【TS】悪役令嬢転生魔王【あべこべ】 作:とんべえ
私は魔王である。
爆殺!
「治癒!」
繰り返すが私は魔王である。
したがって、人間を殺すことに抵抗など感じないのだ。
爆炎殺!
「祝福!」
「「「おぉっ!」」」
魔王故に破壊に至る魔法など息をするよりたやすい。
無限の魔力を持ち、あらゆる魔獣を使役し、多くの魔族を配下にし、世界を蹂躙する――その筈だった。
ある時から魔王軍は劣勢に転じた。敗北を続けるようになったのだ。人間どもは金属の塊を高速で打ち出す武具を作り出した。いや違う。それらを作り出せる人間を召喚することに成功したのだった。片手で持てる物から両手を使う物、はたまた荷馬車に取り付ける大型の物も使い始めた。
後は惨めなものだった。それらの武具に限りはなく、一般人でも使える事から、人間どもは一大勢力に成りあがった。勢いに乗った人間どもに魔王軍は成す術もなく、私もまたその武具で死んだ。
だが魔王とは魔法と表裏一体。魔法があるところ魔王は必ず存在するのだ。必ず復活し恐怖と破壊をまき散らす。
ところが、困ったことが起きた。復活先が人間だったのだ。
「素晴らしい! さすがセレスティア=バルカ様ですな!」
加えるなら女になっていた。十六歳だ。
「まだ若くお美しいのにさすがバルカ伯のご令嬢です!」
褒め称えらえること自体は構わんのだが、人間のまなざしがうざい。うざったい。この場にいる全員をぶち殺してやる。集え魔力よ。我が刃となり全てを爆砕せよ。爆砕煉刃!
「聖なる慈しみの風!」
この周囲の魔力の流れを見るに、全員に治癒つまりヒールが掛かっている。人間たちの姿を見ろよ。若い学生の奴らはもちろん、仕事で疲弊していた大人の連中が、息を吹き返したように働き始めた。何故か知らないが黒魔法が白魔法に変換されるのだ。
「これで我が国も安泰ですな。お父上もさぞお喜びでしょう」
「いえ。私などまだまだ未熟。さらなる修練を積み重ねば」
もちろん修練などする気はないし、父親なんざ知った事ではない。何故だか生じる真意に反する謙虚な態度、いや、実はわかっている。原因は。
“ユニークスキルあべこべ”
転生の際にそれらを取り仕切るウィンディーネが一計を案じたらしい。
今を去ること十六年前、勇者一行に文字通り撃たれた私は、転生の間に飛ばされた。この時初めて知ったのだが、人間という生き物は非業の死や予定外の死を迎えると、ここで審査を受けて新たな人生を歩み始める。この時何らかの能力を得るのだそうだ。選択権はケースバイケースで、私の場合は無かった。
まったく苛立たしい。ただでさえ人間と同列に扱われるのが屈辱だというのに。ただ同時にこの魔王に与える能力とは何か興味がわいた。
《魔王よ。いくら貴方でも魂だけの存在となれば自由は効かないでしょう。その質に合致する転生先があります。そこで知るのです。魔族以外の存在を》
結果は御覧の通りだ。かつての魔力量を誇ろうともセレスティア=バルカとしての日々を余儀なくされている。
「これにて進級試験を終了します!」
晴れて二年生と言う訳だが、いったい何年続くのだろうか、この生活は。堅苦しくてかなわない。そんなことを考えていると、遠縁の生徒が一人やってきた。もちろんセレスティア=バルカのという意味だ。
「セレスティア様、お聞きになりましたか? 今年の新入生に一般人がいるそうです」
ほーん。右を向いても左を向いても、貴族の嫡男嫡子がごろごろしているこの魔法学園に、一般人上りが、ね。相当腕が立つのだろうか。
「セレスティア様はお気に触らないのですか? たかが一般人がですよ?」
その一般人がどうのより、この小娘がうざったい。情報はありがたいし、首尾よく追い出してやろうという意図が透けて見えのは百歩譲るが、この私を出しにしようなど許しがたい。絞めておくか。
「新入生ということは正規の手順で入学したということでしょう? お気をつけなさいな。学園執行部批判と問われかねませんわよ」
「あ、いえ、私はそう言う訳では」
「次から気を付けなさい」
「は、はい。ありがとうございますぅぅぅぅ~」
絞めるとは文字通り苦しみを与えるということだったのだが、なぜか注意でおわった。目を回しかねない程に動揺した女生徒の後姿を見送る。
“ユニークスキルあべこべ”
憎い。このスキルが憎い。おのれ。
◆
カツコツと靴音を鳴らしながら次の授業の教室に向かえば、ヒソヒソと遠巻きのささやき合いが聞こえる。
『音に聞こえし完璧主義者と聞いていたのに肩透かしだわ。どういうことかしら』
『気に入らないメイドを片っ端からいびりにいびり追い出していったとも、随分柔和な方ですわね。噂などあてになりません』
『どうもここ一年以内の話らしいです』
『それってどういうこと?』
『入学前後で随分と落ち着かれたとか』
『それ聞きましたわ。突然気を失って数日間寝たきりというか意識がなかったとか』
だいたい合っている。違うところと言えば落ち着いたのではなく、魔王である私が自分を思い出しただけだ。スキルと共に。
その時にセレスティア=バルカの経緯も知ることになった。元々は動植物が好きなおとなしい奴だったが、淑女教育の一環ですべてを強要されるようになった。その結果、華やかな外見とは裏腹に、極悪非道の中身を持つ人物となった。この私が評価するほどである。
おそらくは、この要素を共通点にしてウィンディーネは魔王たる私をこの娘に転生させたのであろう。
「あの、」
見かけない娘が立っていた。学生服を着こなしていない、場所になじんでいない、暫く考えて新入生だとあたりが付いた。
「マオ=ユイミーと言います。魔法の実習場はどう行ったらいいのでしょうか」
「ここからだと反対側ですわよ」
「え、えええっ!?」
「お急ぎなさい。遅刻は減点されますわ」
「は、はいっ! このご恩は忘れません。それでは!」
騒がしい奴だったな、とまで考えて今のが噂の才女だと気が付いた。一般人でありながら類まれな才能を持ち、入学試験において学園史上最高得点をたたき出したエース……あまりそうは見えんな。
だが運命とは分からないもので、随分と長い付き合いになるとは、この時の私には思いもよらなかった。