呪術の女神:NIKKE   作:ハロチャオ

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第7話 幼女と逆罰 -壱-

 前哨基地に来た次の日。

 客人が来ているとラピに言われて虎杖が指揮官室を出ると。

 

 そこには前髪の一部が紫がかった少女が1人、ニケを連れて立っていた。

 

「遅い。私を待たせるなんてどんな品性しているの?」

 

「……誰だ?」

 

 客が来る、というから虎杖はてっきりアンダーソンが来たのかと思っていたが、その少女と虎杖は一切面識がない。

 

 虎杖が誰か尋ねると、少女は急に鼻で虎杖を笑い出し、見下した様な態度を取る。

 

「私の名前を知らないなんてどこの猿なのかしら? 見たところ頭も悪そう、こんな人間でも指揮官になれるなんてアークはよっぽど人材不足なのね」

 

 少女はひたすらに虎杖の事を頭が悪い猿を見るかの様に話す。

 しかし虎杖自身は何故彼女が自分に当たりが強いのか理解していない。

 

 少女ははぁ……とため息をつくと。

 

「おい、そこの白い鉄屑」

 

「え? 私ですか?」

 

「お前以外誰がいるって言うの? この猿頭に私が誰か教えてやって」

 

 少女が見下すのは虎杖に留まらず、その対象はネオンにまで及ぶ。

 鉄屑という発言に対し、ラピとアニス、虎杖は静かに不快感を露わにする。

 ネオン自身は鉄屑と言われた事を気にも留めず、少女が誰なのかを虎杖に説明し始める。

 

「師匠。このお方はニケ制作を担う3大企業の1つ、ミシリスインダストリーのCEOを務めるシュエン様です」

「へー……CEO、って事は社長って事か」

 

「馬鹿でも最低限の脳みそはあるみたいね。それで、何をすべきか分かるわよね? 虎杖悠仁?」

 

「……いや、分からんけど。俺エスパーじゃないし」

「……は?」

 

 先ほどまで虎杖を見下し嘲笑っていたシュエンの表情が次第に怒りへと変わっていく。

 それを見たアニスはバレない様にひっそりと笑っていた。

 

「……ユニ、そこの無能な指揮官を跪かせて」

「は~い!」

 

 シュエンの後ろに隠れていたユニというニケが姿を現す。

 ユニは虎杖の目の前へ行くと、手を光らせる。

 

 すると虎杖の体に突如として正体不明の電撃が流れ、何も警戒していなかった虎杖は膝をついてしまう。

 

「がっ……!?」

 

 地に這いつくばる形になってしまった虎杖の頭に、シュエンが足をあげて乗せる。

 彼女はグリグリ、グリグリと虎杖の頭を執拗に踏みつける。

 

「ちょっとアンタ……!」

「……!」

「何してるんですか!?」

 

 シュエンのまともな人間とは思えない行動にニケ達が徐々に憤りを表層に出していく。

 

「何って……私に失礼な態度を取ったこいつにお仕置きしてるだけよ。おい、お前。次から私に会ったら即座にこのポーズをする事。分かった?」

 

「……おい。その足どけろよ。人の頭踏んだらいけませんって親から教わんなかったのか」

 

「へえ、言うじゃない。新人指揮官のくせに」

 そう言ってシュエンは虎杖の頭から足を離すと。

 

「私のッ!」

 

「言う事がッ!」

 

「訊けない訳ェッ!?」

 

 虎杖の腹をゲシゲシと蹴り続ける。

 ニケ達もしびれを切らし、ついにシュエンに銃口を向ける。

 

「何? 鉄屑共が私に歯向かう訳?」

 

「……指揮官への暴行をやめろ。さもなくば……」

 

「3大企業のCEOだからって、なんでも許されるかと思ったら大間違いよ!」

 

「私に逆らうの? バカな指揮官にはバカなニケが付くのね。ミハラ」

 もう1人付き添いで来ていた長身のニケが現れる。

 

「やりなさい」

「はぁい」

 

