ツンツン頭さんを守護りたいスレ【滞空回線は糞】 作:原石うじゃうじゃ
世間を騒がせる連続爆破事件である『
爆破の回数を重ねるごとに、その爆発の威力や範囲はまるで、能力が『成長』していっているかのように、段々と大きくなっていた。
最低でもレベル3、そしてレベル4にも届くであろう、その凶悪な爆発能力。
だが、そんな事件を引き起こしたのは、そんな大能力者と称される者ではなく。
レベル換算でたった2の、一人の少年だった。
(新しい世界が来る…"
介旅初矢。
彼こそ、世間を騒がせた『虚空爆破事件』の犯人であり、全ての元凶。
学園都市においては、間違いなく『選ばれた側』である筈の彼の日常は、決して恵まれたものではなかった。
数日前。
『よう、またちっと金貸してくんね?』
『え…』
まただ。思わず内心で吐き捨てる。
介旅にとって、彼らのこの要求はもはや、数日おきに起こる当たり前のイベントとなっていた。
自分より背が高い、肉がある、そんな差異こそあれ、レベル換算で彼らは0、つまり『無能力者』に分類される。
『で、でも…こ、こないだ貸した分もまだ…』
『あーん?』
たとえ『能力開発』に目覚め、人類の夢を体現した存在になれたとは言っても。
それは、簡単に人を傷つける力であることに変わりはない。
彼らもそんなことを、十二分に理解している。
だから何度も、何度も何度も、暴力を振るったことへの『仕返し』がないと分かっていて。
『やっ…やめ………』
『だからさァ!ちゃんと返すって言ってんだろうが、あーん?』
レベル2の人間が、レベル0にいいようにされる。
人を傷つけない、傷つけたくないという、人間として当然の『良心』があるのなら。
暴力とは、本来忌避されるもの。
しかし『彼ら』には、そんな良心のストッパーなど存在しない。
『大体、無期限無利息無制限がオマエのウリだろ?あぁ?』
『やめ…ぐっ…!』
『そうか!お前は頭が悪くて他にとりえがないから、未だに俺に逆らおうなんて思っちゃうんだね!かわいそ…』
『チッ…これっぽちかよ?能力者の癖に貧乏だなコイツ』
肥えた体系の男が、人の財布を勝手に漁ってそう言う。
使うと足跡が付くのを嫌ってか、カード類は奪われなかったが、代わりに財布の中にあった現金、その全ての札を奪われた。
それでも、日々を生きるのに必要な、大切な金であることに変わりはない。
『よーす、そっちはどうだ?』
『ハッ、楽勝楽勝。廊下水浸しにしただけで、
『ヒャハハ!やっぱあいつら使えねー!』
殴る蹴るに飽きたのか、三人は傷だらけの介旅に背を向け。
『見回りサボってお掃除大変でちゅねぇ、ってか!』
『ま、あいつらの頭が固いおかげで俺らはがっぽり儲けられるんやけどなブヘヘヘへ』
『おそらく頭が固いから風紀委員なんてやっていると考えられる』
――何やってんだ。
介旅は思わず、内心で叫んだ。
『おい!何をやっているんだお前たち!』
『あ?』
――何が風紀委員だ。
本当に助けが欲しい時に限って、くだらないことに集中して見回りもしない。
その癖、やって来たと思ったら全てが終わった後で。
なのにまるで、馬鹿馬鹿しいと思えるくらいに、やってきた男。
彼は自分の、風紀委員の腕章を見せつけながら。
『風紀委員だ。一体何をやっているかと聞いている』
『何って、見ての通りカツアゲしとるんやん』
『…もうやめるんだ』
『あーあ見られたらしゃーないな、お前も痛い目にあうで』
『ヒャッハー!』
奇声と共に、不良の一人が高く跳び上がる。
その突然の奇行に、困惑した風紀委員の顔面に、飛び蹴りを炸裂させた。
男の全体重を乗せた蹴りによって、風紀委員の鼻が簡単に折れた。
『ぐあっ』
『正義のヒーロー気取ってさぞ気分がいいだろうが、その代償は高くつくぜ!』
『強い奴ってえのは、いつでもどこでも誰でもボコれる人間なんだよ!』
倒れた風紀委員に、息を吸わせる暇さえ与えない連撃。
頭を踏みつけ、腹を蹴り、執拗に相手を傷つける。
レベル0。だが人間の腕力や脚力は、群れれば時に武器をも凌駕する。
風紀委員は何もできず、ただ嬲られ続ける。
『こっちも不良の嗜みとして格闘技ぐらいやってんだ』
『今では地下格闘技じゃ、ちょっと名の知れた顔なんだよねぇ』
『ぐっ…あがっ…!』
