トーカティブ捕獲作戦から数日後。
虎杖たちはアークの最高意思決定AIであるエニックによって裁判にかけられていた。
あの後、アブソルートの面々が残っていたラプチャーを全て殲滅し、彼らは無事に帰還する事が出来た。
しかしシュエンに脅されたとはいえ、独断専行の罪は重く、こうしてニケ共々裁判にかけられる事になってしまい、現在に至る。
エニックは指揮官である虎杖に対し質疑応答を行う。
「虎杖悠仁。貴方は上部に報告せず、独断で地上へ赴いた事。そしてそれに伴ってニケ5機を使用、消耗させアークの戦力を低下させた。間違いないですか?」
「ああ。全部俺がやった。間違いない」
「……これより虎杖悠仁に判決を下します。虎杖悠仁は今後2日間の作戦遂行を禁じます」
「え? なんか大分軽くない……?」
虎杖は自分に与えられる罰の軽さに驚く他ない。
勝手に独断専行をしたのだからもっと重い罪を与えられるのではないかと自罰的な精神性の虎杖は考えていた。
「えーっと、あのエニックさん? なんか俺の罪軽くない? もっとこう……一カ月間謹慎とか言われると思ってたんだけど」
「貴方の起こした行動には確かに問題がありました。しかし行動した意図には人類の平和に貢献するためであったと判断し、情状酌量の余地を加味した結果がこの判決です」
独断専行に問題はあったものの、結果的に虎杖たちのした行動は人類のためだったと認める。
それがアーク最高のAIであるエニックの答えだった。
続いて、エニックが同行していたニケたちへ判決を下す。
「命令体系を無視した作戦であると認知しておきながら参加したこと、およびそれに伴ってアークの大事な財産を浪費させた事。これらのケースの再発を防止するため、ワードレスとカウンターズのリーダーであるラピとミハラ。その2機に対し記憶消去を実行する。以上です」
「……は?」
裁判が終わり、カウンターズの面々は前哨基地で虎杖の帰りを待っていた。
やがて虎杖が帰還すると。
「指揮官様、どうだった……!?」
「師匠、ラピは……」
裁判の結果を聞いてくるアニスとネオンに、虎杖は一瞬口ごもりながらも判決を話す事に。
「……俺は2日間作戦に行くこと禁止だって。ラピとミハラは記憶消去されるらしい」
「記憶消去!?」
「そんな……嘘でしょ……!?」
判決を聞かされた2人は非情な現実にうなだれる。
特にアニスにとってラピは付き合いの長い友人。その友人が自分を忘れる事になると思うと、辛いだなんて言葉では彼女の心は言い表せそうにない。
ネオンもラピとの付き合いは短かったものの、アニスと気持ちは同じだった。
「……すまん。全部俺の責任だ」
「……悪いのは指揮官様だけじゃなくて私たち全員だよ。もっと言うならあのシュエンが────────」
「私がどうしたって?」
「「「ッ!」」」
彼らの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
3人が振り返るとそこには苛立った様子のシュエンがいた。
アニスと虎杖はシュエンの顔を見た途端、これまで抑え込んでいた怒りが爆発し、かつてないほどの剣幕でシュエンの前に詰め寄る。
「このクソ野郎!」
「お前、どのツラ下げて……!」
怒りを抑えきれない2人を見たシュエンは溜め息を吐くと。
「……お前たち、何を怒っているの? 怒りたいのはこっちの方なんだけど」
「は……?」
「は? じゃないわよ。お前らがアークに報告なんかしたせいでこっちも大変な目に遭ったんだから。あとトーカティブの件、誰にも話してないわよね?」
「お前……本気でいい加減にしろよ」
虎杖がついにシュエンの胸倉を掴む。
それでもシュエンは虎杖たちの怒りの理由が理解できなかった。
「何をそんなにキレる事があるの? たかが兵器の記憶が消えるだけでしょ。まさかお前、兵器を人間だとでも思ってる訳? だとしたら笑えるほどの馬鹿ね! アハハッ!」
シュエンは以前会った時と変わらず虎杖を嘲笑い続ける。
この時虎杖は確信した。
ああ──────こいつも、これまで戦ってきた呪いと大して性根は変わらないんだと。
「そんなに思い出が大事ならまた築けばいいじゃない。なんなら初期化する分自分好みのニケに変えられるかもよ?」
「アンタ、いい加減に……!」
アニスがキレる中、ついに虎杖の堪忍袋の緒が切れる。
