【TS】悪役令嬢転生魔王【あべこべ】   作:とんべえ

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鉄砲と魔法

「僕はね、大人になったんだよ。君と同じようにね」

 

 辺境の国々では既に鉄砲が実戦投入されていると聞く。無理やりと言ってもいい程の広がりの早さだ。

反して魔法学園のある行政区、つまり中央ではそのの有用性に異議を唱えるものは多い。撃つたびに火薬と弾丸を詰めねばならないのはもちろん、実績がないからだが、魔法と異なり操作法さえ学んでしまえば誰であろうと簡単に使える、この有用性にいったい何人が気付いているのだろう。

 技術が進歩し、大量に作られるようになれば、その意味は大きく変わる。騎士道はもちろん貴族も居なくなるに違いない。

 何より貴賤が失われる事を恐れていたのがカルロスだったはずだ。

 

「今ではどこの国もアカデミーで鉄砲の研究をしている。大量生産のめども付いたという話もある。もうこの流れは止められない」

 

 カルロスの物言いはやるせなさだ。元々彼の責任ではないのだから、これ以上の追及は無意味だな。

 

「カルロス。確か我が国のアカデミーでも鉄砲の研究をやり始めたとか?」

「あぁ。そうだけども」

「少し付き合ってくださらない?」

「君が時々怖くなるよ、僕は。お誘いがダンスじゃなくて鉄砲だなんて」

 

 その研究室は、ドワーフの工房に似た雰囲気があったが、より雑多で散らかっていた。ドワーフと同じように金属をいじっていたが、研究者たちはお世辞にも健康的ではない風貌をしていた。まるで何かに憑りつかれてしまったかのようだ。そしてその者たちの雰囲気には見おぼえがあった。前世で私を討った連中に瓜二つだ。

 

「ようこそおいでくださりました。殿下。そしてセレスティア=バルカ様ですな。ご機嫌うるわしゅう」

「セレス。こちらがこの研究室長のアイザック=ドミネ男爵だ」

「突然の訪問にもかかわらず対応していただき、感謝いたしますわ」

「いえいえ。パトロン様のご要望ですからな。むげには致しませんぞ。ワハハ」

 

 何がワハハだ。聞いてねぇぞ、あのクソ親父め。バルカも出資していたなんてさ。

 

「実際のところどうなんだアイザック」

「初期の目標には到達していおりまして、マスケットであれば量産は可能です。ただ、ボルトアクション式になると……」

 

 カルロスも男だってことか。目をギラギラさせている。私は工房の壁に飾られている鉄砲に気が付いた。これだ。かつて私を討った鉄砲だ。より金属的でより機械的でより愚直的な鉄砲だ。詳しくない私でもどこを持つかが分かる。どこを動かせば弾がでるかも。

 

「さすがお目が高い。セレスティア様。遥か東方よりもたらされたオーバーテクノロジーですよ。我々はアサルトライフルと呼んでいます」

「もたらされたって何処からなんだい?」

「それが届けられただけで、誰が持ってきたまでかは不明です」

「なんというか、洗練さにかけますわね」

「これぞ機能美と呼ばれるものなんですよ」

 

 間違いない。かつて私を撃った連中がこの世界にもいる。

 

 

 色々考えあぐねてみた。

 結局は北の魔王討伐遠征、その結果次第という事になるだろう。北の魔王が鉄砲に倒されるならその存在感は強くなり、その我々の文明は鉄砲に傾く。しかし勇者マオ=ユイミーが倒すならば剣や騎士道が強くなり、魔法文明は残る。

 全ては勇者次第、か。

 

「集え水の精霊。繋ぎ、結び、紡ぎ、塊となれ。ウォールオブアイス!」

 

 人の身の倍はあろうかという氷の壁が現れた。これから行うのは魔法対鉄砲の実験だ。私が安全な距離まで離れると、控えていた兵士が手を振り下ろした。定位置で立っていた兵士が引き金を引いた。パアンと鉄砲の音がする。弾丸は分厚い氷を貫くことは無かったが、氷をえぐり取るように打ち込まれていた。

 

「この感覚ですと貫通させるには十発は欲しいところであります」

「ご苦労様。戻ってよろしくてよ」

「はっ」

 

 鉄砲を相手にしても手も足も出ないという事はなさそうだ、という事が分かった。水属性の魔法使いは人間に最も近いせいか一番多く、優れた使い手も一番多いからな。要求される氷壁の規模にもよるが一方的な戦いにはならないだろう。攻撃するときは弓矢で壁を超すように射ればいいわけだし。

 ここまで考えて、私は誰を相手に想定しているのだろうか、そう気が付いた。よもや北の魔王が鉄砲に手を出すとは思えないが、あぁそうか。

 マオ=ユイミーがどうするか考えているのだ。勇者モードのマオは飛来する弓矢を叩き斬り落とす程の身体能力を持つので、大丈夫だとは思うが、一抹の不安が残る。私は一体何が不安なのだろう。

 大きなため息をついて一つ、一口飲んだ紅茶はしょっぱかった。これ塩だわ。

 

「エルシィを呼びなさいっ!」

「はい。ご主人様ここに控えているですにゃ」

「何をへらへらしていますの! そんなだから塩と砂糖を間違えますのよ!」

「久しぶりですにゃ、やっぱりこうでないといかんですにゃ」

「大体あなたは普段からいい加減すぎますわ! できないならできないなりに努力なさい! なのに良く分からにゃいにゃーって間違えばかりで。そもそもやっぱりとはどういう事ですのっ!?」

「あぁ~~、久しぶりの罵倒は骨身にこたえるですにゃぁぁぁ」

 

久しぶりにやってしまった。

 

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