『コードネーム、ブラックスミスと交戦を開始します! エンカウンター!』
シフティーがサポートをする中、ラピ、アニス、虎杖3人によるブラックスミス討伐戦が始まった。
「ラピ、アニス! 俺に考えがある! 2人は道を開いてくれ!」
「「了解!」」
虎杖からの命令を受諾したラピとアニスはブラックスミスの周りにいるラプチャー達を一斉掃射し始める。
ブラックスミスは向かってきた虎杖を敵と認定し、触手を出して虎杖を建物の壁に力強く叩きつけた。
虎杖悠仁には1つの策があった。
彼にとっての策とは、御厨子の『解』をマリアンの魂の境界に使う事でラプチャーとマリアンを分離する事だった。
これはかつて両面宿儺との決戦で伏黒恵を救うためにやった事と同一のものである。
「がっ……!」
だが虎杖悠仁は痛みで止まる様な男ではない。
壁に叩きつけられた痛みをものともせず、触手を伝って本体のブラックスミスのコアまで向かう。
「────────!」
ブラックスミスの攻撃手段は触手だけでなく、対物ライフルなども存在する。
その凶弾の全てが虎杖悠仁を殺すためだけに向かってくる。
「あっぶねえ!」
ほとんどの弾を避ける事は出来たがうち1発は太腿の部分に着弾してしまう。
掠っただけにも関わらず彼の太腿には大きな銃創が出来てしまった。
(痛え……! けどこれくらいなら後で反転術式で治せる! ここで止まってる場合じゃねえ!)
壁に叩きつけられても、ライフルの弾が掠っても、それでもなお虎杖悠仁は止まらない。止まれない。
たとえ無理だったとしても、無謀だったとしても、自分を助けてくれた彼女を今度は自分が助けたい。
助けられなくても、せめて正しい死に方をさせたい。
そんな思いで彼はついにブラックスミスのコアに触れる。
「起きろ……! マリアン!」
「『解』!」
術式の範囲を魂の境界に絞り込む事により、解の威力は底上げされている。
ブラックスミスにも効果はあったのか、大きな音を出しながらぐらりぐらりと揺れている。
それでもまだブラックスミスは倒れず、コアは健在のままだった。
ラピやアニスは今はまだ戦えているが、確実に疲弊している。
対してブラックスミスは『解』で魂に攻撃を受けたものの、まだ確実な決定打を受けてはいない。
『まずいです指揮官……! このままじゃ、私たちはラプチャーに敗北します……!』
シフティーは憔悴した声で虎杖に情報を伝える。
このまま奥の手が無ければ、負けるのは時間の問題かもしれない。
……そう。
このまま奥の手が無ければ、の話だ。
虎杖悠仁にはまだ1つ、奥の手が残されている。
しかしこれを使ってしまえば、おそらくマリアンは助けられない。
”奥の手”を使ってマリアンを殺すか、全てを諦めてブラックスミスに殺されるか。
虎杖は二者択一を迫られていた。
そして彼の脳内には、彼女とのこの数時間の記憶がよぎる──────。
『指揮官、ご無事ですか!?』
『指揮官はお優しいのですね』
『指揮官は私がお守りいたします!』
そして虎杖悠仁は、どちらを選ぶかを決めた。
「……ごめん、マリアン」
「俺、マリアンの分までちゃんと苦しむよ」
そう言うと虎杖は掌印を組み……
領域を展開したことにより、呪力の繋がりによって生じた精神空間が虎杖と中にいるマリアンを包み込んだ。
虎杖の精神が真っ白な何もない空間に出されると、そこには1人、会った時と同じ様に心配そうな顔をする彼女がいた。
「指揮官……? あの、何故泣いているのですか……?」
「……ごめん、マリアン。俺はお前を助けたかった。浸食されても取り込まれてもそんな事知らねえ、絶対に助けるんだって。でもシフティーは浸食されたニケを助ける方法はないって言うから、ならせめて悔いの無い死に方をして欲しかった。でもそれもダメみたいだ」
涙声で1人語る虎杖を、マリアンはただ黙って聞いていた。
「本当に、ごめん……!」
「……何で、謝るんですか?」
「え……?」
「だって、指揮官は何も悪い事なんかしていないじゃないですか。元々、ニケはラプチャーと戦うために生み出された兵器です。ラプチャーと戦って死ぬ事になるのなら、それは仕方ない事なんです」
涙ぐむ虎杖に、マリアンは語り続ける。
「私はニケです。これまで生まれてから一度も人間の様に扱われた事はありませんでした。私も自分はニケだからと、そんな扱いは期待した事はありませんでした。でも、貴方が現れた」
「ただの兵器に過ぎない私に、貴方は優しくしてくれた。ただの兵器の私を、貴方は人として扱ってくれた。ただの兵器の私に、貴方は包帯を巻いてくれた。ニケに包帯なんて意味がないのに、私はそれがとても嬉しかったんです。生まれて初めて感じた温もりでしたから」
「……指揮官。私は貴方に感謝こそすれど謝ってもらう必要なんてないんです。だから、泣かないでください」
