海の近くにある発電所を調査せよ。
アンダーソンとイングリッドからの指令で虎杖悠仁率いるカウンターズは、ラプチャーたちがひしめき合う発電所を調査するために地上へと上がってきていた。
初めて地上に上がったネオンはその光景に興奮を抑えられなかった。
「凄い……! これが地上なんですね! 私、初めて見ました! 空気もアークのとは違いを感じます!」
「そうやって舞い上がれるのは今だけだと思うわよ……地上に上がってラプチャーと遭遇する確率は100%なんだから」
『なので速やかな移動をお願いします! 今回の作戦の目的は発電所にある制御室の調査です。現在この場所から発電所まで行く場合、無人浮上式鉄道の線路に沿って移動する必要があります! ただ、1つ問題が……』
シフティーが一瞬口ごもった後、言うべきかどうか迷いながらも口を開く。
「何か問題でもあるのか?」
『……線路の全体には超高圧の電流が流れています。ニケなら耐える事が出来ますが、指揮官は人間です。もし電流が身体に流れでもしたら……』
「大丈夫! 俺多分電気流されても死なないから!」
「何が大丈夫なのよ……それでシフティー、この高圧電流をどうにかする方法はないの?」
『現在検索中です! ……制御センターが1件見つかりました! マップ上にチェックしておきますね!』
「……大体理解しました。行きましょう指揮官」
「応!」
虎杖を戦闘にカウンターズ一行は制御センターを目指す事になり、シフティーの表示した地図を頼りに移動し始めた。
~~~
制御センターを目指して歩き始めて30分。
「あ!」
何かに気付いたネオンが突然声を出し始める。
ラプチャーが出現したと判断した4人はそのまま臨戦態勢へ。
「指揮官、準備してください!」
「シフティー、バックアップお願い!」
『はい!』
「行くぞ皆!」
そんな4人をよそに、ネオンは1人きょろきょろと困惑してしまう。
「……あの、どうしたんですか皆さん? 私何か変な事言いました……?」
「え、ラプチャーが出たんじゃ……?」
「違いますよ指揮官! 私はただ良い案を思いついただけです! ラプチャーなんてどこにもいませんよ!」
「「「『……』」」」
警戒していた4人の顔は徐々にスッ……と元の表情に戻っていく。
「はあ、警戒して損したわ……それで? 良い案って何?」
「よくぞ聞いてくれましたアニス! 先ほどの高圧電流についての解決法ですが──────」
「全身にゴムの装備を纏えばいいと思うんです!」
「「……は?」」
アニスとラピが再び呆れた顔になる。
そんな彼女たちとは対照的に虎杖は1人彼女の案に納得していた。
「それってつまりあれだろ? 『ゴムだから雷は効かねェ』みたいな!」
「流石指揮官! 賢いですね!」
『ダメに決まっているでしょう!? そんな事をしても電流は防げません!』
シフティーのマジレスが虎杖とネオンに突き刺さる。
しかし虎杖とネオンは首を傾げて「?」と言った態度を取っていた。
「え、でも私がアークで読んだ漫画だとゴムの服を着たキャラに電気は効いてませんでしたよ?」
「そうそう、シフティーは知らないかもだけどゴムって電撃効かないんだよ? ワ●ピースとか読んだ事ない?」
『……』
虎杖悠仁とネオンはアホだった。
2人のアホさ加減に3人は着いていけず、場には暫しの沈黙が訪れる。
その沈黙に耐えられなくなったのか、流石のラピも意見を出す。
「……指揮官、現実と漫画をゴッチャにしないでください。そんな事ある訳ないじゃないですか、ゲームや漫画の世界じゃないんですから。それにネオンも、もうちょっと真面目に考えて」
