ホームズなオリ主と名探偵コナン   作:ラムセス_

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野良事件②

 

 滔々となされる推理に、パーティの客達はおろか捜査関係者ですら聞き惚れている。

 

 死亡推定時刻、そこから割り出される犯行の経緯、残された遺留品、犯人の動機と血痕の意味。

 ベルモットは黙ったまま、バーボンと共にそれを部外者として聞いていた。

 

 今回の事件はトリックとしては単純だ。

探偵ではないベルモットには興味のないことであったが。

 表の顔で探偵をしているバーボンなどは、こっそりとホームズの後をつけることで、遅れて同様の結論に達することができたらしい。

 

 現場を一目見ただけでそれをほぼ解き明かした頭脳は流石の一言だ。

 わかりやすい語り口、明快なロジックを簡潔に説明する力。

 

 事件解決後に無事に警察からの聞き取り調査を終え、解放されたベルモットは車に戻って思考を整理していた。

 この後は組織に報告をしなければならない。

 データはすでに奪取済み。バーボンに押し付けるべきか。

 いやそれよりもあの男、エドウィン・ホームズについてだ。

 

 気付けば、ベルモットは独りごちていた。

 

「危険ね」

「……ええ。彼を放っておけば、組織にとって何らかの不都合になりかねない」

 

 ベルモットの言葉に、車に戻ってきたらしいバーボンが同意した。

 ばたりと運転席側のドアを開け、車に乗り込む。

 運転手役のバーボンは彼のやや派手な車のステアリングを握り、その甘いマスクに冷酷な笑みを含ませた。

 

「ですが」

 

 車が地下駐車場から緩やかに発進する。

 ベルモットは眉間に皺を寄せてバーボンの言葉を待った。

 

「現在エドウィン・ホームズのところには組織の手のものが潜り込んでいます。確かスコッチ、でしたか?」

「……そうね。ああ、組織の差金も見極められないような男にわざわざ組織が手を下す必要がない、と言いたいのね」

「そうでしょう?多少の推理はできるようですが、足元も確認できない間抜けにかかずらう余裕は組織にはないはずだ」

 

 辛辣な言い方はプライドの高いバーボンらしい。

 せせら嗤うような口調はいつだってベルモットを不快にさせる。

 だが確かに、スコッチからの報告によるとかの男はろくに組織のことは掴めていないらしい。

 

 もっとも、そのスコッチの報告自体を懐疑的に見ているのがジンであるのだが。

 ジンのホームズに対する警戒は並々ならぬものがあり、潜り込んでいるスコッチとて「泳がされているだけ」と鼻で笑うのみだ。

 

 最近など、「上手く牙を隠しているだけだな。機械仕掛けの猟犬野郎が」と吐き捨てて写真に映るエドウィン・ホームズのこめかみに弾丸をぶち込んでいたというのだから、筋金入りだ。

 

 まぁこの件に関してのみ、ベルモットはジンに同意している。

 

 あの虫の複眼に見られたような無機質で色のない視線。

 昼間、パーティ会場であの男はベルモットを見ていた。

 よくある、不愉快な視線はベルモットを女としてみていたものではない。

 

 一個の人間を数値として見るような、不躾で機械的なそれはどちらかといえば監視カメラやサーモアイに近いだろう。

 

 推理中とてそうだ。

 信頼を向ける依頼人も、観客達も、一個の推理上の条件としてしか見ていないように頭脳を回転させる様は、巨大な演算機が人の形をしているようにすら思える。

 己の抱える秘密すら暴き出してしまいかねない、ハイエナにも似た在り方。

 

 あの視線は間違いなく、ベルモットを己の敵だと見抜いている目だ。

 女優としての勘が、ベルモットにはそのように告げていた。

 

 そしてベルモットが感じている以上に。

 この優秀な男、バーボンはあの男の危険性に気が付いているはずだ。

 

「本当にそう思っているのかしら。あの男がただの道化だと」

「───どういう意味ですか」

「あら。喋りたくないならいいけど」

 

 バーボンは鼻白んだ様子で目を細めた。

 夜道を鮮烈にRX-7のライトが照らしている。スポーツカーらしいエンジン音の唸り。

 

 バーボンが小さくため息をつく。

 

「僕だって、別に組織からの命令ならば殺しに否やはありませんよ。ただ、血の気の多いジンあたりの独断ならば気が乗らないってだけです」

「どう決定が下されるかは私にもわからないわ。あの方は憂慮している……とだけ」

「そうですか。毒殺だか狙撃だかはわかりませんが、あの男も哀れなものだ」

 

 酷薄に肩をすくめて、バーボンはあの男が陥るであろう無惨な最後を嘲笑したようだった。

 こういう時、ベルモットはこの組織の闇の深さを、冷酷さを、救われなさを強く感じてならない。

 そんな闇に身を浸す己への諦観がそっと、足元から這い上がって胸へとまとわりつく。

 

 特にバーボンは傲慢で冷酷だ。

 人を陥れるのに躊躇がなく、その上で自分の手を汚すのを嫌う悪辣な男だ。

 

 流れていく夜景は美しいのに、檻のようなこのスーパーカーから出られないベルモットは己の境遇を誰にもいえない嘆きへと変える。

 

 

 ああ、神などいない。天使などいないと。

 

 遠い夜空を恨むように、ベルモットは黙ったまま言葉を飲み込んだのだった。

 




・バーボン
頑張って悪辣に演じてる健気な潜入捜査官。
ただ純粋に腐ったリンゴ女が嫌いでもある。

・ベルモット
まだ救いを得ていない。
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