突如としてカウンターズを襲った謎のラプチャー、トーカティブ。
ミハラやユニがあっさりと薙ぎ倒される中、虎杖悠仁の渾身の黒閃がトーカティブに炸裂した。
トーカティブは激しい怒りを露わにし、虎杖に向かって暴を振るうために構えを取る。
『お前の腕と足をミンチにして連れて帰ってやる……!』
「やってみろよお喋り野郎。腕ごとへし折ってやる」
しかしトーカティブは虎杖に限ってだけは命を奪うつもりが無い様にラピは見えていた。
(どういう事……? あのラプチャーは指揮官を生かして連れて行こうとしている……?)
「ラピ、あいつ……!」
「分かってるわアニス。あれは確実に指揮官を狙っている」
「師匠を連れていく事であのラプチャーにメリットがあるのでしょうか……?」
一体虎杖を連れていく事に何の狙いがあるのかと3人は考える。
その時、ネオンは脳内でさっきトーカティブが話していた言葉を思い出した。
『クイーンはお前を待っている』
クイーン。
それはラプチャー達の一番上にいるとされている存在。
そんな存在が虎杖を待っている? 何故?
やがて考えても埒が明かないとばかりに、ラピが話を切り出す。
「……とにかく今私たちがやる事は指揮官を援護する事よ。この事は後で考えましょう」
「そう、ですよね……」
「ラピ、ネオン! 見て! 指揮官様が!」
「「ッ!?」」
アニスが大声を出しながら虎杖の方を指差すと。
『グハハハハッ! やはり力勝負じゃこちらのが多少上の様だな!』
「クソ……! なんつう馬鹿力だこいつ……!」
トーカティブと虎杖が組み合うも、トーカティブの剛腕には流石の虎杖でも多少圧され気味になってしまう。
はっきり言ってしまえば拮抗している時点で虎杖も恐ろしいほどの腕力だが、あと少しの力が足りない。
「『赤鱗躍動・載』!」
虎杖が叫ぶと、彼の顔にズズズ……と模様が浮かび出す。
赤鱗躍動。
それは赤血操術の内の技の1つであり、自身の体内の血液を操作する事で一時的に身体能力を爆発的に向上させる術。
その中でも載は最大出力を出す事が出来、かつて渋谷事変で虎杖と戦っていた時に脹相が使用していた。
赤鱗躍動を使った事により、ただでさえ常人と思えない虎杖の身体能力はかつてないほど高まっている。
拮抗していた彼らの状況は次第に虎杖の側に好転し始め、トーカティブの剛腕はグググ……と捩じ曲げられていく。
『人間……! お前、どうなって……!』
「別にそこまで何かした訳でもねえよ。俺とお前の力の差が逆転しただけだ」
『お前の様な人間如きに……! 食らえッ!』
「させない!」
トーカティブが反撃しようとミサイルを発射しようとするも、ラピたちの射撃に阻まれ、撃つはずだったミサイルが暴発。
ミサイルを破壊された余波でトーカティブ自身もダメージを負ってしまい、2秒近くの間、虎杖を掴んでいた力がゆるんだ。
その隙を突いて虎杖に腕を振り払われ、彼の拳がコアに直撃する。
『……ッ!』
「散々人の仲間を痛めつけたんだ」
「覚悟くらい出来てるよな」
ピキッ。
そんな音がしながらコアに多少のひびが入る。
攻撃を受けたトーカティブはしばらくの間沈黙し、動きが停止した。
それを見てニケ達が虎杖に駆け寄る。
「指揮官様! 大丈夫だった!?」
「あー、ちょっと腕痛いけど平気。多分」
「……あのラプチャーは指揮官だけは殺さず連れていく姿勢を見せていました。指揮官はあれと前に会った事があるんですか?」
「無い。俺も初めて見たよあんな奴」
「そうですか……」
虎杖はラピにそう聞かれても、きっぱりと面識はないと返した。
むしろ虎杖自身も何故自分を狙うのか聞きたいくらいである。
「まあ何はともあれ、後はこのまま捕獲すれば作戦完了ですね!」
「そうね……本当に疲れたわ……帰って炭酸水が飲みたい」
「……アニス、ネオン。気を抜かないで。まだ倒したと決まった訳じゃ──────」
ラピがそう言った途端、ビュン! と飛んできた尻尾にネオンが吹き飛ばされる。
「「「ネオン!」」」
ネオンは10m近く吹き飛ばされ、建物の壁を突き破っていた。
そんな、まさか。嘘だ。
そう言った考えが彼女たちの脳裏に浮かぶ。
トーカティブはまだ死んでいなかった。
動きを停止してやられたフリをして、ひたすら反撃する機会を伺っていたのだ。
『人間……そして人間モドキ。確かにお前たちは今の俺より強いのだろう。だがそれも多対一ならの話だ』
「何を言ってんだかさっぱり分かんねえよ。お前はたった今俺たちに負けただろ」
『そうだ、そこは素直に認めてやる。だが、こちらにも考えがある』
