ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

14 / 34
失速のため今後は一日一話更新の予定です。
息切れが早い……。老化やんけ。


エピソードONE③

 

 翌日、俺は工藤邸へと足を運んでいた。

 

 まだ朝方だが工藤邸はカーテンが開かれ、少しだけ人の気配がした。

 どうやら工藤君が戻っているらしい。

 万が一にも工藤君が死んでいなくてほっと一安心だ。

 霊基があの調子だから生きているとは思っていたが、もし死んでいたら罪悪感で一週間は落ち込むことになっていたからな。

 

 などと考えていると、するりと勝手に体が動き出した。

 

 霊基の仕業だ。

 なに?こっそり近寄って彼の気配察知能力を試そう?

 子供じみた真似はやめんか!

 どうせ彼を驚かせようって言う魂胆しかないだろうに!

 

 これと決めた霊基を止めることは至難の業だ。

 せめてもの抵抗とずるずると体を引きずって、気配を消して工藤邸へと入っていく。

 玄関の鍵はかかっていなかった。

 

 しかしながら立派な家だ。

 まじまじと辺りを窺えば、その細部にまで拘った作りに目がいく。

 有名建築家森谷帝二の手がけた俺の新居に負けずとも劣らない荘厳な様子に、内装も手が込んでいる。

 家具はどれもシックながら一級品。

 流石、世界的小説家工藤優作の住まいだ。

 

 階段を上がって気配のある2階へと向かう。

 少しばかり歩けば、すぐに右奥にある彼の私室と思われる部屋に辿り着いた。

 

 そこにはこちらに背を向け、ごそごそと自分の服が入った箪笥を漁る江戸川コナンその人の姿があったのだった。

 

 コナン君じゃんけ!!!!

 俺は思わず目を見張って彼の小さな姿を見た。

 一体全体何があったと言うんだ!?悪い魔術師にでも捕まったのか!?

 

 そこで霊基が「よかったよかった、生きていたのか」などと宣うので、ちょっとばかし耳を疑った。

 はぁ!?お前、あの言い方は工藤君が無事だと確信してたから……───。

 

 にこり、と霊基が笑う感覚がする。

 肉体がつられて無機質に笑う。

 

 それと同時に、霊基の深く冷たい思考が俺の中に流れ込んだ。

 

 彼、工藤新一が幼児化するかは不確定だった。

 投薬が失敗して幼児化しないかもしれないし、あるいは死ぬかも知れなかった。

 しかし、転生者の知識を有効活用するためにも、なるべく齟齬はなくしておきたいと、ホームズは考えた。

 俺の魂にアクセスして直接知識を取得したホームズは、「江戸川コナン」を巡る知識を俺以上に備えている。

 

 それを活用して救える命を思えば、例えば工藤新一が死んだとして───公益のために必要な犠牲だったと。

 そのように、冷酷に判断したのだ。

 

 虫の複眼を思わせる機械仕掛けの如くひやりとした思考が胸を撫ぜ上げる。

 

 ……この野郎。

 

 逆上した俺が唇を噛んで、何を言うべきか必死に怒りを抑えて冷静に思念した。

 霊基は口を開こうとして、ややあって止めた。

 

 おや、と俺の反応を訝しんだようだ。

 

 確かに霊基の思考はあまりに非人間的過ぎる。

 だが、それを黙って「生きていたのも計算通り」という顔をすることだってできたはずだ。

 冷酷な思考を俺が嫌うとわかっているのに、わざわざバラすこと自体おかしな話だ。

 

 それ即ち、すまない、という遠回し過ぎる俺への謝罪と考えることができる。

 

 俺は憤りをため息へと消えて、頭に手を当てて目眩のような感覚を逃した。

 この霊基はホントによぉ!まったくよぉ!!

 

 俺が怒りを引っ込めたのを察した霊基が、ははは、と悪びれもせず笑っている。

 なんだァ、テメェ……。独歩みたいな表情での逆ギレである。

 

 ぶすりと俺はコナン君の隣に立ってコナン君の横顔を覗き込んだ。

 ここまで近づいているのに気づいてないのは流石に探偵としてまずくはなかろうか。

 

 コナン君は俺の気配にかけらも気付かないまま「あー、ガキの頃の服をどこにしまったかなんて覚えてねー!」などと苦悩している様子だ。

 ガサガサと綺麗に畳まれた服の山を漁っている。

 

 俺も横で適当に箪笥を開けていけば、目当てのものらしき服の群れを発見することができた。

 この辺なら小学校低学年頃の服だ。コナンくんが着るのにちょうどよかろうよ。

 というかこんな服捨てないでよく取ってあるな。

 

「これ、どうだい?」

「!!あっそれ!よし、これならしばらく暮らす分には十分んんんん!?!?」

 

 コナン君は驚きのあまりバグったように全身の毛を立たせた。

 返事してようやく気付くってギャグか何かか?

