ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師②

 

 場所は大阪、鈴木近代美術館。

 

 鈴木会長にビル屋上にある接待用の料亭に招待されて、優雅に広い個室で月を見ながらまったりと。

 料亭・筧(かけい)と言うらしい。

 数えるほどしか個室がなくて、そのどれもが大きいとくればおいくら万円ほどになるのか考えるのも恐ろしい。

 

 招かれたのは毛利小五郎だけだと言うのに、俺にも快く席を設けてくれた鈴木会長の懐の深いことよ。

 

 美味しい懐石料理と選りすぐりの地酒をいただいて、俺もホームズもニッコリである。

 日本に来てもう長いが、だんだんホームズも舌が肥えてきて俺にもっと食べるよう無言の圧力をかけるようになってきたからな。

 元来彼は食事にはあまり興味はなかったはずだが、日本の各種美食に影響されたらしい。

 

 酒注ぎ役の女中さんが退出した後、朗らかに笑って鈴木会長が口を開いた。

 

「それで、ホームズさんはどのように思われましたか?KIDからの予告については」

「それでしたら、こちらでもう解明済みですよ!8月23日の午前3時。大阪城天守閣からインペリアルイースターエッグを盗む!そのように捜査2課の方でも動いております!」

 

 毛利探偵が胸を張って断言した。

 俺自身としても、悪くない推理だと判断している。

 暗号なんて解釈次第で多様な回答が得られるものだからな。

 今回の暗号もまさに多様な解釈が導き出せるものである。

 

 だが、あえて言うなら……。

 

 ずきり、と天賦の見識が魂を侵食し、鋭い痛みを発する。

 

「8月22日の午後7時20分も警戒して損はないかと」

「え、それは一体…?」

「それと、大阪城天守閣に加えて通天閣も監視場所に加えた方がいいでしょう」

 

 詳しい説明は省くとする。

 俺が前に別件でルパン案件を少しばかり調べることになった時、100年ほど前のパリ万博を記した文献を探ったことがある。

 その際に登場した文言に「世紀末の魔術師」と言うものがあった。

 

 これこそが当時、インペリアルイースターエッグを制作した日本人の通称である。

 

 それを怪盗キッドがどこで知ったのかはわからない。

 恐らくこの暗号は「自分は正当な持ち主からの使いだ」というメッセージなのだろう。

 

 あの無駄にハートフルな怪盗なら、諸般の事情を知った上で「正当な持ち主」とやらに返すつもりだと思われる。

 

 つまり、俺が無理に関わる理由は一ミリもない。

 義理程度にアドバイスをしておけばいい、ということだ。

 

 鈴木会長が困惑顔で眉をハの字に曲げた後、微妙になってしまった空気をかき消すように無理やり笑った。

 

「は、はは。そうでしたか!7時20分というと…おお、もうあと30分もない!急いで捜査2課に伝えますので、皆さんはしばらくお待ちください!」

「ありがとうございます。私もエッグが無事守られることを願っています」

 

 分からないなりに対応してくれる鈴木会長の丁寧さに一つお辞儀をして、俺は駆けていく鈴木会長の後ろ姿を見送った。

 

 凄くもの言いたげな顔の毛利探偵が、無言でもそもそとサーモンのマリネを口に運んでいる。

 

 たぶんめちゃくちゃ苦手に思われてるっていうか、多分彼の中で似たような雰囲気の苦手な人物がいるのだろうと思われる。

 俺みたいに「まだ言うべき時ではない」を発令するタイプの切れ者……工藤優作氏か?

