世界はまだ僕達の名前を知らない   作:coconat_21

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07th.22『トイレ男救出作戦』

 

 

 

 

 

「…………居ない」

 

 黒女は一人立ち尽くしていた。

 

 トイレ男に貰ったお金で昼食を買い、トイレ男が見当たらないので先に食べて、もう一度くまなく探したが、広場内にトイレ男の姿は無かったのである。

 

 先に店に戻ったのだろうか? と思い店にも行ってみたが、そこには昼休憩が終わっても姿を見せないトイレ男にイラつく店主が居るばかり。彼女が黒女にトイレ男の居場所を訊いてきたのではぐれたと言うと、全くあの子は友達の子供放ったらかしで何やってるんだいと更に怒り出した。怖かったので逃げた。今居るのは店から少し離れた路地である。

 

「どうしよう…………」

 

 騙界術で探す事を考える。が、いい例がなかなか浮かばない。やりたい事は『トイレ男の居場所を知る』事、そしてそれに相応しい事例は……

 

我が論を聴け、世界(エウレカ)。白姉全てを識る。如何にか我ツァーヴァスの居所知るべからざるや」

 

 ダメ元で言ってみるがやはりダメだった。恐らく、『白姉』が具体的に何を指しているのか伝わらないためだろう。せめて本名を知っていれば発動したかも知れないが、白女は名前を訊いても教えてくれないのだ。

 

「…………あ」

 

 そこまで考えて、ふと閃いた。

 

 白女に訊けばいいじゃないか。

 

 という訳で黒女は館に戻って、白女にトイレ男の居場所を調べてもらったのだが。

 

「…………地下水路?」

 

 白女の出した答えに度肝を抜かれた。

 

「え? 白姉今何て?」

 

「……地下水路。うん、やっぱりツァーヴァスはそこに居る」

 

 訊き返すも、寧ろ白女は最初よりも確信を持ってそう結論付ける。

 

「何で……?」

 

「彼の裏に関係があるとしても、この間の事があったのに、更に同じような事を重ねるとは思えない……」

 

 白女の言う『この間の事』とは、以前トイレ男が午後から翌朝にかけて黒女の監視から外れた事である。実はあの時、白女が代わりに遠くから監視していたので本当は問題無かったりするのだが。

 

「一体何が……」

 

「ちょっと待って、もう少し詳しく見る」

 

 白女は意識を集中して、トイレ男の周辺をより詳しく見た。

 

 そして⸺

 

「襲われてる」

 

「え?」

 

「ツァーヴァスが、黒い服を着た奴らに追い駆けられてる!」

 

「え!?」

 

 緊急事態だった。

 

「ちょっと愚弟達!」

 

 同じ部屋でカードゲームをして我関せずを貫いている風をしながら、でもやっぱりトイレ男の事は気になるのか聞き耳を立てていた黒男トリオに声を掛けると、彼らはゲームを中断して立ち上がった。

 

「わかったよ、行くよ」

 

「そんで白姉、具体的な場所は?」

 

「おっさんにも声掛ける?」

 

 白女は頷いて、

 

「一番近い入口は四番区画の所、ハインツは水路の地理に詳しいから居ると心強い」

 

「よし行くか」

 

「僕はおっさん呼んでから行くから、先に行っといて」

 

 まず先に小黒男が部屋を飛び出し、後を黒女達が追った。

 

 白女の言う四番区画の入口から地下水路に飛び込み、服が汚れるのも厭わず水に足を付けた。

 

「具体的な場所は?」

 

「ここから三つの角をスルーして、四つ目の角を左に曲がって五つ目の角を右に曲がってまっすぐ進んだら居る」

 

「わかった!」

 

「俺が残ってペテルとおっさんを連れて行くぜ」

 

「ありがとうディグリー、途中に道標になる物を置いていく」

 

 大黒男がその場に残り、黒女、白女、黒男で水路を走る。ここで灯りを忘れた事を思い出した黒女と黒男であったが、白女が服の中から取り出したのを見て安心した。

 

「今ツァーヴァスはどんな感じ?」

 

「ランプのある所に……!?」

 

 一体何を見たのか、白女は突然足を止めた。後ろに居た黒男が激突しかけ、「おっとっと」と横に逸れた。

 

「白姉?」

 

 先頭を走っていた黒女も足を止め、白女の方を振り返る。

 

 白女は暫し立ち尽くしたかと思えば、

 

「……ごめん。私、ここから先には行けない」

 

 などと言い出した。

 

「!? 何でよ! ツァーヴァスがピンチなのよ!!」

 

「そうだぞ!」

 

 黒女と黒男が声を荒らげるが、白女は首を横に振るばかりかランプを黒男に手渡した。

 

「何を言われても行けない……ごめん」

 