「「はい……」」
ラピの凍えそうなまでに低い声による説教を受け、虎杖とネオンはガクっと肩を落とした。
『……とにかくこの案は不採用です! 絶対に通しません!』
「良い案だと思ったのに……ねえ指揮官?」
「もうちょっと男心って奴を理解して欲しいよな……」
「指揮官。ネオン」
「「……はい」」
~~~
『着きました! ここが発電所の制御センターです! 線路への電力を遮断するので、コネクティングデバイスを出してください!』
「指揮官、デバイスを出してください」
「コネ……?」
虎杖が頭にはてなを浮かべて聞き返す。
『えっと……地上にある機械をオペレーターが遠隔操作するために必要な機械です! 携帯の出っ張ってる所を引っ張るとケーブルが出るので、よろしくお願いしますね!』
「ああこれか! ……で、これをどうするんだ?」
『……そこのコントロールしたい場所に挿し込む所があるので、そこに挿してください』
「へーこうするのか、科学の力ってすげえ……」
「……」
「……指揮官様が本当に指揮官なのか疑わしくなってきたわ」
『ではこれから電力を遮断するのでしばらくお待ちくださ─────ッ!?』
『報告します! 現在皆さんの近くにロード級1体とラプチャー20体近くが接近しています!』
電力を遮断しようとした途端、シフティーの態度が一変。
ラプチャーが出現したのだと言う。
虎杖が制御センターから外へ出ると、すぐそこまでラプチャーの群れが迫っていた。
『遮断するには10分ほど時間を要します! ラピ、それとアニスとネオンは指揮官を追ってください! お願いします!』
「……ラジャー」
「ああっもう……! 行けばいいんでしょ行けば! ネオンも来て、ほら!」
「私の火力の高さをついにお見せする時が来たんですね!? 私、楽しみです!」
ぶつくさと言いながらもアニスたちは虎杖の後を追っていく。
アニスたちが虎杖の所へ着くと、既に戦いは始まっていた。
しかし流石の物量差には苦戦したのか、虎杖は攻撃を避けながら戦っている。
やがて虎杖が3人の存在に気付くと、大声で。
「皆来てくれた所悪いんだけど下にいる奴らを片付けてくれー! ロードは俺がなんとかすっからー!」
「分かりました。指揮官はロード級の相手を頼みます」
「え? でもあの人人間ですよね? 人間がラプチャーに勝てるんですか?」
ネオンは不思議そうにラピとアニスに尋ねる。
そう思うのにも無理はない。現に2人も数日前まではラプチャーを倒せる人間の存在など信じてはいなかった。
しかし虎杖と会い、何度も彼の実力を目の当たりにした上で彼の力を認める以外に無くなったのだ。
アニスは1人「そりゃそう思うよね……」と言った言葉を呟いている。
「指揮官は以前生身でタイラントモデルを倒してるわ。ロードにだって1人でなんとかなるはずよ」
「凄い人ですね……一体どれだけの火力を持っているんでしょうか……」
「私たちの仕事はシフティーの仕事が終わるまでこいつらを片付けちゃえばいいって訳。一番強いのは指揮官様がなんとかしてくれるしね」
「私たちも始めよう。エンカウンター!」
ニケたちが戦闘を始めた一方、虎杖はどうやってロードに近付くか建物の上を飛びながら一生懸命考えていた。
(今のあいつに近付けるものは無いか……?)
攻撃を避けながら走っている最中に虎杖悠仁の視界にある物が入る。
それは今はもう使われていない錆びついた鉄塔だった。
(これを登ればあいつに届くかもしれねえ!)