トーカティブが咆哮をあげる。すると次第に、近くから地面を何かが移動する音が聞こえてくる。
それもあらゆる方向から。
「何……!? 何が起こってんのよ……!?」
「これはまさか……! 指揮官! 今すぐネオンやワードレスたちを連れて撤退を! ──────ラプチャーたちが来ます!」
ラピの言った事は確実に当たっていた。いや、当たってしまったと言うべきか。
100体近くのラプチャーたちがトーカティブの呼び声で集まり、カウンターズを全ての方角から囲っていた。
『これでお前たちは終わりだ……! 人間、お前も人間モドキも一緒にスクラップにしてやる』
「指揮官。この状況で戦うのはどう考えても無謀です。ですが命令をするのはあくまで指揮官です。……最良の判断をお願いします」
「最良の判断って言うけど……仮に逃げるとしても逃げられるの? これ」
アニスが半ば諦めた様な声でラピに反応する。
ラピ自身も逃げ切れるとは思っていない。しかし、ここで全て相手するよりも生き残る確率は高いと判断してのものだった。
虎杖はひたすらに何が最善の選択か考えていた。
仮にここから出し惜しみせずに虎杖自身がトーカティブと戦えば、勝てる確率はある。
しかし彼の後ろにはラピやアニス、そして傷を負ったネオンやミハラとユニがいる。
また発電所の時の様に選択を間違えて仲間を危険に晒したくない。
考えに考え抜いて虎杖の答えは決まった。
「ラピ! アニス! ネオンを連れて逃げてくれ! 俺はミハラとユニを連れていく!」
「「了解!」」
ラピとアニスは吹き飛ばされたネオンの元に向かう。
逃げると判断したはいいものの、問題はどうやってこの
ラピ達が逃げる時間を稼がなければならない以上、誰かがこれをなんとかしなければいけない。
それがこの中で出来るとすれば自分しかいない。
虎杖は覚悟を決め、静かに拳を握ってトーカティブと再度向き合う。
『この俺から逃げられると思っているのか? 面白い冗句だな』
「逃げられるかどうかじゃねえ……俺があいつらを逃がすんだよ」
「……人間にしては覚悟が決まっているな、良く言った。後は任せろ」
どこかから虎杖へ声がかかる。
虎杖が声のした方を向くと、そこにはライフルを持った1人の少女が立っていた。
白い髪に大きいゴーグル。周りには装備と思わしきものが多く置かれている。
「この場は助けてやる。早くここから去れ」
彼女は一体誰なのか。
虎杖は彼女に関して気にする事をやめ、彼女の忠告通りにワードレスの2人を腕で抱え込む。
走り出す前に虎杖が彼女に一言。
「ありがとう! 俺、この事は絶対忘れないから!」
「礼はいい。早く行け」
虎杖はミハラとユニを抱え、ネオンを抱えたアニス、ラピと一緒に全力疾走。
ラプチャー達に追撃を受けつつもなんとか振り切る事に成功した。
『貴様……さては巡礼者だな!?』
「黙れ。私に話しかけるな異端が」
彼女の所持していた対艦ライフルが”異端”の頭上目掛けて火を噴いた。
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ラプチャー達から逃げ切り、今は使われていない建物に入った6人。
なんとか全員生きてはいるものの、ユニとミハラはボロボロ。ネオンも叩きつけられた時に背中を負傷。
なんとか動けるメンバーは虎杖、ラピ、アニスの3人だけだった。
誰も話さない空気の中、虎杖が先ほどの少女について切り出す。
「あいつニケなのかな……」
「見るからにごつい武装してたものね……只者じゃないわよあれ」
アニスと虎杖が話している途中、ラピが突然立ち上がる。
「指揮官。シフティーとの連絡が取れました。シフティーが指揮官と話したいそうです」
「俺と?」
虎杖が立ち上がってラピと通信を交代する。
シフティーはとても怒った顔で虎杖たちを見ていた。
『一体どういう事ですか!? 許可なく地上に行くなんて……! 虎杖さん、軍法会議にかけられますよ!?』
「ちょっと待ってくれシフティー、これには深い訳が……」
『勝手に独断専行する事に何の深い訳があるって言うんですか!?』
シフティーはどこか錯乱して取り乱している。
状況が状況なのだから無理もない。
「頼む! 本当にこれには理由があるんだよ!」
虎杖はこれまで何があったのかを全て包み隠さずシフティーに伝えた。
シュエンが勝手に乗り込んで自分たちを傷つけてきた事。
シュエンの命令で地上へ行った事。
撤退すれば事実無根の情報をばら撒くと脅された事。
しばらくしてシフティーは冷静になり、状況も理解してもらう事が出来た。
