ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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名探偵の日常

 

 ようやっと帰宅すると、時刻は午前の二時を回っていた。

 

 散らかりっぱなしの部屋の中には安マンションには不釣り合いなアンティークの家具が山ほど。

 そしてその上にはファンからの贈り物であるパイプたばこ用のパイプが並べられている。

 

 PCを立ち上げメールボックスを確認すれば、本国からの依頼やICPOの助力を願うメールが山のように届いていた。

 一つずつ素早くメールに目を通していく。

 

 と、同時に家に届いていた超重量級段ボールの山を開封すれば、中身はぎっしりと詰まった書類の山であった。

 それを適当に読み込んではメールと合わせて確認していく。

 

 殆どは添付の内容とホームズたる霊基を用いて解決可能なものだった。

 うちいくつかは現場を確認したい内容だったので、その旨を返信しておく。

 

 スパコンじみた頭脳はその難事件たちを「全くもってつまらない、凡庸な事件」と評したが……あいにくと中身はこの俺、一般人。

 朝から続く仕事の山で精神的疲労が溜まった体は泥のようだ。

 

 メールの文面は決まって賛辞からはじまり、「世界最高の諮問探偵」「シャーロック・ホームズの具現」と俺のことを褒め称える。

 

 歯が浮くような台詞は危険性の裏返しだ。

 後ろ暗いところのある連中から警告を受けたのも一度や二度ではない。

 

 あーー、教授さえ排除できれば俺もこんなことやめてカナダあたりでまったり老後を暮らすのに…、などと考えていると。

 

 マンション備え付けのチャイムがピンポーン、と安っぽい音を立てて来客を伝えた。

 

 どうやら帰宅するのを待っていたらしい。

 いや今夜中の二時なんだが。

 インターホンを覗けば見覚えのある…というより、並外れた頭脳が弾き出した推理通りの人物であった。

 

「君か。分かった、ドアを開けるから待ってくれ」

「……まだこんなセキュリティもへったくれもないマンションに滞在しているのか」

 

 彼女の名はメアリー・世良。

 

 俺に定期的に機密資料を運んできてくれるMI6のエージェントである。

 メアリーさんは家に上がり込むと、勝手知ったる我が家とでも言わんばかりにどかりとソファに腰を下ろした。

 むすっとした顔はセキュリティに対しての不満をありありと示している。

 

 俺は一応ささやかながら弁明をした。

 

「ここが性に合っているんだ。特に間取りと外の眺めがいい」

「よく分からん。私には単なる住宅街にしか見えないが」

 

 実のところ俺もよく分からん。

 霊基が「ここだ!」って言うからここにしただけで、特に意味はないからな。

 

 メアリーさんは俺がさっきまで見ていた書類を覗き見て、そのままその横に機密書類の山をどかっと置いた。

 MI6からの贈り物だ。

 「この謎を解け」という命令に近い依頼でもある。

 

「いつも通り見たら燃やせ。この場にある分のような情報なら特に問題ないが、こっちは組織に関わるものだ」

「問題ないとも。ここにあるものも含めて全て今日中に燃やすよ。流石に私が留守にしている時に情報を残す気はないさ」

「ならいい」

 

 俺の手元を覗き込んで、「相変わらず呆れるほどの記憶能力だな」とメアリーさんが肩をすくめた。

 この辺について凄いのは俺ではなく霊基なので褒められても何も出ないのである。

 

「紅茶、あるんだろう?」

「淹れろと。了解した。机を開けるから少し待ってくれると嬉しい」

 

 この女王様は全く。

 仕方ないので入れてやろうとキッチン近くの棚をゴソゴソと漁る。

 

 機密度の違いから、メアリーさんの届けてくれたものはすぐに処分せねばならない。

 全て頭に叩き込んで、ひとけのない埠頭に行ってドラム缶に入れて燃やすだけの簡単な作業だ。

 

 この書類を頭に叩き込むことも、先ほど開封した書類の山の内容全てを覚えることも、それ自体は特に苦労でもない。

 チラリと見ればそれで完了。

 むしろそうして頭の中に残る情報の嵐をやり過ごすことの方が大変なのだ。

 

 ホームズの霊基が勝手に情報を整理していくからな。

 俺はその情報洪水に自我を流されないように頑張って踏みとどまり、その整理状況を確認するだけだ。

 

 あ、あった。

 どことも知れぬ安い特売品の紅茶が棚の奥から発見できた。

 

