいため簡単には折れない。
幸運にも一本だけ、生えたばかりと思われる短いトゲトゲボーがあったので引っこ抜いた。感触からして硬さは十分、むしろ今までの矢の中では一番硬いかも知れない。硬さは威力に繋がるので、ここで強力な矢が補充出来たのは実にラッキー……
「(いや、これはちょっと硬過ぎる)」
一瞬の喜びも束の間、すぐ問題に気付く。
矢というのは、加工しなければ使い物にならない。弦に嵌めるための切れ込みを入れる必要があり、トゲトゲボーなら棘を取らねば真っ直ぐ飛ばない。ちゃんと撃てないという事は速度も出ないので、硬くても威力は低いだろう。
優れた武器とするには加工が必要だ。だが硬く頑丈なこのトゲトゲボーを整形するのは一苦労。間違いなく、十秒やそこらで出来るものではない。つまりこれは今この瞬間において、使い物にならない代物なのだ。
しかし今は一本でも多く矢が欲しい。何処かで使うチャンスがあるかもと、服の間にしまっておく。
それから改めて、別の矢であるトゲトゲボーを弓の弦にセットした。ちゃんと切れ込みを入れたものであるが、時間が経って再生しつつある。今まで以上にコントロールが難しくなっていて、三メートルという至近距離でも当てられるか怪しい。
だが当てねばならない。それも残り三発の矢全てを。アイシャの理想通りに事が進んでも、最低三発は矢が必要なのだから。
「(……この考えは駄目ね。こんなんじゃ普通に失敗するわ)」
やらなきゃ負ける。しかしそんな気持ち一つで勝てるほど、この星の環境は甘くない。
そもそも『頑張る』のはプリキュ達含めた、全ての生物がやっている事。ならこの戦いを勝ち抜くには精神論ではなく、相手の優勢を打ち砕く論理的な作戦だ。
パッと思い付くのは、誘導である。プリキュの気を引き、当たりやすい位置へと動かす。これなら三発、狙い通りに当てられる筈。
そしてこの作戦を任せられるのは、言うまでもなくただ一人。
「シェフィル! そいつらの気を引いて! 私が背中を狙う!」
大きな声で、シェフィルに作戦を伝える。相手が言葉を理解していないが故に、情報の秘匿に支障はない。
残る問題はシェフィルがこれに賛同してくれるかどうか。作戦の概要を説明する気はあるが、戦いながらでは時間が掛かる。加えて話に意識を持っていかれては、近接戦をするシェフィルにとってはかなりの負担の筈。
最小最短、それでいてあまり頭を使わないように説明しなければ……様々な思考を巡らせるアイシャだったが、その苦労は一瞬で水泡に帰す。
「何か作戦があるんですね! 分かりました!」
シェフィルは全てを察した上で、なんの躊躇いもなく信じてくれたのだから。
無意識に、アイシャは弓を掴む手に力がこもる。
まともに戦うのは今回が初めての奴が立てた作戦なのに、シェフィルは疑問を挟まず受け入れてくれた。しかもシェフィルは弓矢という武器がどんなものかあまり知らない。だからシェフィルはアイシャがどんな作戦をする気なのかも分からないだろう。それでも彼女は迷いなく、アイシャの言葉を信じてくれた。
或いは、合理的思考の結果なのかも知れない。肉弾戦をしている自分より、遠くにいるアイシャの方が全体を俯瞰して考えられるのは間違いない。あくまでも適材適所に過ぎず、信頼とは別のものという可能性もある。
