コナン君の家にベルモットからお手紙が届いたらしい。
内容は血生臭いハロウィンパーティ招待のお誘い。
実際のところはシェリー殺害計画の一端、といったところか。
あの怪盗キッドとインペリアルイースターエッグをめぐる事件の後、彼もいくつか事件を乗り越えてきている。
例えば、7年前と3年前に活動していたという爆弾犯が東都タワーを爆破しようとした件が印象的か。
あの事件、俺はノータッチだったため気にはなっていたんだよな。
ニュースの速報を見て緑川君が「ちょっと出てくる!!」と慌てて現場に向かって急遽車を出したりもした。
きっとあの事件は緑川君自身と何か因縁があるのだろう。
結局事件はコナン君が見事解決したが、その間の緑川君とコナン君の相棒具合は見事なものであった。
万能助手緑川君と頭脳でトップを張るコナン君の安定感のあるコンビなら、今後何か任せるのもありかもしれないと思うなどね。
ちなみに、その間俺は三件ほど組織関連の金の流れを潰している。
二件はMI6からの依頼。
残りの一件は匿名の手紙が俺の事務所に届いたことから始まる、まあまあ胸糞の悪い事件であった。
金持ち向け高齢者施設での不可解な死亡事故をめぐる遺産相続系の話で、犯人が組織への上納金も担当していた感じの流れだ。
適当に警察に連絡して今犯人は留置場にいるが。
馬鹿なことをやった代償として、組織から暗殺者も差し向けられることだろう。
それはいいとして。
問題はベルモットの策略の方か。
少しばかりマルチタスク的に現実逃避していた思考を現実へと戻し、俺は内心大きくため息をついた。
そして目の前の偉いおじさんに淡々と事情を説明する。
「この件では既に個人的事情でベルモットを追うFBI──すなわちジョディ・スターリング捜査官が単独で動いている」
「なんだと!?独断専行にしても度が過ぎている!」
「それはあちらで処分対象となりましょう。問題は、埠頭で起きるであろう銃撃戦の早急な対処と、ベルモットの身柄を確保された場合についてです」
「………まさか、FBIがそのまま確保するとでもいうまいな」
質素な警察庁の会議室では、警察組織のお偉いさんが幾人か、俺を威圧するように上座に座っている。
その中には黒田管理官の姿も見える。
これは極秘会談だ。
調整会議ともいうべきか、今後の黒の組織対策のために各組織の立場をすり合わせるための重要な会合になる。
ベルモット対策にコナン君もロサンゼルスから母君を呼んで対応に出ているから、工藤優作氏の伝手で警視庁捜査一課の方は問題ないだろう。
ただ、この件には警察庁警備局警備企画課も神経を張っているし、FBIの関与もある。
そのままにしておけば各々が動きづらくなってしまうことは間違いない。
一応、事件の構図としてはシェリーを殺そうとするベルモットと、そのシェリーをダシにしてベルモット確保に動こうとするコナン君とFBIといったところか。
それをうまく調整をつけて、事前にコナン君に動きやすくなってもらうのが一番だ。
俺は苦虫を噛み潰したような顔をするお偉方へと冷静に声をかけた。
「日本の受け入れ態勢の方は?」
「……まだ十分とは言えん。だが…」
「ベルモットをFBIに渡すのは承服できない、と。ならばやはりベルモットが敗走する形に持っていくべきでしょうね」
現在、日本の警察組織に対してかなり深くまで黒の組織の手が伸びてしまっている。
そこを世間に秘したまま静かに警察組織の膿出しをするのに公安はかなり苦戦している最中だ。
俺も助言しているが……一朝一夕とはいかないところ。
俺自身、MI6とのつながりが深過ぎてそうそう信用を得るところまでいかないし。
公安部の重鎮さんが眦を強めて俺を睨め付けた。
「できるか?」
「確率は五分と言ったところですね。確保されたようなら日本に引き渡し、FBIと合同で捜査していただきたいのですが」
「………ふん。それが落とし所か」
一応事前にFBIとも調整はつけてある。
ジョディ先生の動きを飲む代わりに、初手は日本に譲る形で交渉は落ち着いた。
俺もFBIへの義理もあるから、独断専行して日本にやってきたジョディさんの動きは逐一FBIに知らせていたんだよな。
味気ないデザインの肘掛け椅子では、両手を合わせるホームズのポーズもしづらいものだ。
こういう権力調整なんて霊基のホームズが好むわけもなく。
途中で面倒臭くなってきたホームズが脳内でそっとコカインを欲してぐでりだした。
まったくこのヤク中探偵は!