虎杖の振り上げられた拳がシュエンを殴ろうとしたその時。
ガシッ、と虎杖の腕を何者かが止める。
虎杖の腕を止めたのは基地に戻ったラピだった。
「……指揮官。やめましょう」
「ラピ……」
虎杖は次第に落ち着き、振り上げた拳を下げる。
「言いたい事は言ったし帰るわ。次そこの鉄クズが記憶を消された時にまた来るから」
シュエンはそう言って虎杖の腕を振り払い、そのまま出て行ってしまった。
「無事だったんですね、ラピ……」
「ラピ! 大丈夫なの!?」
ネオンとアニスがラピに駆け寄る。
「……皆。帰ってきたばかりで申し訳ないんだけど、少し風に当たってくる」
そう言ってラピも外に出て行ってしまう。
~~~
虎杖がラピの後を追って外に出ると、ラピとワードレスの2人が話していた。
するとユニが虎杖に気付いて虎杖に駆け寄る。
「し、指揮官! ミハラの記憶、無くなっちゃうって……!」
「……ああ、知ってる」
「ねえ? どうすればいい? ユニどうすればいいの?」
「……」
虎杖は何も言えなかった。
自分で助けるとか、出来る事はすると言ったにも限らず何も言えなかった。
虎杖がどう足掻いても上層部の決定に逆らう事は出来ない。
「ねえ、助けてくれるって前に言ってたよね? お願い、助けてください……!」
ユニが涙目になりながら虎杖に縋り付く。
そんな彼女の姿を見ても、虎杖は何もすることが出来ない。
虎杖は彼女たちを助けられない自身の無力さを痛感させられる。
「……ごめん」
消え入りそうな声で、ユニに謝罪をする。
それ以外に彼に言える事は無かった。
「嘘つき……助けてくれるって、言ったのに……!」
「……ユニ。そういう事を言うのは良くないわ。指揮官は悪くないもの」
「指揮官の嘘つき……! ひぐっ……えぐっ……!」
ユニはついにポロポロと泣き出し、虎杖を嘘つきだと言ってしまう。
虎杖は何も言い返す事が出来ず、ただただ自分の弱さを呪った。
それを見たミハラはユニの元へ近付くと。
「……ユニ。もういいの。これは仕方のない事なのよ。だから指揮官を悪く言うのはやめて。皆傷つくだけよ」
ミハラはユニを抱き寄せ、頭を撫でて彼女を宥めた。
慰められたユニは一旦落ち着きを見せる。
「……指揮官、ごめん。嘘つきとか言って」
「いいんだ。……約束を守れなかったのは俺の方だ。何を言われても俺は受け入れる」
「ねえミハラ……記憶が無くなったら、ミハラはユニを忘れちゃう?」
「忘れるでしょうね、きっと」
「そんな……!」
「じゃあ、仮に私の記憶が無くなったとして。ユニは私を忘れるの?」
「……! ううん、忘れない! ユニは絶対にミハラの事忘れないから!」
「ふふ、ありがとうユニ。私の記憶が無くなっても、貴女が覚えていてくれたら私という存在はこの世に居続けられるわ」
ミハラがユニを再び抱き締め、彼女を連れて前哨基地から去っていった。
その場に残った虎杖とラピは。
「……なあラピ」
「なんでしょうか」
「俺、ずっと自分が強くなったと思ってた。無力だった頃に比べて力を手に入れて、人を多く守れる様になって」
「……」
虎杖の話をラピは黙って聞き続ける。
「でも違ったんだ。俺はマリアンの事も、あの2人の事も。……ラピの事も。ここに来て何も守れちゃいなかった。力だけあっても、本当に守りたいものは守れないんだなって。……ただ、それだけ」
虎杖悠仁は確かに強くなっていた。
特級呪霊である真人を祓い、皆で協力して因縁の相手であった両面宿儺も撃破した。
もう無力だった頃の自分はいないと思っていた。
それでも、この世界に来てから自分を守ろうとしてくれたマリアンも、何とかすると誓ったミハラも助ける事が出来なかった。
虎杖は五条と入れ替え修行をしていた時の彼との会話を思い出す。
『1人くらい僕とは全く違う強さを持った奴がいた方が良いと思うんだよね』
『──────期待してるよ、悠仁』
(先生……俺、まだまだだったみたいだ)
「……無力だったのは指揮官だけでなく、私たち全員です。指揮官だけが思い詰める必要はありません。私の記憶はこれから消えてしまいますが、それでも貴方の部下である事は変わりません。これから皆で強くなりましょう」
ラピは虎杖にそう言葉を返した。
それを聞いた虎杖は。
「……ありがとうな、ラピ。記憶が無くなっても、俺はお前の事を絶対に忘れないから」