鉄塔を登ってそこからロードの上に飛び降りる。
それが虎杖の考えた方法だった。
そうと決めたら一直線、凄まじい勢いで鉄塔に捕まってあっという間に一番上まで上り詰める。
「こっからなら……イケる!」
足にグッと力を入れ、下にいるロード級目がけて。
──────虎杖悠仁は、跳んだ。
相手からは光線が放出されるも、ギリギリの所でダメージは受けなかった。
しかし完全には避けきれず、着ていたパーカーと制服はジュワッ……と音を立てて服の一部が焼け焦げる。
「1、2の……3!」
虎杖がラプチャーの真上に着地を成功させる。
攻撃をしようとしても真上にいる彼に攻撃は出来ない。
虎杖は構えを取り、掌に血液を溜め凝縮させる。
「『百歛』」
「『穿血』!」
勢い良く射出された穿血は瞬く間にラプチャーのコアを撃ち抜いたのだった。
~~~
「戦闘終了。指揮官、お疲れ様でした」
「いや~本当凄いね指揮官様は。もう指揮官様だけでいいんじゃない?」
「……アニス」
「何よ。本当の事でしょ?」
戦闘を終えた虎杖にどこかトゲトゲしい態度を取るアニスと、それを咎めるラピ。
虎杖本人は彼女に何かをした覚えがないため、アニスが何故こんな態度なのかイマイチ理解出来ていなさそうな顔をした。
ネオンはというと……
「指揮官ッ! さっきの戦いを見てましたけどなんですかあの火力は!? しかもロード級を一撃で! どうやってやったのか教えてください!」
物凄い勢いで虎杖に詰め寄っていた。
目をキラキラと輝かせる彼女に、どうやってやったのか教えようとした虎杖だったが如何せん彼は説明があまり上手ではない。
ので、身振り手振りで教える事にした。
「さっきのはこう……掌で血液をギュッと溜めて、それを限界まで圧縮してギュイーン! って撃ち出すんだよ、分かる?」
「ギュッとやってギュイーン! ですか!?」
「そうそう! ギュッとやって! ギュイーン!」
ネオンと虎杖がじゃれ合ってるのをアニスとラピは黙って見ていた。
「あの、これから指揮官の事を師匠と呼んでもいいですか!?」
「よろしくな弟子1号!」
2人が意気投合し堅い握手を交わす中、シフティーの通信が入り。
『皆さん! 電力の遮断が完了しました! これで発電所へ行くことが出来ます!』
「終わったってよ、行こうぜ皆」
「ラジャー!」
「はい!」
「……はーい」
ラピとネオンが元気に返事する中、アニス1人はどこか暗い声で返事をした。
そこから歩く事10分。
虎杖たちカウンターズは発電所の中へ潜入する事に成功し、中を練り歩いていた。
しばらく歩いていると、コントロール室を掌握しているラプチャーを発見した。
「なあ、あいつら何を弄ってるんだ……?」
「機械……でしょうか。あそこはコントロール室です、そこの機械を操作するという事は……」
「……操作しているのね、この発電所を」
ラプチャーが人間の機械を弄る。
そんな事象はこれまでに存在しなかったと、シフティーは語る。
『こんなの、初めて見ました……』
「……指揮官。退却しましょう」
「え? でもあいつら見たところ数少ないぜ、それに機械に夢中だし一気にやれば楽勝だろ俺たちなら」
「そうは言いますが、私たちの任務はあくまでも『調査』。奪還は含まれていません。調査ならもう済みましたし帰還を──────」
ピュン。
ラピが話をしている途中、後ろから近づいてきたラプチャーのビームによって、ラピの頭部と肉体は分断された。
「……え?」
この間わずか2秒ほど。
虎杖はあまりの唐突な出来事にフリーズしてしまう。
「ら、ぴ?」
吹き飛ばされたラピの頭部は、偶然なのかそれともわざとなのか、じっと虎杖の顔を見つめていた。
──────── 「だから言ったのに」とでも言わんばかりに。
状況を理解した虎杖は、徐々に呼吸を荒げ。
「ハァッ、ハァッ」
もういないはずのあの声が、虎杖の頭の中に響く。
『だから言っただろう小僧』
『お前がいるから、人が死ぬんだ』
「オッ……オ゛エ゛エ゛ッ゛……!」
虎杖はショックでその場に膝をつき、胃の中にあった物を吐き出してしまう。