まだ日本警察の受け入れ態勢の整っていない状態でベルモットを捕まえると、せっかくの情報源が何も喋らないまま獄中死してしまう。
なので初手での調査を終わらせたらすぐにFBIも入れてもらって。
警視庁の方は優作氏を通して動きを止めてもらって。
こっそりMI6とも情報共有して。
その中で情報をうまく操作して事態が混乱しないようにコナン君に収束するように調整して……。
あーもう!!
軍師のスキルは持ってないからめんどくさいんだよ!!!
ちなみに、緑川君はとなりで肩身の狭そうな顔をしている。
コナン君の動きは俺の管轄ということで基本大目に見てもらっているのだが、緑川君は元公安所属である。
公安側は緑川君に俺に秘密で接触して、俺の事務所の内情を探ろうとしているらしい。
それが俺にばれているのを緑川君も知っているのだろう。
緑川君は実に居心地悪そうに身動ぎした。
……というか。
なんで俺たちが国際捜査の仲介役なんぞせねばならんのだ。
各国協調が黒の組織を潰すのに必要条件とはいえ、俺がやる意味あるか?
そんなこんなで二時間半、会議が終わる。
ようやく解放され、大きく伸びをした緑川君が一階の自動販売機コーナーまで来て俺に話しかけてきた。
「そういえばゼロがいないけど、あいつは無事かな」
「彼はバーボンとして今頃イタリアに飛んでいる頃だろうね。探り屋は忙しいものさ」
「……まぁ、そうだな。無事ならなんでもいいさ。ライも元気にやってるみたいだし」
ライこと赤井秀一は、俺の耳にも縦横無尽の活躍具合が流れてきている。
命狙われながら暗殺者を逆にボコボコにして引っ捕える、とか普通にやってるからな。
狙撃手のくせに近接戦闘能力が尋常じゃない。あと抜け目ない。
緑川君がホットのコーヒーを買って、「あちち」といいながら缶を拾い上げる。
「なぁ、どうしてコナン君に任せようとしてるんだ?お前が自分でやった方が早いだろうに」
「……さて。これに関してばかりは、論理的な説明を私は持たない」
「つまり?」
「勘だよ。彼にならできるだろうと、そう思っている」
目をまんまるにして緑川君は瞬いた後、柔らかく破顔した。
少年誌にて知らぬもののいない輝ける主人公、長期連載の大英雄。
俺にとっての江戸川コナンとは、そのようなものだ。
「なるほどな。……あの子ならできそうだって思う気持ちなら、俺もわかる気がする」
それはお前だって同じだけどな。
声をひそめるように、内緒話のように、緑川君は俺を見た。
俺の袂で、ホームズが静かに微笑む。自信と自負と、揺るぎない信念のもとに。
ホームズならぬ俺はそれをただ伝えるように、緑川君へ微笑むのみであった。
「………その信頼を裏切らぬよう、私も全力を尽くすとするよ」
・公安
影でホームズ主のことを「ミスターM」と蔑称で呼んでいる。
M、すなわち信用ならない策略家モリアーティ、と。
しかし同時にその頭脳には一定の信用を起き始めている。
・ホームズ主
性格上の関係で霊基のホームズより計略適正が上がっている。