時の流れは早いもので。
高校生になって探偵デビューした工藤新一君は、凄まじい勢いで名前が売れてきた。
TVでもひっきりなしに取り上げられているし、新聞の一面を飾るほどだ。
雑誌など各種メディアにも積極的に露出しているようで、流石は高校生の行動力だ。
メディアのインタビューも撮影も仕事の後に受けるとなると体力がいるのに、よくやるものだ。
ちなみに、俺の場合は割とメディア露出は控えめだ。
霊基は褒められるのは好きな割にこういう面倒ごとを嫌うからな。
捻くれ者だから仕方ないけれど、このままだと知名度で工藤君以下になってしまいそうで微妙な気持ちにならざるを得ない。
とはいえ、基本的に安楽椅子探偵である俺と工藤君が一緒の現場に居合わせることは少ない。
各国警察機構からの難事件のメール依頼がメインの俺と、居合わせた現場もしくは警視庁の連絡で動く工藤君ではホームベースが違うからな。
よりフレッシュ(新鮮)な事件なのは工藤君の担当する方だ。
警察が調べ尽くしてお手上げになってから俺の方には連絡が来るから、こういうフレッシュなのが羨ましくなる時もある。
………うん?
俺は別に事件が新鮮でも古くても関係ない…霊基!!俺を精神汚染するのは止めなさい!!
まったく碌でもない霊基だ。てへぺろじゃねーんだよ!
それはいいとして。
実は今日、珍しく事件現場で工藤君に会った時「ファンです!サインください!!」と見事な90度お辞儀で色紙を渡されたのだ。
八菱銀行の頭取である山崎頭取が殺害された件で偶然バッティングしたのだが、俺自身は事件現場に着いた瞬間にトリックには気付いていた。
ホームズたる霊基にかかればこの程度、一眼見るだけで問題ない。
が、若人のせっかくの活躍の場を奪うわけにはいかないのでお口にチャック。
霊基は全くそんなの気にせずに推理を披露しようとしたのだが、それをなんとか押し留めて黙っていた。
それで霊基が機嫌を損ねるなど多少の問題も発生したが、工藤君もじきに事件の真相に気付くことができた。
工藤君が気付くまで俺があえて黙っていたことを分かっていたのだろう。
とてつもなく悔しそうに、しかし憧れを混ぜ込んだ瞳でリベンジを誓っていた。
その後、俺の家に招いて推理の感想戦することになったのだが。
俺の新居に案内して一緒に語り合うことになると、彼は完全に挙動不審にそわそわし出した。
廊下を通る際もうろうろキョロキョロ。
通された椅子の上でじっとしようとして失敗し、あちこちをキョロキョロ興奮した様子で確認していた。
落ち着け。
アンティーク家具も棚のパイプタバコも逃げねぇんだわ。
「工藤君は紅茶にするかい、コーヒーにするかい?」
「あ、俺紅茶でお願いします」
「了解。少し待っていてくれ」
すっかり万能執事さんと化した緑川君が、注文を聞いて紅茶を用意するため奥へと消えていく。
彼の入れる紅茶はメアリーさんも高得点をつけていた一品だ。
メアリーさん、新居に俺が移ってもちょくちょく顔を出していたんだよな。
セキュリティボロボロの一般マンションから、最近になって完成した新居に移ってきたのは1ヶ月前のことだ。
米花町の高級住宅街に作られた新居は金をかけただけあり大きく立派、ついでにセキュリティも万全だ。
外観もイギリスの田舎貴族を思わせる洋風建築。
そのイメージ戦略として完璧に近い内装に工藤君は瞳を輝かせている。
そして自分の家のご近所なのを喜んでか「案外近いんだ」とそわそわした様子で口を開いた。
「たしか君の家も近くだったね。まぁ、何かの縁だ。今後はもし何かあれば気軽に来るといい。歓迎するよ」
「本当ですか!?」
「勿論。君ぐらいの探偵になると話す機会は限られてくるからね」
これは霊基としても俺としても本音である。
彼の頭の回転と事件への熱量は本物だ。
話せる機会があるのに越したことはない。
さて、それからは怒涛の推理語りだ。
工藤君も等速で思考についていける人がこれまで周囲にほとんどいなかったのだろう。
キラッキラの顔で俺の言葉に食いついてきた。
「──ですから、間取りを見て現場を確認してようやく気付くことができたんです!元々、犯人の足の調子が偽装だということはわかっていたので!ホームズさんはどこで疑問に思ったんですか!?」
「私の方は少し足を引っ掛けた時、庇う様子がなかったのを疑問に思ってね」
「なるほど!っあーー!流石はホームズさんだ!少しの綻びを絶対見逃さず真実に喰らいつく!名探偵の具現!」
めちゃくちゃ早口やんけ。
そんな褒められると霊基が無限に調子に乗るから適当なところでやめといてくれると嬉しい。
ああ、霊基が「まぁ私だし当然だが?年若い青年の希望の星になるのはわからないでもない!」とか言い出した!