……彼の中にはもう両面宿儺はいない。それでも彼を嘲笑う宿儺の声が、今も虎杖悠仁を呪っていた。
「おれの……せいで……」
『そうだ小僧! あのマリアンとか言う女もラピという女も! 全部お前が殺したんだ! お前が! お前のせいで!』
「あ、あああ……!」
『──────小僧、お前は大人しく俺との戦いで死んでいれば良かったのだ』
虎杖は立ち上がれない。
そんな虎杖に怒りを露わにするニケが1人いた。
彼女は虎杖の胸倉をつかみ。
バシン! と彼の頬を全力で叩く。
「……あにす?」
「いい加減にしてよ! ラピがやられて、指揮官様までやられたらどうすんの!? 貴方が今すべき事は絶望する事じゃない! 生きて帰る事よ! ラピも死んでない、まだ生きてる! 頭部さえあればニケは復活できる! だから立ちなさいよ! ラピのためにも!」
罪悪感で周りが見えなくなっていた虎杖がアニスの一喝により活力を取り戻す。
「……そうだよな。今の俺は指揮官だ。なら絶望すべきじゃない」
虎杖はラピの頭部を持つと、ギュッと抱きしめ放さない様に力を入れる。
『退路ルート、確保しました! 今なら逃げられます!』
「行きましょう師匠! 時間は限られてます!」
「……ああ!」
そこからの記憶を虎杖悠仁はあまり覚えていない。
逃げるのに無我夢中で、ただひたすらに走り抜き、やっとの思いでカウンターズは発電所から逃げおおせる事に成功した。
~~~~~~
アークに帰還して1時間後。
彼はアンダーソンに呼び出されていた。
「君は追放処分とする」
「……」
追放処分を言い渡され、虎杖は黙ってそれを聞いている。
「何故追放されるか、分かっているかね?」
「……俺が、ラピを殺したから」
「違う。そこは大きな問題じゃない。君に命令したのは発電所の調査だ。破壊しろとは命じていない。にも拘わらず、君とニケたちは発電所のあらゆる箇所を破壊した。そのせいで保管されていた資材と施設は粉々となった。2か月分の食料も無駄になったんだ、このアークの住民を2か月食べさせるほどの食料をだぞ?」
「……」
「何か、言い訳はあるか?」
「……無い、です」
虎杖は全ての罪を自分のせいだと受け入れた。
自分がラピをあんな目に追いやったのだと。自分があの時間違えた判断をしなければ彼女はあんな事にはならなかったのだと。
アンダーソン自身も、彼の今にも死にそうな顔を見て情けをかけたのか、態度が少し軟化して。
「……君と君の分隊は本日を持ってアークを追放。君たちは「前哨基地」への移動が確定したよ。まあ安心したまえ、最低限の食料や設備は整っている。暮らすだけならそこまで苦労はしないはずだ」
「……ラピはどうなったんですか」
「彼女は現在修理中だ。終わり次第向かわせる」
「もう話は終わりだ、荷物を持ってアークから出ていきたまえ」
虎杖が部屋から出ると同時に、イングリッドが部屋へと入る。
「やあイングリッド。どうだった? 発電所での交戦データは」
「分析は完了した。それで結果だが……結論から言って圧倒的だ。発電所にいたラプチャーは既存のラプチャーとは強さの次元が違う。それを結果的に半分近く殲滅していた」
「それで脱出にまで成功したと……やはり彼らには……」
「間違いなく何かあるはずだ。あの虎杖悠仁だけではなく、ニケ達にもな」
「ご苦労、報告ありがとう」
「……所でアンダーソン、先ほど虎杖とすれ違ったが……大丈夫か? 今にも消えそうな顔だったぞ」
「私は中央政府の目から彼を避けるために前哨基地に飛ばすためにわざと追放したのだが……彼はどうにも、自分がニケを死の寸前に追い込んだ事にとても悲しみを覚えたらしい」
「身体能力だけでなく人格も変わっているのだな……ニケを消耗したことにそこまで責任を感じるとは」
「それほど彼の人格が優しさと思いやりに溢れているという事だろう。……これで思い詰めなければいいのだが」
アンダーソンは表面上は厳しく接したものの、虎杖の事を心の中では案じていた。
「それともう1つ。人間の機械をコントロールしたラプチャーの事だが進化している、と判断するのが妥当だ」
「目的はなんなんだろうな……」
「さあな……人類の抹殺か、それとも……」
