世界はまだ僕達の名前を知らない   作:coconat_21

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07th.14『打ち上げ』

 

 

 

 

 

 拘束した構成員達を地下水路を経由して一時収容所まで連行する。助け出された誘拐されていた人達は地下ではなく地上から詰所に送られるのでここには居ない。

 

「そういえばツァーヴァス、服がえらい汚れているが……」

 

【コケた上に暫く生肉の上に座ってました】

 

「……風邪引くなよ」

 

 トイレ男は肩を竦めた。彼は自分の免疫にそれほど自信を持っていなかった。

 

 トイレ男と巨女は構成員で満載になった台車を押していた。トイレ男はいつでも書けるように台車に紙を押し付けている。一〇名以上が寿司詰めにされた台車はかなりの重さがあり、二人の他にも五人の衛兵が頑張って押していた。地面が平らでないのも押しづらさに一役買っていた。

 

 優男は別の台車を押している。巨女が押すとその台車だけ速くなるという事でこの台車が一番前で、優男の台車は四番目だ。かなり離れている。巨女がそうなるように取り計らった結果だ。「…………」、だが、トイレ男はもうそんな必要が無い気がしていた。

 

 優男は別に悪人ではない。今まではやられた事に怯えていたので気付けなかったが、そもそも善性の塊である巨女に心酔する者が悪人な訳がないのだ。確かに巨女に近付く者に対しては害意を覚えそれに従おうとするが、そうでない限りは善良な人物である。他人の仕事を積極的に手伝うし、今回ボスがやろうとしたみたいに無辜の人が傷付けられようとした時はそれを阻止する為に動く事もできる。全てはその本性を隠す為の演技と言われれば論理的な反論はできないが、少なくとも、トイレ男はそう感じた。

 

 巨女に近寄る人間を害そうとする点も、本性は別に悪人ではないのだから、話し合えば何とかなる、と思う。何とかならないかも知れないが、トイレ男が彼は悪人でないどころか善人であると感じ始めている以上、一回は話し合ってみたい。それが、トイレ男の考えだった。

 

「どうした? 表情が変わったが」

 

 巨女は目敏くトイレ男の心情の変化に気が付いたようだ。

 

【いや、別に何でもありませんよ】

 

 しかしトイレ男はそれを隠した。あれだけ優男から守ってくれた巨女に今更話し合いたいなんて言いづらいし、彼女なら優男の話し合いに立ち合うと言うだろう。トイレ男は彼と一対一で話したかった。なので言わない。

 

 水路に灯りは付いていないが、台車の前を歩く衛兵がランプで前を照らしているので真っ暗という訳ではない。しかしかと言って先が明るいという訳ではなく、ランプの光が届かない奥の方は真っ暗だ。先頭を歩く衛兵は障害物があればどけ、どけられなければ迂回を呼びかけている。「…………」、この先には何があるのだろうか。迂回する事もできないほど大きな岩か、或いは何も無いのか。どちらにしろ、トイレ男は進まねばならない。譬え引き返す事ができないとも知れないとしても。

 

 

 

     ◊◊◊

 

 

 

 打ち上げ、らしい。

 

 一旦家に帰って(黒女に物凄く怒られた)体を洗い清潔な服に着替えたトイレ男が衛兵の詰所に行くと、大部屋のある店に連れていかれた。こんなの本当に食べ切れるのかと不安になるぐらい大量の料理が並べられ、私服姿の衛兵達がそれらにガッついている。作戦開始が朝早かったのでまだ時刻は昼間なのだが、既に酒も入ってお祭り騒ぎである。トイレ男は横のヘラヘラ男から勧められた酒を断りつつ、膝にトイレを乗せて野菜をモシャモシャと食べていた。生肉の上に座っていたせいかは知らないが、肉を食べる気分ではなかった。

 

 ヘラヘラ男と反対側の隣では、黒女がその小さい体がはち切れてしまうのではと心配になるぐらい大量の料理を掻き込んでいた。店を貸し切っているので一人ぐらい増えても問題ないと知らない衛兵は言っていたが、表向きは衛兵の敵である彼女がここに居るのは如何なものか。多分、直接彼女の顔を知る衛兵が居れば摘み出されるだろう。……というか向かいに座る衛兵、黒女の方をチラチラと見ていないか? 正体バレかけてないか? 大変不安である。

 

 ここに巨女は居なかった。多分、前衛兵ら衛兵のトップ勢と何かしら話してるのだろう。彼女も今回の件の中心人物だから、事が終わった後に会議などがあるのは別に変ではない。「…………」、というか、衛兵達もまだ仕事は終わってない気がするが。構成員達を収容所に運ぶだけ運んでほったらかしている。事情聴取とか、あとはアジトの調査とかはいいのだろうか? 「…………」、まぁ、いいんだろう。そこは別にトイレ男が気にする所ではない。

 

 そうしてもっしゃもっしゃと野菜を食べていると、空いていた黒女の隣の席に座る者が居た。誰かと思えばやさぐれ女である。

 