「はい。よろしくお願いします、指揮官」
ラピは手を差し出し、虎杖と堅い握手を交わした。
一方その頃。
アンダーソンはイングリッドと話し合っていた。
「まさかミシリスのCEOが暴走した結果だとはな……どうにかならないものか」
「……今は我慢しよう。彼女の力はまだ人類に必要だ。それでネオンから入った報告についてだが2つある」
「それでどうだった?」
「まずは1つ。『トーカティブ』と遭遇、交戦したとの事だ」
「そうか……」
「それと……謎のニケに遭遇、助けられたと言っていた。おそらくピルグリムだろう」
イングリッドの報告を聞いていたアンダーソンがガタッと音を立てて座っていた椅子から立ち上がる。
「それは本当か!?」
「奴の言ってる事が事実ならな。目撃した虎杖悠仁曰く、髪は白かったらしい」
「シフティーくん。虎杖くんを至急こちらに呼び出してくれ」
『分かりました!』
1時間後。
虎杖悠仁はアンダーソンに呼び出されてアークまで来ていた。
「久しぶりだね虎杖くん。今回は君に色々聞きたい事があって来てもらった」
「ウス、んで何の用?」
悲し気な顔のまま、アンダーソンが話を切り出す。
「……今回、君の部下であるニケが記憶消去される事になった。気分はどうかね」
アンダーソンは虎杖に気分はどうかと尋ねた。
問われた虎杖は下を向くと。
「……正直、あまり気分は良くない。仲間が危険な目に遭ったのも辛いし、それをなんとかできなかった俺自身を許せない」
「……そうか。なあ虎杖くん、君はかつての仲間であるマリアンの事について私が知っている事があると言ったら……君は知りたいと思うか?」
「!」
虎杖は顔を挙げてアンダーソンの方を向き、うんと首を縦に振る。
「そうか。信じるかどうかは君次第だが……私たちの中に、アーク内でニケを浸食させる内通者がいる」
「内通者……?」
「そう、内通者だ。個人か集団かは不明だが、私は彼らをラプチャーと繋がっていると判断した。ニケの脳にコードを埋め込み、それで意思を操作する。浸食という技術を人間が使用する事は出来ない。そして君たちが出会ったトーカティブとその内通者は間違いなく繋がっている」
「虎杖くん。君はおそらく犯人を許せない、捕まえたいと思っているだろう。だから君と、君の率いるカウンターズはこれからトーカティブの追跡に力を入れて欲しい。それが、君が彼女の……マリアンの仇を取る唯一の方法だ。頼んだぞ」
「押忍!」
~~~
1日後。
前哨基地でラピを除く3人はラピを無言で待っていた。
「……アニス。ラピが来てもそんな顔をしてるつもりですか?」
「……何よネオン。私、これを機にクール系先輩キャラになろうと思うの。ネオンもどう?」
「いいですねそれ! じゃあ私は怖い系の先輩になります!」
「じゃあ俺は体育会系の先輩になろーっと!」
3人が話し合っていると、記憶を消去されたラピがドアを開けて入ってきた。
「……」
ラピは何も言わない。
黙りこくっているラピにアニスが距離を詰めていく。
「ちょっとアンタ、新人でしょ? まずは先輩に挨拶と肩もみが先でしょ?」
「……は?」
「私のメガネも汚れが無くなるまで拭いてください!」
「……あの」
「焼きそばパンを買ってきてくれ! それとコーラ!」
「……あの、指揮官。すみません、記憶が消えませんでした」
「「「……え?」」」
「記憶が消えませんでした」
3人が困惑しながら顔を合わせる。
「ちょっと待ちなさい! なら私の名前を言ってみなさいよ!」
「アニス」
「私の名前はエンポリオです!」
「そうね、良い名前だと思うわネオン」
「……本気で消えてないの? 消されなかったとかじゃなく?」
「消された。それはちゃんと覚えてる」
ラピは淡々と話し続ける。
記憶を消されたはずのラピは何故か記憶が消えず、以前と何1つ変わらない様子だった。
口調や態度にも一切変化が見受けられない。
「……ラピ、それ不味くないですか? もし記憶が消えてないってバレたら……」
「多分また消されると思う。イレギュラーは認めない、それがアークの方針だから」
「指揮官様どうする? このままじゃラピがまた記憶消されちゃうかもよ」
アニスがどうするかを虎杖に投げかける。
虎杖はうーん、と一瞬悩むと。
「うーん……黙ってようぜ!」
「了解」
「それが一番いいわよね」
「ですね!」
