「そういえばまだ指揮官には私の名前を言ってませんでしたよね。私はシルバーガン分隊所属のニケ、マリアンです」
「へー、マリアンって言うのか……俺は虎杖悠仁。虎杖でも悠仁でも好きな方を呼んでくれ」
「はい、よろしくお願いしますね! 虎杖指揮官!」
ラプチャーの群れとの戦闘を終え、虎杖とマリアンは2人、地上を歩いていた。
「とりあえず聞きたい事はいっぱいあるんだけどさ、あのラプチャーって言うのはなんなんだ? 俺を見た途端一斉に襲い掛かってきたけど」
「ラプチャーは100年前、突如この世界に現れた謎の機械生命体です。ラプチャーの圧倒的な力と物量の前に、人類は敗れ、アークという地下施設に人類は全員移住しました。私たちはラプチャーから地上を奪還するために作られたヒューマノイド型対ラプチャー汎用兵器、ニケなんです」
この世界は元々いた自分の世界ではない。
マリアンの話を聞いた虎杖悠仁はそう確信した。
彼が元々いた世界には呪霊も呪術師もいた。しかし元の世界にはラプチャーという生命体もニケという人型兵器も存在しなかったのだから。
地上は見渡せばどこも荒れ果てていて、その光景はかつて彼が両面宿儺に自我を乗っ取られ、渋谷を滅茶苦茶にした時の姿に近しいものを虎杖は感じていた。
「なんつーか……異世界に来ちゃったみたいな気持ちだよ」
「……実際、アークに比べると地上の姿は見るに堪えない光景だと思います。あの、今度は私が指揮官に聞いてもよろしいでしょうか?」
「俺に答えられる事ならなんでも答えるよ」
「ありがとうございます。……何故、指揮官は先ほどのラプチャーの群れをたった1人で倒せたのですか? それもニケじゃない、生身の人間が……」
「んー……あれくらいの奴らならこれまでずっと戦ってきたしな。俺1人って訳じゃなくて皆でだけど」
「こ、これまでずっとラプチャーの様な怪物と戦ってきたんですか……!? 流石指揮官ですね!」
マリアンが言葉を発した瞬間。
上の建物からラプチャーがドンッ! と音を立てて飛び降りる。
ラプチャーはキョロキョロ周りを見渡すと、虎杖とマリアンの姿を補足した。
「前方にラプチャー! 今回は私も戦います……! エンカウンター!」
「応!」
虎杖がラプチャーの足に触れ、御厨子で足の部分を抉り取る。
「マリアン、頼む!」
「了解!」
足を抉られて体勢を崩したラプチャーはマリアンのSMGによってコアを破壊され、機能を停止した。
「任務完了! うっ……」
「マリアン……足、ケガしたのか?」
「ケガというより、故障……でしょうか? 大丈夫です。安心してください」
「ちょっと待っててくれ……確かこの辺りに……」
虎杖は先ほど歩いてる時に拾った包帯をマリアンの足に巻いた。
「指揮官、何を……!?」
「こんなのでも巻いてるだけ意味はあると思うんだ。拾ったやつだから汚いかもだけど」
「そんな……いえ、ありがとうございます。指揮官は優しいんですね。……ランデブーポイントはこの近くです。歩けますか?」
「ああ、大丈夫だ」
「……ねえラピ。私たちいつまでここで待てばいいの?」
「合流するまで」
「……死ぬまでじゃないよね?」
「合流するまでよ」
徘徊しているラプチャーを撃ちながら、ラピとアニスが話し合っていた。
「でも輸送機墜落しちゃったじゃん! あれで生きてる訳ないってば!」
「まだ死亡報告は入ってきてない。それにここを離れたら作戦がダメになる可能性もある」
「正直もうダメだと思うけどね……」
「指揮官! あそこです! マリアン、合流します!」
「うわぁビックリした!」
「マリアンです! 指揮官と2人でランデブーポイントに合流しました!」
「えっ!? あの爆発から生き残ったの!? そこのニケは良いとしてもそっちの貴方は人間よね……?」
「100%ヒューマンだぜ俺、あーいや……100%か? どうかな……」
「怪しいなあ……」
アニスは訝しげな表情で虎杖をジロジロ見ている。
もう片方のラピは虎杖へと詰め寄り……
「失礼します。……指揮官認識コード、アクセス」
「ちょっとラピ!? まだどんな人なのか分からないのに……!」
「今は緊急事態よ。ラプチャーを倒さなきゃいけない。……現時刻を持って、貴方は私たちの指揮官です。一刻を争う状況です、協力よろしくお願いします」
「今更そんな事言われなくても、俺はもうずっと前から覚悟決めてんだ。俺は虎杖悠仁、よろしくな」