「……ああもうっ! 行くよハミー!」

 

「お、おお」

 

 もう絶対にこれ以上は進まないという姿勢を見せる白女に痺れを切らした黒女は黒男を伴って先へ進む。黒男は白女の方を気にしながらも、それに付いて行った。

 

「なぁ……白姉が行きたがらないなんて只事じゃねぇよ、ほんとに大丈夫か?」

 

「何? じゃあツァーヴァスを見捨てるっていうの?」

 

「いや、そうじゃないけど……」

 

 黒男は尋常ならざる事態に腰が引けかけているようだ。黒女は舌打ちをして、来たくないのなら来るなと言わんばかりに速度を速めた。慌ててそれに追い縋る黒男。

 

 そうして、二人は先に光が見える所まで来た。

 

「ツァーヴァス!」

 

「おい待て! 白姉が怖がるほどの相手が居るんだぞ、慎重に行こう」

 

「あッ……………………そうね」

 

 黒女の肩を持って制止する黒男に思わず噛み付きそうになれば、冷静になればその通りであった。黒女は逸っていた事を認め、深呼吸をして心を落ち着ける。

 

 そして角に隠れて、トイレ男が居る辺りをじっくりと見た。

 

「あの白い服を着ているのは誰……?」

 

「白姉に似た格好だな」

 

「というか、ツァーヴァス暴れてるけど、何があったのかしら」

 

「早く行かないとヤバいかもな」

 

 白女に似た人物が手を差し伸べると、トイレ男はピタリとじたばたをやめ、うつ伏せになり彼女の方に移動し始めた。

 

 かと思えば、突然吐き出した。

 

「もうダメ、私もう行く」

 

「おい」

 

我が論を聴け、世界(エウレカ)。気は見えず、鳴らず。如何にか我見え、鳴らすや」

 

 透明になり、足音を消して駆ける。

 

 そしてトイレ男が黒い服を着た人物に刺される直前で、何とか彼を拾い上げる事ができた。

 

「ッ、我が論を聴け、世界(エウレカ)気は軽し如何にかこの男軽からざるや」

 

 騙界術をギリギリ発動する程度の早口で発動し、その場を離脱する。黒男が相手の気を引こうとしているのか、挑発の言葉を叫ぶのも聞こえた。黒女は彼を信じてトイレ男を担ぎ、

 

「……出口どこ!? てかツァーヴァス何かめっちゃ血出してる!!」

 

 と困惑したのであった。

 

 

 

     ◊◊◊

 

 

 

 その後何とか、幸運にも路地裏に繋がった入口に辿り着き、地下室にトイレ男を運んだ。まだ透明化を解いていなかったので、もし目撃者が居ればぐったりとしたトイレ男が空中を移動する光景を目にした筈だ。

 

「わ、顔真っ青! 早くしないと」

 

 訓練所に併設された医務室(医者は居ない)にトイレ男を運び込み、ベッドに仰向けに寝かせる。そして、

 

我が論を聴け、世界(エウレカ)。我健やかなり、如何にかこの男健やかならざるや」

 

 と唱える。これで病気や怪我は治っていく筈だ。

 

「……というか、あんな状況でもトイレは手放さなかったのね……」

 

 トイレ男は意識を失っていた。恐らく、黒女が彼を抱き抱えた直後からだろう。にも関わらずトイレ男はその手にトイレを抱えていた。恐ろしい執着である。

 

 黒女はトイレ男の汚れた服を脱がし、清潔な布で全身を拭いた。下半身は後から来るであろう黒男達に任せる事にして、上半身を重点的に拭く。

 

「わ……」

 

 脱がせてまず、胸の辺りに多くある刺傷にそんな声が漏れた。何故死んでいないのか不思議なぐらいの大きい刺傷である。多分、何度も抜いて刺してを繰り返されているのではなかろうか。

 

 黒女は思わず顔の方を見て、トイレ男がちゃんと呼吸している事を再確認してから、血と汚れを拭き取った。

 

「うわ、痛そう……」

 

 そうすれば刺傷の他にも多くの掠り傷が見えた。痛くないように優しく拭いて、腹の面が終われば体を立てて背中側を拭いた。やはりこちらにも多くの掠り傷があったが、幸いにして刺傷は無かった。貫通もしていないようだ。

 

 丁度上半身を拭き終わった頃に、黒男達が帰ってきた。

 

「待たせ、うわぁ……」

 

 部屋に入った黒男は満身創痍のトイレ男を見て我慢できずという風にそんな声を漏らした。

 

「下半身の方を拭いてくれる?」

 

「あ、あぁ」

 

 黒男に続いて大黒男、小黒男、やさぐれ男が入ってくる。黒女は彼らと入れ違いに部屋を出た。

 

 そして、そこに居た白女と相対する。

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