ラピの記憶に関しては黙っている事に決めたカウンターズと虎杖だった。
「まあ気を取り直して! ラピの帰ってきた記念でパーティでもしようぜ!」
「それいいわね! 私炭酸水持ってくるわ!」
「じゃあ私はお菓子持ってきます!」
ネオンとアニスがタタタッとパーティをするために菓子や飲みものを取りに行った。
「あの、指揮官……そこまでしなくても私は……」
「何言ってんだよ、せっかく記憶消えないまま戻ってこれたんだからパーっとやろうぜ! 最近皆根詰め過ぎてたし」
虎杖がそう言うと、ラピはちょっと呆れた様な顔をした後。
ラピは少し嬉しそうに。
「……いえ、そうですね。お言葉に甘えて、今日くらいは皆で楽しみましょう。私も行ってきます」
「応!」
虎杖とラピも加わって指揮官室内でパーティの準備を勧め始める。
そこから1時間後……
「それじゃあ指揮官様、何か言って」
「えっ俺言っていいの? じゃあ……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
4人でグラスを持ち、グラスの中に入った炭酸水を飲もうとした時。
『虎杖悠仁! それに鉄クズ共! 出てきなさいよ!』
……すぐ近くから聞いた事のある声が聞こえてくる。
念のため虎杖がドアを開けて廊下に出ると……
「おい。約束通り来てやったわよ虎杖」
「……誰だっけ?」
「お前ふざけてるの!? シュエンよ! ミシリスのCEOのシュエン! そうじゃなくて今回はお前に用が────────」
次の瞬間、部屋から飛び出したラピがシュエンに接近し、強烈な回し蹴りをお見舞いする。
「ぐはっ……!?」
「指揮官。不審者を発見しました。これをどうしますか?」
「お、前……! こんなことして、ただですむと……!」
シュエンはラピに蹴られたのがあまりにも痛かったのか、お腹を抱えて身体を丸めている。
「もしかして知り合いでしたか? すみません、足が滑ってしまいました」
「い、医療チーム……呼ん、で……骨……折れた……」
シュエンは骨折した痛みで気絶。
数十分後、ミシリスの医療チームに搬送されていった。
「……何しに来たんでしょうね、あの人」
「まあどうでもいいでしょそんな事、これまで散々調子に乗った天罰よ。戻りましょ」
4人はパーティ再開のために指揮官室へと戻った。
その日の夜。
パーティを終えて皆が指揮官室で眠る中、虎杖の携帯に着信が入る。
相手はアンダーソンからだった。
「もしもし?」
『虎杖くん、明日から君たちの部隊に新しい任務がある』
「新しい任務? マジ?」
『ああ、マジだ。それで任務の内容だが……地上の北部に、君が以前遭遇したニケが現れたそうだ。君たちはその北部に向かってくれ』
「!」
虎杖が地上で遭遇した謎の白い髪のニケ。
彼女が北部に現れたとアンダーソンは話す。
「副司令官はあのニケがなんだか知ってるの? 俺良く知らないんだけど」
『彼女たちは「ピルグリム」。地上で生きているとされる幻のニケだ』
「なるほど伝説のポケモンみたいなもんか……」
『ポケモンが何なのかは知らないが、伝説と言う例えは確かに当たっているかもしれない。なんせ神出鬼没で誰も存在を掴めていないんだからな』
「なるほど……」
『彼女がいる所にはトーカティブもいる可能性がある。では健闘を祈っているよ』
通話は途切れ、虎杖は明日から始まる新しい任務に気を引き締めるのだった。
~~~
翌朝。
カウンターズの面々はアークで出発の準備を整えていた。
「指揮官。全員準備出来ました」
「んじゃ行くか!」
虎杖を先頭に出発しようとしたその時。
「Wait! そこの指揮官、止まるのDESU!」
突然彼らの後ろから無数の光が浴びせられる。
ネオンや虎杖が困惑する中、アニスは一人顔に冷や汗を垂らしながら「まさか……」と呟く。
ラピは後ろを振り向き、光を放つ存在に対して。
「……眩しくて良く見えないのですが、どちら様ですか?」
「これはまたものを知らないGirlDESUね! GreatなCEOというのは輝いて見える物! そう! この私こそがアークのentertainmentを担うテトララインのC! E! O!」
「マスタングDESU!!!」
「眩しい方の理由は聞いてねえよ!?」
突如現れた輝くCEO・マスタングのあまりにも奇抜な姿に、虎杖のツッコミがアーク内を木霊した……