【TS】悪役令嬢転生魔王【あべこべ】   作:とんべえ

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北の魔王

 魔王が現れたという一方が国王に届けられた時、もちろん国王は討伐を命じた。王立騎士団やら王立魔法隊やら、冒険者ギルドにもお達しが下った。生徒だという理由で、魔法学園は除外されたが、例外的に勇者であるマオ=ユイミーは討伐隊への招集が下った。

 

「いいかしら、マオ。国王の命令は絶対。必ず討伐して()()()()()()。」

「はい。必ず倒して()()()

 

 何故私はこんなことを言ったのだろうね。というかそもそも、戻って来いと言えばそれで済んだのではないのかね。そこまで考えて、もうかつての魔王はいないのだと落胆するのみだ。そして数日たった頃の事である。

 

 私の館に北に遥かの大地に居る筈の魔王が居た。大勢の召使たちは石になっていた。

 

「セレスティア様! お逃げくださいにゃぁあぁ……」

 

 石化の魔法だ。半身固まっていたところから、全てが石になっていった。失敗の多いワーキャットのメイドだが忠誠心はあったのだと評価を改めた。私は歩みを進めていく。私は客間に続く扉の前で足を止めた。その扉を一枚隔てた向こう側に凄まじい魔力を放つ北の魔王がいる。事の重大さに反して扉はいやに軽い音を立てた。

 

「扉を開けるならノックぐらいしたまえ」

「ここは私の館。図々しいにもほどがありましてよ」

「君のご両親の、だろう」

 

 いけしゃあしゃあと言い放つ奴だ。黒い鎧に黒い装束で全身を覆うそいつは客間のソファーに腰掛けていた。本人かと思えば、とんだ肩透かしだ。使い魔ですらない。

 

「その通りだ。私は魔王の影、忌々しいが便宜上北の魔王の影と言おうか」

 

 考えまで読むか。忌々しい。

 

「用件は何かしら。手早くしていただけない?」

「なに。私の他にも魔王が居るというので興味を持っただけだ。とんだ肩透かしだがな ――石化」

 

 北の魔王の魔法が私に襲い来る。恐るべき速さだが石化自体はありふれた魔法で、魔法抵抗は簡単だった。バチリと魔力の反発する火花が散った。

 

「なるほどなるほど。ウィンディーネの束縛を受けているのか。しかも随分と根が深い。無理に外せば死んでしまう可能性もある ――多少惜しいが、まぁ仕方あるまい。ここまでにするか」

 

用は済んだとばかり北の魔王の姿が薄くなってゆく。

 

「私がなぜ敗れ人の身に落ちたのか、聞きませんのね?」

「たわけめ。魔王は敗北など考えはせん」

 

 そう言い残して北の魔王は去った。

 

「引き際の様は認めざるを得ませんわね。それにしても、誰が石化解除をすると思っているのかしら」

 

 

 勿論この話がこれで終わるわけもなく、王から呼び出しがかかった。私、つまりセレスティア=バルカは伯爵令嬢であり、実父と国王は遠縁の関係にある。違う言い方をすれば親戚だ。館の使用人ごと丸々石像になってしまえばそりゃぁ大事になるわな。

 

「……以上が事の顛末です」

 

 本来なら領主である実父が行うのだが、今頃宮廷魔法使い達の治療を受けて身動きが取れない。私は代理だ。

 

「何が起きたかは分かった。して、セレスティアよ。北の魔王の影とやらに直に接触したのはそなたのみだ。どうみる?」

「とてつもない魔力を持つ猪突猛進タイプと」

「ふーむ」

 

 単純に魔力量だけ見れば絶世期の私には及ばない、しかし北の魔王には魔族を率いる統率力がある。ここが大きな違いだ。

 

「しかしなぜ、バルカ伯のご令嬢だったのでしょう」

 

 謁見の間に脇で控える大臣は存在感を示す様な物言いだ。

 

「人質にしろ威信誇示にしろ狙うなら第一王女だったはず」

「それはおそらく、バルカ伯ご令嬢の成績でしょう」

「マオ=ユイミー殿が勇者となられた今、水属性の覚者はセレスティア=バルカ様の他はありますまい」

「強力な白魔法の使い手でいらっしゃる」

 

「いずれにせよ討伐隊を引き戻させるべきでは?」

「馬鹿な。一度始めた進軍はそう易々と止められるものではありません。そのうえ、北に魔王が居るというのは紛れもない事実。続行が妥当でしょう」

「各位、魔王の魔法に対する防御を徹底するが我々のとる道ですかな」

 

 

 数週間が過ぎた。人の噂に戸口は立てられないと言うように、令嬢である私にも話はちらほら入ってくる。北方にも人が住んでおり、一番北の城塞都市では既に北の魔王と戦を始めていたそうだ。

 劣勢だったが、各方面から援軍が順次到着するので何とか持ちこたえているらしい。これでマオ=ユイミーが到着すれば面子は全てそろう。そうすれば――

 

そこまで考えて、ペンを止めた。私は魔王は倒され世界は救われると言おうとしたのだろうか。一体なぜ。

 

「気もそぞろだね、セレス」

 

 そういうのはカルロス=オルデエルン、王子様だ。魔法学園はまだ平時なので、私は再び生徒会の予算の計算を始めた。

 

「気にかかることが多すぎますの」

「そりゃぁ誰だってそうさ」

「遥か北の戦況はとか、さすがに学園行事は減らすべきではないかとか、マオ=ユイミーはどうしているのだろうか、そして」

 

「僕は彼女の事が最後だと思っていたよ」

「銃士隊を討伐隊に編成したのはカルロス、貴方と聞きました。一体なぜです。あれほど毛嫌いしていたのに」

 

 かつて魔王だった私を討ったのは正確には勇者ではない。勇者一行の中にいた銃士に倒されたのだ。何度か剣を交わした勇者ではなかった。誰でも撃てる鉄砲だ。私はそれが気に入らない。

 

「僕はね、大人になったんだよ。君と同じようにね」

 

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