 

 まぁ、手は全て打ってあるからあとは結果を待つのみか。

 すでにインペリアルイースターエッグの影には我が使い魔を数体潜ませている。

 

 敵対的な行動だと思われるのを避けるため、影は魔術的に見れば明瞭に分かるよう特殊な仕掛けを施した。

 魔術師の目からすれば丸見え、というわけだ。

 

 それと、俺の身分を示すネームタグのような術式も付けてある。

 下手をすればこれをたどってこちらに呪いすら到達させられる危険性があるが、それが故に「敵対の意思はない」と向こうにもわかってもらえるだろう。

 

 とはいえ、こちらも無策というわけではない。

 常時発動型の宝具「初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)」はすでに件の魔術師を捕捉している。

 どれほど件の魔術師が隠れたとして、俺の手で解明可能な何らかの痕跡が世界には自動発生しているのだ。

 

 これとホームズのスペックを合わせれば、相手方の魔術師はかならず把握できるはずだ。

 

 ことり、ととっくりを傾けて、毛利小五郎がチラリと俺を流し見た。

 

「あー、なんだ。なぜさっきの捜査会議で言わなかったんだ?」

 

 部屋に二人っきり、しぶしぶ雑談として口を開いたみたいな体で毛利小五郎が難しい顔をしている。

 俺も自分の分の酒を注ぎなおし、慎重に言葉を選んで返事をする。

 

「今回のキッドは計画が警察側にバレないことを前提に動いている恐れがある。あまりこちらの動きを変えて、暗号解読が向こうに知られない方がいいと思いまして」

「そ、そうか…?」

 

 よくわからないとでも言いたげな顔だ。

 まぁ実際詭弁、というか煙に巻いただけだからな。

 

 本当は、ここでギリギリまで言わなかったのはスコーピオン対策も兼ねている。

 

 国際指名手配犯、スコーピオン。

 主にロシアでラスプーチン関連の品を狙って殺人や強盗も行う凶悪犯で、ロシアではかなりの有名人だ。

 

 まだスコーピオンが関わっていることを明確に示す証拠は出ていない。

 だが、裏の動きと霊基のスキル「仮説推論」とを合わせれば、スコーピオンが関わっているのは明白なのだ。

 

 とすると、下手をすればスコーピオンが鈴木会長を殺害する可能性も否定できない。

 その前に警察にスコーピオンの存在を把握してもらい、正しく警備してもらいたいわけだ。

 

 とすると、怪盗キッドがエッグを盗み出す隙を「狙ってもらって」、キッドには命を張ってスコーピオンの存在を証明してもらうのが吉。

 ついでにキッドが危機に陥れば、背後にいる魔術師のスタンスも把握できて一石二鳥。

 

 エッグには既に俺の使い魔がついてるから、万が一殺されそうになったら使い魔のうち一つを肉壁にして守れば良い。

 ここで怪盗キッドに死なれるのも困るし、運が良ければ魔術師に貸しを作れるからな。

 

 

 しばらくして、鈴木会長が戻ってきた頃。

 不意に料亭の明かりが切れ、室内が暗闇に包まれる。

 月がやけに綺麗だ。

 この角度からでは見えないが、おそらく大阪市一帯が停電しているのだろう。

 

 訝しげな顔をした毛利小五郎が辺りを見回している。

 

「なんだぁ?停電か?」

「やはり、ですか」

「……何が?」

 

 あー、そういえば俺は止めたんだが警視庁捜査2課は「偽物を囮にして本物のエッグを隠す作戦」を敢行したんだったか。

 

 それをするとキッドが強硬手段に出かねないからやめた方がいいと進言したんだが。

 「KIDは義賊を気取っているからな、そう下手なことはせん!」と中森警部に力一杯言い切られてしまった。

 

 そりゃ直接的な人殺しはしないだろうが、どデカい経済的損失は遠慮なく与えてくるタイプの義賊だぞ、怪盗キッド。

 

 変電所爆破あたりか?とんでもねーな、しかし。

 おお、中森警部よあなたはきっと処分が降るだろう……。

 

 などと心の中で手を合わせながら、俺は視界を使い魔のものに合わせた。

 

 「えーっと、つまり?」「おーい」と毛利探偵が困り果てている。

 残念ながら俺は確証があること以外話せない決まりでして。

 俺は無言でいい地酒をもう一口、ちびちびと味わったのであった。

 




・毛利小五郎
全部分かってるのに何も説明してくれないのが苦手。
自分なら閃いたら全部説明するんだけどな!!!(迷推理)

・コナン君&服部君
夜の大阪を爆走した。
語らないホームズの態度は試されているようで、二人とも燃えていた。
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