 シュエンがミハラに命令すると、ミハラの体から青い波長が流れ出す。

 そしてシュエンはミハラの腹部に拳銃を当て……

 バァン! と銃声が鳴ると同時に、ニケ達が腹を抱えて倒れる。

 

「……!」

 

「いっだい……! 何よこれ!?」

 

「何を、したんですか……!」

 

「ふふ、知りたい? 私の感覚と貴女たちの感覚を交換したの。本来私が味わうはずだった痛みを貴女たちに負わせたという事ね」

 

 

 ラピたちが地に伏せる様を見て、シュエンはひたすら上から嘲笑い続ける。

 惨めな者を上から嘲笑い、虐げる。

 その行為は虎杖悠仁の怒りを買い、自分だけでなく仲間を傷つけ侮辱する。

 シュエンはこの短期間で、何度も虎杖の逆鱗に触れていた。

 

 

「……おい。謝れよ」

 

「は? 何?」

 

「ラピに……アニスに、ネオンに。謝れって言ってんだよ」

「……はぁ? 鉄屑に謝れって? お前正気?」

 

 虎杖は拳をギリリと握り締め、立ち上がってシュエンの方へと歩き出す。

 

「……ミハラ、あいつと感覚を交換して」

 

「いいの? あれは人間よ?」

 

「いいから早くして! この私に逆らった事を生涯後悔させてやる……!」

 

「……分かったわ」

 

 シュエンは再度ミハラの腹部に拳銃を当てる。

 そして虎杖の方を向いて。

 

「お前、撃たれた事ないでしょ? その痛みを教えてあげる」

 

 パンパン、パン! 

 

 一気に3発の弾丸をミハラの腹部に撃ち込む。

 

 シュエンはこう考えた。銃弾で撃てばこいつも私に従う様になるだろうと。

 恐怖でこいつを支配して、ゆくゆくは奴隷の様に死ぬまで使ってやると。

 

 

 ──────しかし現実はそうならなかった。

 

 虎杖悠仁とミハラは感覚を交換している。

 にも拘わらず、虎杖の足は止まらない。痛む素振りさえも見せない。

 

 

「なっ……!」

 

 シュエンはおかしいと考えた。銃弾を撃たれる痛みを味わっているのに、何故この男は倒れないんだと。

 シュエンは知らない。虎杖悠仁がこれまでどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのかを。

 

 銃弾数発では比べものにならないほどの痛みと絶望を味わってきた事を。

 シュエンは恐怖した。

 この男、虎杖悠仁は人間ではないと。

 

 しかしそんな怯える彼女に、彼は1歩、また1歩と接近する。

 

「来るな……!」

 

 シュエンも負けじとミハラを撃つ。

 それでも虎杖は止まらない。

 

「来ないでって言ってるでしょ!」

 

 シュエンは虎杖が止まるまで何度でもミハラを撃った。

 それでも虎杖悠仁の歩みは止まらない。

 

 やがて2人の距離がほとんど無くなると、虎杖はシュエンの前に聳え立ち、ただ一言。

 

 

「謝ってくれ」

 

 

 そう告げる虎杖の彼女を見る目はまるで1匹の狼そのもの。

 蛇に睨まれた蛙という言葉がこれ以上に当てはまる事もそうないだろうと、ミハラはシュエンを見て思った。

 

「ラピとアニス、ネオンに謝れ。そうすれば俺はお前を許してやる」

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 先ほどまでのシュエンならこんな事を言われても上から目線で虎杖を嘲笑っていた。

 しかし今のシュエンは虎杖に対して心の底から生命の危機を感じている。

 

 この男をこれ以上怒らせれば何をされるか分かったものじゃない。

 そう判断したシュエンは、不本意ながらも自分の命のために。

 

「ごっ……ごめん、なさい……! もう変な事はしないので、許してください……っ!」

 

 ぽろぽろと、シュエンの眼から涙が流れる。

 

 それは反省からなのか、それとも虎杖に対する恐怖なのか。

 いずれにせよシュエンが心の底から謝罪をした事に違いはない。

 そう判断した虎杖は、徐々に険しい態度を緩めていき。

 