「ラピです。こちらはアニス」
「……アニスで~す。よろしくね、指揮官様」
こうして虎杖の下にはラピ、アニス、そしてマリアンの3人のニケが集まった。
「改めて、私たちの要請に応じていただき、ありがとうございます」
「いやー、前の指揮官様は死んじゃってさ。「ラプチャー! 人類の敵!」とか言ってラプチャーに対人火器をぶっ放したのよ。ラプチャーにあんなの効く訳ないのに……」
「? でもあいつら普通に俺1人でも倒せたぞ」
虎杖がそう答えた途端、ラピとアニスの目つきが変わる。
「……指揮官。今そういった冗談を言うのはおやめください。緊急事態なんです」
「あのさ、指揮官様は知らないかもしれないけど……ラプチャーは本来専用の火器を使わないととてもじゃないけど倒せないの。それをニケじゃないただの人間の指揮官様が1人で倒した? 子供でももうちょっとまともな嘘つくよ」
虎杖の発言をラピとアニスは一切信じていない。
それを1人見ていたマリアンはそっと手を挙げて。
「あの……指揮官の言っている事は全て本当です。私ちゃんと見てましたから。……直に見た私も信じられませんけど……」
「だろ?」
それを聞いた2人は口を開けて唖然としている。
「指揮官様……本当に人間なの……?」
「……やめましょう。これ以上考えすぎるとこちらの頭までおかしくなってしまうわ。現在後方と前方両方の方向からラプチャーが接近してきています。指揮官、戦えますか?」
「俺はいつでも行けるぞ?」
「いやだから指揮官様……そういうのはもう良いって……」
この期に及んでまだ虎杖を疑るアニスに対して、マリアンがむっとした顔で食ってかかる。
「アニスさん……でしたっけ? 指揮官の言ってる事が信じがたいのは分かりますが、この人が身体を張ってラプチャーと戦ったのは紛れもない事実です。私が証人です。今度指揮官を疑ったら私もただではすみませんよ」
「あーうん……そうだよね、ごめんマリアン。ちょっとこんな状況だから疑心暗鬼になっちゃってた」
「謝るなら私にではなく、虎杖指揮官にお願いします」
「すみませんでした、指揮官様……」
「いーよいーよ、俺気にしてないから」
「! 指揮官、後ろ!」
マリアンの声で虎杖が咄嗟に避けると、後ろからはラプチャーがゾロゾロとやってきていた。
「行きましょう指揮官! エンカウンター!」
「後ろは頼んだ!」
マリアンの掛け声と同時に、ニケ3人が後方で戦闘を始める。
虎杖は前方のラプチャーを倒すために1人立ち向かう。
虎杖は拳に呪力を纏わせ、ラプチャーのコアに狙いを定め……
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間。
空間は歪曲し、黒い呪力が散る。
────────虎杖悠仁は、黒い火花に愛されている。
「『黒閃』!!!!!」
黒閃はラプチャーに炸裂し、ラプチャーのコアを見事叩き割った。
現在虎杖悠仁の術式『御厨子』は、ラプチャーのコアを切り刻む事で縛っている状態のため威力は通常の御厨子の解よりも底上げされている。
加えて今の虎杖悠仁は黒閃を決めたばかりで事実上覚醒状態にある。
つまり……
「『解』!」
──────解1発でラプチャーを引き裂くのは、あまりにも容易い。
これをひたすら繰り返し続け、虎杖悠仁の前にいたラプチャーは全て消えていた。
「マーリーアーン! こっち終わったぞー!!!」
「指揮官……!」
「嘘でしょ!?」
「……こっちも早く片付けよう、アニス、マリアン」
~~~
「……戦闘終了。お疲れ様でした」
「まさか本当にラプチャーを倒しちゃうなんて……指揮官様、本当に何なの?」
「うーん、呪術師……って言っても多分分からないよな」
「うん、分かんない……」
「だよなあ……」
アニスの返答に少ししょんぼりと虎杖が肩を落とす。
「指揮官、素晴らしい活躍でし──────痛っ!」
虎杖に話しかけようとしたマリアンが頭を抑えてうずくまる。
「マリアン、大丈夫か!?」
「は、はい……おそらく、体調不良かと……」
「ニケも体調不良になる事ってあるんだな……」
「……」
不穏な気配が漂う中。
彼女の中にいるものは刻一刻と、浸食しつつあった──────。
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