「……………………」

 

 完全に存在を忘れていた。

 

 トイレ男は満腹になったのか腹を抱えて仰向けに眠っている黒女をどけてやさぐれ女の隣に移動した。

 

【ごめんなさい】

 

「……………………」

 

 そう書いてみせるが、やさぐれ女はチラッと見た以外は特に反応せず、料理を皿に入れては隣に居る人物に渡している。誰かと思えば一人の少女であった。

 

「!?!?」

 

 子持ち設定!?!? いや確かに設定上は既婚なのだから子供が居てもおかしくないが、無駄に設定を盛り過ぎではなかろうか。

 

 トイレ男の顔から彼の考えた事を察したのか、やさぐれ女は溜息を吐いて、

 

「私の子供ではありませんよ。拾ったんです」

 

 拾った……?

 

「地下水路で貴方を探している時に一人で彷徨っているのを見付けたんです」

 

 どうやらそういう事らしい。トイレ男は納得した。「…………」、いや待て、地下水路に子供?

 

【もしかして、近くに足音のしない黒い奴が居たりしませんでした?】

 

「……よく知ってますわね。えぇ、居ましたとも。殴り飛ばしてやりましたが」

 

 強い。

 

 そしてどうやらこの子がトイレ男が見かけた子供らしい。無事でよかったとホッとする。今の今まで忘れていたのは言わないで欲しい。

 

「どうして知っているんですか?」

 

【あの足音の正体がこの子の足音だったんですよ。僕はこの子を追ったんですが、途中で見失ってしまって】

 

 コケた事は言わない。何故なら情けないから。

 

「あぁ、それで急に走り出したんですね……それと」

 

 やさぐれ女はトイレ男の耳に口を寄せて、

 

「(黒い奴らの事は誰にも言うなよ)」

 

「…………?」

 

「(怪しい。俺はもう何十回も水路に入ってるが、あんな奴らは見た事がない。彼らの存在が広まれば彼らを刺激する輩も現れる。彼らの正体がわかるまでそれは避けたいんだよ)」

 

「……………………(頷く)」

 

 やさぐれ男の声で言われたそれに納得して頷くと、彼女は顔を離した。

 

 だが顔を近付けた瞬間は見られていたようで、

 

「あー! ハイリンシアさんがツァーヴァスに何か耳打ちしてたー!!」

 

「浮気か!? 浮気か!?!?」

 

「ヒューヒュー!!!!」

 

 と泥酔した衛兵達に騒がれた。これがこの街の衛兵である。トイレ男は大変不安になった。

 

「ぶん殴りますわよ?」

 

 やさぐれ女が袖を捲りながら立ち上がるとやーいやってみろやーいと彼女を煽る衛兵達。やさぐれ女は彼らの下まで歩くと、全員一発ずつ頬を殴って黙らせて戻ってきた。「…………」、強い。

 

「おじっ……おばさん強い、凄い!」

 

「いい? 覚えておきなさい、女はこれぐらいの強さが無いと生きていけないのよ」

 

 いやお前男だろ。トイレ男はそう思ったが、文字にはしないでおいた。

 

 改めて、黒女とは対照的に静かに料理を食べる少女を見てみる。水路で見たのは一瞬だったが、それでも酷く雰囲気が変わっているのはわかった。ボサボサだった髪は洗われて今は後ろで結ばれているし、服も綺麗なものになっている。やさぐれ男が小さな女の子用の服を持っているとは考えづらいから、買ったか、或いは黒女の物をパクったのだろう。

 

「? 何? おじさん2」

 

 見られている事に気付いた少女がそう問うてきた。「…………」、トイレ男はまだそんな年齢ではないのだが。というか2とは何だ2とは。1は誰だ。

 

「この子は私が預かる事になりましたので、これ以降も顔を合わせる機会もあるでしょう。ほら、キイラ。自己紹介しなさい」

 

「キイラです。宜しくお願いします」

 

「……………………」

 

 トイレ男は紙に書いて渡す。

 

【ツァーヴァス・ニフロス・アマリアです。宜しくお願いします】

 

「……文字読めない」

 

 が、伝わらなかった。

 

「『ツァーヴァス・ニフロス・アマリアです。宜しくお願いします』と書いてあるのよ」

 

「何でこの人口で言わないの?」

 

「可哀想に、彼は喋れないんですよ」

 

「……………………」

 

 どうやら少女とのコミュニケーションはやりづらそうである。音声と文字、どちらによる意思疎通も難しい。二人だけの場合は、トイレ男が白女を殴って喋る他無いだろう。

 

 もう暫くやってないのでまだできるか不安になって脳内で白女をタコ殴りにしていると、「ちょっとすみません」とトイレ男とヘラヘラ男の間、元々はトイレ男が座っていた席に誰かが割り込んできた。

 

「…………!」

 

 誰かと思えば優男である。そして今なら巨女は居ない。チャンスである。

 

 トイレ男は予め用意していた紙を見せた。

 

【少し話したい事があるので、ちょっと外出ません?】

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