「人類に成り代わるか、かもな」
~~~~~
アニスとネオン、虎杖は荷物を持って前哨基地の前まで来ていた。
「……ここどこ?」
「何って、前哨基地ですよアニス。師匠が発電所を壊しちゃったから、私たち左遷されちゃったんです」
「いやそれは分かるけど……ここで何をしろって……」
ネオンは銃を構えると、いきなり建物に向かって発砲する。
「見てくださいアニス! ここなら火力試し放題ですよ! 撃っても誰も気にも留めません! 私ちょっと試し撃ち行ってきます!」
「あっちょっと……!」
ネオンは1人向こうに走っていってしまった。
「あ……」
「……」
アニスと虎杖は2人きりになってしまった。
アニスは心の底で気まずいと思った。
緊急事態だったとはいえ、あの時彼の頬をぶってしまったからだ。
それだけじゃない。何度も彼に対して酷い事を言ってしまった。
これを機に謝ろう、そうアニスは決意した。
「あ、あのさ指揮官様……その……ごめんなさ……!」
「ごめん、アニス」
「……え?」
これまでの態度を彼女が謝ろうとした時、何故か頭を下げたのはアニスじゃなく虎杖だった。
「な、なんで指揮官様が謝るの……!? 謝るのは叩いた私の方なのに……!」
「俺が判断を間違えなければ、ラピはあの時首が飛ばずに済んだ。ネオンとアニスだって、あんな危険な目に遭う事もなかった」
「……」
彼の言葉をアニスは黙って聞き続ける。
「俺は自分が強くなったと思い込んでた、でも俺だけが強くてもダメだったんだ。皆で強くならなきゃって、そう思ったんだ」
「だから……こうなったのは全部俺の責任だ。本当に、ごめん」
アニスは虎杖悠仁と出会ってから、彼には驚かされる事ばかりだった。
力の話ではなく、人格の話である。
これまで出会った指揮官や人間は、自分たちに高圧的な態度を取ったり、上から見下したり、なんなら差別してきた者だっていた。
きっとこの男もそうなんだろう、彼を最初に見た時、そんな事を彼女は心の底で思っていた。
でもそれは違った。虎杖悠仁はニケを一貫して人として扱い、上から見下す事もなく人と接するかの様に接してきた。
ニケに責任を擦り付ける指揮官はいても、ニケに頭を下げる指揮官など、アニスが知る限りでは虎杖悠仁だけ。
この人は、信用してもいいのかもしれないと。アニスの心の中にも変化が起き始める。
「……指揮官様ってさ、本当にお人好しなんだね」
「でも、そんな指揮官様だからこそ、ラピやネオンは着いていくんだと思う」
「だから、これからもよろしくね。指揮官様」
アニスがすっと手を差し出す。
虎杖は何も言わず、その手の平を優しく握る。
「ああ……よろしく、アニス」
「それに、その……私も強く叩いちゃって……ごめん!」
「……? ああアレか! 俺も一気に目が覚めたし、あの時はむしろ助かったよ。ありがとうな」
「よーし! これで全部チャラ! 早く基地の中に入ろ、指揮官様!」
アニスが虎杖の手を引いて、基地の中へと2人で入っていく。
前哨基地の中には指揮官室があると言う。
虎杖たちはそこへ向かうと……
「うわソファとかがあるぜここ! しかもフッカフカ! アニスも座ってみようぜほら!」
「本当だ! すっごいフッカフカ!」
「しかもここシャワーまでありますよ! 私たちの宿舎にはないのに! 失望しましたよ師匠!」
「いや俺に失望されても困るんだけど……」
3人がぎゃーぎゃーと騒いでいると、覚えのあるニケが姿を現す。
それは修理が済んで復帰したラピだった。
「指揮官、ただいま復帰しました。2人にも、迷惑かけたわね……」
「「「ラピ!」」」
「……私、皆に言わなきゃいけない事があるの」
「「「え?」」」
場に緊張が走る。
一体言わなければならない事とはなんだろうかと。
虎杖は自分に何か言いたい事があるのだろうかと考えた。
アニスは発電所を破壊した事を咎めるのかと考えた。
ネオンは「実は私、火力が高まってリニューアルしました!」とか言ったりするのかな、と考えた。
3人が言いたい事が何か考える中、ラピが一言口を開く。
「貴方たち……」
(((来た!)))
