ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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初邂逅

 

 俺は取り立てて語ることも無い一般人である。

 現在、殺人事件の現場で探偵役として犯人を暴いている真っ最中だ。

 

 「――さて、ここまでで何か質問は?」

 

 俺の問いかけに答える人はいなかった。

 部屋は静まり返っている。

 

 俺の説明は恐らく分かりづらかったのだろう。

 それなりに人間関係が込み入っていたし、トリックも凝っていた。

 金持ちらしい豪華な毛足の長い絨毯が敷かれた大広間に集まり、関係者たちは緊張に固唾を飲んで俺を見守っている。

 

 だが、ここまで説明すれば皆もなんとか理解できたはずだ。

 集まった警察諸君、死んだ爺さんの相続人関係者、メイドさん。

 皆が皆、誰もが呆然と、あるいは恐れと確信に顔を強ばらせながら話の結末を待っているようだった。

 

 豪華な金細工の施された壁掛け時計がカチリと音を立てた。

 静かな室内でやけに響いた時計の音に、否応無く俺の緊張は高まる。

 

 「理解いただけたなら結構。では、諸兄ももうこの一連の事件のカラクリを把握できただろう。これ以上は言葉にするまでもないだろうが、結末を下すのも探偵の務め」

 

 言葉を切り、一拍の間を置いてゆるりと視線を向ける。

 

 その相手こそが犯人である男性だ。

 話を聞き入って扇状に俺を囲んでいた事件関係者の中、ひとりだけ人影に隠れるように小さくなっていた中年男性がガタガタと震えている。

 

 脂ぎった額をすっかり青ざめさせ、不潔な印象を与える無精ひげをもごもごと動かして何事か呟いている。

 俺の視線を追い、人々の視線は一斉にその男へと集まった。

 男の肩がびくりと跳ね上がる。

 

「そう。遺産を求めてこの家の主を刺殺し、その証拠となる煙草を発見してしまった孫の美央さんを突き落とした犯人」

 

 緊迫が空気を張り詰めさせる。

 猜疑と軽蔑の入り混じった瞳が四方八方から男を映す。

 顔に脂汗を浮かべ、浅く早い呼吸に体を上下させる男の姿を人々の瞳が捕えた。

 

「それこそが……彼、むら」

「いやだいやだいやだ!違う!仕方なかったんだ!」

 

 突如として絶叫した男に俺の言葉はかき消された。

 男の周囲にいた人が、狂乱したような男の様子におびえて距離を取った。

 ちがう、おれじゃない、あのジジイが全部悪い、素直に金をくれれば殺さなくてよかったのに、ウザいクソアマが消えて困る人間なんていない、オレは無罪だ。

 興奮した様子でほとんど自白のようなことをわめき散らしている。

 

 俺はその言葉を聞き、内心では魂が抜けるほど大きな安堵の息をついていた。

 

 ……よよよよかった!!!あってた!俺の推理あっててよかったぁぁあ!!!

 はーーーーー緊張した!

 

 俺は誰にも分からないよう、内心でだけ大きなため息をついて力を抜いた。

 

 俺の霊基である名探偵の佇まいこそ冷静かつ実に泰然とした態度だっただろうが、裏ではほとんど犯人の男と大差ない緊張に震えていたのだ。

 

 違っていたらどうしよう、どこか情報の取りこぼしは無いか、うっかりはしていないか。

 いくら霊基が優秀でも、操作する本体が俺では何が起こるか分かったものではない。

 

 俺は転生者なんていう肩書こそあれど、基本的にはなんの力もない素人だ。

 

 では、その身に余る能力は何か。

 きっと答えはとうの昔に出ているだろうが、あえて言葉にするなら「転生特典」というやつだ。

 

  俺はこの世界に生まれると同時に、一つの席を与えられた。

  

 シャーロック・ホームズ。

 

 探偵小説というジャンルを切り開いた祖であり、今なお多くの人に愛される不朽の名作であるそれ。

 誰しも一度は聞いたことがあるホームズという位こそが、俺に与えられた特典だ。

 

 正確に言えばFateという現代ファンタジー作品におけるホームズだが。

 それゆえ多少の差異はあるが、なんか凄い武術ことバリツと人間を超えた頭脳の二つは変わりない。

 

 謎のビームを出したりもできるが、世紀末救世主伝説でもあるまいにビームでモヒカンの群れを薙ぎ払う機会もない。

 というより本当に何だあのビーム。

 この多少犯罪が多いだけの普通の世界であんな戦闘力必要だったのか?

 

 閑話休題。

 とかく、俺に与えられたホームズの力はそりゃあもう凄まじいものだった。

 目にするもの耳にすること全てが洪水さながらの情報量で襲ってくるのだ。

 

 街ゆく人をちらりと見ればその人の職業、生活態度、健康状態、心理、生活圏等々がバッとリストアップされるし、コンクリートの染み一つに無数の要因とそこで起きた出来事が確度の高い順にパーセンテージ付きで分かってしまう。

 

 それらの手綱を握り、推理を組み立てていくことの難易度は筆舌に尽くしがたい。

 

 そこらの兄ちゃんがスペースシャトルの操縦なんてできると思うか?

