ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師①

 

 ここのところ、世間は怪盗キッド一色だ。

 

 所々に垣間見える甘いマスクの片鱗とキザな立ち振る舞い。

 鮮やかなマジックショーじみた盗みの手腕。

 犯罪者であるのにも拘らず、怪盗キッドの一般人人気は非常に高い。

 

 盗まれた宝石が後から返されるのもそうだろうし、どちらかというと有名人のゲリラライブを見に行く気持ちなんだろうなと考察する。

 

 さて、本日はポアロにやってきている俺たちである。

 目の前には偶然遭遇した蘭ちゃんと園子お嬢さん。

 

 俺と緑川君は昼食を食べにポアロにやってきたのだが、偶然会ったので席をご一緒することになったのだ。

 ここのコーヒーは香り高くて、さすがは専門店と俺もホームズも大のお気に入りだったりする。

 

「ほんとイケメンですよねぇ、ホームズさんって!いつもピシッと決めてて、大人の人って感じで!」

「園子ったら!すみませんホームズさん」

「ははは。褒められて悪い気はしないさ」

 

 花が舞うように上機嫌な園子お嬢さんは、どうやらこの顔……ホームズの顔面が気に入ったらしくうんうんと頻りに頷いている。

 眼福眼福、とありがたいものを見るように拝む仕草もあり。

 

 園子お嬢さんは本当にこう、俗っぽいと言うかミーハーというか。

 何にせよ親しみやすいお人であることよ。

 

「ホームズさんは彼女とかいないんですか?こんなにイケメンで名探偵なら引く手数多ですよね!」

「……無いとは、言わないがね」

 

 歯切れの悪い俺の返事におや、という顔をしたのは緑川君である。

 

 実際、祖国イギリスで俺は若い頃相当女の子たちにモーションをかけられた。

 だが、女の子を伴うことを霊基がとてつもなく嫌がったので、泣く泣く諦めたという経緯がある。

 態度は紳士のくせに根が女性不信なんだよな、シャーロック・ホームズという男は。

 

 地味に俺の女性遍歴に思いを馳せた緑川君が、ややブスッとしながらぼそぼそと横でつぶやいておる。

 「俺も素顔なら…」とか「ゼロの影に隠れてはいるけど俺だって…」とか。

 

 確かに「緑川唯」はどちらかといえば特徴の無いフツメンとして設定してある。

 だが所作は執事として捜査官として完璧だから、これで素顔なら相当にキャーキャー黄色い歓声に包まれていたことだろう。

 

 そういえばあの金髪の捜査官……降谷零と幼馴染だったな。

 派手で目立つ美形男子二人とは、学生生活でも相当目立っただろう。

 

 などと他所ごとを考える俺を知ってか知らずか、蘭ちゃんがポアロ内のTVを見ながら「そういえば」と話を切り出した。

 

「私たち、今日の午後から大阪に行くんです」

「大阪?ああ、父君の怪盗キッド対応に付いていくということか」

「はい。ホームズさんもご一緒にどうですか?父もホームズさんが一緒なら心強いでしょうし」

「……なるほど」

 

 蘭ちゃんの笑顔のお誘いに、うーん、と俺は少々悩んで口籠った。

 

 泥棒案件は霊基のホームズがいい顔をしないんだよな。

 実際今も霊基はむすっとしながら黙り込んでいる。

 

 同じ理由でルパン三世案件は全て断っているが、まあ、あれだ。

 エルロック・ショルメになる気はない、と言うことで一つ。

 

 エルロックはモーリス・ルブランの作品にて登場する、ルパンのライバルだ。

 つまり世紀の怪盗のライバルとして当てはめられたホームズのパロディキャラ。

 やはり当て馬扱いはホームズとしても癪に触るということなのだろう。

 

「………」

「どうしました、ホームズさん?」

 

 蘭ちゃんがキョトンとした顔でこちらを見ている。

 

 今回の怪盗キッドの件で気がかりなのは、宝石を狙っての犯行では無いということだ。

 彼が望んでいるのはビッグジュエル、というのは有名な話だ。

 しかも毎回宝石を返す前に夜空に翳すように見ているとあっては、──いや、あれは月の光に翳しているか──やはり何かしらの理由があると見ていい。

 

 となると、今回の獲物にはあらかじめ使い魔「ベイカーストリートイレギュラーズ」を付けておくのがいいだろう。

 流石に大阪まで使い魔を遠出させるのは俺のスペック的にも無理があるからな。

 

「……ふむ。今回は私も個人的に同行させてもらっても構わないかな?」

「え、いいんですか!?なら父にも話してみます!」

「ありがとう。ああ、もちろん余計にかかる旅費はこちらで出すから安心して欲しい」

 

 緑川君がえ、と予想外の言葉を聞いたような顔をした。

 そりゃ俺が盗賊関連の話を全て蹴っているのを知っている身だからな。

 そんな顔になるのも仕方あるまい。

 

「どうしたんだ、何か気になることでもあるのか?」

「少しばかり引っかかることがあってね。なに、そこまで深入りするつもりはないさ」

 

 それに、最近の怪盗キッドからは魔術の残り香がしているからな。

 ふんわりとした魔術的残火というか、高度な神秘の気配が残っている。

 

 もしかしたら同業者、しかも俺より遥かに腕のいい魔術師が関わっているのかもしれない。

 基本は触らぬが吉ではあるのだが、不用意な接触を避けるためにもある程度の情報は掴んでおきたい。

 使い魔を付けておけば、運が良ければ接触ができるだろう。

 

 とはいえ、今回だけで釣れるとは思っていない。

 ここからは長い目でキッドを追っていかなければならないだろう。

 

 ふと、霊基が身じろぎする気配がある。

 思考が途中で掻き消され、いまいち読みきれない呟きを一つ、ホームズは落としたのであった。

 

───他の魔術師に我々の状態改善を依頼する手もある、か。さて、諦観の只中にいる彼をどう誘導すべきか。悩ましい限りだ。

 




・鈴木園子
観賞用イケメンの出現ににっこり。
浮世離れしたイケメンのくせに性格はごく一般的だし、非常に紳士的だからきっと若い頃は苦労しただろうな…と同情している。
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