『……一旦、今回の事はアンダーソン副司令官に報告します。それと皆さんの近くにある滑走路に輸送機を手配しておくので、それを使って帰還してください。帰ってきたらもう一度話を聞きますから』
シフティーとの通信がピッと切れる。
「……ユニたち、どうなるの?」
「分からないわ。作戦が失敗した以上、間違いなくシュエンは私たちを許さない。最悪、処分されちゃうかもね」
そっけなくユニに言葉を返すミハラ。
それを聞いたユニは駄々をこねる子供の様に喚き出す。
「やだやだやだ! ユニはミハラと別れたくない……! ねえ指揮官、ユニたちを助けて! こんな最後やだよ!」
「……分かった」
「指揮官はどこまでも人が良いのね。それでどうやって私たちを助けるというのかしら?」
「分からん。でも……俺に出来る事は、精一杯やりたい」
「……そう。変な事を聞いて悪かったわね。今日の所はもう寝ましょう」
ミハラは疲れ切っていたのかそのまますぐに眠ってしまった。
翌日。
シフティーの言っていた滑走路に虎杖たちが到着。
アークからの輸送機が来るまで残り10分。それまで待ち続けていると。
「わぁ~……! 師匠! ラピにアニスも見てください! 砂嵐なんて初めて見ました!」
「こんな所でも砂嵐って起きるの?」
「……違う。アレは砂嵐じゃない、アレは──────」
「「「「「「ラプチャー……!」」」」」」
大きい砂埃を立てながら、ラプチャーの群れがこちら側へ向かってきている。
数は少なくとも300以上。
輸送機が来るまでの10分間、時間を稼がなければならない。
虎杖は現実に目を向けて決意を固め、ニケ達の方を振り向いて。
「……ラピ、アニス、ネオン。それとユニとミハラ。悪いんだけど一緒に戦ってくれ。頼む」
そう言ってニケ達に頭を下げる。
彼女たちが一斉に顔を合わせてうん、と頷き合うと。
「指揮官の命令に私たちは従います。何があっても」
「これまでだって何度もこんな事はあったし……これまでだって一緒に戦ってきたんだから、今更一緒に戦ってほしいなんて水臭いよ指揮官様。行こ」
「そうですよ、私たち仲間なんですから! 一緒に戦うなんて当たり前じゃないですか!」
カウンターズの3人は喜んで彼と戦う事を決めた。
きっとこれも虎杖が彼女たちとの間に積み上げてきた信頼なんだろう。
彼らの会話をそう考えているミハラだった。
「皆……ありがとう!」
「指揮官、私たちも戦うわ。どのみちこのままじゃ皆共倒れだもの。ねえ、ユニ?」
「うん! ユニもミハラと一緒に頑張る! ラプチャーを倒す!」
こうして6人とも、目の前の敵と戦う覚悟を完了させる。
「じゃあ行くぞ……」
「「「「「「エンカウンター!」」」」」」
……戦闘開始から10分後。
虎杖たちは何度も何度もラプチャーを撃ち殺していた。
それでもラプチャーの数は一向に減らず、着実に彼らの体力は疲弊している。
ネオンやワードレスの2人に至っては昨日受けた傷がまだ完治していない。
残りの3人も昨日からあまり眠れていないため、全員心身共に酷い状態だった。
「倒しても倒してもキリがありません!」
「これじゃ私たちの方が先に倒れるわよ……!」
アニスとネオンが銃を撃ちながら愚痴を吐く。
「輸送機はまだ来ないのかしら……このままじゃ本当にここでお陀仏よ」
「ユニたち死んじゃうよぉ!」
「……来た!」
ラピの声と同時に上を見ると、アークからの輸送機が空を飛んでいた。
それを見るやいなや、ラプチャーたちが急に攻撃を止め、輸送機の方に照準を定める。
「あいつら……あれを撃ち落とす気か!?」
「くっ……!」
対空火器を所持したラプチャーが輸送機を撃ち抜こうとしたその時。
輸送機から一筋の閃光が放たれ、ラプチャーごと撃ち抜く。
「超長距離の射撃……!?」
「あの輸送機そんな装備持ってたの!?」
「……なんとか助かりそうね」
ミハラがぽつりと呟く。
他のメンバーもこれで助かると安心し始める中、ラピだけは輸送機をずっと凝視しながら。
「いや、違う……あんな事を出来るのは1人しかいない……! 『アブソルート』が来るッ!」
その直後、凄いスピードで接近してきていた輸送機が頭上で止まり、鈍い音と共に濃い砂埃が舞い、中から3人のニケが現れた。
「……アブソルート、降下完了」
「し、死ぬかと、思った……」
「わぁ~! ラプチャーがいっぱい~!」
「敵機、153機を確認。フォーメーションFF」
「エンカウンター」
アブソルート。
彼らを助けるために駆けつけたのはアーク最強の部隊だった。
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