ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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十四番目の標的②

 

 あれから数日。

 空にまばらに雲の浮かぶ天気のいい本日朝、俺はいつも通り事務室の肘掛け椅子に座って今回の事件について思案していた。

 

 今のところ、まだ犯人は見つかっていない。

 警察が監視カメラに映る不審人物は捜索中のようだが、まだ犯人特定には至っていないようだ。

 連続殺人未遂、ということで捜査本部が作られて世間でも多少の話題になっている。

 コナン君の小学校では早めの下校が促されるようになったとか。

 

 さて、そろそろ日課と行くか。

 

 俺は「少し一人になりたい」と言って部屋の掃除をしていた緑川君を部屋から追い出した。

 緑川君が「ここ、ここの机だけ掃除してからな」と言うから「いつもすまないね」と労らって少し待つ。

 

 ここ数日の日課なのだが、コーヒーを出してもらったあと、少しばかり魔術的に犯人の捜索をしているのだ。

 

 魔術を人に見られるわけにはいかないからな。

 

 一応、この執務室は簡易的な魔術工房となっている。

 雑多に散らかされた実験器具の間にさりげなく飾ってある多脚の虫眼鏡型の魔術礼装は、霊基たるシャーロック・ホームズを示す象徴的なものだ。

 たぶん緑川君は「変なオブジェだな」ぐらいに思っていることだろうが。

 

「あ、いつも通り三十分程度入らないようにするでいいか?」

「そうだね。決して覗かないように」

「鶴じゃないかそれ?俺は覗かないけどさ」

 

 緑川君が少しばかり埃の溜まっていた机を払い終わって綺麗にすると、軽く笑い合ってからするすると部屋から出ていく。

 

 俺は緑川君の気配が消えたのを確認した後、魔術礼装に手を翳した。

 虫眼鏡型の魔術礼装を媒体に、霊基に刻まれた魔術回路を励起する。

 

 ざわり、と魔術回路が大源(マナ)を魔力へと変換して痛みを発した。

 具体的に言うとささくれを剥いた時の痛みぐらい。地味に痛い。

 

「───接続。我が使い魔、ベイカー少年探偵団(ベイカーストリートイレギュラーズ)よ」

 

 声と共に放っていた使い魔との繋がりが強化され、これまでに使い魔達が仕入れた情報がどっと俺の中に流れ込んでくる。

 

 と、同時にひょこ、と事務机の下から少年の影だけが顔を出した。

 ベイカーストリートイレギュラーズの一体がどうやら残っていたらしい。

 

 小学生程度の特徴的な髪型の少年の影が、暇そうに部屋の中を彷徨いている。

 昨日の夜作ったばっかりでそういえば命令を出さないまま寝たな……。

 

 ちなみに、見た目はまんまコナン君の影である。

 

 これは俺が魔術で作成した情報収集用使い魔だ。

 数だけが頼りで戦闘能力は皆無。

 性質としては久遠寺有珠の使い魔「シックス・スィング・チョコレイト」に似ているか。

 数が多く無力で安価。情報収集に最適、と。

 

 ホームズの霊基に沿うように子供探偵の影を基礎としているため、意外と低コストで取り回しのいい使い魔である。

 

 この家に来る唯一の子供であるコナン君の影をせっせと地道に集め続けて作った今現在、数はおおよそ150体ほど。

 これが俺の魔術スキルでギリギリ制御できる最大数になる。

 

 なお、コナン君を基礎としているせいか事件を見かけると勝手に皆わらわらと現場に集まってしまう何ともいえない性質あり。

 便利でいいけど、なんとなくコナン君要素が強めの使い魔である。

 

 魔術で接続を強めれば遠隔地の情報収集もできて便利極まりない。

 霊基のスキルである「天賦の見識」と合わせれば千里眼じみたことも可能になる。

 

 まあ、洪水のような情報量はさらに膨れ上がり、俺はこのあと寝込むことになるんだけどな。

 

 同期した視界を辿り、今晩起きたことを辿っていく。

 

 阿笠博士の次の被害者──すなわち毛利小五郎の関係者かつ名前に十の付く人物だ──をかなり弱い繋がりも含めて二十人ほどをピックアップしてある。

 ここ数日のうちに、その全員に五体ずつ程度ベイカーストリートイレギュラーズを付けてある。

 自宅だったり車だったりに潜む影達は、コナン君さながらの好奇心で事件が起きないか四六時中見張っていると言うわけだ。

 

 同期による一際大きい頭痛と吐き気の山を越えた後、俺は目をゆるりと開いた。

 

 どうやら夜の間に事件が起こったりはしていないようだ。どこも不審な侵入者や細工の後は見られなかった。

 何体かの影が近所で起きた悲鳴やらひったくりに惹かれてどこかへいってしまったため、このタイミングで呼び戻しておく。

 油断するとどんどん別件の事件を拾い上げるからな、こいつら。

 

 ……ん?

 急に一部の使い魔が活性化した気配を感じて、俺は同期した視界を活性化した使い魔に合わせた。

 何らかの事件が起きたようだ。

 

 視界に映るのはプロゴルファー、辻弘樹の自宅だ。

 影の薄っぺらな視覚情報が脳裏に重なるように映し出される。

 なにやら見覚えのない男が、不審な動きで駐車場に停まる車へと侵入している。

 

 どうやら車上荒らしのようだが……挙動がどこかおかしい。

 

 影の使い魔が車内にするりと入り込む。

 下から見上げるような画角で見てみれば、男は車の中に置いてあった目薬を何か別の薬品とすり替えたようだ。

 見た目はすり替える前と全く同じなので、何の薬品が入っているかはここからではわからない。

 

 俺は慌てて別の部屋を掃除しているであろう緑川君に対して大声を張り上げた。

 

「緑川君、すまない、緑川君、いるか!」

「……おお、なんだ。もういいのか?」

 

 魔術礼装の子機の部分だけ持って急ぎ立ち上がり、俺はコートを羽織った。

 今から行っても間に合わないだろうが、現場までは意外と近く五分程度。

 現場に急行するのは無駄ではないだろう。

 

「今すぐ向かう場所がある。位置情報を君のスマホに送っておいた。急ぎだ。今なら間に合う」

「!わかった。飛ばした方がいいか?」

「いや。現場にいる犯人にバレたら面倒だ。ほどほどでいいさ」

「了解」

 

 緑川君を伴って足早に家を出て、車の助手席へと乗り込む。

 真剣な顔をした緑川君がハンドルを握り、車は緩やかに走り出した。

 

 凄い吐き気が残っているため正直今すぐ寝たいのだが、これは間違いなく人の命がかかっている。

 俺の使い魔・ベイカーストリートイレギュラーズは本当に無力だから、犯人を取り押さえることはできない。

 となると、後は時間の問題か。

 

 おお、視界の先で犯人が逃げていく……と思ったら建物の影に隠れて車を見張り始めた。

 どうやら自分の為したことの結末を確認したいらしい。

 これはしめた。

 

 間に合うかは賭けになるが、事件解決の大幅なショートカットになるはずだ。

 




・ベイカー少年探偵団(ベイカーストリートイレギュラーズ)
 子供の影を取り出して作った使い魔。
 元になった子供の性質を受け継ぎ、好奇心旺盛で事件好き。
 割と頻繁に命令を聞かず現場にすっ飛んでいく。
 また数は多いが無力なため、基本的には情報収集しかできない。
 ベイカーストリートイレギュラーズにならい、維持には一体ごとに定期的な現金払いが必要になる。
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