それでも、アイシャにとっては嬉しくて。
「ええ、任せなさい!」
気付けばアイシャの中に、失敗を危惧する気持ちは残っていなかった。
アイシャが力強く答えると、シェフィルは早速プリキュ達の気を引く。積極的に前へと出て、拳や蹴りによる攻撃を頻繁に繰り出す。突如として攻撃頻度が上がり、プリキュ達は僅かに戸惑ったのか。二体の視線はシェフィルに釘付けとなる。
その隙にアイシャは一体のプリキュの背後に周り、矢と共に掴んだ弦を引く。
九本目の矢。これは今まで使っていた八本と違い、極めて頑丈なものだ。そしてアイシャは今までで一番プリキュに接近し、弓矢としては至近距離である三メートルまで肉薄している。攻撃の威力を高める意図もあるが、狙った場所に確実に当てるのが本命だ。今のアイシャの技量では、狙った場所に正確に当てるにはかなり近付かなければならない。
これまでならもう一体のプリキュがアイシャの動きに気付き、邪魔してきたかも知れない。しかしアイシャの攻撃が無力で貧弱だと知ってしまった奴等は、だからこそアイシャの邪魔はしない。合理的だからこそ優先度の高い方に意識が向いてしまう。
思う存分近付いたアイシャは渾身の力で矢を引き、放つ。
これまでで一番強力な一撃が、無防備で無警戒なプリキュの背中を撃つ! 当たっても砕けていた軟なものと違い、此度の矢はプリキュの皮膚に食い込み……突き刺さる。
「ゴキャ!?」
まさかこれほど強い攻撃が来るとは思わなかったのだろう。プリキュは大きく呻き、よろめく。
追撃のチャンス。アイシャは即座に次の矢を手に取り、素早くもう一発、プリキュの背中に撃ち込む!
十発目の矢は先程よりも固く、より強力な打撃をプリキュに与えただろう。だがプリキュの皮膚を貫くには至らず。そしてプリキュ側も、二回目の痛みには問題なく耐える。
あと一本。これで勝負を決する……そう考えるアイシャだが、しかしプリキュがそれを許さない。
今までプリキュが無警戒だったのは、アイシャが無害だったから。だが皮膚に傷を入れた存在を、何時までも警戒しないほど愚かではないのだ。
「コオオカアアアアア!」
矢を受け続けていたプリキュは、ついにアイシャの方へと振り向き、襲い掛かってきた。
突然の動き。予測していなかった訳ではないが、未だ戦いの経験値が少ないアイシャは咄嗟に動けず固まってしまう。
おまけに残る矢の数は一本だけ。つい先程手に入れたばかりのそれは、他の矢より格段に硬い。加えて至近距離なら、いくら矢の品質が悪くても命中させられるだろう。顔面当たりに叩き込めば怯ませるぐらいは出来るかも知れない。
しかしそれをしたら、ここまで積み上げてきた『策』が瓦解する。この矢が、アイシャの持つ最後の矢なのだ。
仮に瓦解せずとも、新しく矢を取ってくる時間を考えると得策ではない。アイシャの考えた作戦は、素早く完了させなければ意味がないのである。これでは今までの苦労が水の泡、いや、アイシャが脅威だと学習された分却ってマイナスだ。
だが攻撃手段を温存した結果捕まり、瀕死になるほどのダメージを受けてはそれこそ元も子もない。リスクは承知で反撃するしかない……最悪を避けるため次善を選ぼうと、アイシャは最後の矢を取り出す。
「させません!」
しかしその矢が撃たれる前に、シェフィルがプリキュを攻める!