「……臭いわ」
「「「……え?」」」
「「「え?」」」
「臭いって言ったの。皆ちゃんと風呂入ってる?」
予想外の答えが返ってきたため、アニスとネオンと虎杖は顔を一瞬合わせた次の瞬間。
「マジで!? 俺臭い!?」
「ラピ! 指揮官様はともかく私たち一応女子なんだけど!? 臭いとか言わないでくれる!?」
「私、シャワー浴びてきます!」
ネオンがシャワーへ行こうとしたその時、アニスと虎杖がネオンの肩をガシっと掴む。
「……2人とも。レディーファーストという言葉をご存じですか?」
「それを言ったら私だってレディよ!」
「ここの指揮官は俺なんだからシャワーだって最初に俺が浴びてもいいだろ!」
三者は自分が先にシャワーを浴びるのだと譲らない。譲る気もない。
「分かりました。ではじゃんけんで決めましょう。勝った人からシャワーに入るという事で」
「上等だよ!」
「やってやるわ!」
「「「じゃーんけーん!」」」
「俺シャワー最後かー……」
虎杖はじゃんけんで負け、ラピと2人で外でシャワーが開くまで待っていた。
「……指揮官、いいですか?」
「ん? どした?」
「この機会に、指揮官にもちゃんと話しておこうと思うんです。……いいですか指揮官。私たちニケは人間じゃなく人の姿をした兵器です。代わりなんて掃いて捨てるほどいる、そんな代用の効く存在なんです」
「うん」
「……なので、次この前の様な事が起きても、指揮官は気にしないでください。貴方が傷ついて、悲しくなるだけですから」
「……うん」
「指揮官には……私たちが何に視えてますか?」
「人間に見えるよ」
虎杖は躊躇いなくそう答える。
「……それに俺にとっては、気にするなって言われても気にするけどな」
「どういう事ですか?」
「俺はバカだから難しい事は言えんけど……今の記憶を持ったラピはこの世界に1人しかいないだろ。仮に新しくラピが作られても、その記憶を持ってないなら俺はラピの代わりになんてなれないと思う。俺たちの仲間のラピは、1人しかいないから」
「……指揮官は優し過ぎます。その思いやりも戦場では邪魔になる時が来るかもしれませんよ」
「そうかもしれん。でも俺はこの心は忘れたくないんだ。こう言った感情まで忘れたら、俺は本当に人間じゃなくなってしまう気がするから」
虎杖とラピの間に静寂が訪れる。
ニケの死を悲しんでも辛くなるだけだからそんな感情は無い方が良いと言うラピと、忘れたくないという虎杖。
2人の意見は合わずに衝突をしてしまっている。
やがてラピが折れたのか、はぁと溜め息をつくと。
「指揮官がそれでいいのなら構いません。ただ、指揮官が傷つけば悲しむニケもいるという事を、どうか忘れないでください。……長話をして申し訳ありませんでした。私は基地の内部に戻ります」
ラピはコツコツと足音を立てて基地の中へと戻っていった。
1人その場に残った虎杖は。
「……一体何が正解なんだろうな、先生」
会えなくなった仲間の名前を口に出しながら、何が正しいのかと考えていた。
翌日。
前哨基地に来てから1日が経過した。
虎杖自身も少しずつだが基地内の生活に慣れ、ここから心機一転頑張ろうと気合いを入れていた。
そんな時、ラピが虎杖の下を訪れる。
「指揮官、お客様が来賓です。至急来てください」
「客……?」
誰が来たのか、疑問を浮かべながらも着替えて下へ向かうのだった。
次のタイトルは幼女と逆罰にしようと思います。
あのキャラも出てくるのでお楽しみに!
ps. お気に入り登録が毎日増えててとても嬉しいです!感想も少しずつ増えてきてやる気全開なのでこれからも応援よろしくお願いします!