あれから、ここ数ヶ月のうちに5回も命を狙われることとなった俺である。
マジでやめてほしい。
方法は多種多様だ。
狙撃だったり、強盗に見せかけてタマを取ってこようとしたり。
強盗に関しては普通にバリツで正面から叩き伏せた。
たぶん組織の下っ端だったのだろう、実行犯を二人ほどバリツで吹っ飛ばすと彼らは緑川君を人質に取ろうとした。
しかし緑川君とて文武両道の潜入捜査官。
逆に向かってきた下っ端を投げ飛ばし、背中から盛大にフローリングに叩きつけられた下っ端は無様な悲鳴をあげていた。
あの見事な投げっぷりは……下っ端が背骨を骨折していないといいのだが。
狙撃の方は組織幹部によるものだった。
蝶々のタトゥーが特徴的な女性──キャンティとかいうらしい──が300mほど先のビルの屋上から狙ってきたのだ。
しかしながら俺も狙撃されるのは一度や二度ではない。
残念ながら、本当にあらゆる意味で残念ながら俺は狙撃で命を狙われることには慣れている。
つまり、この辺の狙撃ポイントは抑えているのだ。
霊基のホームズの力も借りて、カウンタースナイプの体制はすでに万全だ。
遠距離から銃で狙われた瞬間、虫眼鏡型の魔術礼装を部分展開。
非常に弱い魔術的光線を相手の目に向かって逆照射することで、目を一時的に使えなくするという対抗措置を取ったのだ。
あれなら目を潰される恐れから二度とこちらを狙ってくることもなかろうよ。
なにせ、苦しんでもう一度こちらをもう片方の目で確認するキャンティ相手に、俺は笑顔で手を振ってやったからな。
すなわち「これは警告だ。次はより強い光線で目を潰す」というメッセージだということだ。
目はスナイパーにとっての生命線。
それを潰されては組織での居場所すらも失ってしまうかもしれない。
あの気の強そうな女性のことだからものすごい罵倒されただろうが。
俺を狙うことがかなりのリスクを伴うことは分かってくれただろう。
あとは火付、修理業者の点検に見せかけて爆弾を設置ぐらいはあったが、すべて解決済みだ。
火付はかなり危なかったが、小火で済ませることができたので一安心だ。
ほんと手段を選ばない組織である。
他の秘密機関は狙撃と毒殺程度で留めていたのに、派手好きというかなんというか。
ただ、この惨状にはメアリーさんにはセキュリティの甘さをかなり強く指摘されることとなった。
「一般人相手なら十分だろうが、お前ほどの有名人を住まわせるには足りなさすぎる!」とのこと。
まったく返す言葉もない。
緑川君にも「俺まで今度こそ死にそうなんだけど」と苦言を呈され、流石の俺たちも引っ越しの検討を余儀なくされている。
しかしどうすべきか。
高級マンションもいいが、何かあった時を考えるとやはり一軒家か。
たしか東都の米花町あたりには高級住宅街があったはずだし、落ち着いていて治安もいいと聞いている。
組織との対決も見据えて日本に本格的な拠点を作るのも悪くないし、有り余る貯金を使って土地でも購入して屋敷を建てるのもいいだろう。
新たな俺のマイホームについてぼんやりと考えながら日課であるメールを確認していると、新しいFBIからの報告メールが一件あることに気がついた。
「これは…組織関連の仕事か?」と緑川君がメール画面を覗き込んで険しい顔をする。
緑川君は変装済みで、どこにでもいる平凡顔のお兄さんに見事に化けている。
元の顔のようにイケメンだと人目を引くからな。アイドルじゃあるまいし、顔は必要ないんだよ。
とと、私情は置いておいて。
組織関連に違いはないので、そのことを正直に白状する。
「どうやらFBIがようやくジン捕縛作戦を決行したようだ。どうも、失敗に終わったようだがね」
「!!!」
緑川君の視線がするりと引き絞られ、鋭く思考を回すような怜悧な顔つきに変わる。
たしかスコッチはライとは知り合い…というか、例のNOCバレの一件で正体を明かしあった仲だったか。
やはり気になるのだろう。
「ライは無事なのか?」
「命は無事のようだが、FBIであることが組織にバレたらしい。成功率は低くなかったはずだが、何か計算外のアクシデントがあったのか…まだ詳細は不明だ」
「そうか。ま、無事ならいいんだ。あいつなら命を狙われても逃げ延びることぐらいできそうだしな」
一応命の心配はないと聞いて、緑川君はほっとため息をついたようだった。
緑川君自身、逃走中に赤井秀一から保護を提案されたらしいし、恩義に思っているのだろう。
今後、ライこと赤井秀一は組織に命を狙われることになるはずだ。
NOCに厳しい組織のことだ。執拗に命を狙ってくることが予想される。
何年逃げ切れるかはわからない。
どこかで死亡偽装をしなければならなくなる日が来るに違いない。
現状から算出される未来の予測可能性を延々と演算し、沈黙の裏で高速で思考を回していく。
ああ、頭が痛い。
俺の眉間に皺がよっていることに気がついたのか、緑川君がさっと愛用の頭痛薬を渡してくれた。
それを冷たい水で飲み下し、俺はいつものように手のひらを合わせて霊基の力を借りていく。
緑川君は赤井秀一が助かることを願っている。
ならば、組織から逃げ切れるだけの道筋を、計算すべきだろう。
ホームズ曰く。
「僕は頭脳だ、ワトソン君。あとはただの付け足しだ」
俺は頭脳ではなく、故に付け足しに過ぎない。
だからこそ、付け足しとしてホームズに無き意味と善性、信念を付け加えてゆかねばならないのだ。
霊基がそっと、「そういうのはワトソン君がいるから結構なんだが」とそっけなく返事をした。
う、うるせーーーーー!!!!
次回より原作突入。