猛然と体当たりを喰らわせたのだ。とはいえプリキュとの体格差は歴然としており、またいくらアイシャに意識が向いていたとはいえシェフィルを完全に無視していた訳ではない。攻撃の予兆を感じ取っていたのかしっかりと踏ん張り、その攻撃を受け止める。
だが、シェフィルにとってもこれは想定内。
攻撃を防がれたシェフィルが次に起こした行動は、その身によじ登る事。胴体側面に張り付き、そして腕に噛み付いたのだ。これにはプリキュも動揺する。いや、正確には混乱するといったところか。
もう一体のプリキュが傍にいる状況でそんな事をすれば、簡単に捕まり、剝がされる。何故こんな悪手をするのか、合理的なプリキュ達には理解出来まい。
「コオクルルルルル!」
「ゴコココ!」
一体のプリキュがシェフィルを捕まえ、引っ張って剥がす。自由になったもう一体のプリキュがシェフィルの方へと振り返る。
そしてすぐ、大きくその手を振り上げた。
アイシャは一気に顔が青ざめていくのを感じた。プリキュ達はここで、今度こそシェフィルを殺すつもりだ。今までだって殺すつもりだったが、捕まえて動きを封じた状態ならば確実にそれが出来る。
止めなければシェフィルが死ぬ。
だがどうすれば良い? 確かに今はプリキュ達の意識が自分に向いていない。矢で狙いたかった背中も見せている。もしも弓矢で背中を撃てれば、攻撃しようとしているプリキュを止める事は出来るだろう。
だがプリキュは腕を振りかぶる動きにより、狙いたい場所が大きく、そして速く動いていた。熟練の弓兵ならば兎も角、ほんの数分前に初めて矢を撃ったような人間に狙えるものではない。今までだってシェフィルが気を引いている間、一瞬止まっているタイミングを狙っていたのだ。こんな、激しい動きの最中では当てられない。おまけに残る最後の一本は、棘すら取り除いていない代物。一メートルぐらい近付いても、狙ったところに当たるか怪しい。
為す術がない。まさかシェフィルは自分の命と引き換えに……『最悪』の可能性が脳裏を過るアイシャだったが、対してシェフィルはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
こんなところで死ぬ気は毛頭ないと、人の心配を笑うように。
「そうです、その目で私を――――見なさい!」
それを証明するかの如く繰り出したのは、シェフィルがアイシャを突き飛ばすために生み出し、前回は自らの手を破裂させた技だった。
凄まじい技だが所詮は目眩まし。怯ませるのが精々であり、『反撃』を想定しているプリキュ達がシェフィルを手放す事はない。ましてやプリキュにとってそれは一度見た技だ。大した驚きは与えられず、ただの自爆で終わってしまう。
だからシェフィルは、今までとは違った使い方をする。
熱エネルギーを
シェフィルが目論んでいたのは爆発による目眩ましではなく、目潰しだ! 強力な光という『刺激』は、何かしてくると警戒していたからこそ注視していたプリキュ達には効果覿面。
「コァ……!?」
刺激から逃れようとしてか、プリキュ達は片手を上げて自らの視界を塞ぐ。身を捩らせ、その場で立ち止まる。
動きが止まった。これなら射抜けるとアイシャは至近距離から弓を構え、
「コキュウウルルルル!」
その弓に、プリキュの尻尾が振るわれる。
しまった、と思うも身体は動かず。プリキュの尾がアイシャの弓を叩き、そして呆気なく
弓が壊された。
プリキュにとってこれが狙ったものなのか、或いは怯んだが故に背後を攻撃されると予測してがむしゃらに振るったのか。いずれにせよ弓は尾の一撃により、半分ぐらいがバラバラに吹き飛んだ。これでは使い物にならない。
攻撃手段を失い、アイシャはますます青ざめる。だが、恐怖に染まる思考を即座に振り払った。確かに理想的な状況ではなくなったが、まだ攻め手はある。己のこの肉体がある限り。
弓は壊されたが、矢は無事。しかも二体のプリキュは、シェフィル渾身の技で視界を奪われている。尻尾は素早く振り回されていて当たれば危険だが、動きは単調で読みやすい。
尾を避けて、肉薄する事は可能。そしてこんなチャンスは、きっと最初で最後。
「(怖くない怖くない怖くない!)」
心の中で叫ぶように、自分に言い聞かせたアイシャは走り出す。尻尾が目の前を横切った、その瞬間に跳び出し、遠距離戦を捨ててプリキュの背中に抱き着く!
その手に、最も丈夫な矢を握り締めて――――