ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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スコッチ①

 

 スコッチは瞳を伏せた。

 

「───奴を探れ」

 

 ジンからの命令はたったの一言であった。

 すなわち、世界最高の名探偵、エドウィン・ホームズを探れということ。

 組織において最も警戒される人物であり、表の世界で比類無き賢者として扱われる男。

 

 スコッチは内心の思いを飲み込んで、できる限り酷薄に見えるようせせら笑って任務を受けた。

 

 なぜ探るのか、何を探るのかもわからない雑さはスコッチを追い落とすためのジンのいつものやり方だ。

 任務にかこつけてわざと失敗を狙う悪質な手法で幾人の幹部が命を散らして行ったことか。

 しかも悪質なのはジンの命令即ち組織からの命令だということだ。

 

 そんなものバーボンに頼んだほうが良くないか、と言ってはみたもののなしの礫。

 スコッチは組織のスナイパーだ。

 その手の任務は専門外で、失敗する可能性も大きいというのに。

 ジンはスコッチの当然の抗議を鼻で笑っただけだった。

 

 「バーボンも別件に当たっている。これはテメェが代わりに行くんだな」と底意地悪く笑う姿は童話の魔女より悪辣だ。

 

 そうして、仕方なくスコッチは本腰入れて任務にあたるようになったわけだが。

 これでも本職は公安警察。この程度の困難をこなせず何が潜入捜査官か。

 

 調査対象、エドウィン・ホームズ。

 世界で唯一、国際刑事警察機構(インターポール)に正式に国際犯罪および国際犯罪者に関する情報のデータベースを閲覧する権利を認められている探偵であり、その捜査権力は絶大。

 近年の検挙率にも貢献しており、難事件を専門に捜査する犯罪追跡のプロフェッショナルだ。

 

 偽装を挟んで遠回しに警察の力を借りれば、それは調べるまでもない情報も多かった。

 関わった事件はファンが有志のホームページを作成していて一覧にしているし、発言や動向も同様である。

 

 しかし各国の極秘情報が集まる彼の住まいに関してだけは情報の入手に苦労した。

 警視庁の情報だけでは入手まで至らず、密かに連絡を取ったバーボンの力も借りてようやく現在の住まいを把握できたのだ。

 

 驚くべきことに、現在は数ある拠点の中でも日本の東都に主軸を置いて活動しているらしい。

 

 この日。

 スコッチがやってきたのは何の変哲もない住宅街に佇む量産型の安マンションだ。

 鍵も旧式、中にも入り放題でセキュリティも何もないこんな場所に世界的著名人が住むとは少々信じ難い。

 

 家の周りの地理を確認がてら見ていけば、犬の散歩をする近隣住民の姿や花壇に水をやる住人たちの姿が確認できた。

 バーボン経由で警察庁周りから得た情報通り、閑静な地域のようだ。

 

 家の周りをうろつきつつ気になる箇所をチェックしていけば。

 マナーモードのスマホがジーンズのポケットからスコッチを呼び立てた。

 

 電話に出れば、馴染みのある声が突き放すような冷酷な響きをもって耳へと飛び込んでくる。

 

『順調ですか、スコッチ』

「ああ。情報助かったよバーボン」

『僕も暇じゃない。この借りはどこかで返してもらいますので、そのつもりで』

 

 組織の携帯を使っての通話だ。

 盗聴に警戒してバーボンらしい、高慢でそっけない言い回しになってしまうのも仕方あるまい。

 それから二言三言、不自然じゃない程度に情報交換をして電話を切る。

 

 バーボンとスコッチはさほど親しくもない仲だ。

 こんなことでもない限り会話すらしない状況で、こうして幼馴染の貴重な声が聞けた。

 それだけでスコッチは今回の任務の甲斐があったと、胸に温かいものを感じていた。

 

 そこで通話を切り。

 ふと、寄りかかった電信柱に雑な張り紙が貼ってあることに気がついたのは偶然だった。

 

「事務員、募集中……?」

 

 タイトルも仕事内容も何もない張り紙は白い空白ばかりが目立っている。

 耐水紙に印字された住所はまさにこの調査対象の住所と同一だ。

 

 スコッチは一つ頷いた。

 丁度いいといえば丁度いい。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、ここは踏み込むべきポイントだろう。

 

 張り紙の文字がよく見えるように写真を撮って、そのまま調査対象の家へと向かう。

 ごくり、と生唾を飲む。

 

 相手は世界最高の名探偵。

 腹の探り合いは苦手だが、やれるところまでやってやろうではないか。

 

 インターホンを鳴らす。

 緊張につるりと背筋を汗が伝う。

 

「ごめんください」

「───おや。事務員希望者かな?」

 

 何てことのない安っぽい玄関扉を開けて出てきた男の姿に、我知らずスコッチは息を呑んだ。

 にこりと、無機質に笑う男の瞳に色はない。

 腹の奥底まで掻き出すような、無慈悲さすら感じる視線。

 

 「明かす者」の具現である男が、スコッチを睥睨していた。

 

 

 

 俺は黒の組織の一員であろう男の姿を観察しながら、できる限り親しげに見えるように笑みを模った。

 

 罠にかかるかは運であったが。

 無事狙い通り事務員として入ってきてくれたようで何よりだ。

 

 最近俺の身の回りを探る気配が絶えず、結構派手に関係者を探ったりなどされていたからな。

 組織の使ってたと思しき売買ルートを潰したのが先月のこと。

 そろそろ何か仕掛けてくるとは思っていたが、まさかこうも早く垂らした針に食いついてくれるとは。

 

 ホームズの霊基がこの数瞬のうちに数多の情報を総合してプロファイリングしたところによると、この男は丁度目標たる黒の組織の一員であるらしい。

 うっかりすると俺の抱える機密を知りたい各国諜報員なんかが誤って釣れてしまう危険がないでもなかったが、いやはやよかったよかった。

 

 また、各種観点から見てMI6もしくは公安の潜入捜査官である可能性が捨てきれないとのこと。

 拠点についての情報を各国警察に渡す際、少しばかり仕込みを行ったからな。

 日本のこの住所に真っ先に辿り着いたと言うことは、即ちイギリスもしくは日本に限定される。

 

「張り紙を見て来たんですけど」

「そうだろうとも。うん、よく来てくれた事務員君。では、少しばかり仕事内容の説明と行こうか」

「……履歴書の類は持ってないんですが、面接とかは…?」

「構わないさ。こちらも入り用でね。ああ、君は紅茶派かな、コーヒー派かな?」

 

 山と積まれた書類を脇へ退けて、あらかじめ作っておいたA4一枚を棚から雑に取り出して机の上に置く。

 そして最近導入したケトルから湯を注いで自分の分のコーヒーを入れる。

 

 男は流されるまま「紅茶でお願いします。あと、えーっと」と困った顔でこちらを見た。

 

「俺は日色ヒカルと言います。かの名探偵エドウィン・ホームズさんですよね?」

 

 ぱちくり、と瞬きひとつ。

 巧妙に隠しているが偽名だ。ああ、思考が速すぎて頭が痛い。

 俺はメアリーさんに指定されて買った高級紅茶を淹れながら、にっこりと笑い返した。

 

 

「ああ、私がエドウィン・ホームズだ。ミスター日色、よろしく頼むよ」

 

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