 

「えっ、あっ、え??嘘、ホームズさん!?」

「やあ工藤君。随分小さくなったね」

 

 絵に描いたような「ドキッ!?」という顔をするコナン君である。

 隠すの下手すぎかよ。緑川君にこの手の駆け引きを習ったんじゃなかったのかよ。

 

「な、んのこと?お兄ちゃん、だぁれ?」

「その頭の傷。振り返った瞬間硬い棒状のもので殴られたんだろう?何者かに背後から接近されたと見た。考え事に集中して周りが疎かになるのは君の悪い癖だ」

「ゔっ、それは…」

 

 僅かに笑って、俺はコナン君の頭をそっと撫ぜた。

 本当に脇の甘い子である。

 握手だけで相手の職業を読み当てたホームズの逸話が昇華され、今の俺はただ一目であらゆる生活的特徴を読み取ることができるスペックを持つ。

 

 つまり、工藤新一=コナンなんて明白な事柄、誤魔化すことなんてできないということだ。

 

「私から見れば癖や動きが一致しすぎてとても別人には見えないよ。それとも、指紋でもDNAでも検査するかな?工藤新一君」

 

 私が確信を込めて言えば、工藤君は泣きそうに顔を歪めてから、くしゃくしゃな笑顔を見せた。

 憧れと悔しさが入り混じり、パチパチと光のように舞う良い瞳だ。

 

「やっぱ、ホームズさんはなんでもわかっちゃうんだな」

 

 コナン君は一言で形容するに難しい、7色の虹の如き複雑な表情で俺へと笑いかける。

 こんなことがあったというのに、彼の意思は折れてはいない。

 きっと相応以上にショックだったろうに、大変だったろうに、彼はまだ立ち向かう気でいる。

 それが俺には眩しくて嬉しくて、つい笑顔が出てしまうのだ。

 

 江戸川コナンあらため工藤新一は、襟を正してこちらを真剣な目で見つめたのだった。

 

 

「はい、俺が工藤新一です。今は江戸川コナンと名乗っています」

 

 

 

 

 

 その後はここまでの経緯の情報共有だ。

 

 やっぱり黒の組織の仕業だったようで、どうやら謎の毒薬を飲まされたとのこと。

 毒薬ってお前、副作用で幼児化とかありえへんやろ、と思わざるをえないことがちょっと引っかかるところ。

 超科学過ぎるだろうがよ。

 

 まぁ、それはともく。

 彼の今後をどうするつもりなのかを聞けば、恥ずかしそうにそっぽを向きながら毛利探偵事務所に居候することを教えてくれた。

 

「今は蘭の父親のところで奴らの手がかりを得るのが先決ですから」

「いいんじゃないか?隠れ蓑にはぴったりだし、君自身の腕を上げるチャンスにもなる」

 

 何かあったら気軽に連絡してくれ、と言っておけば「良いんですか!?」と目をキラキラさせてこっちへと迫ってきた。

 この子はこの子でホームズ強火ファン過ぎるんだよなぁ。

 細かなホームズネタを延々と語ってくるし。

 デート中もその調子だと彼女に嫌われるぞ?

 

「君の両親とは知り合い同士で、幼い君を預けられたこともある、という体で毛利探偵に話しておくと良い。いざという時に駆け込みやすいだろう?」

「わかりました!」

 

 コナン君はこくこくと頷いて小さくガッツポーズした。

 

 人情がある毛利探偵なら言わないだろうが、もし「ならホームズ探偵のところに居候したら良い」と言われても、俺なら「忙しいから今は難しい」で通せるからな。

 

 毛利探偵とは一度事件現場で出会ったことがあったのだが、霊基の評価は「まあまあに優秀な刑事」であった。

 適性は探偵じゃなくて刑事らしい。

 一瞬のひらめきとロジックを必要とする探偵ではなく、自らの足と信頼性でもって証拠を集めていく刑事なのだとか。

 

 見るからにポンコツそうだったのだが、人は意外な適性に溢れているものだ。

 

 

 まぁ、そんなこんなでコナン君は沢山の服を持ってきた袋に詰め、毛利探偵事務所へと帰っていった。

 その後ろ姿を見つめ、俺も背を向けて歩き出す。

 

 彼の成長を願って、朝のまだ冷たさの残る風を黒いインバネスコートに浴びるのである。

 




・ホームズ
 意外と善良かつ一般人な転生者を気に入っている。
 自分がはっちゃけても本性出しても付いてきてくれるし。
 ワトソン君には遠く及ばないが、まぁ妥協範囲内の相方じゃないかな。(ホームズ談)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。