 香りなんてとっくに飛んでしまっているだろうが、霊基の覚えている通りのイギリス式の紅茶で淹れれば一応形にはなるだろう。

 

「それで、何で今回はあんな田舎くんだりまで出張っていったんだ」

 

 腕を組んでこちらを見るメアリーさんはやや不機嫌そうだ。

 意図的に胸を強調しているらしい。

 色仕掛けにしては雑だが……。

 一瞬にしてホームズの頭脳が出した答えによると、どうやら上から性による俺の籠絡を命じられた可能性が大とのこと。

 そして色仕掛けが俺に通用しないのは彼女とて百も承知。やる気も何もなく、形だけの報告をするための行動らしい。

 

 つーかまじかよ。子供も成人してんだぞメアリーさんは。

 もういい年である彼女が色仕掛けなど気が乗らないのは当然だ。

 いやいい年頃のお姉さん持ってきたとして、ホームズの霊基は大の女性嫌いだからダメなんだけれども。

 

「少し、君の追っている組織の一員を見てみたくてね。こう上手く行ってくれるとは思っていなかったが」

「そうか。私は別に構わないが…あまり頭を働かせすぎるとまた国から超能力の疑いをかけられるぞ」

 

 「別にそこまでのものではないさ」と俺は雑な謙遜をしてヤカンを火にかけた。

 

 今回の目標は金髪に淡い空色の瞳を持つ潜入捜査官だ。

 派手な見た目は潜入には向かないが、それを上回る能力でカバーする有能な人員。

 

 彼に接触して今後の組織への情報源とするのが今回の計画である。

 この霊基はモリアーティ教授ほど計画を組み立てるのには向かないが、それでも布石ぐらいは打つことが可能だ。

 

「例の資産家の金の流れに不透明な部分があったのでね。少し探ってみれば、組織とのつながりが見えてきた」

「それで、組織員の釣り出しに使ったと?危険な真似をする」

「虎穴に入らずんば、というやつさ」

 

 沸いた湯を使って紅茶を淹れれば、その香りが部屋の緊張をわずかに和らげる。

 スーパーで買った特売品のティーバッグだ。

 香りでそれに気づいたのかメアリー氏が眉間に皺を寄せた。

 

「待て、機具があるのになぜそちらを使う!あるだろうもっとマシな奴が!」

「淹れ方はゴールデンルールを守っている。うん。いい香りだ」

「……お前は本当に…まったく」

 

 大きなため息をついてメアリーさんは肩をすくめた。

 

 実は霊基はどちらかといえばコーヒー派らしく、紅茶にはさほどこだわりがないんだよな。

 俺は紅茶派だが、お湯に色がつけばいいというレベルのズボラだ。

 本場のイギリス人たるメアリーさんにはこれでは耐え難かろう。

 

 ぽつりと、メアリーさんは真摯に誠実に声を揺らした。

 

「……友人として言わせてもらう。あまりあの組織に深入りするのはやめておけ」

 

 自分で組織の情報を持ってきておきながら、と思えど、だからこそ「友人として」と前置きしたのだろうと分かった。

 黒の組織の危険性をわかっているからこその、本気の忠告なのだろう。

 

 俺だって関わらなくていいんならほっとくわそんなん!

 もしまかり間違って教授案件だったならほっとくだけで死亡フラグがバンバン立つから仕方なく探ってんだよ!

 

 ……などと叫んだところで誰にも伝わらないから黙るしかないのである。

 

「それは出来ない相談だ」

「だろうな。お前はただ謎が解ければそれでいい狂人の類だ。この程度の言葉で止まることはないだろう」

 

 霊基はともかく、そんなふうに言われるのは心外なのだが。

 とかく、俺のやることは一つである。

 

「巨悪を討つのはホームズの務めだ。そうだろう?」

 

 シャーロック・ホームズの霊基を渡されたものとしての責務、矜持を込めて言い放つ。

 欧米風に肩をすくめ、メアリーさんは少しばかり笑ったのだった。

 

「そうだな。お前ならばいずれこの世の謎全てを解き明かすことすらできるやもしれない」

 

 

 ──かの探偵小説からそのまま抜け出てきたような名探偵。

 シャーロック・ホームズの写身たる、お前ならば。

 




・メアリー
長年の付き合いで「まさにシャーロック・ホームズそのもののような奴」との認識を固めたMI6さん。
名探偵に行方不明の赤井務武の影を重ねている。
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