「俺にしたことは別に許すけど、今度からラピ達の事を鉄クズとか言うなよ。皆精一杯、人間のために頑張ってんだから」

 

「は、はひっ……! すみません、でしたぁ……!」

 

 そう言い残してシュエンは息を切らしながら、全速力で前哨基地から去っていった。

 

「……ごめん、皆。俺ちょっとキレ過ぎてたかもしれん」

 

 落ち着きを取り戻した虎杖がシュンと落ち込む。

 そんな虎杖を励ますかの様に、アニスとネオンがフォローを入れる。

 

「怒ってたのは指揮官様だけじゃないし、気にしなくていいよ。私たちもあのシュエンってやつ凄いイラっと来たし」

 

「そうですよ! 私なんて鉄くず呼ばわりされましたし!」

 

 

「美しい仲間の絆ね。……そろそろ本題に入ってもいいかしら?」

 シュエンが置き去りにしていったニケのうちの1人、ミハラが話を切り出す。

 

「本題って……何の?」

 

「私たちはシュエンに命じられて貴方たちの部隊と一緒に地上に上がってラプチャーを捕獲して来いと命じられたわ」

 

「ラプチャーの捕獲……ですか?」

 そう聞くネオンに、もう1人のニケであるユニが言葉を返す。

 

「そうだよ~? なんでも言葉を喋るラプチャーがいるんだって~。シュエンはそれを捕まえてほしいって言ってたんだー」

 

 

「そのラプチャーの名前は『トーカティブ』。言葉を喋るという事以外全てが謎のラプチャーよ」

 

 

 ミハラ曰く、シュエンはそれを命令するために今回前哨基地にまで来たという。

 しかし彼女が突然虎杖やニケ達に暴言や暴力を振るい始めたため、それを伝える事がないままシュエンは行ってしまった。

 変な人を上司に持つと苦労するわ、とミハラが呟くと。

 

「でもそんな任務、なんでうちの指揮官様にやらせる訳? もっと優秀な人がいるでしょうに」

 

「ええそうね。おそらくそこの彼よりも優秀な指揮官はアークにも多く存在するでしょう。……でもその指揮官たちと虎杖悠仁じゃある1点に決定的な差がある。何か分かる?」

 

「……ラプチャーを生身で倒せること?」

 

「ええ、そうよラピ。そこの指揮官……虎杖悠仁はこの短期間の間にブラックスミス討伐を筆頭に、多くのラプチャーと交戦してそれを全て撃破している。既にニケの間でも貴方は話題になっているわよ、『指揮官なのにニケを自分と同じ人間扱いする』とか『指揮官の皮を被ったニケなんじゃないか』とかね」

 

「へー、俺ってもしかして有名人?」

 

 虎杖が嬉しそうに鼻の下をこする。

 

 実際、普通の人間がラプチャーを倒せる確率など0.1%にも満たない。

 そういう意味でも、虎杖の存在はこのアークにとっては異常そのもの。

 だからアンダーソンは彼を誰の干渉も届かないこの前哨基地に送ったのだ。

 

「そんな貴方だからこそシュエンが目を付けたの。こいつを上手く利用すれば私も成果を上げられるってね。まあ最も、貴方の人柄を見るに最初から素直に頼むべきだった。……改めて、虎杖悠仁とその部下カウンターズには、これから私たちと一緒に地上へ行ってもらうわ。お互い、仲良くしましょうね」

 

「私ユニ! よろしくね指揮官!」

「応!」

 ユニがぎゅうっ、と力強く虎杖の手を握る。

 

 ……こうしてユニ、ミハラを加えたカウンターズは、謎のラプチャー『トーカティブ』の捕獲作戦に挑むのだった。

 




祝・日刊ランキング6位!
皆さん本当にありがとうございます!この短い期間でここまで皆さんに見てもらえるとは思ってませんでした!これも全て評価を入れたりお気に入り登録をしてくださった皆さんのおかげです!本当にありがとうございます!
今後も頑張って執筆していきます!
ps. 出来たら夜にもう1話書きます
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