【TS】悪役令嬢転生魔王【あべこべ】 作:とんべえ
魔王にとって本来人間とは、他の種族ドワーフやエルフと同じだった。同じ様にいびってきたし、なじってきた。ところが、根っこがいい加減のせいか順応性が高くすぐ増える。数が多ければ勇者として選定される可能性も高くなるのだから、いつの間にか、魔王対人間の構図があたりまえとなった。
この魔法学園のみだけでも人間は三百は下るまい。あの面構えを見るだけで勇者たちとの戦いが思い出される。うざい。実に鬱陶しい。
(なるほど。こうやって魔法を発動させていましたのね。ならばこう書き換えれば効果が変わるはず)
魔法の授業もすでに二年目だ。見様見真似の一年生は完全に済ませ、応用の領域に入っている。セレスティア=バルカという娘は、自分の事でもあるのだが、魔法の素養が高くオリジナル呪文に取り組むほどの段階に達しているのだ。魔王である私の依り代ならば驚くには値しないが、人間の魔法使いはこういう風に魔法力を使っていたのかと驚いた。
砂塵でも吹き付ければ息ができない。つまり呪文が唱えられない。ならば人間どもの戦力はがた落ちだ。次回はこの作戦でいこうと考え、自己嫌悪に陥った。人間と同じことをして勝っても、何のための勝利だろうか。
「~~♪」
目論見通り私は魔法の効果を書き換える事が出来た。“ユニークスキルあべこべ”で、ハミングぐらい歌うか。くそう。
「ミス セレスティア=バルカ、それは三年生のカリキュラムです。才覚は認めますが、二年の授業内容に集中してください」
担当の講師に叱られた。こういう時はすまし顔で誤魔化すのみだ。
◆
時々だが、スキルが動かない時がある。先ほどの愛想笑いもその一つだ。とるに足らない事柄であるとするならば理解はできるが、外すことができる何らかの方法があるのだろうか。そんな事を考えていると、すすり泣く声がどこからか聞こえてきた。はて、どこかで聞いた声だ。
右へ曲がり、前に進み、今度は左に曲がる。人の気配が少ない校舎裏に至った。そうしたら、あのマオ=ユイミーがベンチに腰かけていた。一年主席の才女である。どういう事だろう。複数の女生徒に囲まれていた。お世辞にも友好的な雰囲気ではなかった。
「今日はいい天気ですわね。ピクニック日和ですわ」
めんどくせぇ、ったらめんどくせぇ。やっぱり声をかけるか、私は。“ユニークスキルあべこべ”がビリビリしやがる。
「ですので傘は持ち合わせておりませんの。宜しければ相談に乗りますわよ」
三人組の一人が薄っぺらい笑みを浮かべていた。
「いえいえ、バルカ伯ご令嬢のお手を煩わせる事ではありませんから」
「あら、そうかしら。一対一ならまだしも、一人に対し三人がかりというのはいただけません」
取り巻きだろう一人は強気の態度だ。
「ご令嬢に関わり合いのない事です」
「端で見ていて不愉快だと言えばご理解いただけるかしら? 貴賤を弁えるならば正々堂々とすべきですわ。せめて決闘をと、くらい言いなさいな」
そして最後の一人だ。驚いたことに私は睨みつけていたのだった。ギュルリと邪眼が動いた。実に久しぶりな感覚だった。
「ひっ!」
「……行こう。バルカ家は面倒」
三人を見送る。実は“ユニークスキルあべこべ”が解かれたのかと淡い期待をしたのだが、やはり淡かった。そうすれば呪いの一つや二つをかけて自害に持っていくのも容易なのに。ため息がでた。
そしてトスとマオ=ユイミーの隣に腰掛けた。ちょうと一人分の隙間が空く距離だ。大粒の涙を浮かべていたことが良く分かった。まさに泣きじゃくるという表現が適切だろう。
「いつまで泣いていますの。日が暮れてしまいますわ」
「両親が、わたしのお父さんとお母さんたちが、必死に働いてお金をためて、なのに一般人の癖にって」
どうも、一般人いびりの矛先がマオ=ユイミー本人から、親族にも向いた事が許せなかったらしい。なるほどね。娘の魔法適性を見抜き、安くはない授業料をひねり出しているならば、相応の見識を持ち、そしてまた相当根性のある両親なのだろう。それを侮辱されれば、腹も立つか。あれ? あぁそうか。悔しくて泣いてたって事ね。
「トップというのは孤高なものですわ。気心の知れた相手などほんのわずかでもいればいい方。でもその都度つまづいていたら成るものも成りませんわよ。見返す気で行きなさい」
いつになく厳しい態度なのは、俺が理解したからだろう。このまま切り捨てちまえ! こちとらウィンディーネの呪いをどうこうするので手一杯だからな!
「セレスティア様も? あ、馴れ馴れしく――」
「そうですわ。私のお友達になって頂けませんか? 同じトップを狙う者同士ですが学年が異なれば気も楽ですし」
「え、あ、はぃ!? 私でよければえっと、おねがいしますっ!」
めんどくせぇ。あぁ、めんどくせぇ。
◆
マオ=ユイミー。十五歳。髪の色は黒、瞳も黒。魔法属性は水、か。東方の一派らしい。東方の一派には、手先が器用で小柄な奴が多い。魔法が幅を利かせている魔法貴族社会で、暮らしていけるのはこの適性のおかげだ。そんな奴が頭一つ飛び出てる魔法適性を持てば、煙たがる奴もいる、か。
「やぁセレス。とうとうあの子に手を出したのかい?」
そう言うのはカルロス=オルデエルン。この国の第一王位継承者、付け加えると生徒会長の三年生でもある。生徒の代表を務め、学園行事を取り仕切るのだ。
「のぞき見とは品性が問われますわよ、殿下」