 それと同じだ。

 

 「明かす者」たる頭脳は回転しすぎて目が回りそうだし、未来予知さながらの洞察力は雪崩じみた情報量を常に俺に押し付けてくる。

 さながらロケットエンジンを積んだ三輪車のようなもの。

 吹っ飛んでいく景色をなんとか整理して地図を書くことの難しさたるや、ここではとても語りつくせない。

 

 頭が休まる日もなく、毎日が情報漬けだ。

 休日の雑踏なんて見ているだけで魂が擦り切れそう。

 

 ありとあらゆる知識が唸りを上げて現在を分析し、俺にその形を教えてくる。

 こうなってしまうと逆に本を読んでいる方が情報が少ないぐらいだ。

 本を見ている分には紙と文字しか視界にないわけだし、出る情報も語られている内容に関するものだけになるからな。

 

 できれば日がな一日本を読んで暮らしたいが、そううまくも行かないところ。

 

 

 

「ご協力感謝いたします、ホームズさん!」

「構わないよ。君たちもご苦労」

 

 若く見える新人刑事さんがピシッと私に敬礼した。

 この地方の事件を解決するのは初めてだから、会ったことのない顔ぶればかりだ。

 上司らしいおじさん刑事がほっとしたように息をついている。

 殺人事件の経験自体は少なそうだが、真面目そうでいい刑事さん達だ。

 

「東都には難事件も多く、工藤優作さんなどの有名探偵さんたちも多いそうですが。こんな地方には人手も経験もなく…まさかかのホームズさんがいらっしゃるとは!」

 

 にっこにこで汗をハンカチで拭うおじさん刑事は、事件が拗れる前に解決できて嬉しそうだ。

 前世の世界なら探偵なんてその辺の民間人と大差ないから、警察と関わることなんてあり得なかったが。

 この世界では探偵の重さが違うらしい。

 俺がスムーズに事件に首を突っ込めたのもこの違いにある。

 

 と、その時。

 

 だだだっ、と乱暴に走る音と、「こらクソガキ!止まれッ!」と叫ぶ刑事の声。

 俺の元に走ってきた少年は、まだ成熟しきらない中学生の初々しい姿で息を荒らげながら俺を見上げた。

 遠くに刑事さんと一緒にいる少女───おそらく蘭ちゃんが見える。

 

 どうやら事件現場にこっそり侵入してきたらしい。

 実にアクティブかつ怖いもの知らずな子たちである。

 

「ホームズさん!?本物!?」

 

 どうやら旅行でこの辺に来ていたようだ。

 ホームズとしての頭脳が蘭ちゃんの持った袋を近辺で買えるお土産の袋だと断定した。

 

 俺の様子に興味津々な工藤君が、こちらを見て瞳をキラキラと輝かせた。

 

「なぁなぁ、どうして佐伯さんの行動が犯人を庇ってのことって分かったんだ?」

 

 自分で解決したかったのだろう。

 少しの悔しさがアクセントのように目に浮かんでいる。

 どうやら悪くは思われていないらしい。良いことだ。

 

 しかし、どう答えたものか。

 口頭で答えれば1週間はかかる膨大な量の「仮説推論」から来る推理だったのだ。

 スパコンじみた頭脳は佐伯さんを視界に収めて1秒も経たずに推論を完成させたが、正直に答えるべきか……。

 ふむ。

 

「単なる私の勘さ。言語化できない経験から来る推察でしかない。君の助けにはならないだろう」

「そっか……。でも本当に凄いな!推理の導き方もそうだけど、佐伯さんの偽装を見破ったところなんてもう俺すっごい興奮して!」

 

 どこから聞いていたのか、かなり長いことここに侵入して潜んでいたらしい。

 初めて会うにしてはえらく好感度が高い様子だ。

 まぁ、俺も比較的長く探偵をやっているからな。

 知名度としては意外とある方だ。

 それに探偵繋がりとして、有名小説家の工藤優作さんともまあそこそこ親しい仲となっている。

 

 世界で初めて「諮問探偵」として公式に認められたということで、取材に来たのがきっかけだったか。

 

 だが、輝ける推理漫画の主人公、最高峰の頭脳を持つ工藤新一にここまで好意を向けられては俺も居心地が悪い。

 

 なにせ外っ面だけは最低限落ち着きある人間だが、俺本体は優秀でも何でもない。

 そこにこんな好意をぶつけられると、恥ずかしさより申し訳なさが先行してしまう。

 

 どうにもいたたまれなくなって、俺は用事があると言って戦略的撤退を決めた。

 少年の夢を壊さないようにできるだけスマートな動きで部屋を後にする。

 騙している様で悪いが、主人公の好感度が高いに越したことは無い。

 

 主人公には巨悪が付きもの。

 

 物語になるほどの巨大な闇が世界に存在するとして、俺の探しているものがそこにいる可能性は非常に高い。

 なぜなら、私(ホームズ)が居るのなら彼(モリアーティ)が居るのは当然の摂理だからだ。

 俺の死亡フラグの9割9分を担うかの教授を探し出すことこそが、俺が生きていくうえで最も大切なことである。

 

 「名探偵コナン」なんてろくすっぽ知らないが、滝つぼに落ちて死ぬのだけは御免こうむる。

 この生を証明するため、俺は分不相応な「名探偵」を演じ続ける。

 

 

 来たるべき教授との対決で、生き残ることができるように。

 

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