『何が「風紀委員」だ!いい子ちゃん擬きはあの世で募金活動でもやってろ!』
『ぐあああっ!?』
あっという間に、風紀委員は満身創痍に、それこそ介旅よりも重傷になってしまう。
腕も折れて、顔中を血と泥で汚し、立つこともままならない。
いじめられていた自分を助けに来たんじゃなかったのか。
普段の見回りも、訓練とやらもこういう時に生かすんじゃなかったのかと。
役立たずめ。
地面に倒れる風紀委員を見て、介旅はそうとしか思えなかった。
『イケメンヒーロー君はどうやら実戦経験がないみたいやな、タックルに入るタイミングも取りやすいんや』
『やっぱり喧嘩は
『あっ…が――…ぐあああっ!?』
ボロボロの身体を何とか動かし、逃げようとする風紀委員。
それの足を、まるで虫でも踏み殺すかのような勢いで、不良が踏みつけて捉えた。
『俺たちタチ悪いよなぁ』
風紀委員への暴行。それは当然、彼らの仲間に伝わるであろう。
いくらそれなりに、腕っぷしに自信のある不良とはいえ、風紀委員の一人を再起不能した。なんて事実が露見すれば、より強い『上』からの圧力がかかる。
能力者、無能力者関係なく、風紀委員に志願する者がそれなりにいるのは、こういった『後ろ盾』があるからであり。
そして、それが弱点でもある。
『根っからの不良の癖に、
風紀委員を傷つけた。
そんな弱点を相手に知らせない。――否、『
こういった暴行事件も、簡単に隠蔽できる。
『女好きだし……』
不良たちは、風紀委員の身体を押さえつけ。
『男もいけるしな(ヌッ』
『やめろオオ』
哀しき過去…
("
助けに入るどころか、入ったところで何もできない、役に立たない。
結局、自分がカツアゲされている所も、暴行を加えられている所も、あの風紀委員は見ていたというのに。
あの日以降、自分の境遇が改善される予兆などなく。
それどころか、放課後に彼らから金をせびられ、校舎裏に呼ばれる所を見ても尚。
助けに入った風紀委員の男は、自分たちのことを見知らぬフリするだけだった。
なら。
("
そしてある日、彼は『力』を手に入れた。
今までの自分では考えられない程、より殺傷能力を高め、より爆発範囲も広くできた。
その力をもってすれば、今の自分の境遇を、他ならぬ自分自身で変えられると。
だが、
自分の境遇を変えるためでも、ましてや仕返しの為に、その力を振るうのではなく。
ただ、己の心にある不良への恐怖心から目を逸らし、ただの八つ当たりに逃げた。
その結果、彼は一人の少女をターゲットにした。
少女に爆弾を持たせ、それを風紀委員に渡してくれとお願いし、その後爆破。
風紀委員さえ殺せれば、それでいいと。
(風紀委員なんて、全員――!)
それ以外の、無関係の人間も巻き込んだ殺意を抱いてしまった。
道を踏み外した少年は、仮に風紀委員の殺害に成功してしまったら、その後、自分がどんな人生を歩むことになるかに気づけないまま。『虚空爆破事件』を起こし続けてしまった。
こうして、最初の『虚空爆破事件』から、たったの数日で、彼は逮捕された。
死傷者どころか、怪我人も0人で、彼はそう遠くない内に、釈放されるだろう。
決して、彼は完全な悪ではない。
だが、彼は間違えた。
それだけの話だった。
哀しき過去…
猿渡哲也先生の漫画で用いられたアオリ文。
もともと取ってつけたような過去の悲劇や、投げやりなアオリ文が読者からネタにされていたがこのフレーズが定着したのは我龍院清丸の過去編である。
ある日、清丸は路上で不良三人組に女性が強〇されかかっている場面に遭遇し、戦いに挑む。
が、相手はただの不良ではなく総合格闘家だったため、返り討ちにされてしまった。
そして不良達は、それまで襲っていた女性をほったらかして、突然清丸を〇し始め、この場面で雑誌掲載時に書かれていたアオリ文が「哀しき過去…」である。
清丸の身に起こったことは確かに、暗く悲しいものだが、これにまつわる清丸の態度やその後があまりにツッコミ所満載のため、コラージュ素材などとしてネタにされるようになった。
元ネタはTOUGH。
本来のプロットでは介旅くんが尻丸される予定だったんですが。
頭の中で色々考えるうちに「ネームドよりぽっと出の愛着もクソもないモブにさせた方がいいな」と思い今回の形に。
良かったのォ介旅。