「……ありがとう……この世界に来て……一番最初に会えたのが俺、マリアンで良かった……!」
「私も指揮官が虎杖さんで良かったです!……最期にこの言葉をラピやアニスに伝えてもらえますか?」
「ああ……なんだ?」
「『私の生涯に悔いは無かった』と、そう伝えてください」
「……分かった! ありがとう!」
「指揮官も、ちゃんと生きてくださいね」
その言葉を最後にマリアンの姿は徐々に消え、精神空間は無くなり、虎杖の意識は現実へと戻った。
虎杖は自身が展開した領域をブラックスミスと自分のいる半径10m以内に絞り込む。
この距離なら2人が巻き込まれる事はないと考えた虎杖の判断。
──────領域展開の利点について、生前の五条悟はこう語っていた。
『領域展開は滅茶苦茶呪力を消費する分、相応のメリットがある』
『1つは環境要因によるステータス上昇、まあバフみたいなもんだと思っていいよ』
『そしてもう1つ』
『領域内で付与された術式は、絶対当たる』
現在、虎杖の術式は、領域展開により絶対必中の能力となっている。
「……じゃあな」
無数の斬撃がブラックスミスの全身を切り刻み続ける。
そしてその斬撃は無論コアにも当たり続け──────。
パリン、と音を立てたその後。
大きな爆発を起こして、ブラックスミスは爆散した。
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ブラックスミスを倒した虎杖は、虚ろな表情でラピとアニスの下へ歩く。
「……指揮官」
「指揮官様……」
『……この作戦の成功率は12%ほどでした。皆さん、お疲れ様でした』
「ラピ……マリアンは?」
暗い顔をしたまま、虎杖がラピに声をかける。
ラピも一瞬、言うべきか悩んだ顔をして。
「……生きては、います」
ラピが指を指した先には、下半身が欠損し、顔の半分が露出したマリアンがいた。
「こ、こ……です。しき、かん……」
「……手遅れよ。もう浸食が脳にまで行ってる。助からないわ」
『……浸食されたニケは、処分が決まっています。軍法によってニケの処分は、ニケではなく指揮官がする事となっています。……あの、大丈夫ですか?』
ラピは所持していた拳銃を虎杖に手渡しした。
「これで、至近距離から撃ってください。……お願いします、指揮官」
虎杖は拳銃をぐっと握って。
「……分かった」
マリアンの前まで行き、頭部に銃を突きつける。
だが、どうしても撃てない。
引き鉄を引けない。
たとえ人間じゃなく、兵器だとしても。
彼は撃つ事が出来なかった。
『一度人を殺したら、「殺す」って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ』
昔、吉野順平に対して語っていた言葉を、彼はこの時思い出していた。
「……指揮官。撃ってください。これは必要な事なんです」
ラピに言われてもまだ撃てずにいた虎杖の手を、そっとマリアンが握る。
「しき、かん……包帯、うれしかった、です……」
その言葉と共に、彼女は銃の引き鉄を引いた。
その音と共に、一連の事件は終わりを迎えたのだった……
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『……報告は以上です』
「ブラックスミスに勝っただと……!? それもただの人間がラプチャーを倒した……!?」
『信じられないかと思いますが、全て事実です……』
「随分と面白いジョークだな……明日、その指揮官とニケを呼んでくれシフティーくん。私は彼に興味を抱いたよ」
『かしこまりました!』
虎杖悠仁がこの世界に来て1日が経過した。
起きた虎杖はこの施設がどこか分からないまま、施設の中をうろついていると。
「あっ、指揮官様!」
偶然ラピとアニスに遭遇した。
二人は心配そうな顔で虎杖を見ている。
「指揮官、身体の方は大丈夫ですか?」
「俺の身体は大丈夫だよ。俺身体は昔から丈夫だし」
「……それなら何よりです」
虎杖の様子を見て、少し安心した様な表情を浮かべるラピ。
「そういや俺、マリアンからラピとアニスに遺言頼まれてたんだった」
「……なんて言ったの?」
「えーっと……『私の生涯に悔いは無かった』ってさ」
それを聞いた二人は一瞬茫然として。
「……そっか。マリアンも、私たちを見て喜んでくれてるといいね」
「死んでいったマリアンの分も……これからよろしくお願いします、指揮官」
「ああ、俺の方こそよろしくなラピ、アニス」
……こうして、虎杖悠仁は新しい世界で指揮官になる事となった。
彼女にかけられた、『生きて』という呪いと祝福の入り混じった言葉を背負いながら。
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