落ち着け!景気付けのコカインなんて俺は許しまへんで!!!
なんて内心で騒ぎ立てているのをつゆ知らず。
工藤君は「俺も将来この事務所で働きたいと思ってます!」と憧れのサッカー選手にするみたいな顔で打ち明けてくれた。
「下積みなんてしなくても君なら直に独立しても十分やっていけるのではないかな?」
「貴方の仕事ぶりを身近で見たいんです!世界中の探偵の憧れですから!」
ガタッと立ち上がり、工藤君は凄い勢いで食いついてきた。
背後で執事然として控える緑川君に「緑川さんはどうしてホームズさんのところで働くようになったんですか!?」と聞く勢いは飼い主に抱きつく大型犬のようだ。
これには緑川君も困ったようで、眉をハの字に下げてぽりぽりと頬をかいた。
「あー、俺は電柱に貼ってあった求人ちらしを見て、だからな。参考にはならないと思うぞ?」
「て、天下のホームズ探偵事務所が道端の電信柱なんかに求人広告を出してたんですか?」
「ああ、それは彼が読むように仕向けた、というのが正しいね。あらかじめ彼が優秀なのは確認していたんだ」
俺の方から注釈を付け加えると、あーー、と謎のため息をつく工藤君である。
「いいなぁ、ワトソン博士のポジション!!」とのこと。
なお、これについて霊基は瞬時に眉を吊り上げ「ワトソン君はワトソン君ただ一人だから代わりなんていないんだが???」と強火コメントをするなど。
あんたホントワトソン博士好きだな。本人には嫌味ばっか言うくせに。
さて、日もどっぷり沈み込む頃だ。
一通り話した満足感にホクホク顔の工藤君が「あの、時々こうして話に来てもいいですか?」と恐る恐る尋ねてきた。
これを褒められまくってニッコニコになった霊基は上機嫌で勝手に了承。
別に俺も構わないからいいのだが、そんなに我が強いなら自分で全部肉体を動かしてもらいたいものである。
え、面倒臭い?日頃は君に任せる?
さいですか……。
「ああ。もちろん、守秘義務があり見せられないものも多いが、私の過去の事件記録なんかも」
「っしゃあ!やりぃ!!」
工藤君は子供のように喜んでガッツポーズを決めた。
いや、まだ高校二年生だというのだから子供か。
俺がこのぐらいの年の頃なんて、霊基の手綱が握れなくて引き摺り回されるように各地の事件現場を梯子する羽目になったからな。
まったく、ズタボロにされた記憶しかない。
FGOではもうちょっと弁えた大人だったじゃろホームズはよぉ!
と思えど、どうやらFGOの時は極限状態に置かれた未成年達に配慮してかなり努力して立派な大人を演じていたようだ。
ルーラークラスで別の神霊も混じってたしな。少し性格も違ったようだ。
俺もルーラークラスの霊基が良かった……と思えど無い物ねだりをしても仕方がない。
内心だけで肩を落として、俺は浮かれ切った工藤君を玄関まで送っていくのだった。
ああ、帰り道には気をつけて。浮かれて車に轢かれないようにね。